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126マリンブルー5

 海水浴場に辿り着き、一行は男女別れて更衣室に向かった。命と実は水着に着替えてから、日焼け止めを塗り合った。


「ちーちゃん先行ってるねー!」


 よほど海が楽しみなのか、バッグの中を整理している命を待ちきれず、実は先に更衣室を出て行った。


 恐らく先に男性陣が待っているだろうからナンパなどの心配は無いはずと判断した命は整理を済ますと、貴重品やタオルに光が作ってくれたサンドイッチ、そして日焼け止めを大きめのトートバッグに入れて、ビーチサンダルを履き、更衣室内の荷物預かり所に着替えの入ったバッグを預けてから、つば広の麦わら帽子を被って海辺に出た。


 辺りを見回して実達の姿を探すが、見当たらない。仕方ないので命は先に飲み物を買ってからみんなを探す事にした。


 飲み物が売っている屋台が見えてきたので、命が列に並ぼうとしたら、前方を歩いていた茶髪の若い男が財布を落としたので拾ってあげた。


「財布、落としましたよ」


 命が拾った財布で男の肩を叩くと、男は振り向いた。


「ありがとうございます。助かりました」


 男は財布を受け取り、命にお礼を言ってから飲み物を買う列に並んだ。命も黙って後ろに並ぶ。


「あの、良ければお礼に飲み物をご馳走させて下さい」


 自分の順番になるなり若い男は命に向き直り、財布を拾ったお礼を申し出た。


「いえ、結構です。お構いなく」

「それだと自分の気が済みません。オレンジジュースでいいかな?」


 ピシャリと断る命に男は食い下がり、オレンジジュースと自分用にジンジャーエールを購入すると、命にオレンジジュースの瓶を手渡そうとする。


「いりません」

「でももう買っちゃったし、一人で二本も飲めないなぁ」


 あまりにも強引で命は受け取りたくなかったが、後ろが詰まっていたので、仕方なく受け取ろうとした時、無骨で大きな手が男の持っていたオレンジジュースを受け取った。


「ありがとうお兄さん!あとオレンジジュースは一本とリンゴジュースが二本、ジンジャーエール二本追加で!」


 オレンジジュースを受け取ったのはトキワだった。空いた片手で命の腰に手を回して、自分の恋人だとアピールしながら、図々しく若い男に飲み物の追加をリクエストした。


「自分で買え!!」


 男はそう吐き捨てて、ジンジャーエールだけを持って売り場から離れていった。


「えっと、買っていかれますか?」

「はい、お兄さんの言う通り自分で買います」


 店員が確認するのでトキワは財布を取り出し、先程男にリクエストした飲み物を購入してから、命のトートバッグにねじ込んで代わりに持った。


「いつの間に?」


 売り場から離れて命はトキワが知らぬ間に隣にいたことを問い詰めると、トキワは不意に命の右の二の腕をたぷたぷと揉み始めた。


「ちょっと、やめて……くすぐったい!」

「今日これからちーちゃんがナンパされる度にちーちゃんの二の腕を揉みます」

「えっ!な、なんで!?」

「俺の心の平穏のためかな……」


 意味深に笑うとトキワは命の二の腕を揉み続ける。


「ていうかナンパなんてされてないし!さっきのは財布を拾ったお礼だって言ってた!」

「それナンパの手口だから。ワザと財布を落として拾わせてから、飲み物を奢って押し付けて会話に持ち込もうとしてた」


 トキワの解説に命は押し黙る。思えば少し不自然だった気がしたのだ。


「で、でもお姉ちゃんが言ってたけどナンパするのは同族の水鏡族だけだって……」


 往生際が悪い命にトキワは一つため息を吐くと、彼女のつば広の麦わら帽子を取り上げた。


「麦わら帽子を被ってて髪の色がわかり辛かったんだろうね」

「あ……」


 現在命の髪の毛は首の半分程度の長さのショートボブだったので、つば広の麦わら帽子を被ると、髪色が分かりにくかった。


「ちーちゃんめっちゃ可愛いんだから気をつけてよね?水着も似合ってるから!まじ最高!」


 注意してるのか、褒めてるのか、よくわからない口調でそう言って、トキワはようやく命の二の腕を揉むのを止めると、彼女の手を取り歩き出した。


「おう、命ちゃん見つかったか」


 ビーチパラソルの下で敷物の上に座り荷物番をしていたレイトが命とトキワに手を振る。


「早速ナンパされてました」

「まじかよ……」


 トキワの報告にレイトは頭を抱えてから呻く。祈から義妹達を守れと命令されているのに早速この状況だという事に先々の不安を覚えた。


「まあ、一人にしちゃったのが悪いよな。ごめんな命ちゃん。イブキの奴、二人を迎えに行くよう頼んだら、実ちゃんに引っ張られて先に遊んじゃってるんだよ」


 レイトが海の方を指すと、実とイブキそしてヒナタが波打ち際で水を掛け合いっこして楽しんでいた。


「それで俺が場所取りしてる間、ビーチパラソルをレンタルしてきたトキワが戻ってきて、命ちゃんがいないから血相を変えて探しに行ったということだ」


「……イブキ後で締め上げる」


 トキワはじっと据わった目で海ではしゃぐイブキを見て呟いたので、命は慌ててトキワの腕に絡みつきご、機嫌を取ろうとした。


「助けてくれてありがとう!そうだ日焼け止め塗ってあげる!お義兄さんもヒナちゃんに塗らなきゃだから連れてきてください」

「ああ、そうだな」


 レイトが立ち上がりヒナタの元へ向かった。



「ちーちゃん、今日は絶対俺から離れないでね」

「過保護過ぎ」

「はいはい過保護ですよー」


 トキワは通りすがりに命を見て立ち止まった二人連れの若い男に気付き、トートバッグから飲み物を出して日焼け止めを探す命の肩を抱き寄せ、彼女に気づかれないように牽制した。





 


 



 

 


 

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