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178番外編 とある末っ子の婿入り2

「はーい!完了届頂きました!お疲れ様でしたー!」


 あれからレイトと祈は村に着いてから依頼主の村長から話を聞き、部屋を借りて仮眠を取った後に深夜ケルベロスの討伐をした。ケルベロスは一体ではなく三体いた。


 獰猛なケルベロスに対峙しても、祈は動じることなく、双剣を鮮やかに繰り出し討伐に貢献した。ふんわりとした雰囲気で可愛らしい祈だが、双剣を握ると人が変わったかのように凛々しい表情になった。そんなギャップをレイトは好ましく思ってしまった。


 しかも、祈はレイトの動きに平然とついて来た。村の移動中も多少ペースを合わせてやった所はあるが、文句一つ言わずニコニコと走り、戦闘時は初めての共闘にも関わらず、連携がバッチリ取れていた。


 もしかしたら、彼女なら自分の新しい相棒になれるかもしれない。そしてあわよくば結婚して妻にしたい。そんなレイトの下心がある視線を祈は特に気にする素振りもなく、柔和な表情を浮かべていた。


 ギルドを後にして、祈から依頼達成の打ち上げをしようと誘われて、二人はパスタ料理が売りの小さなレストランへと入った。各々食べたい物を注文すると、先に頼んだ飲み物で乾杯した。


「レイちゃんって強いのねー!私も色んな冒険者達と組んだけどその中でも一番強かった!」


 ブドウジュースで喉を潤した祈の第一声はレイトの賞賛だった。レイトは悪い気がしなくて、笑みを浮かべる。


「そんなに強いとモテそうよね。彼女とかいるんでしょ?」

「生憎昨日の朝フラれた。なかなか女と長続きしなくてな」


「じゃあ男となら続くかも!」

「残念ながら男と寝る趣味はないな」


 この界隈で同性愛者は珍しくは無かったが、レイトの嗜好は異性愛者だった。


「レイちゃんは何処に住んでるの?水鏡族の村からここまで通い?」


 話題を変えて祈はレイトの住処を尋ねてきた。


「いや、港町に部屋を借りて一人で住んでいるよ。祈は?」

「私は西の集落の父と叔母が運営している、秋桜診療所の隣の家に住んでいるわ。家族は両親と叔母と超可愛い妹が二人いるの!レイちゃんは妹いる?」


 聞いてもいないのに、祈は住所と家族構成まで話してきた。うら若き乙女が個人情報を簡単に話すなんて無防備だと思いつつ、レイトは自分の家族は誰か考えてみた。


「妹はいない。俺は九人兄弟の末っ子だからな。家族は両親と八人の兄と姉、そしてその家族なんだろうけど、数えた事が無いからよくわからん」

「へー大家族なのね。でも妹がいないんだ。可哀想に……」


 祈はレイトを心底憐むような視線を投げかけた。何故妹がいないだけでこんなに憐むのか、レイトには理解できず、苦笑いを浮かべた。

 

「私ね、妹たちのために冒険者をしているの。上の妹のちーちゃんが将来ナースになって父と叔母の手助けをしたいって言ってるから学費を、下の妹のみーちゃんはまだ小さいから、何になりたいか分からないけど、いつでもサポート出来るようにお金を貯めているわ。あと二人に可愛い服とか、アクセサリーとか、お菓子とかを貢ぐのが生きがいなの!」

「なるほど、シスコンってやつか」


 興奮気味に妹に熱を上げる気持ちがよくわからなかったが、レイトは引き気味に口だけの理解を示した。


 その後もいかに妹達が可愛いか祈が語っていると、注文した料理が来たので、お互い手をつける。食事を終えて、ここで解散しようとレイトは提案したが、祈はレイトの腕を掴んで引き留めた。


「この後レイちゃんの部屋に行ってもいい?家に帰る前に少し休みたいの」


 会って二日目の異性の家に行きたいという祈にレイトは天然なのか、計算なのか、分かりかねる。


「お前どういう意味か分かってて言ってるのか?」

「え?言葉のままよ。ここから家まで魔物を倒しながら帰る前に、体力を回復しておきたいの」


 どうやら純粋に休みたいようだったので、レイトはやらしいことを考えていたのは自分だけだったかと恥じながら、祈が休んでいる間は何処かに出かけておけばいいと判断して、彼女を部屋に招くことにした。




「すごーい!狭ーい!」


 ワンルームで一人寝るのがやっとの広さのレイトの部屋を祈は興味深そうに見回した。


「悪かったな。ここには寝に帰るだけだからな」

「ふーん。あ、元カノの下着発見!洗濯済みみたいだしもらっちゃおう。じゃ、シャワー借りちゃうね!どうせ元カノのシャンプーもあるんでしょ?」


 着替えの山から発見した女性物の下着を摘み上げ、肩に掛けてから、祈はレイトの許可も取らずに浴室へと消えた。


「寝るだけじゃないのかよ……」


 完全に祈のペースに巻き込まれているレイトは思わず頭を抱えてしまった。とりあえず祈がシャワーから出て来たら、留守にする旨を伝えて、外で時間を潰そう。レイトが部屋を片付けながら考えている内に、シャワーを浴びた祈が身体にタオルを巻いた状態で現れた。


「シャワーありがとうね」

「おいおい、少しは恥じらいを持てよ」


 ふわふわした雰囲気の癖にあばずれだったのかとレイトは引きながらも、外見が好みなら来るもの拒まずの精神があったので、祈に近づき彼女の濡れた髪に触れてから、顎に手を添えて瑞々しい唇に口付けた。


 突然のキスに祈は拒まず背伸びして、レイトの首に腕を回した。



 


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