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166キミじゃなきゃ2

 一体どうすればいいのか。


 その夜、命は昼間の香との出来事を思い出していた。桜は野良犬に噛まれたと思って笑い飛ばせと励ましてくれたが、気分は晴れなかった。


 しかも今日に限ってトキワは家にやって来なかった。このまま明日以降も来なかったら、いよいよ現実味が帯びてしまう気がして不安な気持ちを抱えたまま眠れぬ夜を過ごした。



 ***



 結局命は一睡もできなかった。しかし今日も診療所は通常通り診察が行われるので、眠気覚ましに熱いシャワーを浴びてから出勤した。


「うわー凄い顔してるぞ。大丈夫か?」

「なんとか……」

「きつくなったら帰っていいからな」


 桜は命の不調の原因を察しつつも、深く追及しなかったが、体調だけは心配した。


 何とか一日を乗り切って仕事が終わり、命が診療所の窓から外の様子をうかがうと、トキワの姿が見えた。命は彼がいたことに安堵して診療所を出る。


「ちーちゃんお仕事お疲れ様!」

「お疲れ様」


 いつも通りのトキワの笑顔に命も表情が和らいだ。


「顔色悪いよ。大丈夫?」


 トキワは命の不調を見逃さず、そっと彼女の頬に手を添えた。


「うん。ちょっと夜寝苦しかったから、寝不足なだけ」

「じゃあ今から少しだけ寝たら?目を閉じるだけでも違うし。おいで」


 トキワはベンチに座ると命に隣に来いと手招きをするので命はそれに従い、身体をトキワの肩にもたれかかってから、目を閉じた。トキワが腰に手を回して、身体をより密着させれば、より体温を感じられて、命はここ二日の疲れが楽になった気がした。


「ねえ、トキワって同級生と仲良いの?」


 気持ちに余裕が出た命は香のことを探るようにトキワに質問をする。


「どうだろう?隣に住んでいた幼馴染みとは仲が良かったけど、冒険者になって村を出て行ってから疎遠だし、学校の同級生は顔と名前が一致している程度かな。同窓会や結婚式とか招待されても欠席してるから、あまり興味無いかも」

「え、何で行かないの?」


 命は割と同級生達と仲がいいので、トキワの淡白な人間関係を不思議に感じた。


「ちーちゃんと会う時間を割いてまで同級生に会う理由が無いから。ああいうのって大体休日だからね」


 同級生より自分を優先してくれているトキワに命は嬉しく思いつつも、彼の交友関係はそれでいいのだろうかと、少し心配になった。


「じゃあ自分の結婚式には同級生を呼ばないの?私は呼びたいなって思ったけど」


 少なくとも親友の南と樹、幼馴染みのハヤトは呼びたいし、これまで結婚式に招待してくれた同級生も命は呼びたいと考えていた。


「俺は呼ばなくていいや。連絡がつけば冒険者の幼馴染みだけだな。同級生以外で呼ぶとしたら親方たち位だし」

「そっかー、じゃあ結婚式に招待したい人のリストも交換日記に書いていこう」

「うん」


 不安要素はあるけれど、着実に結婚へと近づいていることが実感できて命は少しほっとして、しばらくトキワの肩に寄り掛かったまま眠りについた。そしてトキワは彼女の寝顔を見ながら頬を緩ませて、二人は幸せなひと時を味わった。



 ***



 しかしそんな幸せな時間は長く続かなかった。数日後、風の神子代行が、トキワが結婚するという噂が村中に溢れていたのだ。


 お相手は同級生でとても美しく嫋やかな女性で、風属性で魔力量の高さから結婚したら確実に神子になれるだろうと言われ、風の神子同士の夫婦から子供が生まれたら、風の神子の後継者不足も解消されると盛り上がっていた。


 噂の出所は恐らく香だろう。しかしこのままだと噂が本当になってしまうのではないかと、命は不安に押し潰されそうになった。


 診療所でも患者からの話題はその噂で持ちきりだった。心配する桜を他所に命は胃痛と戦いながら、笑顔を貼りつけてやり過ごすが、心はヘトヘトだった。


 仕事が終わるとトキワがいないのを確認してから帰宅して着替えると、一人になりたかったので、薬草園に行って雨の中黙々と雑草を抜いた。


 途中から雨が強まっても家には帰らず、一心不乱に作業を続けて、抜いた雑草を片付ける頃には日が暮れていた。


 ずぶ濡れになった状態で帰宅すれば、光から叱咤されてすぐ様風呂場に放り込まれた。命は脱衣所でびしょ濡れになった衣服を脱いで風呂場に入った。


「ちーちゃん!?」


 突如風呂場からの不審な物音がしたので、実が駆けつけると、命が風呂場で頭から血を流して倒れて意識を失っていたので実は急ぎ桜を呼びに家を飛び出して診療所へ向かった。



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