180番外編 とある末っ子の婿入り4
祈と正式に交際する事となってから一週間経ったある日、レイトは祈から前日に十時ごろギルドで集合するよう言われていたので向かった所、祈は一人の少女を連れて待っていた。
「レイちゃん遅ーい!」
「悪い、それでその子は……?」
少女はレイト達と同じ水鏡族のようで、髪の毛を耳の高さで一つにまとめたいわゆるポニーテールスタイルに気が強そうなツンとした赤い目をしていた。身長は祈と同じ位だが、胸は少女の方が大きく見えた。
「ふふふ、この子は私の妹よ!最高に可愛いでしょう?ちーちゃん挨拶して」
少女は祈の妹だった。言われてみると目元は似てないが、雰囲気は似てるかもしれないとレイトは姉妹を見比べた。祈の妹は姉に促されると、気の強そうな外見とは裏腹に恥ずかしそうにレイトに挨拶をした。
「初めまして、いつも姉がお世話になっています。妹の命です。十二歳の弓使い、水属性です……」
「初めまして、レイトだ。詳しくは祈から聞いてるかな?よろしくな命ちゃん」
「はい、よろしくお願いします……」
レイトが握手を求めると命は遠慮がちに応じた。
「十二歳にしては発育がいいな。いい動きをしそうだ」
率直なレイトの感想に祈は鋭い目で睨みつけた。
「ちょっとちーちゃんをやらしい目で見ないで!確かにあと少しで私の身長を抜くし、胸も私と同じくらい大きいけど、手を出したら握り潰すからね?」
「ちげえよ!戦闘面についての感想だ。いくら俺でも十二歳の子供に手を出すわけねえだろ!それより今日は何をするつもりだ?」
妹のことになると過激になる祈にレイトは冷や汗をかきながら話題を変えた。
「今日はちーちゃんの冒険者デビューを手伝ってもらおうと思ったの。姉としてはちーちゃんには安全に楽しく冒険者デビューをして欲しいから、レイちゃんも力を貸してね!」
要は子守かとレイトは口に出そうなのを堪えてから、たまには初心に戻るのもありだと考え直し、祈の頼みを引き受けることにした。
「ありがとうございます。おにいさん」
嬉しそうに笑顔でお礼を言われレイトは悪い気がしなかったが、おにいさんと呼ばれるのは少し気恥ずかしかった。
冒険者デビューをするにあたって、まずはギルドにて命の冒険者登録を済ませると、早速依頼を選ぶ事になった。
「俺たちがいるから最初からDランクを受けても問題ないだろう」
命はEランクからのスタートとなるが、先日BランクになったばかりのレイトとCランクの祈が同行するので、一つ上のDランクまで受注出来るシステムとなっていた。しかし祈は首を振ってEランクの依頼をいくつかピックアップした。
「ちーちゃんが怪我でもしたらどうするのよ?私達みたいにガッツリ冒険者を目指す訳じゃないからEランクの気軽な依頼でいいの!」
「過保護だなー」
「過保護上等!」
祈とレイトのやり取りが面白くて命はくすくすと声を立てて笑うと、祈がピックアップした依頼の中からトゲモグラ討伐を選び、早速現地へと向かった。
魔物であるトゲモグラは食用のキノコが生える森に最近増殖していて、生態系の乱し山道を荒らすので、数を減らすのが目的だ。討伐数は一体から受け付けていて、トゲモグラが一体につき一本だけ生えている赤いトゲを持っていけば依頼達成となる。勿論数に応じて報酬と経験値は変動する。
「それじゃ、お姉ちゃん達が見守っているからちーちゃん頑張ってね!」
「ありがとう、行ってきます!」
武装をした命は右耳のピアスの水晶に触れると、弓を作り出して手に取り、トゲモグラが出現する森の奥へ向かった。祈とレイトも武器を手に後を追った。
命はトゲモグラを発見すると、弓を構えて魔術で生み出した水の矢で射るが気付かれてしまい、穴に逃げられてしまった。
「ああー惜しい!」
悔しそうに祈は声を上げるが、めげずに命は穴に水撃を打ち、トゲモグラを外に追い出すと蹴り上げて、弓で矢を射ってまずは一体討伐した。
「レイちゃん見た?うちの妹すごくない!」
「はいはいすごいすごい」
感激する祈をレイトは軽くあしらいつつ、頭の中で自分ならどうするかシミュレーションをしていた。
それから命は順調にトゲモグラたちを討伐して十体ほど倒した所で気配が無くなったので、引き上げることにした。討伐したトゲモグラのトゲを切り落とし袋に入れると、魔物の心臓部である魔核を壊して消し去った。
「ちーちゃんよく頑張ったね!ギルドに報告したら帰りにパフェを食べに行こうね!」
「うん!」
誇らしげに命の頭を撫でる祈の姿を見て、レイトは確かに妹も悪くないなと思った時、突如熊型の魔物で討伐任務はCランクに相当するオオツノヒグマが雄叫びと共に襲いかかって来た。
「ちーちゃん逃げて!」
祈は命の背中を押して逃すと、オオツノヒグマの一撃を交わして双剣を構え右腕に切りつけた。オオツノヒグマは怯み左腕を振り上げたが、いつの間にか背後に回ったレイトが腕を切り落とした。祈はその隙に命の元へ行き彼女を背に回して守る。
「レイちゃんあとはよろしく」
「おう」
レイトは痛みでのたうち回るオオツノヒグマに魔術で真空波をぶつけて露出した魔核を素早く見つけると、剣で魔核を突き立て破壊し、オオツノヒグマは黒い灰となって消えた。
「ふう、ついて来て良かったー」
もし命が一人で来ていたら確実にオオツノヒグマの餌食になっていたと予想した祈は妹を抱きしめて無事を喜んだ。
「助けてくれてありがとう。お姉ちゃん、おにいさん!」
満面の笑みで感謝する命にレイトと祈は心癒されてやはり妹は良いと実感すると、依頼を切り上げギルドに報告してから命にご褒美のストロベリーパフェをご馳走した。そして目を輝かせてストロベリーパフェを食べる命を見て、また癒され、二人で顔を見合わせて笑った。