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188爪に火を灯せ6

「随分遅いと思ったらそんなことがあったのか」


 騒動を終えて命は風の神子とティータイムを楽しんでいた。今日は体調が良いというので、広めのバルコニーで紅葉を楽しみながらスイートポテトをつついた。トキワは腕と手の甲の傷を光の神子に治してもらいに行っている。


「はい、本当に驚きました」


 一角獣からのスキンシップで服が汚れてしまった命は神殿から借りた民族衣装姿でミルクティーをすする。


「後で雀が契約した一角獣にはお礼にいかなければならないな。しかしその前に……紫」


 風の神子は紫に目配せするとバルコニーから出て行き、しばらくして百科事典一冊分程の大きさの木箱を持ってきた。


「これは一角獣の件の謝礼だ。受け取ってくれ」


 紫が木箱をサイドテーブルに置くと重量感のある金属音がした。命が恐る恐る蓋を開けると、そこには金貨がびっしりと詰まっていて驚愕のあまり奇声を上げた。


「こ、こんな大金受け取れません!それに元々あれは私の気持ちというか……神殿に寄贈したものです」

「いいえ、寄贈の手続きをしていないのでそれに該当しません。ちなみにこれが謝礼の内訳です」


 命は紫が差し出した封筒を手に取って中に入っていた便箋を取り出して確認した。


「水の神子より貴重な素材提供による研究貢献の謝礼 金貨二十枚。風の神子より提供された素材で調合された薬のおかげで体調が良くなった謝礼 金貨二十枚…!?」


 水と風の神子達の内訳は重複している気がして命は理解に苦しんだ。


「これでもかなり少ない方ですよ。炎の神子がこれでは遠慮して受け取ってもらえないと進言しなかったら十倍の量でしたよ?」


 神子達の恐ろしい金銭感覚に命は仰天して言葉が見つからなかった。


「他の神子達からも雷の神子と土の神子、氷の神子から先日の失言のお詫び金貨各十枚、光の神子から以前闇の神子と遊んでくれた謝礼金貨六十枚、挙げ句の果てには風の神子代行が命さんが可愛いから金貨百枚と張り合い出し、会議は混沌としました」


 当時を思い出したのか紫が苦虫を噛み潰したような表情でため息を吐いた。

 

「まあ大人しく受け取りなさい。でないと今後他の功績者が受け取りづらくなる」


 風の神子の説得で命は謝礼を受け取ることにした。これ程の金貨があればトキワへの借金も完済出来るどころか嫁入りの支度金や、もし実が進学したいと言い出した時の資金にもなると、前向きにかんがえた。


「ところで先週話した事業の件だが、神官や神子達と話を交えた結果、奨学基金を立ち上げることにしたよ。私が発起人となり財産を進学する者達に奨学金として援助する形となる」


 すっかり顔色がよくなった風の神子はスイートポテトポテトを頬張ってハーブティーを飲んだ後、決定した事業について切り出した。


「私の財産が尽きた後は賛同した神子達がこれから毎月積み立てる資金から援助する形で続けるそうだ。今後給付条件などについて決めていって今年中には機能出来る様にして春に卒業して進学する学生達の力になりたい。勿論学生以外でも学びたい者がいたら給付出来るよう調整する予定だ」


 既に事業は動き出しているらしい。命は生き生きとして語る風の神子の姿が嬉しくて頬を緩ませた。


「ちーちゃんお待たせ!」


 傷の治療を終えたトキワがバルコニーにやってきて空いてる椅子に座った。


「怪我治してもらったんだね。よかった」


 すっかり綺麗に治ったトキワの腕と手の甲を見て命は安堵した。


「ばあちゃんには呆れられたけどね。それより今日の夕方の礼拝からまたじいちゃんがするようになったから、今日はちーちゃん家に泊まるね」

「え、なんで?」

「そりゃちーちゃんとイチャイチャしたいから?」


 人前で堂々と言うことではないと命はトキワを責めるように睨むが、特に気にすることなくニッコリと笑う。


「命さん、こいつは自宅に帰りづらいのだよ。妹を風の神子にさせようと画策して親と大喧嘩をしておる」


 家庭の事情を風の神子にバラされたトキワは笑って誤魔化す。まだ幼い妹を両親から引き裂こうと考えているトキワに命は更に睨みを聞かせた。


「確かに旭を風の神子にするつもりだけど、旭も満更じゃ無いはずだよ。旭とサクヤはとても仲がいいからずっと一緒にいられる方が嬉しいはずだよ」


 言われてみれば旭とサクヤは仲が良かった。以前一緒に神殿に向かう道中、旭がサクヤに会いたがるからこまめに神殿に赴くようになったと楓が言っていたのを命は思い出した。


「それに俺が風の神子を継いだらちーちゃんと別居婚になる。そんな最悪なシナリオだけは避けたい!」


 別居婚を恐れるトキワに対して命は動じずにミルクティーを飲み干す。


「もしもの時は別居婚でいいよ?私が今みたいに休みの日に会いに行けばいいし……」


 薄々命もトキワが風の神子を継いでしまう気がしていたので別居婚については想定していた。


「結婚前に継いだら家を建てないで私はそのまま実家で暮らすし、結婚後に継いだら新しい家に一人で暮らすよ。そうなったら寂しいから子供がたくさん欲しい所よね。あーでも一人での子育ては大変だから、やっぱ家を引き払って実家で暮らそうかな」


「そんな…俺はちーちゃんと毎日イチャイチャしたいのに…毎晩一緒に寝たいのに……週一回しか会えないなんて結婚する意味が無いよ。じいちゃん、次の風の神子が出てくるまで絶対に長生きしてね」


 命の考えにトキワは愕然とした表情を浮かべて風の神子に縋るような目で訴えた。


「こういう時、女性の方がたくましいのですね」


 率直な紫の感想に風の神子も頷く。


「私の妻ももしもの時は別居婚で構わないと言ってたな。まあ、私の時は先代が現役だったから免れたがな」

「そういえば先代の風の神子ってどんな方だったんですか?」


 今の風の神子になってから四十年以上経つので、命は先代の事は知らなかった。


「先代はそれこそ風のような人で、若い時に世界中を旅して財産を使い果たしたし、飽きたから神殿に世話をしてくれと残りの人生を風の神子として過ごした人だ」

「なかなか強烈ですね……」

「まあ私としてはこれまで出会った人間の中で一番強烈なのはトキワだけどな」


 ハーブティーを飲みながら風の神子はしみじみとトキワを見て大きなため息を吐いた。



 




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