151ニセモノ7
まさか遂にブーケをゲット出来るとは……
今月二回目の同級生の結婚式の帰り道、命はご機嫌で鼻唄を歌いつつ、スキップしながら自宅に帰っていた。
自分の将来のことや難しいギルドの依頼をこなしにいったトキワとレイトへの心配など色々悩んでいたが、昨日から続く結婚式の幸せオーラに感化され、悩むのが馬鹿馬鹿しくなって考えるのを止めた命の元に、本日念願のブーケが舞い降りた。
その後嬉しさのあまり結婚式後の立食パーティーでは酒が進み、大好きな生クリームとフルーツがたっぷり乗ったケーキもたくさん食べて命は有頂天だった。
「たっだいまー!」
底抜けに明るい声で命が玄関のドアを開けると、光と実は勿論のことレイトと祈、ヒナタとカイリおまけに桜までいた。そして何故かトキワが床に正座していて、子供たち以外は神妙な顔をしていた。
じつは命が帰ってくるまでトキワは桜たちに命との結婚に関する考えを聞いてもらい、それをダメ出ししてもらっていたのだった。
「いやー皆さんお揃いでー!どうしたの?ティータイム?」
そんな空気の中、命はヘラヘラ笑ってソファにハンドバッグを置く。
「あ、もしかして私を待ってたのー?私ったら人気者だー!そうそう!見て見て!今日遂にブーケをゲットしちゃいましたー!あはははは!」
命はウェディングブーケをみんなに見えるように掲げてから、床に座るトキワに寄り添った。
「私たち結婚しまーす!」
そう言って命はトキワに抱きついて彼の頬に口付けた。普段の彼女なら絶対しない大胆な行動に桜たちは呆気に取られた。
「ちー、お前酒に酔ってるだろう?」
「お酒を飲んで何が悪い!私はもう二十歳、お・と・な・よー!」
桜の指摘に命は反論してまた一つトキワの頬にキスをする。これは完全に酔っ払っている。普段なら決して自分から人前でイチャつかない命の姿に桜たちはそう確信した。
「えへへ、トキワだーい好き!結婚したらたくさん赤ちゃん作ろうねー!幸せになろうねー?」
まさかこんな状態で命からの本音を聞くことになると思わなかったトキワたちは居た堪れない気持ちになった。逆に言うと、普段の命は余程自分の気持ちを抑え込んでいたのだろうと桜は憐れに思った。
「こいつ酔うと絡み上戸というか……キス魔になるんだな」
さっきから命はトキワに無数のキスを浴びせていた。これには流石のトキワもたじたじになる。
「桜先生もチューして欲しいんだ?いいよ!今日はみんなにもいっぱいチューしてあげる」
すくっと立ち上がり、命は瞳をとろんとさせて桜に掴みよると桜の頬にもキスをした。
「桜先生だーい好き!私のもう一人のお母さんだよー」
お互い大切な存在だと思ってはいたが、命がもう一人の母親だと慕ってくれていたことに桜は不覚にも涙を流した。そんな桜の気も知らず、命は実、光に祈、ヒナタとカイリと次々にキスをしては大好きだと想いを伝えている。
遂には命はレイトにまで頬にキスをして、強くてカッコいいお兄ちゃんが大好きと言ってレイトをホロリと泣かせ、命は最後にリビングの棚の上に飾ってある父親のシュウの写真にキスをして、お父さんも大好きと微笑むと、祈の涙腺が崩壊して堪らず命に抱きついた。
「ちーちゃぁあん!私も大好きだよー!うああん!お嫁に出したくなあーい!ずっとここにいてー!!」
自分の事は棚に上げて、祈は命を嫁にやりたくないと子供のように声を上げて泣き出した。
「だめー、トキワと絶対結婚しちゃう!でも結婚してもみんなとはずっと家族だよ!みんな大好き………すぅ……」
アルコールによる睡魔か、命は祈の腕の中で眠りについた。
「……今後ちーに酒を飲ませ過ぎないようにしないとな」
桜の提案に一同は頷く。
「そうね、毎回こう酔われたら私達の涙腺と心臓が持たない……でも私の事を憧れのお姉ちゃんだって……嬉し過ぎる!」
祈は命の背中を優しく撫でて、先程の命の言葉を噛み締める。
「トキワ……お前、絶対命ちゃんを幸せにしろよ!?」
レイトは、涙声でトキワの肩を強く叩いた。トキワは真剣な眼差しで頷くと、今日散々にダメ出しされたことを胸に刻んで、後日改めて命との話し合いに臨むことを心に誓った。
その後眠りから覚めた命は酔っていた間の記憶が全く無く、それから数日間やけに優しい家族に戸惑いを覚えるのであった。