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176キミじゃなきゃ12

「いい?絶対犯人探しをしちゃダメだからね?」


 トキワの同級生の集まり当日、会場のレストランへ向かう道中、命は先日の噂の張本人を探すなとトキワに何度も言い聞かせた。


「例の彼女とは円満に和解したし、謝ってくれたし、今後トキワに同級生以上の感情は持たないってしっかりと約束したし大丈夫だから」

「それじゃあ俺の行き場のない怒りは何処にぶつければいいの?」

「こないだ充分に発散したでしょう?」


 無意識とはいえ三日間以上怒りに任せて村に嵐を起こしたくせにと命は呆れ顔をする。


「そうだね、怒るよりちーちゃんと気持ちいいことする方がストレス発散できるよね!」


 命の言葉がトキワは港町での夜のことだと勘違いし、後ろから抱きついて来たので、命は思わず肘でトキワの腹を打って逃げて顔を紅潮させた。


 十分ほど歩けば、緑の屋根で白い板壁の建物が見えてきた。レストランの看板もあるし、本日貸し切りと貼り紙もしてあったので会場はここのようだ。


「ここだよ。同級生と家族でやってる店なんだって」


 トキワはそう説明すると立ち止まり。肘を曲げて腕を差し出した。どうやら腕を組んで仲良しをアピールしたいらしい。


「しょうがないなー」


 命は苦笑してトキワの腕に手を添えて腕を組んでからレストランに入った。店内には既にトキワの同級生と思わしき少年少女達が楽しそうに会話をしていたが、トキワと命に気付くと静まり返った。


「え、まじで……トキワの彼女って実在したの?」

「人形じゃないよね?」

「いや流石に等身大の人形連れて来たら狂気だわ」

「じゃああの人がちーちゃん?」

「もしかして後に引けなくて雇ったんじゃないの?」


 同級生の一人が口を開いたのを皮切りに同級生達は口々に命を見て戸惑っていた。トキワはいたく心外だったのか、眉間にシワを寄せたが、ため息を一つ吐いてから得意げに笑みを浮かべた。


「みんな久しぶり、今日はちーちゃんも連れて来たよ」


 トキワの言葉に同級生達は驚き声を上げて、信じられないといった顔をしていた。


「ほら言ったでしょう?ちーちゃんは実在するって!」


 呆れたように話す少女は以前商店で会計係をしていた同級生だった。命と目が会うとにっこり笑って手を振った。


「これがちーちゃん……」

「普通に美人だちーちゃん」

「美人過ぎるちーちゃん」

「ちーちゃん脚長っ……」

「ちーちゃん大きい……」

「ちーちゃん」


 同級生からのちーちゃんコールに命は完全に挨拶するタイミングを失い頬を引きつらせた。


「はい、終了。もう見ないでね」


 不機嫌そうにトキワは命を背中に隠して睨み、同級生達からブーイングが起きた。


「うるさい。どうしてもちーちゃんが見たいなら俺を倒せ」

「は?理不尽に強いお前を倒せるわけないだろうが!」


 どうやらトキワは同級生の中で一番戦闘能力が秀でているらしい。あのレイトの弟子ならありえるかと命はなんとなく納得する。


「ていうか、皆ちーちゃんちーちゃんて馴れ馴れしく呼ぶな」

「じゃあ何と呼べと?」

「呼ぶな」


 完全に子供の喧嘩になっているトキワと同級生達のやり取りに命は新鮮味を感じて微笑ましく思えた。

 ふと店内を見渡すと香も来ていることに気がついた。香は命に可愛く笑い掛けてくれたので命は嬉しくなった。

 その後彼らを最後に受け持った担任教師が来た所で全員揃ったようで飲み物を片手に乾杯して、各々立食で料理を楽しみつつ、近況などを話し合いながら談笑していた。

 集まりに初参加だったトキワは同級生達から質問攻めに遭っていた。風の神子代行での仕事ぶりや、精霊降臨の儀での反響などを話す中で、例の噂が話題に上がった。


「あれって一体誰が言い出したんだろうな。この中にいたりして」


 同級生の少年の一言で店内から気まずい空気が流れる。ここで香を見たら疑われると思った命はトキワの顔だけをじっと見つめていた。


「ああ、あれなら神殿に仕えるお節介ババアの妄想だったよ。みんなには迷惑かけたよね。ごめん」


 トキワは出まかせを言って自分が悪くないのに頭を下げた。当事者が言えば真実だろうと判断した同級生達は気にするなとトキワを励まして、店内は和やかな空気に戻った。


 命は商店の娘に手を引かれて女子の集まりに連れて来てもらった。中には既に結婚して赤子を連れて来ている同級生もいたので命は抱っこさせてもらって悦に浸った。

 そして女子達からトキワとの馴れ初めを聞かれたので、道端で倒れていた所を助けたら懐かれて現在に至ると説明したら何故か同情された。


 予定終了時間になったので担任教師が締めくくることとなった。


「今日は教え子達の元気な姿を見れてよかったぞ。いつの間にやら結婚して子供がいるのもいたから先生はまだ二十六だがおじいちゃんになった気分だ。ちなみに花嫁募集中だから素敵な女性がいたら是非紹介してくれ」


 気さくな教師の話に笑い声が上がる。


「君たちは今夢に向かって頑張っている時だと思う。辛くなったら学生時代の夢を思い出して立ち向かってくれ。そういえばトキワの将来の夢ってなんだっけー?」


 トキワに言わせるのかと思いきや、教師がせーの、と合図をすると同級生達が声を揃えて「ちーちゃんと結婚する!」と言ってから大爆笑が起きた所で集まりはお開きとなった。




「あいつら、完全に人で遊びやがって……」


 ブツクサと文句を言いながらトキワは旭に会いたいという命のリクエストで自宅に向かっていた。


「でもトキワ同級生の子達と楽しそうだったよ」


 トキワが同い年の人間と接している姿が珍しかったと命は微笑んだ。



「ねえ、ちーちゃん……そろそろいいと思わない?」

「何が?」


 歩みを止めてトキワは真剣な表情で命を見つめた。


「ちーちゃんと一緒になりたい。だからそろそろ結婚しよう。近々改めてプロポーズするから待ってて」


 そう言ってトキワは命の手を取って歩き出した。いつかはその日が来ると思っていても実際口にされると胸が高鳴り気の利いた言葉が見つからなかった命は声を絞り出すように一言だけ告げた。


「待ってるね……」


 



 

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