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142秋の神子総選挙11

 命が観客席に戻ると精霊降臨の儀まであと三十分と差し迫っていて野外劇場は満員になっていた。


「トキワちゃん何の用だったの?」

「緊張して手の震えが止まらないみたいだったから、励ましてあげてきた」


 まさかイチャイチャしたかっただけだなんて、口が裂けても言えなかった命は祈に事実を混ぜて嘘をついた。


「はっ、あれが緊張するとか想像がつかないな。どうせ命ちゃんに会う口実が欲しかっただけだな」


 息子の行動パターンを把握しているらしい楓は鼻で笑ってからトキオに目線を合わせて同意を求めると、トキオは笑顔で頷いた。


「そういえば回覧板見ましたか?トキワくんのことが書かれてたんですけど」


 桜が言っているのは一週間ほど前、回覧板に書いてあった精霊降臨の儀を風の神子代行が行うというお知らせのことだ。

 老齢な風の神子の代わりに会議の結果末特例的に認められた存在であることと、名前と年齢の他に彼が光の神子の孫であり、炎の神子と水の神子の甥、更に先代の炎の神子代表の息子だと村人が興味を持ってくれるような情報を載せつつ、神殿外の人間なので、村人は風の神子代行に対して生活に支障が出るような行動は謹んで欲しいと、注意喚起もしっかり記されていた。


「見たよ。職場の同僚達にも聞かれたから一枚でもいいからうちの子に銀貨を恵んでくれって頼んじゃったよ。あとは役場に来た人にも出来る限りお願いした」


 ブレないトキオの親バカぶりにみんなで笑ってから

各自持参した双眼鏡の調整をしたり、どの辺りに神子は姿を現すかなどと話し合っているうちに精霊降臨の儀が始まった。


 まずは光の神子と闇の神子を除く豪奢な装飾が施されたマントを見に纏った六人の神子たちがステージの中心まで歩いてきた。


「トキちゃんどこー?」


 ヒナタがトキワを探す声が聞こえたので、命は双眼鏡で探す。


「東からトキワ、雷、土、氷、炎、水の順に並んでる」

「お、ちーちゃんサンキュー!いたいた!ヒナちゃんこれであの辺を見てごらん」


 祈はヒナタに双眼鏡を持たせてトキワの姿を確認する。


「いたー!トキちゃんカッコいいー!」


 そうだろうカッコいいだろうと命は自分のことのように喜びつつトキワを観察する。緊張している様子は一切無く、精悍な顔立ちをしていた。


 六人の神子たちはマントを外して投げ捨てると飛び上がった。トキワを除く神子達は跳躍の効果が付与された装飾品によって飛んでいると考えられる。


 神子達は本部を南として北と西と東側にある観客席の中腹にあるミニステージに二人ずつ降り立った。命達がいる西側の観客席はトキワと水の神子のミナトだった。


「ミナト様だー!!神々しいっ……!」

「まさかこんな近くで見られるとはな」


 祈は感激のあまり涙を流しながら声を上げ桜は感嘆している。儀式なのに大声を出していいのかと思われたが、事前に配られた注意事項の紙によると、声援は大歓迎らしく、他の観客も歓声を上げている。命も憧れのミナトをじっくり堪能したかったが、トキワがヘソを曲げたら精霊降臨の儀が台無しになる気がしたので、命はじっとトキワから目を逸さなかった。


「トキちゃん頑張ってー!」


 母親の祈がミナトを応援する一方で、ヒナタは完全にトキワ派のようだ。生まれた時から遊んでもらっているから懐いているのだ。


「トキワー!かっこいいぞー!」


 我が子の晴れ舞台に親バカのトキオは女性達のミナトへの声援に負けじと声を張り上げて応援している。


 少ししか拝めなかったので記憶は曖昧だがミナトは上半身裸に多くの装飾が施された前開きのロングコートをボタンを止めず羽織っている。きっと素晴らしいであろう肉体美が見れないことを命は悔やむ。一方でトキワは控え室で言っていた豪華な装飾が施された前を止めないタイプのベストを羽織っている。


「ヤバい!風の神子かっこよくない?」

「うん!美形すぎる!本当に人なの!?」


 まだ線は細いが鍛え抜かれた身体は美しく、周囲の少女達も黄色い声を上げていた。左右の腕には銀製の手甲を装備している。

 神子達はピアスに触れて水晶を武器の姿に変えると、それを構えて、音楽の変わり目で隣にいる神子と目を合わせると模擬戦を始めた。


「私のために争わないでー!」


 血迷った事を叫ぶ祈に命は思わず吹き出してしまった。隣にいた楓も吹き出したらしく、二人で顔を見合わせて爆笑した。

 しばらくすると神子たちは飛び上がり場所を移動して模擬戦を続ける。次に命達の近くに来たのは雷の神子と土の神子だ。

 

「デカい、お前よりあるよな」

「私がメロンなら雷の神子はスイカといったところかな」


 雷の神子は露出度が高くボディラインにぴったり沿ったデザインの衣装で、武器である扇で舞うたびに大きく揺れる胸に命は桜と感想を述べて釘付けになった。土の神子もショートパンツにピンヒールで美脚が際立ちセクシーさは負けていなかった。


 最後に命たちの近くに現れたのは暦と氷の神子だ。暦の衣装は炎を連想させるフワフワとしたアシンメトリーのスカートでナイフを手に戦っている、一方で氷の神子は足の付け根ギリギリまで入ったスリットが印象的なドレスで鞭を振るっていた。

 勝敗がつかないまま六人の神子たちは中央のステージに集い模擬戦は続く。命は慌てて双眼鏡を手にトキワを追う。

 全員が武器を構えたまま距離をとり緊迫した状態が続く中、突如鐘の音が響き渡り闇の神子を抱いた光の神子が空から降り立つと、六人の神子たちは武器を下ろして跪いた。闇の神子は鐘の音に動じることなくすやすやと眠っている。


 光の神子がピアスに触れて水晶を長杖に変化させると片手で杖を振って会場全体を光に包むと、六人の神子たちは演武を舞った。以前ダンスなんて踊ったことが無いと言っていたトキワもしっかり力強く舞っていたので、命は小さくガッツポーズをした。


「あれだよな。母が全部美味しい所を持っていった感じだよな」


 率直な楓の感想に命は苦笑いを浮かべながらも腹の中で同意した。


 そしてクライマックスは闇の神子を除く神子たちがそれぞれの属性で大きな柱を築くと、精霊降臨の儀は終了して会場に無数の花びらが舞い上がり観客から歓声が上がった。




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