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177番外編 とある末っ子の婿入り1

 レイトは九人兄弟の末っ子だった。物心がついた時から多くの家族に囲まれて育った。一番年上の長男とは十八歳離れていて既に妻子がいて家で同居していた。彼の子供はレイトより年上でお互い何とも言えない不思議な関係だった。


 月日が流れ兄姉達が次々と自立して家を出ていき、家は長男家族が主体となった。長男の家もまた子沢山で七人目が生まれた頃、レイトは家に自分の居場所が無い気がして、学校を卒業すると同時に本格的に冒険者になり、家を出て港町の集合住宅の一室を借りた。


 幸い武術の腕には自信があり、幼馴染みで同じ集合住宅に住む相棒のトウマと日々ギルドの依頼をこなしていた。


 しかしトウマと組んで一年ほど経ったある日、トウマは海の向こうにある大国の騎士団長にスカウトされて騎士になるためコンビ解消となった。トウマは一緒に騎士にならないかと誘ったが、レイトは気乗りせず港町に留まった。


 そして独りになったレイトはふと人肌が恋しくなり、結婚して家庭を持とうと思った。とりあえず外見が好みの冒険者の女性に声をかけて共に依頼をこなして相性を確かめて行ったが、女性達はレイトのペースについて行けず根を上げて離れて行った。


 不幸にもレイトは自分が水鏡族の中でも人一倍戦闘能力が高くて丈夫で、スタミナがあるという自覚が全くなかった。相棒だったトウマも同じ人種だったので、気付けなかったのだ。



 そんな日々が一年続きながらもレイトは今日もギルドで依頼を受けることにした。


「はぁーい!レイちゃんご機嫌よう!今日は一人なの?リリスちゃんはどうしたの?」


 金髪の受付嬢が香水の匂いをプンプンさせながら挨拶して今日の依頼表をレイトに手渡した。


「今朝別れた。俺について行けないんだとさ」

「んまー!若い子はお盛んねー!私も昔はブイブイ言わせてたのよー?」


 昔を語る受付嬢にレイトは苦笑する。昨日は一緒に魔犬を三十頭狩った後、部屋に帰り疲労困憊の彼女に体を求めたのが破局の決め手となったようだ。


「あんた一体いくつだよ……」

「私は永遠の十七歳よ!ところで今日はどの依頼を受ける?」


 レイトは依頼の一覧表に目を通した。現在彼のギルドランクはCランクでBランクまではもう少しだ。一刻も早く昇格したいレイトは本日唯一のCランクの依頼を見つけて受付嬢に提示した。


「はいはーい!Cランク、ケルベロス討伐ね!じゃ、確認して来まーす!」


 受付嬢はこの依頼を他の冒険者が受けていないか、背面のボードで確認した。


「あーら、たった今他の子が受けちゃたわね。残念でした!」

「マジかよ」


 Cランクの依頼が無いと次に受けるのはDランクだが成功報酬は貰えるが、昇格の経験値にはならないのでレイトはがっくりと肩を落とした。


「良ければ一緒に行きませんか?」


 背後から柔らかい女性の声が聞こえたのでレイトが振り返ると、灰髪のショートヘアに赤い瞳のふんわりとした笑顔が印象的なレイトと同じ水鏡族の少女がいた。ショートパンツから覗く健康的な太腿につい釘付けになる。


「私、Cランクに昇格したばかりだからちょっと不安なんです。よかったら力を貸してもらえません?」


 二人で依頼を受けると経験値と報酬は山分けになるが、無いよりマシだし、何より庇護欲をそそるか弱そうな水鏡族の少女にレイトは興味を持った。


「分かった、一緒に行こう。受付嬢、手続きを頼む」

「はいなー!」


 手際良く受付嬢は少女の受けた依頼にレイトが参加する手続きをこなした。


「受付変更完了でーす。それじゃいってらっしゃーい!」


 受付嬢は手を振りレイトと少女を送り出した。二人はギルドを出てから作戦会議をする為に近くのカフェに入るとまずは自己紹介をする事にした。


「俺はレイト。十八歳。ギルドランクはCで、武器は両手剣、属性は風だ。あと敬語は不要だ」

「私は祈。十七歳。ギルドランクはC、武器は双剣で属性は水よ。こっちも敬語じゃなくていいわよ」


 祈は自己紹介を済ませると、レイトに目を合わせて微笑んだ。レイトは戸惑いつつ改めて祈を見てみる。人懐っこそうな笑顔は可愛らしく、それでいてボーイッシュなショートヘアにギャップを感じた。


 スタイルも良さそうだし胸もまあまあある。これまで付き合った女性とはタイプが違うが、これはこれでいいと思った。しかし肝心なのは戦闘面だ。


 いくら戦民族の水鏡族の少女とはいえども、レイトの戦闘能力について行けるか心配だった。とりあえずもしもの時はペースを合わせればいいかと妥協してから、レイトは頼んでいたアイスコーヒーを飲んだ。


「あなたの事はレイちゃんて呼んでいい?私の事は呼び捨てでいいわ」


 いきなり馴れ馴れしいなと思いつつもレイトは頷いて承諾する。


「じゃあ早速だけどレイちゃん、今回の依頼はここから十km先の桃が名産の村よ。ケルベロスは桃を食い荒らしてるんですって。姿が確認された時間帯は深夜」

「今から村に向かって説明を聞いてから仮眠を取る時間は十分ありそうだな。早速行くか」

「了解」


 カフェを後にしてレイトと祈は準備を済ますと早速村へと向かった。


 


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