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130マリンブルー9

 トキワの十六歳の誕生日当日、この日は平日だったため、命はいつものように桜と診療所で働き、診療時間が終わると、桜との雑談も早目に切り上げて家に帰る。


 家中から何やら甘い匂いがすると思いつつも、命は自分の部屋へ向かい着替えを済ますと、お泊まりの準備をした。


 前日にある程度は済ませていたが、忘れ物をしないようにもう一度荷物を確認する。着替えの下着はもしもの時のために自分が持っている中で一番可愛い物を詰めて、服も綺麗めのワンピースを選ぶ。


 他にも化粧品や歯ブラシなど必要な物をバッグに詰め、最後にトキワへの誕生日プレゼントも入れれば、お泊りセットは完成した。


 バッグを持って階段を降りると、まだ甘い匂いがリビングを占領していた。


「命、これトキワくんの家に持って行ってね」


 甘い匂いの正体は光お手製のチーズケーキだった。既に冷めているようで、箱に入れて可愛くリボンが巻かれていた。


「お母さんありがとう」

「向こうで失礼がないようにね」

「はーい。じゃあ行ってきます」


 トキオと楓は辛党ではあるが、甘い物が嫌いなわけでは無いと事前に聞いていたから、きっと喜んでもらえるだろう。


 命は光が持ちやすいように布で包んでくれたケーキを受け取ると、家を出た。


 いつもならトキワが迎えに来るのだが、今日は仕事の後親方の家で簡単なお祝いをしてもらうらしいので、命は一人でトキワの家に向かうことになる。


「忘れてた。これを使いなさい」


 光は慌てて命に照明魔石を手渡した。トキワの家まで時間がかかるので、道中暗くなるのを心配してくれたようだ。


「ありがとう、行ってきます」


 命は照明魔石を受け取ると、ケーキを崩さないように走らずに、早歩きでトキワの家を目指した。


 道中帰宅時間だった事もあり何度も人とすれ違っていたが、日が沈むと人気が無くなり、命は照明魔石を灯して地図で道をしっかり確認しながら歩みを進めた。


 最後の別れ道に近づけば、楓が炎を携えて命を待っていてくれた。


「遠路遥々ご苦労様だ」

「いえ、お迎えありがとうございます。今日と明日お世話になります」


 残りの道を旭の近況を聞きながら歩けば、直ぐに家に辿り着いた。


「こんばんは命ちゃん、疲れただろう?楓さんと座ってて」

「こんばんは、おじゃまします。これ母から、チーズケーキです」


「ありがとう、食後に頂こうね」


 トキオが玄関で出迎えてくれて、命と楓をソファへと誘導した。近くには旭がクーハンですやすやと寝息を立てていた。


「旭ちゃん、お久しぶり」


 命はそわそわしながら旭に近寄り天使のような寝顔を拝んだ。以前会った時よりほっぺたがふくふくしているので、順調に育っているようだ。


「トキワのやつ遅いな。仕方ない命ちゃん、今のうちに一緒に風呂に入ろう」


 楓は目を輝かせながら命を風呂に誘った。前回会った時に誘われていたので、命は抵抗なく着替えを取り出して、楓と風呂場に向かった。


「旭ちゃんはお風呂に入れなくていいんですか?」

「ああ、夕方のうちに入れたから問題ない」


 先に身体を洗っていいということなので、命は脱衣所で裸になると、楓の誘導で風呂場に入った。


 一般家庭にしては少し広めの風呂場に命は少し驚きつつ、石鹸の場所などの説明を受けてから身を清めた。


 その後楓も入って来たので、命は楓の背中を流してから、湯船に浸かった。


「気持ちいいー!お風呂大きいですねー!」


 命の感想に楓は嬉しそうに笑って頭からシャワーを浴びて泡を流す。そして髪の毛をまとめてから湯船に入ると、ざぱーんとお湯が溢れた。


「私とトキオさんは結婚当初から一緒に風呂に入っているのだが、借家の時は狭くて不便だったから家を建てる時は風呂場を大きくすると決めていたのだ」


「へー、ラブラブなんですねー」

「ああ、トキワも子供の頃は一緒に入ってくれていたのだが、五歳以降は拒否されている」


 楓は不満げに口を尖らせる。楓にとって一緒に風呂に入ることは家族のコミュニケーションのようだ。


「命ちゃんは親と風呂に入ったりしなかったのか?」

「私は……父とはありませんね。母とも妹が生まれてから入ってません」


 父親のシュウが巨漢だったので、自宅の湯船は多少は大きかったが、命達が一緒に入るには狭すぎた。思えば命は異性と風呂に入ったことが無い。だからトキワの誘いに毎回拒絶反応が起きているのかもしれない。


「そうか、やはり家庭によって違うのだな」

「でも私、トキワのお母さんとお風呂入るの楽しいですよ。旭ちゃんが大きくなったら三人で入りましょうね」


 最初は強引だと思ったが、命は楓と一緒に風呂に入ってこうして会話をするのは嫌じゃなかった。


「そいつはいいな」


 楽しみが増えたと楓は満足げに笑うので、つられて命も笑顔になった。

 

 命と楓が風呂から出ると、トキワは既に帰宅していて、旭を抱っこしてあやしていた。食卓にはトキオ自慢の料理と光お手製のチーズケーキが並んでいる。


「トキワおかえりなさい。誕生日おめでとう!」

「人間乾燥機のお帰りだな。早速髪を乾かして貰おうか?」


 風呂上りの命の言葉にトキワは破顔したが、楓の横柄な態度で直ぐ不機嫌な顔をして、煩わしそうに魔術の風を起こして二人の髪の毛を乾かした。


「みんな揃ったし食べようかー?」


 グラスと飲み物を用意したトキオの勧めで全員食卓についてトキワの誕生日を祝い乾杯をした後にご馳走を楽しんだ。


「トキワ、旭をクーハンに移してから食べたらどうだ?」


 器用に片手で食事をしながら旭を抱っこしているトキワに楓は進言する。


「そうしたいのは山々だけど、旭が服を掴んで離さないんだよ」


 行儀が悪いと思いつつも命は席を立ち、トキワの近くに寄って旭を覗き込むと、確かにトキワのシャツをギュッと掴んで離さなかった。


「可愛すぎる……お兄ちゃんっ子最高っ!」


 命は旭の可愛らしい仕草に身悶えた。恋人の欲目かもしれないがトキワを含めて見れば天使を抱っこする天使という目の保養でしかない二人に命は跪いてしまいたいくらいだった。




 

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