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179番外編 とある末っ子の婿入り3

「レイちゃん、合格よ」


 あれからどれだけの時間が経っただろうか。窓から差しかかる夕焼けに照らされて、祈は勝気な表情を浮かべた。一体何が合格なのかレイトは全くわからず、眉を顰める。


「じつは私、あなたみたいなお婿さんを探していたの。何故だと思う?」

「さあ、年齢的に水鏡族の結婚適齢期だからか?」


 気怠げにレイトは祈の膝に頭を乗せて適当に答える。


「ちーちゃんが……妹が、美形のお兄ちゃんが欲しいって言ったからよ!そうなったら叶えたくなるのが姉なるものよ!」


 まさか妹の願いを叶えるために身体を張って結婚相手を探しているとはレイトは夢にも思わず目を見開いた。


「もちろん誰彼構わず結婚するほど私も愚かじゃないわ。美形は絶対条件だけど、やっぱり強さが必要だと思ったの。だから一人で依頼を受けてる美形の冒険者に声をかけて同行して力量を見極めたの。でもどの男も私より弱くて目も当てられなかった。それでそろそろ妥協するかーと思ってた昨日、レイちゃんに出会ったわけ」


 祈は嬉しそうにレイトの髪の毛をすくい含み笑いをした。あまり美形だという自覚が無いが、歴代の彼女達から「顔はいい癖に何でそんなに脳筋なの!?」とレイトはよく言われていたのを思い出した。


「レイちゃんの強さはこれまでの男達と比べ物にならなかったわ。剣の動きに隙がないし、判断力もある。しかも私の動きを瞬時に理解してくれた。レイちゃんも私のことそう思ってくれたんじゃない?」

「まあ……そうだな、これまでの女とは比べ物にならない強さだったな」


 レイトの返答に満足した祈はレイトの手を取り頬擦りした。


「でしょう?私達絶対いいパートナーになれるわ!それで、顔と強さの方は合格だし、フリーみたいだし長男じゃないというナイスな条件を満たしたら、あと必要なのは身体の相性だと思って確かめたら……バッチリだったわね!」


 いくら何でも性急過ぎる祈にレイトは乾いた笑いしか出なかった。もしかすると自分はとんでもない女と関係を持ってしまったのではないかと今更後悔した。


「とりあえず今日はもう遅いしここに泊まるね。お腹すいたしご飯食べに行こうよ!」


 そう言って祈は服の山からレイトの昔の女の服をサルベージしてテキパキと身に纏った。


 初対面では可憐でか弱そうと思っていたが、洗濯してあるとはいえ、他人の下着を躊躇無く着けて黒のキャミソールにジーンズ地のマイクロミニスカートという露出度の高い服まで着こなす姿はAランクの冒険者よりも逞しいとレイトは評した。


「家に帰らなくていいのか?妹達が心配してるぞ」


 とにかくここはお引き取り願おうとレイトは妹を餌に家に帰るよう促すが、祈は特に気にする様子がなかった。


「みんな私の無断外泊には慣れてるから大丈夫よ」

「親泣かせな娘だな」


 最早祈に常識は通用しない気がしてレイトはため息を吐いて夕食を食べに行くために手近にあった服を掴んで腕を通した。


 そしてレイトは祈と夕食を取った後、祈を宿屋に放り込んで撒いたが、家の場所を覚えられてしまったらしく、部屋の前で騒がれたので結局祈とまた夜を明かし朝を共にした。まさかこっちの方でも自分について来れるとは思わず、レイトは祈のタフさに舌を巻いた。


 今日は妹達にお土産を買うからと、祈はレイトを連れ回して買い物を楽しんだ。子供向けの店を何軒も付き合わせられてレイトは辟易とした。流石に悪いと思ったのか祈は昼食を奢り、その後ようやく自宅に帰って行った。



 ***



 しかしその後も祈はレイトの前に現れて強引にギルドの依頼を一緒に受けたり、彼の部屋に押しかける日々が続いた。ここまで来ると拒む気力も無くなり、気づけば部屋は以前付き合っていた彼女の物は無くなり、祈の私物で溢れていた。


「ところでレイちゃん。一応確認するけど私達、付き合っているんだよね?」


 ギルドに依頼完了届を提出してからの帰り道、祈はレイトに問いかけた。レイトは改めて祈への気持ちを整理した。


 彼女に対して胸を焦がすような恋愛感情は無いが、建前を取り繕わず、本音で接することができて、戦闘で背中を預け合うのは心地よかったし、下賤な話だが体の相性も抜群で体力もある。まだ結婚するかどうかは判断できないが、パートナーにはもってこいの代わりがいない存在だと思った。


「そうだな、付き合っている」


 レイトが交際を肯定するなり祈は急に地面に頽れた。何事かとレイトはしゃがんで祈を見ると、顔を紅潮させて赤い瞳を潤ませて心底ホッとした顔をしてからいつもの柔和な笑顔を浮かべた。


「よかったー」


 祈の笑顔にレイトは不意に胸が熱くなって鼓動が早くなる。こんな気持ちは初めてでレイトは戸惑いを覚えた。ただ分かるのは目の前にいる祈がとてつもなく可愛いということだけだ。


「あー、レイちゃんも顔赤い!えへへ私達両想いなんだね」


 レイトの頬に触れて祈は嬉しそうに声を出して笑うと、立ち上がって彼に手を差し伸べた。


「帰ろ!今日は泊まって行くね」


 柔らかい祈の手をレイトは掴むと立ち上がり、そのまま手を繋いであの狭い自分たちの部屋へと帰ることにした。

 

 


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