15精霊祭と友情6
精霊祭当日。神殿は出店もあり家族や友達、恋人同士と多くの人々でごった返していた。
「南、きれいだよ」
完成した花嫁衣装に身を包む南の姿に命をはじめとする女子達から感嘆の声が聞こえる。プリンセスラインのドレスにレースがあしらわれたベールを被った南はまさに清楚な花嫁だった。
「ありがとう、みんな…」
花嫁姿を褒めてくれた事もそうだが、何よりこの日の為に力を合わせて準備したみんなに対してお礼を言う南に命はふと違和感を感じた。
「ねえ南、もしかして体調悪いんじゃない?」
命が南のベールをそっと上げて彼女の顔をよく見れば青白くなっている事に気がつく。
「じつは…あれが始まったみたいで…」
顔を強張らせ女性特有のものが始まったと告げる南に命は焦りを感じた。日頃から南は月のものが始まると体調を崩してしまい、酷い時には失神してしまうのだ。
「とりあえず本番までコルセットを緩めて横になっておこう?大丈夫、ドレスに多少のシワが出来ても誰も気にしないし」
南のベールをとり、ハンガーに引っ掛けると命はソファへと誘う。
「痛み止めは持ってる?」
「ポーチの中にある」
「これか。誰か飲ませてあげて。私は温かい物を買って来る」
「待って」
出店に温かい物があるだろうと予想した命が控え室を出ようとすると、南が引き止める。他に何か買ってきて欲しいのだろうかと命は耳を傾ける。
「あのね命、私の代わりに花嫁をやって」
「えっ!何言ってるの?」
突然の申し出に命は動揺する。誰よりもこの日を楽しみにしていたのは南だというのに、それを交代して欲しいということは相当に辛いのだろう。
「命がハヤト君の相手なら、私、我慢出来る」
「いやいや私は我慢出来ないんだけど…!?」
「でももう私、意識が飛び、そう…」
だんだん南の話し方が呻くようになって来た事に命は気付き、自分なりに南にもハヤトにも悔いが残らない方法を考える。
「わかった私がやる!ただ南、もう少し耐えて!ハヤトがね、あなたに伝えたい事があるんだって!すぐ連れてくるから!」
檄を入れるように大きな声で南に話しかけると、命は急ぎ花婿の控え室に走った。
「おいハヤトー!ちょっと来て!」
ズカズカと控え室に入った命はハヤトの腕を掴むと花嫁の控え室へ向かう。
「なんだよいきなり!てか痛えよ馬鹿力!」
「ハヤト、今すぐ南に告白して!」
「はあ!?そりゃ、式が終わったらしようと思ってるけど」
「南が体調崩して出れなくなった。代わりに私が出る。だから今して!南は気絶しそうなの!そうなる前にしてよ!」
「お、おい南大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃない!だから告白して!南を安心させてから気絶させて!」
「それって南も俺の事を…」
うっかり口を滑らせてしまった。命は舌打ちをしながらも開き直る事にした。
「わかったら告白!さっさと告白!」
「お、おう!」
花嫁の控え室に入ると南は辛うじて意識があった。命はハヤトの背中を押しに押して南の元に押し出した。
「ハヤトくん、ごめんね」
「気にすんな!それより南、その、俺は……お前が好きだ!!」
よくやったと命はガッツポーズを取ると同時に女子達は黄色い声を上げた。
「よかっ…た。嬉しい…わた…しも…ハヤトくんが…す…き…」
最後の力を振り絞って告白の返事をした南は意識を手放した。
「南ーーっ!!」
「うるさい」
まるで悲劇のように叫ぶハヤトに命は冷静に頭を叩く。
「南は大丈夫だから、一応医者に見せるし。それよりハヤト、模擬挙式を成功させるよ」
「……俺も花婿を辞退する!南じゃないと俺は…」
念願の両思いになったのだからハヤトにとって模擬挙式は用無しだということだろう。しかし開始直前にそれは無責任な話である。
「私だってやりたくないけど、南に頼まれたんだからやるしかないの!」
「だけどジンクスが……」
模擬挙式を挙げた二人は九割の確率で結ばれる。そのジンクスをハヤトは気にしているだろう。
「私達はそのジンクスの一割の人間よ。この際だからハッキリ言うけどハヤト、あなたはいい奴だと思うけど、顔が全然好みじゃないの!だから恋愛感情なんてこれっぽっちも感じない!私はね、結婚するなら絶対美男子と決めてるの!」
酷い言いようの命にハヤトは怒る事はなく逆に笑い出してしまう。
「ははははは!俺だって命みたいなキツい女はごめんだよ!ていうか結婚するなら絶対美男子て……理想高すぎだろ!売れ残るぞ!」
自分も言ったけど随分と失礼な物言いだ。しかし命はハヤトを睨み付けるだけに留めて気持ちを切り替える。
「模擬挙式まであと三十分…早く変更点を運営側に伝えて準備しましょう!私にいい考えがあるの。南の為に絶対成功させるよ!」
舵を取る命にその場にいた全員は同意して模擬挙式の成功を南に誓うのであった。