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197最愛8

「いやー楽しかったな。勇者様!」


 その後勇者一行は神子たちとの会食となり、任務から解放されたトキワは普段着に着替えて外套を纏うと、自分の部屋で命の着せ替えショーを楽しみたかったが、頑なに拒否されたので、仕方なく彼女を家まで送り届けることにした。そしてあわよくば彼女の部屋での着せ替えショーを企んでいた。


「思い込みって恐ろしいな。よく調べたら、それこそお義兄さんの友達にきけばすぐわかる話だったのにね」

「まあそういう所も勇者様らしいよ。今頃年増三姉妹相手に鼻の下を伸ばしてる所かな?」

「いいの?貴重な神子を勇者に取られても?」


 水鏡族の中でもごく一部の魔力が高い人間しか神子にはなれない。そんな存在を神殿が失うのは痛手だと命は思った。


「大丈夫、土雷氷の神子は兄弟や姉妹、それにいとこが次席以降に控えてるから影響は少ないよ」


 言われてみれば神子は後継者確保のため、恋愛結婚以外は魔力が高い者とお見合いして結婚するパターンが多い。よって同属性の神子達は親戚関係の者が多い。だからこそ、先日のトキワの結婚のデマは真実味を帯びてしまったのだ。


「しかも勇者と旅を共にして魔王を倒した暁には水鏡族から英雄が出るわけだし、勇者と神子が結婚して子供が生まれた日には、すごい魔力の神子が誕生するかもしれない。腹黒いばあちゃんにとってはウハウハの条件だよね」


 自分の祖母に対してその言い草はないだろうと呆れつつ歩く命は前方から歩いてきた人影に目を見開いた。


「なんでここに……」


 命は動揺で胸の鼓動が痛いくらい早くなるのを感じた。彼女達の目の前には、短く刈り上げられた金髪碧眼で、日に焼けた肌が特徴的な青年が飄々とした様子で待ち構えていた。


「やっぱり会えたね。元メイドちゃん!いやね、たまにはこっちからハルくん、勇者に会いに行こうと思って来たんだけど、水鏡族の村だから君にも会える気がしたんだよー!」


 馴れ馴れしい口調で青年は再会を喜び、命に歩み寄ろうとしたが、トキワが立ちはだかった。


「もしかして元メイドちゃんのダーリン?初めまして、俺は元メイドちゃんの運命の人だよ」


 運命というキーワードでトキワは彼が魔王だという確信を持った。


「違うっ!」


 掠れた声で命は魔王との運命を否定すると震えた手でトキワの背中にしがみついた。


「つれないなあ。もう何度も偶然出会ってるのに。でも酷いよ、君がギルドにチクっちゃったから、俺と運命を感じてくれる子がガクッと減っちゃったじゃないかー。これはもう条件を変えざるを得なくなっちゃうよ。例えば、人のものとか!」


 魔王は瞬時に移動して、命の後ろに回り込み、彼女に手を伸ばしたが、トキワが発した結界に弾かれて負傷した。


「へえ、ダーリンやるね。いい魔力だ」


 魔王は舌舐めずりをして、トキワを品定めするように見た。


「逃げるよ」


 トキワは命を自分に引き寄せ横抱きすると、結界を維持したまま空に飛び上がり、その場から離れた。いつもは体に負担がかからない速度だが、魔王から逃げるためなのか、高速で体が軋むような重力に命は顔を歪ませた。

 三分もしないうちに命とトキワが神殿に逆戻りすると、既に門と神殿の入り口を繋ぐ広場には、武装した勇者一行が待ち構えていた。門番などの神官達は既に退避している。


「勇者様、絶対魔王を倒してよ」


 トキワは命を下ろしてから左手でエアハルトの肩を突いて檄を入れると、命と神殿に退避しようとした。


「君も助太刀してくれないか?村を守りたいのだろう?」


 エアハルトの誘いにトキワは首を振り、背を向けた。


「俺が守りたいのはちーちゃんだけだよ。だからちーちゃんの傍にいる。第一俺は水鏡族にとって今のところ代えのきかない存在だし、そもそも今防具を持っていない」


 冷静にトキワは自分の立場と守りたい優先順位を告げるが、エアハルトは諦めず、異空間収納の小箱から何やら丸い物体を取り出し投げつけてきたので、反射的にトキワは受け取った。


「それは胸に押し当てると、装着者の体型に応じて変化する特殊な防具だ。使ってくれ」

「は?俺の話聞いただろ?魔王討伐は手伝わないって……」

「あいつを倒さない限り彼女を守りきれないだろう?」


 エアハルトの正論にトキワは悔しそうに押し黙り、顔を俯かせたが、腹が決まったのか顔を上げると、一度命を強く抱きしめて彼女の唇に短く口付けたあとに、神殿内部まで手を引いた。


「絶対戻ってくるから、ちーちゃんはばあちゃんたちと一緒に待ってて。大丈夫、もしもの時は勇者様を盾にしてでも助かるから」

「気をつけてね」

「うん」


 不安そうに瞳を揺らす命にトキワは気丈に笑うと、外套を脱いで彼女に渡した。そして様子を見に来た紫に命を任せ、エアハルトたちと合流した。


「ありがとう、心強いよ」


 礼をいうエアハルトにトキワは苦い顔をする。


「はっきり言って俺は足手まといにしかなりませんよ。この村には俺より強い人が他にもたくさんいるし。俺の師匠とか……」


 この時ほどトキワはレイトが隣に居なくて心細い時はなかった。だが彼が今日はギルドの依頼を受けに港町にいるので、異変に気付き駆け付けてくれる可能性は低いだろう。


 トキワはエアハルトから借りた球状の防具を指示通り胸に押し当ててみる。すると無数の青い光がトキワの体を包み込んだ。


「何これ?、ただ体の周りを光ってるだけじゃん」

「それでいいのだよ。見た目よりずっと頑丈だから安心してくれ」

「まあダサイよりいいか」


 エアハルトの言葉を信じることにして、トキワは両手剣を手にした。


「それで、俺は何をすればいいの?」

「臨機応変に対応してくれ」

「いい加減だな……」


 作戦を立てないエアハルトにトキワが呆れていると、神殿から炎水雷土氷の五人の神子たちが武装した姿で現れた。


「勇者様、私達も微力ながらお手伝いいたしますわ」


 炎の神子の暦が代表して加勢を宣言した。


「ありがたい。共に魔王を討伐しましょう」


 これなら魔王を討伐出来るかもしれない。エアハルトは力強く聖剣を握りしめると、呑気にスキップをしながら現れた魔王を真っ直ぐと見据えた。




 


 





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