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131マリンブルー10

「それじゃ、行ってくる」

「はい、いってらっしゃい。昨日今日とお世話になりました」


 翌日、朝食後トキオと楓は旭を連れて神殿へ行くらしい。ようやく楓の魔力制御の腕輪の試作が出来たので、試着しに行くのと、光の神子に孫の顔を見せるのも兼ねているようだ。


「お前達もついて来て、そのまま結婚すればいいのに」


 まるで店に買い物に行くような感覚で楓はトキワと命に結婚を勧めるので、命は笑うしかなかった。


「母さん達じゃあるまいし。俺達はちゃんと準備してから結婚するつもりだから。いいから早く行きなよ。ばあちゃんが旭を待ってるよ」

「なんだトキワ、そんなに私達が邪魔か」

「邪魔でしかない。早く出て行け」

「はいはい、邪魔者は退散してやるよ」


 トキワは楓達を急かしながら家の外に追いやると、ドアを閉めて鍵をかけた。


「ちーちゃん、早く水出して!」


 切羽詰まった様子でトキワは命の手を引いて、風呂場へ誘導した。命は促されるままに魔術で湯船に水を溜めると、トキワは小さめの火炎魔石を湯船に沈めてお湯にした。そこに命が入浴剤をかければ、シトラスの香りがするマリンブルー色のお湯になった。


「よし!じゃあ一緒に入ろう!」


 目を爛々とさせて、トキワがベルトを外して服を脱ぎ出したので、命は慌てて脱衣所を出た。


 事の発端は昨夜、命が夜寝る前にトキワと一緒に風呂に入ってもいいと言い出したことだった。トキワは今すぐ入りたかったが、命はいくつか条件を出して来たので、翌日に決行となった。条件の一つは家で二人きりの時だった。


「ちーちゃん準備出来た!早く来て!」


 リビングからも聞こえるくらいの大声でトキワは命を呼んだ。命は着替えを手に用心深く脱衣所を覗き、トキワがいないことを確認する。


「ちゃんと条件守ってる?」


 風呂場にいるトキワに命は条件を守っているか確認を取る。


「守ってる!早く!」

「そんな急かさなくても……」

「ちーちゃんの気が変わらないうちに早く一緒に入りたい!」


 確かに勢いに乗らないと、命は怖気付きそうだった。しかしここは腹を決めて命は服を脱ぎ始めた。


 一方でトキワは磨りガラス越しに命が服を脱ぐ様を見ながら、ボルテージを上げていた。


「お待たせ……」


 命は先日海水浴で着た水着姿で風呂場に入ってきた。そして待っていたトキワも水着を着ていた。


 お互い水着を着る。それが命が出した一緒に風呂に入るための絶対条件だった。


「とりあえずお背中でも流しましょうか?」


 事務的な命の申し出にトキワはにやけた顔を抑えず首を振る。


「背中だけと言わず洗いっこしよう!」

「いいけど、条件覚えてる?」

「水着を脱がさない、脱がない、手を入れない」

「よろしい」


 命から許可を得たトキワは石鹸を泡立ててから、ささっと自分の身体に泡を撫で付けると、命に正面から抱きついた。


「なっ、なんて洗い方するの!?」


 まさか肌を重ねて洗うスタイルと思わなかった命は面食らう。そして体の洗い方についても条件をつけなかったことを後悔した。石鹸のぬめりにより互いの素肌が艶かしくなって行き、命は身体は火照り心臓が破裂しそうなくらい暴れだした。


「やだ!もう無理無理!恥ずかしすぎる!」


 耐えきれず命はしゃがみ込むと泣き出しそうになった。恥ずかしさと自分から誘っておきながら挫けてしまい情けない気持ちでいっぱいになった。


「ごめん。調子に乗り過ぎた」


 トキワは短く謝ると自分と命にお湯をかけて泡を流した。


「もう出ようか」


 無理強いしてこれ以上命を傷つけまいとトキワは風呂場のドアに手を掛けたが、命は立ち上がり引き留めた。


「普通に洗うなら、まだ入る……」


 トキワを喜ばせたいのにここで引き下がる訳にはいかない。命はボディタオルで石鹸を泡立てると、トキワの背中をゴシゴシと洗った。


 水着を着ている部分以外も献身的に洗うと、次は自分を洗えと言わんばかりにトキワにボディタオルを渡した。


 トキワは命の肌を傷つけないように泡のついたボディタオルを優しく滑らせた。


 時折くすぐったいのか身体をよじらせる姿が可愛らしくて変な気を起こしそうになるがぐっと堪えて、全体を洗うと二人でシャワーを浴びて、泡を落としてから隣り合う形で湯船に浸かった。


「なんで一緒にお風呂に入ってくれたの?」


 今まであんなに嫌がっていたのにこうして一緒に入ってくれた事にトキワは昨夜から疑問を感じていた。


「日頃の感謝の気持ちと誕生日プレゼント、かな」

「別に感謝されることなんてしてないし、誕生日プレゼントも昨日もらったよ?」


 先日命が港町で買ったトキワへの誕生日プレゼントは波の形をモチーフにした青い豆粒大の天然石が一つ埋め込まれた銀のブローチだった。


 以前学園都市で命が外套を身につけた状態のトキワと再会した時、不審者にしか見えなかったので、外套にブローチをつけたら少しは不審な雰囲気が和らぐ気がして選んだ品だ。青い天然石にしたのは彼女の水晶と同じ瑠璃色だったから、お守りの気持ちも込めていた。


「トキワにとっては何でもないことかもしれないけど、一昨年みーちゃんが精霊祭でイブキくんと歩いてた時声を掛けたのって、みーちゃんが心配だったからでしょう?私の大切な妹を気にかけてくれて嬉しかった。あと平気なフリしてたけど、海水浴の行き帰りの結界も凄く大変なのに私たちを守るために頑張ってくれていた」


 まず自分の大事な人を大事にしてくれるトキワに命は感謝した。


「私が危険な目に遭った時は助けてくれた。ナンパみたいな軽いことからミノタウロス退治みたいな危険なことまでして守ってくれた」


 次に命はいつも身を呈して守ってくれることを感謝する。


「あとはこんな私のこと好きになってくれたことかな。本当にありがとう。大好きだよ」


 最後に命はトキワからの好意に感謝すると、笑いかけて勇気を出して自分からトキワの唇に口付けた。


 唇から離れて命が目を開けると、これまで見たことないくらい顔が真っ赤になったトキワがいた。


「出る。ちーちゃんはゆっくりしてて」


 口早に言うとトキワは湯船から上がり、風呂場から出て行った。


「ようやく一矢報いた、かな?」


 いつも攻められっ放しだったが、今日はトキワの最上級の照れ顔を頂いたので、命は何となく胸がスッとしながらも、自分史上最大に大胆なことをしてしまったと痛み分けをした気分にもなったのであった。



 

 

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