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14精霊祭と友情5

 ついに精霊祭が明日に迫る中、模擬結婚式の花嫁花婿の衣装も式場の装飾なども予想を上回る早さで準備が完了した。


「今日はこれで解散します。明日に備えて充分な休養を取ってください」


 有り余った時間で確認を何度もした後、教師から解散を告げられた。


 自分の民族衣装も桜のおかげで早くリメイク出来たし、今日はお気に入りの入浴剤を入れてゆっくり湯船に浸かろうと軽やかな足取りで命は家路を歩く。


 自宅と診療所が見えて来ると、すっかりお馴染みの光景であるレイトとトキワの修行姿が久々に出迎えてくれた。今日は鬼ごっこをしているらしい。レイトは目隠しをしているが、適切にトキワを追いかけている。


「あ、ちーちゃん!おかえりなさい!」


 命の帰宅に気付き動きを止めた事により捕獲されたトキワが満面の笑みで手を振った。祭の準備期間以前から会っていないからニ週間ぶり位だろうか。いつの間にやら髪の毛が短くなっていて、美少女感が減少したことに命は少しがっかりした。


「おかえり命ちゃん、お疲れさん。準備終わったんだ?」


 目隠しを取ったレイトがトキワを捕獲したまま命を労う。


「うん、今日は本番に備えてゆっくり休む事にする」

「それがいい。あ、でもお義母さんが実ちゃんの神子行列の準備で遅くなるらしいから、今祈が夕飯作るって張り切ってるんだよ……フォロー頼んだ」

「はーい」


 祈の料理は大雑把である。分量を測る手間を惜しむきらいがあり彼女の作る食事はいつも美味いか、不味いか、まあまあかのルーレットである。


「よーし、トキワ!捕まったからには頑張って抜け出せ!」


 レイトに羽交い締めにされているトキワは手足をバタバタさせながら脱出を試み始めていた。遊んでいるようにしか見えないがこれも修行らしい。それを横目に命は自宅に入っていった。


「桜先生ちゃんと言ってくれたんだなー」


 いつもなら一目散に命を口説きに来ていたトキワが離れた位置からおかえりしか言わなかったことで、桜が先日の約束を守ってくれたと感じた。


 台所では祈が料理に奮闘していた。命も手を洗い髪の毛をまとめてエプロンを付けてから料理に臨む。


「おかえりちーちゃん、今日の晩ご飯はコロッケとハンバーグよー!」


 何故めんどくさい料理を作るのか、命は祈の献立のセンスにうんざりする。既に大型のボールには茹でた大量のジャガイモが置かれている。祈の料理は味付けも大雑把だが、量も大雑把で酷い時は三日三晩かけて食べる時もあった。


「今日はコロッケだけでいいでしょ?ハンバーグまで作ったらコロッケに使うひき肉とパン粉が足りなくなるよ」

「えー?そうかな?」

「大体、今からそんなに大量に作ったら時間がかかるじゃない」

「そっかー。じゃあ後はちーちゃんに任せるね。私はお手伝いするから指示して」


 あっさり命の意見を受け入れた祈はサポートに回った。せっかくゆっくりしようと思ったのに。嘆きながらも命は布巾を手にジャガイモの皮剥きを始めた。


 ニ時間ほどして大量のコロッケが食卓を占領した。まさかこれほどの量になるとはと命は口角を引き攣らせつつ、油の在庫が無くなったので、買い物メモに書き足しておいた。


 ふと命が姉に視線を向けると、目にも止まらぬ速さでキャベツを千切りにしていた。祈は料理は大雑把だが、包丁捌きは華麗であった。


 これだけのコロッケをいかに消費するべきか、父なら娘ニ人の手料理だからと喜んで食べまくるだろうが、あの大きなお腹を更に膨らませるのは健康上良くないと判断して、桜に少しだけお裾分けする事にした。深皿にコロッケとキャベツを盛り付けてから、蜜蝋が引かれた布を被せて診療所を出る。


「ちーちゃん、今日は何を作ったの?」


 帰り支度をしていたトキワがニコニコしながら寄って来た。頬に汗が垂れていたので、命はエプロンの裾で拭ってあげた。


「今日はお姉ちゃんとコロッケ作ったの。そうだ、トキワも持って帰る?」

「いいの!?いる!」


 キラキラと宝石に負けないくらいに赤い瞳を輝かせるトキワは髪が短くなっても抜群に可愛いと命はよろめきつつ、桜に渡したら用意してあげると告げてから診療所に入った。


「桜先生、これ夕飯のコロッケ、差し入れです。お姉ちゃんが作り過ぎちゃった」


 診療時間を終えて片付けをしていた父と叔母に命は声を掛ける。コロッケという単語に父は歓声を上げていた。


「ありがとう、ちー。相変わらずりーの料理は豪快だな。今日は天国か地獄か…」

「とりあえず今回味付けは私がしたから大丈夫だと思います。たくさんあるから足りなかったら取りに来てください」

「ほーい」


 無事コロッケを渡した命は家に戻り今度はトキワの分のコロッケを用意してあげる。確か彼は三人家族なので一人三つずつでいいだろうと目算して持ち帰りやすいようにナプキンとワックスペーパーを敷いたカゴにコロッケを詰めて蜜蝋が引かれた布を被せた。


「はい、お待たせ。お父さんとお母さんとで食べてね」

「ありがとう、ちーちゃん!祈さんもありがとう!」


 コロッケが入ったカゴを受け取り、命にお礼を言ってから、台所に届くようにトキワは大声で祈にもお礼を言った。


「よし、じゃあ帰るぞ。少し遅くなったから加速魔術を掛けるからな」

「うん、ちーちゃんまたね!明日精霊祭頑張ってね!」

「ありがとう、気をつけて帰ってね」


 送迎を担当するレイトによって自身とトキワに加速魔術がかけられ、風のように診療所から去って行った。命はトキワとはこの位の距離が丁度いいなと思いながら、軽く手を振ってから家に入ると、夕飯の準備を再開して祈と家族の帰りを待った。


 




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