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170キミじゃなきゃ6

 長いキスを終えて、命とトキワはしばらく見つめ合っていたが、ふとトキワは抱きしめている腕を緩め、命のキャミソールの右の肩紐を指で摘んでずり落とした。


「なっ、何いきなり!?」

「別に脱がすつもりは無いんだけど、こっちの方がそそるなーって思っただけ。片側だけなのがポイント。しかも診療所でこんな格好とか背徳感あるよね」


 悪びれた様子も無く己の性癖を披露するトキワにすっかり通常営業だなと命は苦笑した。


「出来たぞー。貼ってやろうか?」


 タイミングを見計らった様に桜が診察室から出てきて、調合した湿布薬を持ってきた。


「俺が貼るよ。腕と脚とあとは背中とか?」


 元気に挙手をしてトキワは目を爛々とさせると、役割を買って出る。


「桜先生にしてもらうからいい!」


 命はトキワに舌を出して診察室に入って、ドアに鍵を掛けてから、先ずは背中と腰に湿布を桜に貼ってもらうと、残りの腕と脚は自分で貼った。そして桜と診察室を出れば、トキワは大人しく待合室の椅子に座っていた。


「話を戻すけど、ちーちゃんと桜先生は俺と結婚するとかほざいてる同級生と会ったんだよね?それって一体誰なの?」


 改めて今回の騒動の根源を探ろうとするトキワに命はまだその同級生が誰かを掴めてないことに気がついた。もしトキワが香を特定したら、彼は時折残酷な面があるので、例え女性でも彼女にどんな被害が及ぶか分からないと命は危惧した。


「ねえトキワ、この件については私に任せてくれないかな?悪い様にはしないから」

「駄目。ちーちゃんに何かあったら冷静でいられない」

 

 食い下がるトキワに命は飼い犬にしつけをするように睨みつけた。


「これは俗に言う女の戦いなの。男は引っ込んでて」

「そうだな。こういうことに男が首を突っ込んだら余計拗れるからなー」


 命の決意に桜も面白そうに後押しする。実際トキワが関わるのは、香の可愛い顔に傷がつくような気がして、美少女大好きな命としては致しかねなかった。


「それに私もトキワの為に争いたいなと思って。だからトキワは勝者の景品らしく大人しくしててね」

「……ここは俺の為に争わないでー!って言った方がいいのかな?」


 真面目な顔をして尋ねるトキワに命と桜は声を上げて爆笑した。


 とはいえ、まだ微熱もあるので命は自宅に戻り休むことにした。トキワも家に帰ると言うので、一緒に診療所を出る。桜も見送るために外に出た。すると三日以上続いた嵐が嘘だったかのように止んでいた。だが辺りを見回すと、何本か立派な樹木が無残にも倒れているので、間違いなくまことだった。


「なあ、これはあくまで推測なんだが、これまでの嵐ってトキワくんが荒れてたのが原因じゃないのか?」

「……あり得そう」


 桜の言葉に命はなるほどと納得した。最初診療所で会った時のトキワは鬼気迫る物があって、嵐と重なるような雰囲気だったが、今はいつものトキワだからなのか、嵐は止んでいる。


「最近トキワくんは風の神子の仕事が増えてるみたいだから、精霊との親和性が高まったのかもしれないな。元々銀髪持ちは精霊の愛し子と言われるくらい精霊に好かれているしな」


 その話を命は昔絵本で読んだことがあった。精霊と仲良しの女の子の話だ。女の子が嬉しいと空に虹が輝いて、女の子が悲しむと、その間雨が降り続ける話だった。今思うとあれは水属性の銀髪持ちの女の子の話だったのだと命は今更ながら考察した。


「もしそれが事実なら……ヤバい、ばあちゃんに怒られる。ちょっと謝ってくるね。ちーちゃん俺に勇気をくれる?」


 先程のキスだけじゃ足りなかったのか、トキワは目を閉じて命にキスをねだった。桜がいる手前そんなことは出来ないし、恥ずかしいので命は代わりに別の方法で活をいれることにした。


「トキワ、頑張ってね!とりゃっ!」


 命はトキワに励ましの言葉をかけると、思いっきり彼の尻に蹴りを入れた。思いにもよらない活にトキワは前方に倒れ込み悶絶するが、命を不安にさせたし、自業自得でもあるかと反省して起き上がり尻を片手で摩りつつ、空いた手を振りながら神殿へと向かった。



 ***



 翌日から村はいつも通りの日々を迎えた。実は学校へ、光も午後から託児所の仕事だ。診療所には嵐の影響で怪我をした患者で溢れ、病み上がりの命はてんてこ舞いになりながら桜をフォローした。軽傷者ばかりだったのは幸いだが、中には捻挫や骨折をしていた人もいた。


 夕方になり診療所を閉めると、少しやつれ気味のトキワが様子を見にきた。トキワの方も忙しいらしく、嵐で壊れた家の修理で多くの家庭を回ったそうだ。


 しかも依頼が殺到しているため休日返上となり、今度のデートは延期だと、心底悲しそうに告げた。命は楽しみが延びただけだと励ましてから、早く帰って寝て疲れを溜めないように諭すと、彼の背中を見送った。


 家に帰ると回覧板が届いていて、命が目を通せば、神殿からのお知らせで昨日までの激しい嵐は風の神子代行の結婚にまつわるデマが流れたことにより、風の精霊が怒りを露わにして起きた現象だと書かれていた。


 そして今後は神子についての話題は神殿からの報せ以外は信用しないようにと締め括られていた。


 こうなると噂の出所である香の身に何か起きていないか命は心配になり、明日は休みなので彼女の家を訪ねて決着をつけることにした。

 

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