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162※残酷な描写あり湯けむり温泉旅行9

「壊れちゃった」


 流石に力を使い果たしてしまった命のペンダントは天然石が真っ二つに割れてしまっていた。悲しそうに命はペンダントを無くさないようにショルダーバッグに入れ、サイクロプスの様子を窺う。今は源泉池に浸かり身動きが取れない状態だが、源泉池から出て来るのも時間の問題だろう。そうなるとサイクロプスはまた執拗に命を狙うはずだ。


「私がもっと強ければ……」


 悔しそうに拳を握る命に桜は肩を叩く。


「それは私も同じだ。お互い鍛錬不足だったな。とりあえず観光客に凄腕の冒険者がいることを願おう」


 しかしサイクロプス程の魔物になるとBランクの冒険者が複数いないと苦戦は必至だ。その時は自分達がどうにかしなくてはならない。命は桜とその場合の立ち回りを話し合いながらサイクロプスが動き出さない様に見張った。


「もしかしたらこの指輪を使えばどうにかなるかもしれない」


 桜は左手の中指にはめていたサファイアの指輪を抜くと命に見せた。


「この指輪もトキワくんがムシ除けしてくれているからあいつにぶつけたらどうにかならないかな?」

「うーん、発動条件まで聞く時間がなかったからな。持ち主の害をなす存在に攻撃する感じだったけど。ダメ元で私が矢に引っ掛けて当ててみましょうかね」

「頼む。もしダメだったら、温泉には申し訳ないが逃げよう」


 命の提案に桜は賛成して指輪を命に手渡した。命は魔術で水の矢を生み出し、サファイアの指輪を取り付けると、弓を構えてみる。


「どこ狙いましょうか?額でいいかな?」

「魔核がありそうなのはそこだよな。そこにしよう」

「了解」


 命は一旦弓を下ろすと警戒しながら射程圏内まで歩くと再び弓を構えた。桜も心配なのでついてくる。

 呼吸を整えてから命は矢を放つと、サイクロプスの額に命中し、指輪から真空波が発動してサイクロプスの頭が切り刻まれていった。


「おえー、夢に出そう」

「ですね。でも指輪が上手く発動してよかった」

「一応心の中でやっちまえと願ったからな。しかしあの指輪高かったんだけどな」


 あのサファイアの指輪は以前村に行商が来た時に桜が一目惚れして日頃の自分へのご褒美にと奮発して購入した物だった。


「まああれで私達が助かるなら安いものか。って、頭は魔核じゃなかったみたいだなチキショウ」


 魔核が破壊されたら魔物自体が消え去るのだが、サイクロプスは頭と腕が無い状態なのに実体を保ち且つ動いていた。


「最早これまでですね。逃げましょう」


 命は弓をピアスの形に戻すと撤退を促した。桜もそれに従いその場を離れようとした。




「おやおや、また会っちゃったね元メイドちゃんとお姉さん!やっぱり僕たち運命の赤い糸で繋がっているんだよ!」


 緊迫した空気の中、先日遭遇した庭師の男が飄々と姿を現した。


「ここは危険です!早く逃げてください!」


 この場を離れる様命が注意すると、庭師はサイクロプスを一瞥した。


「あー、こいつがおイタしちゃったんだね。二人とも怪我は……してるね」


 かすり傷ではあるが、命と桜は負傷して返り血も浴びて服装もボロボロだった。


「ごめんね。落とし前つけるから許してね」


 そう言って庭師が右手を掲げると、サイクロプスは青い炎を纏い瞬時に塵となった。その圧倒的な力に命と桜は唖然とした。


「あなたは一体何者……?」


 ただの庭師ではなさそうだ。命の問いかけに庭師はにっこり口を弧にして笑った。


「俺?俺はね、本職は庭師なんだけど、巷では魔王って呼ばれてるの」


 庭師の正体は魔物の長と呼ばれる魔王だった。絶対自分達では敵わない相手に命と桜は恐怖で互いに身を寄せ合った。


「嘘でしょ…?」

「いや、確か青い炎を操るのは魔王だけだと言われているから間違いないだろう」


 彼が魔王だと信じられない命に対して、桜は冷静に伝聞を口にして魔王だと認めた。


「大丈夫、君たちを取って食ったりしないよ。否、元メイドちゃんは彼氏と別れたら頂きたいな。ご存知かもしれないけど、俺は魔物を使って世界を滅ぼそうなんて考えてないの。ただ可愛くて若い女の子と楽しいひと時を過ごすのを生きがいにしてるわけ」


 巷で聞く魔王の噂と庭師の男の発言は一致していた。


「だから世界中で庭師をしながら旅をして色んな女の子達と出会ってもし偶然再会したらビリリと運命を感じちゃうわけ。で、女の子の方も運命を感じてくれたら、魅力(チャーム)がかかって俺のモノに出来ちゃうの。まあ一応他にも条件があって、生娘であることと彼氏や夫がいないのも条件に入れてるよ。これは俺の嗜好なだけだけどね」

「え、お前生娘だったの?」

「うるさい!」


 桜の問いかけが恥辱で命が吠えると、庭師が声を出して笑う。


「可愛いーなあ、何度も言うけど元メイドちゃんも彼氏と別れたら条件を満たすから、別れた際には是非ぜひ俺との運命をご検討下さいな。じゃ、またね」


 そう言って庭師は黒いモヤの様な物に包まれ、瞬く間に姿を消した。


「ちー、お前ヤバい奴にしか好かれない体質なんだな……」


 率直な感想を桜が口にすると、命は頭を抱えてどうしてこうなったのと嘆くのだった。

 




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