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11精霊祭と友情2

 レイトに師事することになったという変化はあったものの、トキワの日常は変わらず。今日も学校に通う。そして放課後にレイトが家まで迎えに来て修行となる。

 水鏡族の子供達は基本六歳から十五歳まではそれぞれ集落の学校に通い、卒業後は集落に留まり仕事に就いたり、外の街へ出て就職や冒険者登録をしたり、学問の道へ進んだりしていた。


「カナデー!学校行こう!」


 早朝、一緒に登校しようとトキワは隣の家に住む幼馴染みのカナデを呼ぶ。カナデは垂れ下がった目蓋を細め、あくびを噛み殺しながら姿を現した。


「おはようカナデ!」

「おはようトキワ、朝から元気だな…」


 行ってきますと家にいる父親に声をかけてから、カナデはドアを閉めてトキワと歩き出す。


「今日久々にちーちゃんに会えるかと思うと、なんか力が湧いてくるんだー!」


 一昨日はレイトとの修行で会えず、昨日は命は桜と朝一番から夜まで港町へ買い物に出かけていたため、会えずじまいと散々だったトキワにとって、新しい朝は希望の朝だった。


「今日も会えなかったりして」


 あまりにはしゃぐトキワにぼそりと皮肉を言うカナデ。気付かないトキワは鼻歌まじりに通学路を歩く。


「しっかしお前に師匠が出来るなんてなー。しかも続いている」

「カナデも一緒に修行する?師匠の修行楽しいよ!」

「俺槍使いだし、今の鍛練が性に合ってるからいいよ。それに俺を指導するのは難しいだろうし」


 カナデは赤子の時に母親と共に盗賊に襲われた。その時母親が生命を犠牲にしてカナデを助けたが、彼が生まれた時に持っていた水鏡族の水晶は母親の物と共に盗まれてしまった。

 つまり彼は水鏡族でありながら水晶を持っていないため武器は無いし、魔術も使えなかった。それでも鍛練は欠かさず、自分には何の武器が適正かわからないが、とりあえず父親と同じ槍を愛用している。


「俺の師匠は親父で充分だよ。それよりお前昨日また楓さんと喧嘩したろ?こっちまで熱気が届いて暑くてしょうがなかったんだけど」


 トキワの母、(かえで)は炎属性で強い魔力の持ち主で感情的になると熱を帯びてしまう。その影響が隣のカナデの家まで及んだようだ。


「だって母さんが両手剣なんか使うなナックル使えってうるさいんだもん」


 トキオと楓はナックル使いで炎属性という共通点がある夫婦だ。そうなると子供であるトキワも同じだろうと期待されていたが、武器どころか属性も違う。それがトキワと母親との不和の原因だった。本来属性は遺伝することが多いが、武器は個々の能力なので遺伝とは関係がない。それでも楓はトキワが許せないようだ。ちなみにトキワが風属性なのは父方の祖父からの遺伝だろうと言われている。


「俺は母親がいなくて大変だなと思う時もあるけど、いたらいたで大変なんだな」

「うちはうち、よそはよそってやつだね」


 嫌味ではなく率直な感想を述べるカナデにトキワは同意する。トキワの変に気を遣わない所がカナデにとって居心地が良かった。


「ねえカナデ!学校まで競争しよう!よーいドン!」

「は?待てよ!いきなりずるいぞ!」


 突然走り出すトキワにカナデは戸惑うもすぐ様後を追った。それはごく普通の子供達の日常光景だった。


 学校での勉強がトキワは大嫌いだった。それでも家で母親と過ごすよりはマシだったので、毎日登校はしていた。好きな科目は体術だけで、あとはまるで駄目で退屈だった。

 魔術も魔力が多いせいか、上手くコントロール出来ず危険なので、水晶を持っていないカナデと共に見学だし、読み書きや計算は百点満点中一桁の点数しか取ったことがなく、教師の悩みの種となっていた。

 授業がつまらないトキワは、学校では休み時間はカナデ以外の生徒とはあまり会話をせず、周囲から何を考えているか分からない奴と評されていた。


「今日は授業参観に向けて作文を書いてもらいます。テーマは大好きな人です。お父さんやお母さん、兄弟といった家族や、尊敬する人について書いてください」


 読み書きの授業の課題に該当する人物がトキワはすぐ様思い浮かぶと、その人物の事を想いながら、頬を緩ませて作文用紙に書き綴っていった。珍しく積極的に授業に参加するトキワに担任の女性教師は驚きながらも、優しく指導した。


「書けた!」


 授業時間内に作文が完成したトキワは嬉々として声を上げると、作文用紙を誇らしげに眺めた。


「トキワくん、誰の事について書いたの?」


 隣の席の女生徒が興味を持って問いかけると、トキワは満面の笑みを浮かべた。


「ちーちゃん!」

「ちーちゃん?誰?妹?」

「違うよ!俺の将来のお嫁さん!めっちゃ可愛くて、優しくて料理が上手なんだよ!」


 教室に響き渡るような声で紹介したトキワの大好きな人について、同級生達は一体何者なのかと、頭の中に疑問が浮かんだ。


「へ、へえ……うちの学校の子?」


 クラスにトキワがちーちゃんと呼んでいる子がいない為、女生徒が訪ねれば、トキワは首を振った。


「ちーちゃんは違う集落に住んでいる俺のお姫様だよ。これ以上は秘密!みんながちーちゃんを好きになったら嫌だからね」


 こんな少ない情報で好意を持てと言われても困ると思いながらも、普段無口なトキワが饒舌に将来の嫁だと主張する人物に対して一同の謎は深まる一方であった。


 

 

 


 

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