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17精霊祭と友情8

「な、なんで…?」


 突然現れたトキワに命は声を上げた。トキワは今までにないくらい真剣な瞳で命を見据えている。唇からは血が流れている。


「たとえ嘘でもちーちゃんが俺以外と結婚するなんて嫌だ!」

「えっと、トキワこれはね…」


 トキワに視線を合わせるため命はかがんで隠しポケットに入れていたハンカチで彼の唇から流れる血を拭う。


「確かに君の言う通りだ。俺も!南以外と結婚するのは嫌だ!」


 触発されたのかハヤトまで主張を始める。式場は盛り上がっているが、当事者である命は勘弁してよと頭を抱える。


「そうだ、君が代わりに花婿をすれば良い!さあ、これを着て!」


 すぐさまハヤトは花婿衣装のジャケットを脱いで、トキワに着せてやる。命と同じくらいの身長のハヤトが着ていたジャケットは十歳にしては背が低いトキワには大きく、丈が膝の長さで完全に着られた状態だ。


「わー!お兄さんありがとう!」

「ハッピーウェディング!」


 サムズアップをしてハヤトは壇上から降りていった。駄目だ。これは完全に味方がいない。命は愕然としながら徐々に開き直ってきた。このままノリに乗ってしまった方が楽だし、この模擬挙式を成功させれば南も安心するだろうと心の中で言い聞かせた。


「エスコート、してくれる?」


 トキワの羽織ったぶかぶかのジャケットの袖をまくり上げてから命は手を差し出し精一杯笑えば、トキワは満面の笑みで手を取った。


「ちーちゃん、花嫁姿すっごく綺麗だよ。やっぱり俺のお姫様だね」


 久々に聞いたトキワの甘い言葉は気を張っていた命にとっては不意打ちで瞬く間に赤面する。顔がベールで覆われて傍目からわからないことは彼女にとって救いだった。


「それでは気を取り直しまして、誓いの言葉を。花婿の…えと、お名前は?あ、トキワね。あなたは健やかな時も病める時も花嫁の命を愛する事を誓いますか?」

「はい!誓います!」

「花嫁は?」

「……っ…はい…」


 一切迷いのないトキワに対して様々な葛藤から絞り出す様な声で命も返事をする。


「この結婚に異議を唱える者は…いないので、続きまして水晶の融合分裂を行います」


 こいつ、略しやがった!もっと確認してよ!と命は進行役を睨みつけたが、式は滞りなく進む。


 水晶の融合分裂とは、その名の通りそれぞれが持つ水晶を一つの水晶に融合してからニつに分裂させる。簡単に言うと足してニで割るのだ。これにより夫婦はお互いの居場所を把握する事が出来るわけだ。更に属性が混ざることもある。そしてもし相手が死んだらその時は誰よりも一番に察知できるという不思議な能力も秘めることになる。


 もちろん今回は模擬挙式なのでイミテーションを用意してある。花婿の水晶はブートニア、花嫁のはブーケに挿してある。飛び入り参加の為分かってないトキワが本物を出そうとしたので命は制止して、彼のブートニアから花の形をした水晶の偽物を渡すと、自分のブーケからも同じのを取り出して、形だけの融合分裂を行った。


「それでは最後に誓いの口付けを行なって下さい」


 完全にふざけやがって、あとで締め上げると命が同級生の進行役に殺意に似た何かをぶつける一方で、トキワはまさかの僥倖に目を輝かせていた。


 やばい。迂闊にトキワに主導権を握られたら、うっかりファーストキスが奪われる。こうなったら……


 危惧した命は先手必勝に自らベールを上げてトキワの柔らかい頰に短く口付けた。


「ちーちゃん…」


 不意打ちの積極的な命のキスに惚けたトキワは絶大な多幸感を覚え、彼女に対する愛がより一層深まった。もちろん命はそれに気付いていない。


「ここに新たな夫婦が生まれました。皆さま祝福の拍手を!!」


 会場は割れんばかりの拍手で大盛り上がりだった。命は完全に吹っ切れた様子で天使のような笑顔を浮かべるトキワと共に手をブンブンと振った。


 こうして模擬挙式は思わぬ方向に大成功を収めたのだった。


 




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