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159湯けむり温泉旅行6

 旅行三日目。少し遅めに起きた命と桜は旅館の用意してくれた朝食を食いっぱぐれたので、身支度をしてから温泉街へ赴き、タヌキをコンセプトにしたカフェでブランチにした。食べるのがもったいないくらい可愛いタヌキをモチーフにしたパンケーキを頂きながら二人は今日の予定を話し合う。


 その結果今日は観光地の目玉の一つである石庭を観に行くことになった。カフェを後にした命と桜は早速庭園を目指す。


「なんかお肌の調子がいいな。これが温泉効果か」


 桜は自分の頬に触れながら普段より滑らかになった肌を楽しむ。


「確かにそうかも。帰る頃にはお互い玉のような肌になってたしりてーふふふ」


 温泉を満喫した数日後の肌のコンディションに期待するうちに二人は庭園へと辿り着いた。どうやら回遊式庭園のようで、入り口から順路に従って庭を楽しむようだ。まず二人を出迎えたのは築山と小さな池と木々の調和が美しい庭だった。爽やかな空気と緑が美しくて命と桜は癒される。お互い庭については博識では無いし、感想を語り合う熱量はないので、看板の説明を何となく見てから次の順路へと足を進める。


 庭の景色を楽しみながら周っていると、主目的の石庭を楽しめる建物へと辿り着いた。命と桜は石庭が見える縁側へ向かった。


「うわー白い!石大きい!砂もきれい」

「白砂は水流を表現しているんだとさ」


 看板を横目に桜は説明する。石庭は全体的に白く借景となる山々の緑をより引き立たせ美しく、命と桜は縁側に座りしばし楽しんだ。


 途中抹茶を楽しめるカフェがあったので水分補給がてら入り、大きな池が眺められる席で抹茶と名物の温泉まんじゅうを食べてから二人は順路へ戻った。




「あれあれ?もしかして元メイドちゃん?」


 メイドという言葉に反応して命が振り返ると、刈込鋏を手にした庭師の青年が青い瞳を丸くさせてこちらをみていた。


「知り合いか?」


 桜の問いに命は首を振るり、庭師に愛想笑いを浮かべた。


「あの、失礼ですがどちら様ですか?」


 命が庭師に何者か尋ねると、庭師は大袈裟に落胆の表情を浮かべた。


「うわーっ!また忘れられた!俺だよ、俺俺!学園都市のアンドレアナム家で外注の庭師してたんだよ?しかも地方都市で朝に公園で運命の再会もしたよね?マジで覚えてねーの?」


 庭師は頭に巻いていた手拭いを取り、こちらに顔をよく見せて来たが、短く刈り込んだ金髪と日に焼けた肌に輝く青い瞳の庭師のことを命はすっかり忘れていて思い出せなかった。


「なんで忘れるんだよ?アンドレアナム家の薬草園で薬草について熱く語り合った仲じゃないか!?」


 アンドレアナム家と薬草というキーワードに命はようやく庭師の存在を思い出して手を叩いた。


「ああ、その節はどうも勉強になりました。それでは……」


 ようやく庭師を思い出した命は面倒くさいので、他人行儀に頭を下げると、桜の肩をポンポン叩いて先へ進もうとした。


「ちょいちょい!どこ行くの?もっと運命の再会を喜ぼうよ!?」

「なんかあいつチャラいな」


 率直な桜の感想に命は頷く。


「お連れの眼鏡美人はお姉さん?今日は旅行かな?」

「そうなんです。姉妹仲良く温泉旅行なんです。だから邪魔しないでもらえますかー?」


 貼り付けた笑顔で命は応対して、付き纏うなというオーラを醸し出すが、庭師は食い下がる。


「いやでもよ、こんなに偶然出会えるなんて、元メイドちゃんは俺との運命を少しでも感じないの?自分で言うのもなんだけど、俺って結構イケメンだと思うんだけど?」


 言われてみれば庭師は整った顔立ちをしていた。年頃の女性が見たら胸をときめかせるかもしれない。命自身美形は恋愛感情抜きに大好物だったが、どうも庭師には食指が動かない。


「あ、わかった。私金髪の若い男が嫌いなんだわ。ということでごめんなさい。さようなら」


 過去に金髪の若い男から嫌がらせを受けて以来、命は嫌悪感を持つようになったと自覚して、再び足早に去ろうとした。


「待ってよ!」


 庭師が命の手を握り引き止めようとすると、突如命から真空派が発生して庭師の体を切り刻んだ。


「え、嘘!?ごめんなさい!直ぐ手当てを……」


 命は真っ青になりながら庭師の傷を手当てしようとするが、庭師が手の平を見せて制止する。


「近寄らないで。多分元メイドちゃんが俺に触れたらまた発生すると思うから」

「どうしよう、本当にごめんなさい……」

「落ち着け、私が手当てしよう」


 不本意に人を傷つけてしまったショックで取り乱す命の頭を撫でてから、桜が庭師の怪我を慣れた手つきで

手当てした。


「概ねかすり傷だな、一部流血もあるが傷は浅い。縫う必要もなさそうだ」

「ごめんなさい、本当にごめんなさい」

「大丈夫だよ、気にしないで」


 しおらしく謝る命に庭師は困ったように笑い首を振る。


「私達は風属性を操れないから、恐らくこれが原因だろうな」


 桜は命の首元に光る銀色の天然石がトップのシルバーペンダントを指差した。


「あーなるほど、元メイドちゃんは俺が手を握ったのが嫌だったのかな?」

「失礼ながら……すっごく嫌でした」

「あはは、サーセン。多分その子は元メイドちゃんが嫌がった存在に攻撃するように付与効果がもたらされているんだね」


 庭師の指摘に命は慌ててペンダントを外そうとした。こんな物騒な物をつけていたらまた怪我人が出ると思ったからだ。


「あれ?外れない!止め具が無くなってる?」

「多分効果が発生したら外せなくなる仕様なんじゃないかな。凄いな、そんな複雑な術をかけられる人間がいるなんてな……」


 庭師はペンダントの付与効果を推察しながら感嘆する。見かけによらず魔術に詳しい様子だ。


「もはや呪いのペンダントだな。私の指輪も恐らくはそうだろうね」

「うう、愛が重い……」


 これがトキワに直前まで黙って温泉旅行に行った罰なのだろうか。命は嘆きつつも、これからはなるべく取り乱さないようにしようと反省した。


「もしかして元メイドちゃんてダーリンがいるの?」

「ええ、結婚を前提にお付き合いしている方がいます」


 庭師の質問に命は怪我をさせた罪悪感はあるものの、これで追い払えると思い即答した。


「マジかー!元メイドちゃんのこと前から狙ってたのに最悪ー!俺人の女は寝取らない主義なんだよね。仕方ないダーリンと別れたら教えて。また運命感じに来るから」

「別れませんから。あと、怪我をさせて本当にごめんなさい」

「いいって、俺がちょっかいを出して番犬に噛まれたのが悪いんだよ。じゃ、またね」


 そう言って庭師は名残惜し気に手を振ってきたので、命と桜は頭を下げてからその場から離れていった。

 

 





 

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