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164湯けむり温泉旅行11

 話がひと段落して昼休憩も終わりが近かったため、トキワは食べかけの弁当を掻き込んでから、午後の作業へ合流した。


 命と桜はお茶を飲んで一休みした後に荷解きをして、汚れ物を洗濯した。


「ちー、あんま思い詰めるなよ」


 魔王に狙われている恐怖から元気がない命を桜は抱きしめて頭をポンポンと撫でた。


「桜先生、私魔王に狙われたのも恐いんですけど、それよりも折角楽しかった温泉旅行を台無しにされたのが悲しいんです。ここには笑顔で帰ってきたかった。思い出とお土産を持って帰って大好きな人たちと話したかった……」


 心情を吐露する命に桜は彼女らしいと思いながら、小さく笑った。


「それは今からでも出来ることじゃないか。確かに魔王の件は最悪だが、旅での思い出は勿論、上位種の魔物であるサイクロプスをあそこまで追い込んだのは武勇伝にしていいと思うぞ」

「あれは殆どトキワが付与効果を付けてくれたペンダントのお陰で……うっ……」


 自分を守ってくれた銀の天然石のペンダントが真っ二つに割れたのを思い出した命は突如声を出して泣き出したので、桜は目を丸くしながら彼女を宥める。


「あのペンダント、トキワが買ってくれたのに……大切にしてたのに……これがあったから学園都市での生活も頑張ってこれたのに……」

「そうかそうか、ちーにとって呪いのペンダントは宝物で御守りだったんだな」


 桜だってあのサファイアの指輪は宝物だったが、大切な人に買ってもらい、苦難を共にしたペンダントへの思い入れは命の方が上だろうと思い、泣いてる命を必死にあやした。


「まあ私の指輪と違って残っているのだからあれだ、店に行ってリフォームでもしてもらえ!港町にいい職人がいたはずだ。トキワくんとデートがてら行ってみたらどうだ?」


 その提案に命は必死に泣き止もうとしゃくり上げてつつ何度も頷いて名案だと肯定して、次第に落ち着いてきた。


 二時間ほど経って、ヤマトから改修工事完了の知らせが来たので、命は桜と生まれ変わった診療所を訪れた。


「おおう!素晴らしい」


 今回の改修工事は出来る限り元の形を維持してきれいにして欲しいという要望だったが、ヤマト達は丁寧に修繕をしてくれた様だ。


「まるで新築みたいですね」

「ああ、懐かしいよ。本当にありがとうございました」


 桜は遠い日の秋桜診療所と姿を重ね合わせて涙ぐみながら、ヤマトに深々と頭を下げたので、命もそれに続く。


「トキワも頑張ってくれたんですよ。ふっ、休憩中は命さんがいないからか抜け殻みたいになっていたけど。仕事中はしっかり気持ちを切り替えて働いてました」


 ヤマトは思い出し笑いをして、工事中のトキワの様子を語る。よっぽど命がいなかったのが残念だったらしい。その姿が想像出来たのか桜もつられて笑った。

 そして説明が終わり、工事完了のサインを交わすと、ヤマト達大工は帰って行った。


「あれ?トキワくんは帰らなくていいの?」


 ちゃっかり命の横をキープしていたトキワに気付いた桜は置いていかれてるぞと指摘する。


「ヤマトさんから直帰の許可を貰いました。ということでちーちゃんとイチャイチャでもしようかなー」


 嬉々としてトキワは命の前髪に口付ける。


「もう、人前でイチャイチャしないでって言ったよね?」


 すっかり調子を取り戻してきた命はトキワを窘める。


「そういえばそうだったね。じゃあちーちゃんの部屋に行こう?イチャイチャしながら旅の楽しい思い出を聞かせてよ」


 必死にイチャイチャに固執するトキワに桜は堪えきれず爆笑した。その姿に命も声を出して笑う。


「あーおかしい。じゃあ三人で生まれ変わった診療所でお茶しながら話そう!そうだトキワにお土産も買ってあるよ。取ってくるね」


 命はトキワを振り切り自宅へと向かった。


「悪いなトキワくん、私も仲間に入れてくれ」

「ま、桜先生なら構いませんけどね。そういえば指輪してないけど、どうしたんですか?ちーちゃんもペンダントしてなかったし」


 イチャイチャを諦めたトキワは桜のサファイアの指輪と命のペンダントが無いことを指摘した。


「それについてもお茶しながら話そう。きっと驚くぞ」

「悪い意味で?」

「そう、悪い意味で」


 意味深に桜が言うものだから、トキワは苦笑して二人で命が戻ってくるのを静かに待つのだった。


 

 


 





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