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133秋の神子総選挙2

 下らない事で命と喧嘩してから早二週間、トキワは未だに仲直りどころか姿を見ることも叶わずにいた。毎日仕事の後、彼女の姿を一目見ようと診療所の前で待つも先に家に帰ってるのか診療所から出て来ないかのどっちだった。

 これまで三年間会えなくても頑張れたのだから二週間位平気だと自分を励ましつつ、今日は風の神子から大事な話があると言われていたので神殿に訪れていた。


 神子とその関係者しか通れない通路を歩いていると、前方から暦と今最も会いたくないミナトが歩いてきた。


「トキワじゃない!久しぶりね。また大きくなったわね」


 柔和な笑顔で暦はトキワに近寄り背伸びして頭を撫でてきた。楓と同様に妹の暦も小柄である。


「久しぶり暦ちゃん、あとミナト叔父さんも」

「元気そうだねトキワくん。今日はどうしたんだい?」

「風の神子に呼ばれた。じゃあ急いでるから……」


 ミナトは穏やかで心地よいバリトンボイスで話しかけてきたが、このままここにいたらミナトの長い銀髪を引っ張って引き摺り回したい衝動を抑えきれないので、トキワは足早にその場を離れる。



「じいちゃん、来たよ」

「入れ」


 風の神子の間に辿り着き、トキワはノックをして返事を確認するとドアを開けて入った。


「じいちゃん!?」


 風の神子が床に倒れていたので、トキワは慌てて駆け寄り抱き起こした。


「トキワか、私はもう駄目だ……」

「しっかりして!」


 弱々しげに風の神子はトキワに話し掛ける。


「最後にこの老いぼれ……の頼みを聞いてくれぬか……」

「何?」


 今にも死んでしまいそうな掠れた声で風の神子はトキワに願い事を託そうとした。


「私の代わりに、精霊降臨の儀を……頼む。お前しかいないんだ……」

「は?絶対嫌だ」

「なんだとー!?」


 まさか死に際の頼みを断られると思わなかった風の神子は勢いよく立ち上がった。


「なんだやっぱり仮病か」

「仮病ではない!お前が断るからびっくりしてあの世から帰ってきたんだ!なんで断る!?」


 精霊に扮することを断ったトキワに風の神子は憤慨して、理由を尋ねた。


「だってそれしたら風の神子をやらされるんでしょう?俺は神殿暮らしは真っ平御免だって言ってるよね?」


 神子になると生活の待遇はいいが神殿から出れないと言う制約がある。トキワはそれが耐えられなかった。


「ふふふ、案ずるなかれ。じつは先日の会議で神子代行なる身分が認められることになった!光と闇以外で神子が一人の属性なら、外の人間に儀式を代行させることが出来るようになったのだ!勿論お前みたいな神子レベルの魔力の持ち主限定だがな!」


 現在風の神子は一人しかいない。トキワのように風属性を司り神子レベルに魔力が高い水鏡族は存在するのだが、風属性の人間は気まぐれで癖が強い人間が多いようで、制限のある生活を強いられる神子のなり手がいなかった。


 おそらく神子代行はそんな風の神子の後継者不足解消のための苦肉の策なのだろう。


「別にじいちゃんが精霊降臨の儀をすればいいじゃんか。俺見たいなーじいちゃんの精霊姿!絶対カッコいいよ!」

「心にもないことを言いよって!いいかトキワ、精霊降臨の儀は各属性の神子の村人からの人気を争う重要な戦いなのだぞ!これのために各属性の神子と神官達は村人たちからの人気を得るべく、兼ねてから綺麗どころを代表に奉っている!」


 熱弁を振るう風の神子にトキワは先日の命達との会話を思い出して冷めた目で見た。


「神子て人気とかのためじゃなく、大精霊様のために神殿に仕えてるんでしょ?」

「そうだ。だからこそ精霊に扮する神子達には負けられない戦いなのだぞ!しかし風の神子はこの老いぼれのみ……マダムキラーの水の神子、新妻でキュートな炎の神子、圧倒的なカリスマを誇る光の神子、ファビュラスな雷の神子、女王様と呼びたくなる氷の神子に初お披露目な赤ちゃん闇の神子、振り回されたい土の神子と各属性強敵揃いなんだ!このままだと風属性は歴史的敗北を喫してしまう!」


 風の神子は嘆き項垂れた。自分の代で汚点を作りたくなかったのだ。


「しかも今回の神子達は全員銀髪持ちという奇跡の取り合わせ!ハイレベルな戦いとなる。だがそこにお前が風の神子代行として精霊に扮すれば必ず上位に食い込めるはずだ!」

「いやーそんな突然俺が出たところで誰だコイツてなるだけだよ」


 神子には命みたいな特定のファンが付いている。今更そのファンが他の神子に移動するとはトキワには到底思えなかった。


「トキワ、己の顔面を信じろ!お前の性格は捻くれているが、顔だけはすこぶるいい!お前がウインクの一つでもすれば若い女の子はイチコロだ!男の神子は少ないから女性票を水の神子から奪うのだ!」


 水の神子を出し抜くというのは中々魅力的な誘いだったが、実際そんなにうまく行かないことくらいトキワも分かっていたので、首を縦には振らなかった。


「はっきり言っとくね。断る。諦めてじいちゃんが出てよ。うすらハゲだけど、一応銀髪持ちだしいいじゃん。銀貨はばあちゃんと暦ちゃんとじいちゃんにあげる予定だったけど、全部じいちゃんにあげるから」

「そこをなんとか頼む!私とお前の仲だろう?」


 ついには土下座を始めた風の神子にトキワはしゃがみ込んで闇の深い笑いを浮かべた。


「そんなに精霊降臨の儀が怖いなら、俺が神殿をぶっ壊して大精霊祭を中止にしてあげようか?」


「ひっ!お前が言うと冗談に聞こえないぞ!」

「だって本気で言ってるから。ちょうど今年の精霊祭はぶち壊したい気分だったし……」


 命と三年ぶりの、しかも恋人同士になって初めての精霊祭デートが現時点で中止の今、トキワにとって精霊祭は無価値だった。


「なんだ随分と機嫌が悪いが、彼女にでもフラれたのか?」

「違うフラれてない。喧嘩しただけ」


 破局していない事を強調するとトキワの周囲に風が発生する。これ以上彼の心を乱したら部屋が破壊されかねないと感じた風の神子はこれ以上この話題に触れないことにした。


「と、とにかく精霊降臨の儀の代行については考えておいてくれ。話は以上だ。帰っていいぞ」


 風の神子が話を終わらせるとトキワは静かに立ち上がり部屋から出て行った。


「ふう、これだから風属性の人間は……」


 自分の事は棚に上げて風の神子は嘆くと、何としても精霊降臨の儀を成功させるべく、他の作戦を練り始めるのであった。


 

 

 

 

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