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137秋の神子総選挙6

 美人は怒ると怖いとよく言われるが、目の前のトキワは正にそれだと命は思った。あまりの迫力に命が風の神子の肩に触れて怯えると、風が更に強まり神子の間のありとあらゆる物が吹き飛んで行った。


「止めろトキワ。命さんが怪我したらどうする!?」


 暴走気味のトキワを風の神子が諫めれば、風が止んで飛んでいた物は床に落ちた。その中には高級そうなランプやティーセットがあったので、命は心の中で悲鳴を上げた。


 険しい顔のままトキワはソファに座っている命に向かって一直線に歩み寄ると、そのまま抱き上げた後に抱擁した。


「おおう、随分と溺愛しているのだな」


 風の神子がトキワをからかい、口笛を吹くとトキワは命を抱きしめる腕の力を少し弱めてから風の神子を睨んだ。


「ちーちゃんに何をした?」

「何って、命さんには老いぼれの話し相手をしてもらっただけだ。なあ?」


 風の神子は命に視線を移し同意を求めてきたので、命は何度もうなずいた。


「本当にお話しただけだよ。お茶と昼食もご一緒したけど」

「それって別にちーちゃんじゃなくてもいいよね?何でちーちゃんなの?もしかして俺の弱みを握ったつもり?」

「何故命さんをここに呼んだかと言うと、お前に精霊降臨の儀に出てもらうよう説得してくれないかちょっとお願いしてたんだよ。そうなると確かに弱みを握ったということになるな」


 風の神子は命をここに呼んだ理由を白状すると、含み笑いをした。


「っ!ちーちゃん目が腫れてるけどどうしたの?あのジジイが泣かせたの?」


 ふとトキワは命の目が腫れていることに気付いて、風の神子に対して怒りを露わにした。


「確かに泣かされたけど、亡くなった奥さんの話を聞いてつい泣いちゃっただけ。ほらよく見て、風の神子の目も腫れてるから」


 命が言うのでトキワは風の神子の目をじっと睨むと、確かに腫れぼったくなっていたので、一応信じた。


「じいちゃん、今後一切ちーちゃんにちょっかい出さないで。じゃないともうここには来ないからね。ちーちゃん帰るよ」


 トキワは風の神子に毒づくと、命の手を引き神子の間から出ようとした。


「待って、あのさトキワ……精霊降臨の儀に出てくれないかな?」

「は?」


 命のお願いにトキワは呆気に取られながらも、風の神子の仕業だと思い、ソファに座っている風の神子をまた睨む。


「トキワが精霊に扮したら絶対カッコいいと思うし、私の銀貨全部トキワにあげる!」


 ここ二週間以上命と会えず険悪な関係だったトキワにとって、水の神子に貢ぐ銀貨どころか、全ての銀貨を自分だけに捧げてくれるという命の言葉はとても魅力的だった。


「いや簡単に言うけど、衣装の準備が間に合わないよ。じいちゃんのサイズなんて入らないし」


 命の頼みなら引き受けてしまおうかと思いつつも、トキワは命と精霊祭デートをする方が得だと思い代行を渋る。


「それなら問題ない。おい、例のやつを」


 風の神子は入り口に控えていた神官達に声をかけると、しばらくして神官達がいくつかの大きな箱を持ってきて蓋を開けた。箱の中には水鏡族の民族衣装をベースにした豪華な装飾が施された衣装やマントに装飾品などが所狭しと並んでいた。


「お前のサイズで作ってあるぞ」

「すごーい!ここまで用意するのに年単位はかかるんじゃないんですか?」


 命の疑問に風の神子は自信に満ちた表情で頷いた。


「そうだ。四年程前、私がトキワに目をつけたその時から準備を進めていたからな!」

「四年前って…0まさかじいちゃんが俺に風魔石の作り方と魔術の使い方を教えてくれるって言ったのって、これが目的だったの?」


 まさかそんな前からトキワを精霊降臨の儀に出そうと考えていたとは……命は風の神子の先を見越した計画に驚愕した。


「それだけが目的だった訳ではないが、計画の一つではあったな。しかし制作時間がかかる故に成長期を予測して大きめに作ったマントがジャストサイズでほっとしたよ。他のは採寸をして作ったから、試着して最終調整をしたら完璧だ」

「サイズ測った記憶が無いんだけど……そうか、ばあちゃんから聞いたんだ?」

「フッ、察しのいい奴め。その通りだ。三ヶ月前光の神子からお前に精霊祭用に民族衣装を用意してやるから、サイズを測りにきてくれと言われただろう?その時だよ!」


 以前トキワの祖母である光の神子がたまには貢がせろと民族衣装を用意してくれる話になったので、トキワは何の疑問も持たずに採寸に行ったのだった。まさか身内に撃たれると思わなかったトキワは押し黙る。


「準備万端みたいだし、諦めて引き受けたら?」


 笑顔でダメ押ししてくる命にトキワは葛藤に頭を抱えた後に、苦し紛れに命の両肩に手を置いた。


「今すぐちーちゃんから一分間口にキスしてくれたらやる」


 今ここには風の神子と複数の神官という外野がいる。恥ずかしがり屋の命には絶対出来っこない。トキワはそう目論んでいた。


「いいよ」


 予想外の即答の後、命は背伸びをしてトキワの首に腕を回すと目を閉じて、本当にトキワの唇に口付けて来た。大胆な命にトキワは動揺を隠せなかったが、久しぶりのキスを味わうように目を閉じて、彼女の腰に手を添えてゆっくり時間を計った。




「……精霊降臨の儀、やります!」


 充分キスを堪能したトキワは上機嫌な表情で精霊降臨の儀の参加を表明すると、風の神子と神官から歓声が沸いた。


「よし、紫!精霊降臨の儀の練習スケジュールを持ってこい!」

「かしこまりました!」


 風の神子と神官達が早速準備に追われる中で、トキワは恥ずかしさで蹲って動けない命にこっそり耳打ちした。


「こんなにすんなりキスしてくれるなら、もっとエッチなお願いすればよかったかな?」


 完全に調子に乗った発言をしたトキワに命は怒りに任せてトキワの腹を拳で強く殴った。

 

 






 


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