123マリンブルー2
「うひょー!私の妹たちがエンジェル過ぎる!」
明くる日、命と実は自宅から徒歩一分の場所に昨年晩秋に建てられた祈達の家にて水着姿になっていた。
妊娠中で一緒に海水浴に行けない祈が二人の水着姿が見たいと切望したため、家の中で披露することとなったのだ。
命の水着は黒のハイネックタイプのビキニでモノトーンで大柄の花が描かれたフレアショートパンツを履いている。
一方で実は胸元と腰回りにフリルがあしらわれたベビーピンクの可愛らしいビキニ水着だ。
「はあ、みーちゃんは自分の良さをちゃーんとわかっているチョイスだわ!お姉ちゃん感動しちゃった!そのフリルが細身のみーちゃんをバッチリフォローしてるわ!」
実の水着のフリルに触れながら祈は興奮気味に解説する。
「ちーちゃん、そのショートパンツの下はビキニパンツかしら?脱いでみて」
祈の指示で命は黙ってショートパンツを脱ぐと、サイドに捻りが入ったデザインの黒のビキニパンツ姿になる。
「うん!そっちの方が色っぽくていいわ!ちなみにその水着は自分で選んだのかしら?」
その質問に命は気恥ずかしそうに首を振る。
「……トキワと一緒に選んで決めてもらった」
小さな声で答える命に対して祈は黄色い声を上げる。
「ふむふむなるほどねー!トキワちゃんチョイスなんだ。わかるわよー!他の男にちーちゃんの谷間を見せまいという独占欲!あとお尻も守るためにショーパンね!はいはいトキワちゃん独占欲ハンパないわー!」
「色々試着してきて他にもっといい感じのがあったのにやたらこれを勧めてたのはそういうことだったのか」
祈の評論で命は初めてトキワの意図に気がついた。
「なになに?ちーちゃん他にどんな水着着たの?お姉ちゃんに聞かせてみ?」
「えーと、白の三角ビキニと赤のチューブトップタイプのビキニでしょ、エメラルドグリーンのホルタータイプのビキニとあとは……ちょっと思い出せないな。お店の人もノリノリでたくさん試着させて貰ったんだよね」
「ちーちゃん程の胸の大きさだと、三角ビキニは確実に下乳が見えたわね。チューブトップは上乳が堪能できるけど、ちょっとしたことでズレるから危険。恐らくホルタータイプが次点だったけど、谷間が見えるからその水着になったようね。くっ、自分は試着で色んなちーちゃんを散々楽しんでおきながら、実践用は程よく防御力がある水着を選ぶとは、トキワちゃん策士ね。ところでトキワちゃんの水着は何かわかる?」
命が試着した水着も解説しつつ、祈はトキワの水着に注目する。
「うん、トキワのも一緒に選んだから。黒のハーフパンツにしてたよ」
トキワの水着に祈は指を鳴らして一人盛り上がる。
「はい!来た独占欲の塊!おそろの色にしてちーちゃんを俺の女感出させるつもりね!ほんと抜かりないわーおそろしい子!」
熱弁する祈に命は引きつつも、トキワの独占欲の強さに胸が高鳴った。もし二人で海水浴デートだったら、ドキドキしてばかりで心臓がもたなかったかもしれない。
「こうも二人が可愛いとナンパが心配だわ!レイちゃん可愛い妹たちを守ってね!」
「いや、いくら命ちゃんと実ちゃんが可愛くても、港町で水鏡族の女をナンパするような猛者はいないだろう?」
机でお絵かきをしているヒナタの横でレイトは心配し過ぎだと否定する。
「私レイちゃんと知り合う前に実験として友達と三人で海水浴場でナンパ待ちしてみたことあるのよ。そしたらジャンジャン声掛けてもらったわよ?同じ水鏡族にね!」
確かに命達が気軽に海水浴に行くのだから、他の水鏡族の人間も海水浴場で楽しむのは当然である。レイトにとっては盲点だったらしい。右手で頭を抱えた。
「流血沙汰を阻止するためにも努力する……」
誰が流血沙汰を起こすかは敢えて言わず、レイトは呻くように祈と約束する。
「その時お姉ちゃんナンパしてきた人と遊んだの?」
命の興味は当時ナンパされた祈のことだった。レイトも気になっていたので、聞き耳を立てる。
「ええ、わざとひ弱そうな子達を選んで、海の家でご飯を沢山ご馳走してもらった後、一緒に泳いだりボール遊びを徹底的にしてから、アフターに誘う気力を削いだわ」
水鏡族の男性だからといってみんなが皆レイトみたいに強いわけではない。それに祈は姉妹で一番戦闘能力が高く、結婚するまでは冒険者をしていたので、同族でも生半可な男では敵わないのだ。恐らく彼女の友人達も凄腕だったのだろう。命は祈の強かさに尊敬よりも呆れを感じた。
「うーん、私も心配になってきた。頑張ってみーちゃんを守らなきゃ!」
実には彼氏であるイブキがいるから大丈夫だとは思いたいが、どこか頼りない雰囲気もあるので、命は当日は気を引き締めようと誓う。
「じゃあ私はちーちゃんを守る!だってちーちゃんて困ってる人にすぐ声掛けちゃって、変なの人に捕まっちゃうんだもん!」
「なっ、なによそれー!ちゃんと自衛くらい出来てるわよ!」
無邪気に実がそう宣言すると、命は心外だったのか口を尖らせて反論する。
「案外みーちゃんのほうがしっかりしてるわよね。ちーちゃんは……まあ、事実そのパターンで一番ヤバい子に捕まっちゃてるからね。本当気をつけてね」
祈はそう呟きレイトと実と顔を見合わせて、それぞれ深く頷いたのであった。