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146※残酷な描写ありニセモノ2

 今日も今日とて仕事を終わらせると、トキワは命に会いに秋桜診療所へと一目散に向かった。

 親方の元へ就職してから早一年、諸事情で休むことがあったが何とか続いて、まだまだ未熟者だが毎日仕事を楽しんでいた。

 診療所が見えてくると、レイトが一人でベンチに座っているのが見えた。いつも祈やヒナタそして今年の初めに生まれた次男のカイリと一緒にいるのが珍しいなと思いつつ、トキワは声をかけることにした。


「師匠どうしたの?もしかして俺が恋しくて待ってたの?」


 トキワが働き出してからレイトとの修行の頻度が極端に減ったので、久々に手合わせでもしてくれるのかと思い、トキワはふざけながら聞いた。


「そうなんだよ。お前が恋しくて恋しくて……」

「うわ、気持ち悪い!」


 折角ノリをトキワに合わせたのにも関わらず、気色悪がられたレイトは一つ咳をした。


「お前週末の休日二日間、暇だろ?」


 こないだ家族で祝った命の誕生日会で、その二日間は命が結婚式に出席するため、トキワが暇だということをレイトは知っていた。


「いや、二日間ともすっごく忙しいです。ちーちゃんのおめかしした姿を遠くから観察しながら、ちーちゃんにちょっかい出した奴を闇討ちしなきゃいけないから、すごーく忙しいです!」

「人はそれを暇だと言うんだよ。じつはな、さっきギルドから依頼の指名が手紙で来てだな……それが厄介な依頼なんだよ」


 レイトのギルドランクは現在Bだ。これほどのランクになると難しい依頼や、失敗が続出して達成出来ない依頼の指名が稀に掛かるらしい。トキワは興味なさげに診療所の窓から中にいる命に手を振っている。


「頼むから大人しく聞けよ!ここに座れ!」


 険しい顔でレイトはトキワに怒鳴ると、ベンチの隣に座るよう促した。ここまで深刻なレイトはとても珍しいので、トキワは黙ってベンチに座った。


「お前、サキュバスって知ってるか?」

「……一応。見たことはないけれど、それを退治するんですか?」


 トキワの問いにレイトは苦々しく頷いた。どうやら苦手な相手らしい。


「港町から三十km程離れたところに魔石作成用の石を採掘して生活をしている村があるんだが、その村をサキュバスが乗っ取って、そこの男の労働者たちが被害にあってしまい、残された女子供たちが必死に隣の村まで逃げて、ギルドに依頼して今は港町の教会で保護されているらしい」


 魔石は生活必需品の為、材料となる石が取れなくなると、魔石の価格は上がり、人々の生活に支障が出てしまう。勉強が苦手なトキワでもその位はわかっている。


「サキュバス一体ならCランクの女性冒険者が受ければ問題なさそうだけどな」


 率直なトキワの見立てにレイトは首を振る。


「それが労働者たちを下僕にしているらしくて依頼を受けた女性冒険者は労働者たちを傷つける訳にもいかず、依頼失敗が続いている」


「なんで師匠に依頼の指名が来たの?話を聞いた感じ師匠だからって上手くいく保証は無さそうだけど」


 トキワの疑問にレイトは更にため息吐いて右手で頭を抱えた。


「俺はサキュバスを二回倒したことがあるから、ギルドが目をつけたんだろうな。厳密には俺が一回、祈が一回だが」

「どうやって倒したんですか?」 

「一回目は普通に下位のサキュバスだったから出現する宿に泊まって、枕元に毒の入った牛乳を用意してから、夜中現れたサキュバスがそれを飲んでのたうち回っている隙に倒した」


 枕元に牛乳を用意する。これはサキュバスの対処として古くから言われている対処法だった。


「二回目は漁村の男たちが次々行方不明になる原因を突き止める依頼を祈と一緒に受けて、村に到着したのが夜だったから、その日は村の空き家に泊めてもらったんだが、夜中寝ていると、突然腰の辺りに重さを感じて目を開けたら、サキュバスが俺に跨っていてだな、まああれを搾り取られそうになったわけだ。だが、祈が異変に気付いてくれて、サキュバスの首を双剣でバッサリだ……」


 レイトは自分の首を手で切るようなジェスチャーをすると、当時を思い出したのか、顔が引きつっていた。


「その夜の月明かりに照らされて大量の返り血を浴びた祈が浮気者って怨念の篭った声で『浮気者』って言ったのが恐ろしくて、サキュバスはトラウマなんだよ」

「それって師匠が怖いのはサキュバスじゃなく祈さんじゃん。そして浮気した師匠が悪い」

「浮気じゃねーよ!ったく、こっちは被害者だ。とにかくトキワ、お前サキュバス退治を手伝え!とりあえず二人いれば最悪どっちかが囮になって倒せるだろう」


 レイトがトキワに事情を話したのは討伐を手伝ってもらうためだった。成功率を考えたら祈と行った方が高いが、産後間もないし、件の出来事があったのでレイトは祈に頼みづらかったのだ。依頼を受けないという手もあったが、この依頼は深刻度が高く、誰かが必ずやらなければならなかった。


「分かりました。ただし囮になって搾り取られるのは浮気者の師匠がやってください。俺はちーちゃん一筋なので、しっかり俺の貞操を守ってくださいね」

「しゃーねーな、お前には貞操帯を買ってやるよ!」


 トキワが一緒に討伐を引き受けてくれたのは心強いが、彼の発言が色々と癪に障ったレイトは素直に喜べず精一杯の皮肉を言うと、この依頼内容について他の人、特に祈だけには言わないようトキワに強く言い聞かせた。



 


 

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