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175キミじゃなきゃ11

 こうなったら普段できないことを楽しもうと命は開き直り、夕飯は二十歳になってお酒を飲めるようになったら行きたいと思っていた酒場がいいとリクエストした。トキワは反対したかったが、引け目があるので大人しく付き合ってくれた。


「ここ!お姉ちゃんがバニーガールさんが接客してて楽しいよって言ってたの!」


 命が指定した酒場はレイトと祈がお気に入りの店で、トキワも夕食時の常連だった。


「トキワは来たことある?」

「ん、まあ……師匠に強引に連れられてね。ご飯が安くて美味しいよ」


 命からバニーガールにうつつを抜かしていると勘違いされたく無いので、トキワはあくまでレイトに誘われて、しかも飯目当てだという事を強調した。


「いらっしゃいませー!」


 酒場に入ると、可愛いらしいバニーガールが出迎えてくれて命の気分は高揚した。カウンター席に座ると灰色の髪の毛に赤い瞳…水鏡族のバニーガールがメニューとお手拭きを持ってきてくれた。


「あ、そのブローチはやっぱり!トキワくんだー!いらっしゃいー!今日は彼女と一緒なんだ?」


 トキワと顔馴染みらしいバニーガールが嬉々として話しかけてきた。気まずそうに視線を泳がせるトキワに命はニヤニヤしながらバニーガールを見た。


「あれ、(じゅん)姉ちゃんだ!久しぶり、命だよ。わかる?祈の妹!」


 バニーガールの水鏡族は祈の幼馴染みで同級生だった。命も幼い頃遊んでもらったことがあるので、よく覚えていた。


 学校を卒業した後港町の飲食店に就職したと聞いていたが、まさかバニーガールになっているとは思いにもよらなかった。


「命ー?うわぁ、大きくなったね色々!今何してんの?」

「秋桜診療所でナースしてるよ」

「そっかぁ、なりたいって言ってたもんねー!いやーでも本当キレイになって!ねね、休日はここで働かない?お給料いいわよー!お客さんからチップも貰えるし!命なら絶対売れっ子になるわよ!」


 稼げる副業のお誘いに命の心は揺らぐ。バニーガールになるのは恥ずかしいが、背に腹は変えられない。これならトキワへの借金も繰上げ返済が出来る。


「一日体験入店もしてるわよ!」

「じゃあとりあえず一日……「バニーガールはやめて!」


 体験入店を決意した命の発言にトキワは被せるように反対した。


「トキワくんこわーい!冗談に決まっているでしょう?」

「え、冗談なの?」


 お金を稼ぐチャンスだと思った命はがっかりする。


「そうよ。若くて胸が大きい命がバニーガールしたら、私の人気が取られちゃうでしょ?さ、何頼む?トキワくんはいつものでいい?」


 純は話を切り替えて二人から料理の注文を取ってから厨房に消えた。


「ちーちゃん、どうしてもお金が欲しかったらギルドの依頼一緒に受けるから、絶対バニーガールはやめて」

「本当に?」

「うん、だからバニーガールはやめてね」


 トキワがしつこく念を押していると、純が飲み物と料理を持ってきたので、冷めないうちに夕食を取る。


「そうだ、来月に同級生の集まりがあるんだけどパートナー同伴可らしいからちーちゃん一緒に来てくれる?」


 ついこないだまで同級生の集まりに欠席していたトキワが一転して参加するというので命は驚く。


「別にいいけど、どうしたの?こないだまで同級生に会うのに時間を割きたく無いとか言ってたのに」

「今回のデマの件で円滑な人間関係を維持することの大切さを知ったんだよ。あといい機会だからちーちゃんを紹介するつもり」


 そう言ってトキワはシチューの肉団子を頬張った。彼からすると渋々といった口ぶりだったが、命は同級生に紹介してくれることが嬉しくて、頬緩ませてからグラスのリンゴ酒を飲み干して喉を熱くさせた。



 食事を終えて酒場を後にする際、純からプレゼントだと紙袋をもらった。中身は一人でこっそり見てと耳打ちされたので、命は宿泊先でシャワーを浴びた後に脱衣所で袋を開けると、バニーガールの服一式とうさ耳のカチューシャが入っていた。


 メッセージカードには「これを着て、いつでも働きに来て!」と書かれていたので命は苦笑しつつ、じつは一度着てみたいと思っていたので、シャワーを浴びた後に着替えてみた。


「おおう、なかなか可愛いんじゃないの?」


 鏡に映る自身のバニーガール姿を見ながら、命は珍しく自画自賛した。シャワーを浴びた後で髪の毛が濡れているのは少し残念だし、ボディスーツに胸がきれいに収まらなかったのも悔やまれるが、それでもまあイケると謎の自信が湧き上がり、トキワに見せたくなって命はウキウキとバスルームから出た。


「ねえ見て!さっき純姉ちゃんにもらっちゃったの!似合うでしょ?」


 突如現れたバニーガール姿の命に先にシャワーを浴びてベッドの上で寛いでいたトキワは目を見張るが、次第に優しい笑顔を浮かべた。


「すごく似合ってる!可愛いね!」

「えへへー」


 褒められて悪い気がしない命がその場で一回転すると、ボディスーツから零れ落ちそうな大きな胸がぶるんと弾んだ。


「もっと近くで見たいな。髪の毛も乾かしてあげるよ」


 トキワは上機嫌で両腕を開いて命を招く。命は嬉しそうにベッドに上がってトキワに向き合う形で座ると、魔術で髪の毛を乾かしてもらった。


「ちーちゃん可愛い、超可愛い。世界一可愛いバニーガールさんだよー」


 髪の毛を乾かしている間、トキワはデレデレしながらひたすら可愛いと連呼して命をいい気分にさせた。


「本当に可愛いなー……さーてと」


 髪の毛を乾かし終えると、トキワはニコニコしながら命を押し倒して右の耳たぶをピアスごと甘噛みした。


「イチャイチャしよっか?」

「えっ嘘、待って……んんっ」


 ここでようやく命は自分が軽率な行動を取ったことに気が付いて顔が真っ赤に染まった。しかしトキワはそんな彼女に構わず熱い口づけを交わしてから、ニンマリと笑った。


「今日なんでお泊まりしたかというと、以前話した一線を超えないこととは何か体を使って確認しようと思ったからなんだ。ここなら二人きりだし、天変地異が起きない限り邪魔されないよね。だから覚悟してね、俺の可愛いうさぎさん」


 いっそ天変地異が起きてくれと願いつつ命が目を強く瞑れば、銀色の狼になすがままにされる夜となった。


 

 

 




 




 

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