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136秋の神子総選挙5

 命はしばらく風の神子から妻との思い出話を聞いて、涙を流しながら泣いて時間を過ごした。


「ごめんなさい私ったらこんなみっともない顔しちゃって……」


 命は恥じらいながらハンドバッグからハンカチを取り出して、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を拭うと、化粧も一緒に取れてしまった。


「いや、すまない私もこの様だ。もう四十年経つのに妻への想いは募るばかりだ……」


 そう言って風の神子はまた涙を流すものだから命も思わずもらい泣きをした。


「私…一秒でも長くトキワより生きなきゃな……じゃないとトキワも……」


 完全に栞に感情移入した命は言葉を詰まらせて長生きする事を誓う。もし自分が先に死んだらトキワも風の神子のように心を閉ざしてしまうかもしれないと思ったのだ。


「くっ、トキワもいい子を彼女にしたな……本当あいつには勿体無いくらいだ」

「私なんか……全然トキワと釣り合いませんよ。魔力も少ないし、神子とは無縁な平凡な家庭で生まれ育ったし」

「そんな事ないぞ。あいつは顔と魔力ぐらいしか取り柄がない性格破綻者だ!しかも全く年寄りを敬わない!」

「それは言い過ぎですよーでもちょっと常識がないんですよね。人前でイチャつきたがるし、空気読まないし……」


 お互いわんわんと泣いていたが、トキワの悪口へと移行すると、命と風の神子は次第に威勢が出てきた。


 泣き過ぎて喉が乾いたので、紅茶とパウンドケーキを頂いてからもトキワへの愚痴大会は続き、命は化粧直しで一旦席を立ったが、その後も風の神子と昼食まで一緒に食べて、日頃のトキワに対する不満をお互いにぶつけた。


「それでトキワったらミナト様をおっさん呼ばわりしたんですよ!本当に信じられない!」

「なるほど、トキワは神子に対する尊敬が足りないから、命さんが水の神子を崇拝する気持ちをわかってやれなかったのだな。本当にあいつは嫉妬深い男よ」


 昼食後もお互いのトキワへの愚痴は続いた。


「奴は神子という存在がどれだけ村人に影響を及ぼしているか全然わかっていない。例えば最近だと長いこと闇の神子が不在だっただろう?先代は表向きは病で亡くなったことになっているが、新しい闇の神子が現れるまで一部の村民はちょっと昼が長い日が続いただけで大精霊が怒ってこのまま夜が訪れなくなるのではないかと、神殿に不安を訴えた者たちもいた。もし私が死んだ後風の神子が不在になったら、風がない日が続くだけで不安になる村人も出てくるだろう」


 神子達が神殿を守り精霊に祈りを捧げているから生活の中に溢れる自然は守られている。水鏡族はそう教わっている。だから村人たちは日頃から神子に感謝して尊敬、崇拝しているのだ。


「……出来るかどうかわかりませけれど、私トキワに精霊降臨の儀をするように説得してみようと思います」

「ありがとう命さん!」


 風の神子の話を聞いて思う所があった命はトキワの説得を申し出た。風の神子は目を輝かせ彼女の手を取ると、感謝の気持ちを述べた。


「ただちょっと今喧嘩中なので仲直りが先かな?」

「そんなの君がトキワに甘えたらすぐに解決するさ!あいつは君に関しては単純なようだからな」


 風の神子の進言に命は少し照れ臭くなった。しかしトキワは一体風の神子にどんな惚気を言っていたのかが気になってしまった。


「それでは私はそろそろお暇しますね。長居しちゃってごめんなさい」


 時計を見ると夕方が迫っていたことに命は驚きつつ、ソファから立ち上がろうとした。


「いやこちらこそ、今日はたくさん話ができて楽しかったよ……よければもう一度目をよく見せてくれないか?」


 風の神子は命の目元に妻の面影を感じていたことを思い出して命はこくりと頷くと、ソファに座り直して優しい笑顔で風の神子を見つめた。


「栞……」



 亡き妻の名前を呼んで風の神子が命の頬にそっと触れようとした時、突然大きな音を立てて神子の間のドアが吹っ飛んできた。風の神子は咄嗟に結界を張ってドアを弾く。一体何が起きたのか理解できなかった命が入り口を見れば、風を纏わせたトキワが険しい顔をして仁王立ちをしていた。

 

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