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149※残酷な描写ありニセモノ5

 現在サキュバスの影響で採石村までの乗り合い馬車が休止中のため、手前の村で降りてからは徒歩での移動だ。村の入り口が見えてきた所で、トキワとレイトは鼻から下を布で覆い、少しでも甘い香りを嗅がないように工夫する。


「二人同時に行動すると共倒れになる可能性がある。俺が先に行くから十分後に来てくれ」


 レイトの作戦にトキワは顎に手を添えて、何やら考え込んでいる。


「俺が先に行ってもいいですか?ちょっとやってみたいことがあるんで」

「構わないがどうなっても保障しないからな」

「了解」


 先陣を切る許可をもらったトキワはおもむろにカーゴパンツのポケットから金属製のナックルを取り出し、両手にはめた。


「ナックルか、珍しいな」

「今年親からもらった誕生日プレゼントでーす。じゃ、行ってきます」


 手をひらひらと振りながらトキワは村に入って行った。人気のない村は不気味な位静まっている。恐らくサキュバスと村の男たちは採石場にいるだろうとトキワは見当をつけて、後続のレイトに居場所を示すために青い塗料を落としながら先へ進んだ。


 採石場に近づくにつれてピンク色のモヤが漂ってきた。これが甘い香りの正体だろう。モヤが濃くて鼻から下を布で覆っていても香りがして、トキワは頭がぼんやりとしてきた。


 急ぎ魔術で風を纏いモヤを吹き飛ばすが、吸って体内に入ったモヤまでは払うことは出来ず、意識が飛びそうになったので、脇腹を殴り痛みで乗り切った。


 歩みを進めるとモヤの向こうから女性の影が見えてきた。こいつがサキュバスだろうと判断してトキワは左手をかざしてモヤを一気に吹き飛ばした。


「え、ちーちゃん……?」


 モヤが晴れて姿を現したサキュバスは細くて黒く先端にハート型が付いた尻尾に露出度の高い下着のような物を身につけた裸同然の身体をしていて、頭に左右二本の角が生えているが、顔は命そのものだった。からくりは分からないが、何らかの力でこちらの好みの女性の顔に姿を変えているようだ。


 偽者だと分かっていても動揺してしまったトキワはサキュバスが再び放ったモヤに包まれ甘い香りを吸ってしまい、身体の力が抜けてしまうと、サキュバスがトキワを押し倒し、馬乗りになった。


「やったー!久々の若い子だー!濃いのがたくさん出そう!フフフ、貴方の×××××××を私の××××××××にたーくさん××××てね!」


 命の顔をして下品な笑顔を浮かべたサキュバスは耳を塞ぎたくなる位卑猥な言葉を並べると、トキワのベルトに手を掛けた。


「このドブスがっ!!」


 腹の底からドスの効いた声でトキワはサキュバスを罵倒すると、唇を血が滲むほど噛み締めてから、サキュバスの顔を鷲掴みし、手から真空派を発生させるとサキュバスの甲高い悲鳴が響き渡った。



 ***



「トキワ、無事か!?」


 遅れること数分、レイトがトキワの元に駆けつけると、トキワがサキュバスに馬乗りになって、ナックルで顔面を殴っていた。


「師匠遅ーい」


 レイトに気付いたトキワはサキュバスの顔面を殴り続けながら、闇が深そうな笑顔を浮かべた。


「どうした?貞操を奪われたのか?」


 あまりにも残虐なトキワのやり口にレイトは何か間違いが起きたのかと心配するが、トキワは首を振ってからまたサキュバスの顔を殴る。


「このブスがちーちゃんになりすましたから頭に来ちゃって……二度とそんなことをさせないように顔を潰してまーす」


 トキワの怒りの原因がわかったレイトは唖然とした。


「お前よく命ちゃんの顔に攻撃出来たな……」


 サキュバスが命の顔になりすましたというのなら、トキワは命の顔に攻撃したということになる。自分だったら耐えきれず顔を隠して斬り捨てるが、トキワは顔のみをひたすら殴り続けていた。


 レイトは勇気を出してサキュバスの顔を覗くと、血に塗れで顔というものが存在せず、思わず目を伏せた。


「こんなの俺のちーちゃんじゃない。ちーちゃんを汚しやがって……絶対に許さない……」


 ぶつぶつと恨み言を呟きながら、トキワが両手を血で真っ赤に染め、殴り続ける姿にレイトは恐怖を感じ、サキュバス退治の新たなトラウマが生まれたのだった。


 ようやく気が済んだトキワは討伐証明のためにサキュバスの角と尻尾を切り落として袋に入れる。


「魔核は何処だろう?師匠知ってる?」


 完全に仕留めるためにトキワはサキュバスの魔核の位置をレイトに尋ねた。


「他のサキュバスと同じなら下腹部だな」

「ふーん」


 レイトの助言通りにトキワがサキュバスの下腹部に剣を突き刺すと、魔核に当たったのかサキュバスの身体は黒いモヤに包まれて消えて行った。


「えーと、それでお前のやってみたいことって何だったんだ?」

「痛みで意識を保って顔を狙って攻撃する作戦。受付嬢が顔を変えてくるサキュバスって言ってたから変える前に顔を攻撃したらいいかなって。まあ油断しちゃってちーちゃんの顔になりすまされたのは失態だったな」


 殆ど捨て身のトキワの作戦にレイトは頭を抱えた。


「お前、命ちゃんを泣かせたくなければ、もっと自分を大事にしろよ」

「……以後気をつけます」


 レイトの説得が耳に届いたのか届いていないのか、トキワはポツリと返事をすると、ナックルを外して近くにあった井戸から水を汲み上げて手と一緒に洗った。


 サキュバスを討伐したことで下僕となった村の男たちは意識を取り戻し、レイトが事情を説明するといたく感謝して何人かの男はこちらと一緒に港町へ向かい、村の女性と子供たちを安心させる為に教会へ向かった。



 そしてレイトとトキワは依頼達成を報告するためにサキュバスの角と尻尾を手土産にギルドへ向かうのだった。

 


 

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