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147ニセモノ3

「さっき外が騒がしかったけど、お義兄さんと何話してたの?」


 診療時間が終わり、表の看板を片付けに来た命に先程のレイトとの会話の内容について尋ねられたが、トキワは口止めされているので、サキュバス討伐の件だけ隠して話すことにした。


「師匠にギルドから失敗者が続出している依頼を受けてくれって指名が入ったから、俺に手伝えだって」


 トキワはベンチを軽く叩いて命に隣に座れと促す。命がそれに従うと、トキワは彼女の腰に手を回す。


「それって危険な依頼なんじゃないの。二人で行くの?」


 不安げに見つめてくる命にトキワは思わずキスをしたくなったが、レイトがカイリをあやしながら近づいてきたので、自粛する。命はカイリを見て、目を輝かせ抱っこしたいとレイトに手を伸ばしてカイリを受け取る。


「お義兄さん、トキワと難しい依頼受けたって本当ですか?」

「心配しなくても大丈夫だよ命ちゃん、最近トキワも力をつけて来ているし。受付嬢の見立てだと、この調子ならあと二年でBランクになるって言ってるんだぜ」


 命が忙しい休日はトキワは基本ギルドに行って日帰り出来そうな依頼を受けてお金を稼いでいた。これも全ては命とのマイホームのため。先日親方に家を建てるために掛かる費用を試算してもらった所、土地代も含めてあともう少しだと分かり、労働にも精が出た。


 勿論結婚するためには他のことにもお金が掛かる。結婚式の費用や、家具や生活用品など山積みだ。父のトキオが式の費用と婚礼衣装位は親として用意すると言っていたが、まだ生まれたばかりの旭がいるのだから、そっちの方に使えと断った。


 あとは水鏡族はあまり着けているカップルは少ないが、指輪も欲しい。欲を言えばキリがなかった。


「でも油断はしないでくださいよ。カイちゃんも生まれたばっかりなんだから。ねー?」


 命はカイリにメロメロになりながら同意を求めた。カイリに夢中な命にトキワは膨れっ面になる。


「重々承知しているよ。にしても、こうして二人並んで命ちゃんがカイリを抱っこしてると、そっちが親子みたいだな」


 レイトの率直な感想に命は昼間の桜の会話もあって顔を真っ赤にしつつ、トキワはどんな顔をしてるのか気になって横目で見ると。仏頂面をしていた。


「子供はいらない。ちーちゃんは俺だけのだから」


 トキワならきっと自分との間に子供が欲しいと言ってくれると思っていた命は自惚れていた自分が情けなくなって、顔を俯かせた。


「ガキだな。まあ実際お前は結婚できる年齢なだけでまだ子供だからな」


 レイトは命が落ち込んでいるのを察して、トキワの額を指で弾いて鼻で笑った。


「痛っ!」

「自分の子供はいいぞ。大変だけどとんでもなく可愛いからな。何より世界で一番愛してる女が俺の子供を産んでくれるわけだしな」

「浮気し……ぐっ!」


 反論するトキワの口をレイトは塞ぐように素早く掴むと、顔を近づけて鋭く睨みつけた。


「久々にお前の相手をしてやるよ。命ちゃんカイリをよろしく」


 レイトはトキワの腕を掴むと、自宅横の空き地まで強引に引きずっていった。


 カイリと二人残された命は次第に涙が込み上げてきたが、泣くまいと強がり、口を真一文字に結ぶと、代わりにカイリがぐずついて泣き出した。命はあやしながらおしめが濡れているのを確認すると、診療所から徒歩一分の祈の家へと向かった。


「お姉ちゃーん」


 家に入り祈を探すと台所で夕飯を作っている所だった。ヒナタはリビングで積み木遊びをしている。


「あらちーちゃん、どうしたの?レイちゃんは?」

「トキワと遊んでる。カイちゃんおしめが濡れてるから替えるね」


 命は勝手知ったるリビングで籠からカイリのおしめを手に取ると慣れた手つきで交換した。


「今日の夕飯は何?」

「野菜のトマト煮とサラダと鶏肉をオーブンで焼いたやつー!トマト煮は作り過ぎたから持っていってね」


 相変わらず祈は目分量で作っているようだ。命は今夜の夕飯当番だったので、負担が減ると喜んでお裾分けをいただくことにした。


 カイリが眠ったので寝かせてから、命は祈が料理を作り終えるまでヒナタと積み木遊びをしていると、レイトが帰ってきた。


「おかえりなさい。って、どうしたんですかその顔!」


 レイトは顔に痣を作って口元からは血が流れていた。


「ちょっと殴り合っただけだ。大した事ない」


 髪をかき上げてからレイトはそう吐き捨てると、ソファにどっかりと座って口元の血を拭う。命はタオルを水で濡らしてレイトの顔の痣に優しく押し当てた。


「お義兄さんは美形なんだから、顔だけは怪我しないように気をつけてくださいよ!」


 まさかそんなことで怒られると思わなかったレイトは驚きながらも、次第におかしくなって声を出して笑った。


「以後気をつける。あと悪い、トキワの顔もガッツリ殴った」

「そんな!お義兄さん酷い!トキワはどこですか?まさかそのまま帰っちゃったの?」

「診療所に放り込んできた」


 レイトの返事に命はいても立ってもいられずに家を出ると、診療所まで走った。


「トキワ!」


 診察室ではレイトよりも三発ほど多く殴られて痣を作った顔をしたトキワが桜に手当てをしてもらっていた。


「……どうしてこんな無茶するの!?」


 涙を流しながら命は怒りだす。よく見たら腕もレイトの拳を受けたのか、赤黒くなっている。


「……週末の依頼の実戦に向けての訓練で痛っ、殴り合っただけ」


 消毒液が滲みたのか、顔をしかめながらトキワは説明した。


「まあ、さすがに婿殿も手加減はしてくれてるから打撲と切り傷だけで、目も歯も骨も無事だ。あっちも大丈夫だったか?」


 冷静に怪我を判断しながら、桜はレイトの容態を命に確認する。


「……お義兄さんの方も同じだった。トキワの方が痣は多いけどね」

「そうか、まあ数日したら腫れも痣も引くだろう」

「よかった。トキワの顔に傷が残ったら私……」

「お前の美形好きは本当にブレないな」


 桜はケラケラ笑いながらトキワの手当てを終えると、今日はもう診察終了だと命とトキワは診察室から追い出されたので、二人は外に出た。


「ちーちゃん、ごめん」

「まったくだよ!本当顔だけは死守してよ!あとよくもお義兄さんの顔に傷をつけたわね!」


 ぷんすかと怒る命にトキワは苦笑しながらも、心配してくれている姿が愛おしくて、命を強めに抱きしめた。


「今度のギルドの依頼、絶対無事に帰って来てね」

「うん」


 トキワは腕の力を弱めると、ささっと周囲を見渡して二人きりなのを確認すると、命の唇をついばむように何度かキスした後に長く口付けた。途中片目を開けた時に、大きめの皿を持ってにやけた顔でこちらを見ていた祈と目があったが、気にせずもう一度目を閉じた。


 


 

 


 


 




 

 

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