182番外編 とある末っ子の婿入り6
レイトが祈の家族に挨拶に来てから瞬く間に結婚の話が進んでいった。意識を取り戻した祈の父親のシュウは悲壮感を漂わせながらも二人の結婚を認め、翌日にはレイトの実家に報告へ行き、年老いた両親からついに最後の一人が片付くと喜ばれ、式の日取りや招待客など順調に準備が進んでいった。
しかし一方で新居がなかなか決まらなかった。レイトは夫婦で冒険者を続けるし、港町に住むつもりだったが、祈が実家のある西の集落に住みたいと希望するので、レイトは受け入れて物件を探したが、好条件が見つからず行き詰まっていた。
そんな二人を見て、ある日花嫁の父であるシュウからマイホーム資金が貯まるまで同居しようと申し出があり、レイトと祈は二つ返事で同居となった。結婚しても妹達と暮らせるなんて天国だと喜ぶ祈を見て、レイトは正しい選択をしたと自分に言い聞かせた。
結婚式当日はシュウがこの期に及んで祈にやっぱり嫌だお嫁に行かないでと駄々をこねて泣き出したため、彼を落ち着かせるのに時間がかかり、結婚式は予定の一時間遅れで行われた。この話は今後二人の結婚式を語る上で必ず登場する話題となった。
***
そしてレイトと祈が結婚してから八年ほどの月日が流れた。シュウの死など色々あったが、今では二人の男の子を授かり、祈の実家から徒歩一分の場所にマイホームを建てて日々賑やかに過ごしていた。
今日はレイトと祈、そして息子のヒナタとカイリに加えて祈の妹の命と実、更に実の彼氏であるイブキも一緒になって近くの川で遊んでいる。因みに命の彼氏のトキワは神子の仕事で不在だ。
「はあ、妹達の水着姿最高……心血を注いで選んだ甲斐があった」
先日三姉妹で港町に買い物に行った際、祈は同じデザインで祈が赤、命は青、実は白と色違いの三角ビキニの水着を購入したのだが、本日初お披露目となり祈の気分は最高潮で、まだ赤子で寝息を立てるカイリを抱きながら、川で水を掛け合いながらはしゃぐ妹たちをいつまでも眺めていられた。
「お姉ちゃんも川に入ったら?気持ち良いよ」
命は祈の隣に座りタオルで軽く身体を拭くと、祈からカイリを受け取って抱っこした。
「ううん、私は妹達を愛でるので忙しいから」
にっこりと笑い川で遊ぶ事を辞退すると、祈は実とイブキがヒナタとじゃれ合う様子に目尻を下げた。
「カイリはまだ寝てるのか?」
ヒナタを実とイブキに任せたレイトも祈の隣に座り、一息ついた。
「うん、こんなに賑やかなのに起きないなんてカイちゃんて将来大物になるかもね」
クスクスと笑いながら祈はカイリのプックリとした頬を優しくつついた。
「ちーちゃん、ありがとうね」
「何が?」
お礼を言われる理由がわからない命は祈を見て首を傾げた。
「ちーちゃんが昔美形のお兄ちゃんが欲しいって言わなかったら私、一生独身で妹達を愛でるだけの人生だったと思うの。まあそれはそれでいいけど、そしたらレイちゃん達と出会えなかったからね」
「え、確かにそう思ったことはあるけど、お姉ちゃんに言ったっけ?」
命は祈に美形の兄が欲しいとねだった記憶がなかったため、戸惑いの表情を浮かべた。
「私には直接言ってなかったけど、いつの日だったかちーちゃんが食器洗いをしている時の独り言を聞いて、叶えたくなったのよ」
まさか独り言を聞かれていたとは思いもしなかった命は気恥ずかしくなってしまい顔を伏せた。
「俺も感謝しないとな。祈にプロポーズした時、命ちゃんが同席してなかったら失敗してたからな」
「本当、ちーちゃん様々ね」
「ありがたや……」
「もう、やめてよ!」
祈とレイトが命の方を向いて拝み始めたので、命はいたたまれなくなり、カイリを祈に押し付けると、立ち上がりビキニのパンツの食い込みを指で直しながら実たちと合流して川遊びを再開した。
「うーん、あそこでパンツの食い込みを直すとか流石ちーちゃん、無自覚なエッチさが妹力高いわー……」
「お前は何でも妹にこじつけるよなー」
「ちーちゃん、また胸が大きくなったわよね。あれは絶対揉まれちゃってるな。トキワちゃん可愛い顔して肉食系だからなー……レイちゃんもそう思うでしょ?」
「俺に同意を求めるな。トキワに殺される」
レイトは本日不在の独占欲が酷い命の彼氏からの嫉妬に怯えて、腕を組み身震いをするフリをした。
「そもそも妹補正なのか、命ちゃんと実ちゃんをそういうやらしい目で見る気が起きないんだよな」
「レイちゃんもすっかり二人のお兄さんなのね。それにしても姉妹なのに見事にタイプの違う男を掴んだわよね……みーちゃんは竹を割ったような性格の子で、ちーちゃんはヤンデレ、そして私は兄貴肌なレイちゃんをゲットしたと」
「俺末っ子なんだけど。ま、祈と結婚して二人の妹が出来たから兄だよな」
最初は兄と呼ばれることが不慣れだったレイトだが、今ではすっかり馴染んでいた。
「これから弟も増えると思うから、ますますお兄さんよ!」
いずれ妹たちが結婚するのを示唆する祈にレイトは顔をしかめた。
「俺を倒さない限り兄とは呼ばせない」
イブキはもちろん、長年レイトの弟子をしているトキワでさえ未だに手合わせでレイトには勝てなかった。
「もう、ちょっとは手加減してあげてよね!このままじゃちーちゃんとみーちゃんがお嫁に行けなくな。いや、そっちの方がいいな。レイちゃん、これからも全力で撃退してね!」
「おうよ。とりあえず今日はイブキを可愛がるか」
すっかり自分も祈同様にシスコンなのを自覚しつつ、レイトは自嘲して立ち上がると、川遊びをしている命たちに再び混ざり、義弟候補のイブキを集中的に攻撃しに行った。
「大好きだよ。レイちゃん」
騒ぎ声にかき消される大きさの声で祈はレイトへの想いを呟くと、穏やかな笑みを浮かべて平和な日常を楽しんだ。