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145ニセモノ1

 四月を迎えて命は二十歳を迎えた。お酒が飲める年齢となり、誕生日の夜は桜とリンゴ酒を飲み交わした。少しピリリとしたが、甘いリンゴの香りとほんのりと体を熱くするアルコールに命は癖になりそうだと桜と笑った。


 春になってからは命の同級生達の結婚式ラッシュが始まった。今月は今週末の休日二日間に連続で結婚式があるため、命は下ろし立てのワンピースを二着用意した。ドレスよりは安価とはいえ、立て続けに新品の服を買う上に食事会の会費も馬鹿にならず、服は日常的に着なさそうな物ならば港町の古着屋に売って、次の結婚式の服を買う足しにしていたが、命の財布は悲鳴を上げていた。


「今度こそウェディングブーケをゲットしたい……」


 お昼の休憩時間、命は桜と食事をしながら週末の結婚式への意気込みを語った。


「現在七戦七敗……ブーケをゲットした子たちはバンバン結婚をしていっている。こうなると迷信だと分かっているけど欲しくてたまらない!」


 以前親友の南の結婚式でブーケをゲットした樹も先月新しくできた彼氏とゴールインした。樹は気を遣って命の方へ投げてくれたが、当日ベールを持つお手伝いをした小さな女の子の元に飛んでいってしまった。


「そんなもん無くてもトキワくんに今すぐ結婚したいっておねだりすればいいじゃないか。きっと二つ返事だ」

「それをやったら負けだと思う。あと結婚資金が全然貯まってないの。無駄遣いは控えてるつもりだけど、最近は結婚式の出席費用で貯金どころか赤字で……」


 医療学校時代にアンドレアナム家でメイドとして働いていた給料は学業優先だったため、労働時間が短くお小遣い程度にしかならず、秋桜診療所に就職してからの給料も家に生活費として入れているので、命の貯金は雀の涙だった。


「悪いなちー、うちの給料が少なくて」

「そんなこと無いです。私が好きで家に生活費を入れてるだけですから。だって姉妹で私だけ医療学校の学費や旅費を出してもらったし、家計もお父さんがいなくなってから収入が激減だし……そうなるとお母さんとみーちゃんを支えたいじゃないですか」


 シュウの死後、光は実が小さいうちは祈とレイトに生活を支えてもらいつつ、実が学校に行っている間だけ秋桜診療所でナースとして手伝っていた。命が帰ってきて、実が自分の身の回りのことが出来るようになってからは西の集落の託児所で働くようになったが、歳のせいもあって子供の相手はパワーがいるようで、毎日ヘトヘトになって帰ってきていた。なので命は自分の給料を生活費として三分の二を家計に入れて、その分光の勤務時間を減らさせたのだ。


「そろそろ休日はギルドで依頼を受けて小銭を稼ぐべきかな……」

「あんま無理するな。本当に困ったら私や、りーの所を頼ってくれよ」


 桜は独身だし、診療所に引きこもりがちなので、貯金には多少の余裕があった。なので命の花嫁衣装代くらいは出したいと光にはこっそり打診してあった。


「そういえばトキワくんはお金どのくらい持っているんだろうね。先輩は高給取りだし、お母さんも魔石を作る内職をしてるから生活費は問題なさそうだが」


 言われてみればトキワの懐事情について命は全く知らなかった。四年くらい前に魔石を作ってお小遣いに余裕があるからと命に高価な天然石のシルバーペンダントを何食わぬ顔で買ってくれたから、貯金はそれなりにありそうだが、頼りすぎるのは悪い気がした。


「一応結婚を前提に付き合っていることになってるから一度聞いてみよう。私結婚後もここで働きたいし、実家に生活費入れたいし」

「そうだな、経済観念や金銭感覚が違うといくら好き合っていても結婚は難しくなるからな。もしかしたらトキワくんは結婚したらちーには家にいて欲しいかもしれないしな」


 独占欲の塊のようなトキワのことだ。命と結婚したら他の人間と関わらせないように仕事を辞めさせて、ずっと家に閉じ込める可能性だってあると桜は睨んでいた。


「あとはあれだな、子供の数によってかかる金も変わるからな。ちーは子供好きだからその辺はもう話し合ってると思うけど。て、なんだ?トマトみたいな顔して」

「考えてなかった……そ、そうだよね。結婚したら私、トキワの子供産むかもしれないんだ……」


 桜に指摘されるまで、命はトキワとの間に子供を授かるかもしれないということがこれまで関係を持ちそうになりながらも、完全に頭の中から抜け落ちていた。


「うわー!身の回りの赤ちゃんたちをちやほやしすぎて、自分が産めることを忘れてた!」


 昔から心の奥底で自分に子供なんてと卑屈に考えていくうちに命は桜に言われるまで感情を押し込めてしまっていたんだろうと自己分析しつつも、今は情けなさと恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。


「お前、時々すごいバカだよな……」


 桜は呆れ顔で昼食のパンをちぎって口に放り込むと、ミルクたっぷりのコーヒーをすすってから、命の結婚はまだまだ先になりそうだと感じるのであった。


 

 




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