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120小さな掌6

母乳を飲んでお腹いっぱいになった旭は再び眠りについたので命はクーハンに寝かせてから、そういえば手土産に授乳期に飲むといいらしいハーブティーを持ってきていた事を思い出し、台所を借りて楓の為にハーブティーを淹れて楓とトキワに挟まれる形でソファに座りお茶にする。


「ありがとう命ちゃん。うむ、美味しいけど辛さが欲しい…!」


 辛い物をこよなく愛する楓らしい発言に命は苦笑する。多少食べるのは問題無いと思われるが、恐らく楓は極端な超激辛レベルの物が食べたいのだろう。そうなるとどんな影響があるか分からないと判断して辛い物を断っているようだ。


「そういえば命ちゃんは今何歳なんだ?」


「19歳ですよ。トキワの3歳上です」


 トキワが成長してきたおかげで歳の差はあまり気にしなくなっていたが、口に出すと命は少し引目を感じた。


「ならばトキオさんが私と結婚した時の年齢になるのだな」


 思えば命はトキオが桜の1歳上という事は聞いていたが、見た所若いという印象はあったものの楓の年齢は知らなかった。


「よければ、お二人の馴れ初めを教えて頂けませんか?トキワは知ってる?」


「父さんが母さんと出会って即プロポーズしたとは聞いたこたあるけど後は興味無かったから聞いてない」


 自分も親の馴れ初めを聞いたのはつい最近だったので人の事をどうこう言えない命はトキワを責める事なく笑う。


「よくあるつまらん話だとは思うが…」


 一つ断りを入れてから楓はトキオとの馴れ初めを語り始めた。


「あれは私が16の時…今のトキワと同い年の時だな。神殿で炎の神子として仕えていた私は弟の闇の神子、イザナに恋愛感情を持たれて関係を迫られていて奴の攻勢に疲弊していた。逃げ出そうにも生まれた時から神殿から一歩も外に出ていない私には覚悟が無かった。そんなある日、たまたま神殿を訪れていたトキオさんと中庭のバラ園で偶然出会い、見初められ求婚された」


 冒頭の時点でよくある話でも無いし、とても興味深い話だと感じつつ命は引き続き耳を傾ける。


「その時私にはトキオさんが白馬の王子様に見えて彼なら私を外の世界に連れて行ってくれると思ってな…即求婚を受け入れて事情を知っている幼馴染みの水の神子…ミナトは知っているかな?」


「はい!ミナト様はうちの家族ではアイドルですから!年に一回水属性の会合で拝めるのを楽しみにしてるんです!」


 命と姉の祈、そして妹の実に叔母の桜と同じ水属性なのもあるが、神々しい切れ長な目と端正な顔立ちに美しい銀の長髪が麗しい水の神子代表、ミナトを崇拝していた。年に一回行われる自由参加型の会合には全員で黄色い声を上げて参加している。


「ミナトは一昨年暦と結婚して私の義弟になった。それはご存知だよな?」


「ええ!私は村を離れていたから晴れ姿を拝見できなくて本当に悔しかったです!」


 去年の夏休みに命が帰省した時に祈達が結婚式でのミナトの姿は幸せの絶頂だった事もありそれはもう美しかったと語るのを悔しそうに聞いたものだった。


「あんなのただのおっさんじゃん…」


 目の色を変えてミナトを語る命がトキワは面白くなくて小声で負け惜しみを言うと口を尖らせる。


「そうか、あれは女受けがいい顔をしてるからな。話は戻るが私とトキオさんは運良く誰も使っていなかった神殿内のチャペルでミナトに神父をしてもらって結婚の儀式をした。そして妹の暦に炎の神子の代表の座を明け渡すと神殿から出てとりあえず私の父の元へ身を寄せた後に東の集落で家を借りた。結婚して直ぐ私はトキワを身篭り、トキオさんは勤めていた西の集落の役場を辞めてから、木こりである父の仕事を手伝いつつ3年後東の集落の役場に再就職した。ちなみにこの家はトキワが3歳くらいの時に建てた家だ」


 まさかの出会って即結婚という展開に命は驚きを隠せなかった。


「お互い一目惚れだなんて素敵な馴れ初めですね」


 恋愛小説ではよく聞く話だが、実際に聞いたのは初めてだった。命は羨ましそうに楓を見た。


「イザナから逃げる為神殿を出たいという打算はあったが、確かに私はトキオさんに一目惚れだったな。今でもそうだがあの人は本当にキラキラしてて顔がいい。それどころか優しいし仕事も出来て家事も全部やってくれる…完璧過ぎるな」


 完全に惚気モードに入っている楓が可愛くて命は口をにやけさせながら話を聞く。確かにトキオを初めて見た時はその美形具合に圧倒されたことを思い出した。


「だがトキオさんは王子様みたいにかっこいいのに、同じ顔をしたトキワはどうも王子とは言い難い。こいつは何というか…山賊の様な雰囲気だ。そう思わないか?」


 息子に対してそんな言い方はないだろうと思いつつも命は楓の言葉でトキワの顔をじっと見た。個人的には歴代最強の美形ではあるが、彼が王子様タイプかといえば確かに違う気がした。


「そうですね…王子様では無いですね。普段の服装がカチッとしてないからかな?」


 トキオはどちらかというと職業柄なのかシャツやスラックスなどを綺麗に着こなしていた。しかしトキワはというと、シャツのボタンはいつも2つは開けていたしTシャツも成長する事を前提としてるのか少し大きめだ。ズボンもカーゴパンツやチノパンと動きやすさ重視である。


「ねえ、今度カチッとした服着てみてよ!スーツとか」


「無理!俺はカチッとした服を着たら全身に蕁麻疹が出る体質なんだよ」


 命のお願いにトキワは叶えたい気持ちも多少はあったが今更畏った服装をするという羞恥心に負けた。


「あーでもお姫様の相手は王子様じゃないとダメなのかな…そうなると我慢しなきゃ行けないのか…」


 トキワはいつも命の事をお姫様と持て囃している為自分も彼女にふさわしい相手になるには王子様なのだろうかと葛藤し始める。


「わ、私はお姫様の相手が山賊なのもありだと思うなー」


 自分の事をお姫様に喩えるのはおこがましかったが、遠回しに今のトキワのままでいいと伝えたくて命は耐えた。


「ちーちゃん…そういうとこだよ」


 命の意図は伝わり、トキワは彼女に対する愛おしさに溢れた。楓という邪魔者がいたが、楓の目を盗んで命の手を取ると手の甲に口付けた。

 


 



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