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134秋の神子総選挙3

「そりゃお前が悪いな」


 ある夕方、現場仕事を終えたトキワは親方のイワオたちと事務所兼親方の自宅に戻ると、おかみさんの(みどり)が冷たいお茶とお菓子を振る舞ってくれたので全員で雑談を楽しんだ。自然と話題は精霊祭についてになり、トキワが命と喧嘩したことを話すと、全員一致でトキワが悪いと判定される。


「うちの嫁も水の神子にご執心で銀貨三枚貢ぐって言ってたなー結婚のご祝儀だとか。俺にも強制するんだぜ」

「うちの婆さんは光の神子派だな。年寄りは光の神子を崇拝してるのが多い」

「俺は氷の神子だな。あの上から目線がたまらん」


 仕事仲間達やその家族にもそれぞれ推しの神子がいるらしい。


「私もミナト様のファンよ。見てるだけで癒されるもの」


 どうやら緑も水の神子のファンのようでイワオの横でにんまりとしている。


「親方は嫌じゃないんですか?おかみさんが他の男に夢中になって」


 トキワの問いに親方は豪快に声を出して笑った。つられて他の仕事仲間達も笑う。


「俺たち村人にとっては神子は雲の上の存在だからな。水の神子のファンをして、緑ちゃんの機嫌がいいなら神子様々だ」

「神子だって人間ですよ?もしかしてってこともあるじゃないですか」

「あー、トキワは神子が親戚にいて、身近な存在だからやきもちを妬いたんだな」


 トキワの親戚事情を聞いていたイワオは理解を示す。


「だがそうだとしても彼女の隣にいるのは誰なんだ?そこは余裕を見せないと、いちいち妬いてたら身が持たないぞ。もっと自信を持て」

「親方……」


 イワオの激励にトキワは元気付けられたが、直ぐに新たな問題に直面する。


「でもどうやって仲直りするべきか……口どころか全然顔を合わしてくれないんですよ」


 トキワは真剣に悩んでいるのに、親方達からまた笑い声が上がる。


「そのまま自然消滅かもな。ご愁傷様!」


 五歳上の仕事仲間に不吉な発言をされて、トキワはきっと睨みつける。


「あんまりからかうなよ。そうだな、そんな時は……緑ちゃんが彼女ならどうしたら許してくれる?」


 女性の緑なら命の側に立った意見をしてくれるだろうと、イワオが話を振った。


「そうね、許すも何もそんな器の小さい男にはさっさと見切りをつけて次に行くわ」


 非情な緑の発言にトキワ以外から爆笑が上がる。最早味方はいないのかもしれないと、トキワは心が荒んだ。


「ごめんごめん、冗談よ。多分その彼女も仲直りはしたいけど、タイミングを失っちゃってるのよ。それでいて自分が謝る理由が無いから意地を張ってるのね。そんな時は彼女の好きなお菓子と花束でも持って謝りに行きなさい。その位の喧嘩なら、それで許してもらえるはずよ」


 緑のアドバイスにトキワはようやく仲直りへの道筋が見えて目を輝かせた。運良く明日は休日なので、朝から港町に行ってお菓子と花束を買いに行くことを決めたのであった。



 ***



 翌朝トキワは早起きをして身支度を整えると、魔術で体に風を纏わせ、空を飛んで港町へと下りた。まだ人もまばらで殆どの店が空いていない状態だったが、トキワはある店を目指した。


 その店は半年前にオープンしたドーナツ屋だった。可愛い見た目と豊富な種類、絶妙な甘さが話題を呼び開店前から行列が絶えない店らしい。海水浴の帰りに通り過ぎた時に命が羨ましそうに見ていたので、トキワはよく覚えていた。


 トキワがドーナツ屋に辿り着くと開店二時間前にもかかわらず既に行列が出来ていた。トキワは最後尾に並ぶ。待ってる間暇だったので、頭の中で仲直りしたら命とどんなことをするか妄想している内にドーナツ屋は開店して、そこからさらに一時間、トキワがようやく購入出来た頃にはすっかり昼前になっていた。


 トキワはパンとお茶を買って簡単に昼食を済ませてから、花屋に向かった。店員に恋人に花束を贈りたいと伝えると、ピンク色のバラで花束を作ってくれた。


 代金を支払い店を出て港町を離れ、いつもの獣道を目指す。花束が駄目になったら困るので、戦闘を避けるために自分の周りに強力な結界を張り村を目指す。

 

 今回は自分一人が対象なので、精神的負担が少なく、何よりドーナツと花束を受け取った命の笑顔が楽しみ過ぎたので、トキワの足取りは軽かった。


 なんとかティータイムまでに命の家に辿り着いたトキワは呼び鈴を鳴らした。家の中から応答する声が聞こえて、玄関のドアが開くと、光が出迎えてくれた。


「トキワくん、こんにちは。命ならいないわよ?」

「えっ、診療所の方ですか?」


 命の不在にトキワは落胆しながらも、直ぐに心当たりである診療所を挙げる。


「そっちにもいない。なんか朝から神官が命に用があるって家を訪ねて来てね、命も着なくなった民族衣装を寄付する予定だったからちょうどいいって、神殿に行ったきり帰ってこないのよ。あの子何やらかしたのかな……」


 光の話した事情にトキワは頭が真っ白になりそうだった。一体誰が命を呼びつけたのか。恐らく祖母である光の神子だろうと目星をつけたトキワは神殿に向かうことにした。


「俺ちょっと神殿を見て来ます。これよければもらってください」

「あらありがとう」


 トキワは光にドーナツと花束を渡すと、全速力で神殿に向かった。

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