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2美少女を拾ったつもりが…2

 いつの間にか眠ってしまっていたらしい…


 ぼんやりと目を開けると、見覚えの無い場所だったので少年は不安で表情を曇らせた。消毒液の匂いと白で統一された空間から診療所なのは間違いないが、自分が住んでいる集落の診療所とは異なる雰囲気だった。


「あ!起きた」


 少年が起きたことに気が付いた命は声を上げて、目尻が釣り上がった赤い瞳を喜びで細めた。


 ここはどこ?


 声に出したつもりだったがかすれて、少年の血色の悪い唇が動くだけの形になったが、何となく読み取った命は疑問に答える。


「ここは秋桜(こすもす)診療所。君は道端で倒れていたから私が連れて来たの。ほら水飲んで」


 聞き覚えのない診療所だったが、危険な場所では無い事がわかった少年は命から受け取った水を飲んで喉を潤し、ほっと息をついた。


「ちょっとしんどいかもしれないけど、字は書ける?名前を教えて」


 ノートとペンを差し出し命は少年の身元を確かめようとする。少年は上体を起こすと、ノートとペンを受け取り、拙い字で名前を書いた。


「トキワ…これがあなたの名前ね」


 問いにトキワは小さく頷いた。その様子はやはり可憐で美少女のようで未だに少年だなんて信じられなかった。


「どこから来たの?お家の人は?」

「……」


 引き続き命は筆談を促したが、トキワの持つペンは動かない。どうやら訳ありなのか知られたくないようだ。


「えっと……私は命ていうの。よく変な名前だって揶揄われている。ここは私の父と叔母がやってるんだ。それで診療所の隣が私の家なの。両親と姉夫婦と妹の六人で住んでるの!それでえっと……目つきが悪いけどこれは生まれつきこんな顔なだけで、いつも怒っているわけじゃないの!あと、えーっと……」


 少しでもトキワの緊張を和らげようと必死に自分の事を話す命だったが、初対面の人物に一方的に話すのが得意でないため、直ぐに言葉に詰まった。しかし気持ちは伝わったのか、トキワは嬉しそうに微笑んだので、命は(可愛い!やっぱり美少女!)と心の中で叫んだ。


「おう!目が覚めたかー」


 まるでふたりの様子を伺っていた様なタイミングで桜が部屋に入ってきた。


「ん?ああ、君はトキワくんという名前なんだね」


  ノートに気がついた桜は優しく笑いかけてから、何か思い出したように考え込む。その様子に病室が緊張に包まれた。


「もしかして君は東の集落の子供じゃないか?銀髪だから神殿の子かなと思ったけど、君の顔と名前は私の知り合いによく似ている」


 桜の問いかけにトキワは口をギュッと結ぶ。どうやら図星らしい。その姿が怯えているように見えて命は庇護欲が掻き立てられ、トキワを抱き寄せ背中を撫でた。


「言いたくないなら言わなくていいよ。今はゆっくり身体を休ませよう?お腹は空いた?おかゆ食べれるかな」


 命の優しい言葉にトキワの緊張は解れたようだ。コクリと頷くと、頬を緩めた。


「なんだよ、私は悪者かよ。まあいいちょっと出掛けてくる」


 戯ける様に桜は肩をすくめて病室を出ると、早速心当たりを探る為に近所の自警団へと向かった。


 トキワにおかゆを食べさせてあげながら、命は診療所の事や家族について話をした。秋桜診療所は命が住む西の集落に唯一ある診療所で、祖父母の代から続いている事や、今年の春から六歳上の姉が結婚して、義兄が一緒に住んでいる事、自分の六歳下に妹がいて、可愛くてしょうがない事などを話した。


「ありがとう」


 口だけ動かしてトキワは食事の世話と楽しい話をしてくれた命の手を取り、感謝の気持ちを伝えた。熱で怠い体も彼女の看病が心地良くて、心なしか和らいだ気がして、いっそこのままずっと病人でいていいとさえ思えた。


「どういたしまして。お腹が落ち着いたらお薬飲もうね。ちょっと苦いけど飲めるかな?」


 桜が調合してくれた解熱の薬は命も風邪をひいた時に飲むが、もう二度と風邪をひいてたまるかと思うくらいの苦さだったので、いつも口直しに甘い物を用意していた。しかし今日は甘い物が無いので、トキワが気の毒に感じた。


 しかしそんな事情を知らないトキワは一つ頷いて、口を開けて命に薬を飲ませてもらうと、想像以上の苦さに薬を噴き出しそうになりながら慌てて水で流し込み、目に涙を浮かべたのだった。


「うわー!やっぱ苦かったよね!偉い!よく頑張りました!」


 薬を飲み切ったトキワの頭を命は撫でながら褒めれば、もっと褒めろと言わんばかりにトキワは命に甘える様に抱きついたので、十三歳ながら母性がくすぐられた命はそれを受け入れて、トキワの気が済むまで優しく頭を撫でてあげる事にした。


 しばらくすると抱きついていたトキワの腕の力が弱くなったので、命が様子を窺うと、長い銀色の睫毛を伏せて眠っていた。まるで天使の様な寝顔で、命は彼の圧倒的な美少年ぶりに虜になってしまい、見惚れてしまった。


 しかしこの体勢のまま寝られると、お互い体に良く無いので起こさない様にベッドに寝かせてから、食器を片付けた後、傍で見守る為に時間潰し用に桜の部屋からお気に入りの恋愛小説を持って来て、椅子に座って読み始めた。

 

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