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109※残酷な描写あり他人事9

「じゃあ、俺はここで応援してますねー!頑張れ勇者様ー!」


 トキワは汽車の先頭に飛び乗って、高みの見物を決め込もうとすると、エアハルトは慌てた様子で隣に飛んで来た。


「ちょっとちょっとー!さっき作戦を説明したよね?僕と一緒にミノタウロスを倒すって約束したよね?」

「勇者様なら楽勝でしょう?俺Cランクのひよっこなんで勉強させてもらいまーす」


 ちなみにトキワ以外の冒険者は、勇者一行の出現により依頼を辞退していた為、メンバーは五人だ。


「頼むよ、報酬は均等に分けるからさ!」

「……わかりました。ただし俺のこと絶対に守ってくださいね!怪我一つしたくないんで」


 金に釣られて、トキワは渋々協力をすることにした。小金でも、日々の積み重ねが命とのマイホームに繋がると判断したのだ。


「善処する。では行くぞ少年!」


 エアハルトは先陣を切って武器を携え、ミノタウロスに近づいた。こちらに気づいたミノタウロスが突進を仕掛けて来たが、エアハルトは直前で華麗に身を翻して昏倒させた。


 そして起き上がり際に、弓使いがミノタウロスの右目を狙い矢を射抜いた。怯んだミノタウロスは右目を左手で押さえながら、巨大な斧を振り回し始めた。


 エアハルトは攻撃を避けながら、ミノタウロスの右手首を的確に両手剣で突いて、斧を落とす。


 斧を落とされた反動で振りかざされたミノタウロスの右腕をトキワは上から叩きつけるように剣で両断して、落ちた斧に軽量化の魔術をかけ、誰もいない方へ蹴り飛ばす。


 そして魔術師はミノタウロスの左足を凍らすと、刀使いが背後から右足の腱を切りつけて、完全に動けなくさせた。


「とどめを刺すぞ!少年!」


 エアハルトはトキワに声を掛けて、まず自分が正面からミノタウロスの首を斬りつける。その後トキワが背後から叩き斬り、首を完全に切り落とした。


 更に駄目押しにエアハルトは魔術で炎を操り、ミノタウロスを燃やし尽くせば、魔核が静かに崩れ去って消えていった。


「やっぱ俺必要なかったじゃん。あー返り血がついた最悪」


 エアハルト達の圧倒的な実力にトキワは尊敬と少し悔しさを感じ、世界にはまだまだ強い人間が沢山いると痛感した。


「中々の剣捌きだったな」


 息一つ乱さずエアハルトはまたもトキワに握手を求めて来た。トキワは面倒くさげに握手を返してから、両手剣をピアスの形に戻して、勇者一行に背を向けた。


「お疲れ様でしたー!さようなら」


 トキワは早々に汽車に乗り込み、依頼受付担当の乗務員に声を掛けて、完了届は後で客室に持って来てくれると説明を受けると、命が待っている車両まで走った。



「ちーちゃんただいま!」


 トキワがドアを開けると、不安そうな表情を浮かべていた命が駆け寄って、抱きついて来た。


「おかえり……よかった、無事で。怪我は無い?」


 涙声で命はトキワの無事を喜び、怪我の心配をした。


「怪我一つしてないよ。いやーむさ苦しかったけど、運良くAランクの冒険者がいたから、スムーズに倒せたよ」


 命の肌をより密接に感じるために、トキワはテキパキと防具を外し、返り血を拭い服を着替えると、ベッドに腰掛けて命を抱き上げて、向かい合う体勢で両手で頬を添えてから、甘い口付けを交わす。


「これでようやくイチャイチャが再開できる」


 戦闘による緊張も次第に解れたトキワは笑みを零して、命を力強く抱きしめて、彼女のうなじに顔を埋めれば、甘い香りが鼻をかすめた。


 無事生還したトキワを命は不安だった反動か、甘やかしに甘やかした。膝枕をして頭を何度も撫でて褒めたり、昼食用に買ったパンを一口ずつ食べさせてあげたりと、とことん甘やかした。甘やかされたトキワは人生の春に有頂天になっていた。


 ぴったり肩を寄せ合い、今度海水浴へ行く約束をして、港町に着いたら一緒に水着を買おうなどと話していると、ドアをノックする音がした。


「乗務員が依頼完了届持って来たかな?」

「そうなんだ。私出るねー」


 命が立ち上がりドアを開けると、訪ねて来たのは装備を解いた勇者エアハルトだった。


「少年!僕の仲間になってくれ!」

「きゃっ!」


 エアハルトは突如命に抱きついて、トキワに仲間になれと勧誘した。どうやら客室にいるのはトキワだけだと思い込んで、相手を確認せず命に抱きついたようだ。


「ハッ、柔らかい。それに良い匂いがする……」


 抱き締めた感触に違和感を感じたエアハルトは確認するように命の体をペタペタと触れて、最後に特に柔らかい彼女の双丘を傍若無人に揉みしだいた。


「これはまさか……おっ、おんにゃのこ!?」


 最後にもう一度抱き締めた後に命の顔をジッと見つめると、エアハルトは硬直して、顔を耳まで真っ赤にして口をパクパクさせた。


「死ね」


 抱き締められた命を引き剥がして、トキワは殺気立った顔でエアハルトを容赦なく蹴り飛ばした。


「死ね、死ね、死ね」


 蹴り飛ばされて尻餅をついたエアハルトをトキワは何度も蹴りを入れて、殺意の籠った声で死を願った。

 

「と、トキワ!私は大丈夫だから!」


 このままじゃトキワが殺人犯になりかねないと危惧して、命は慌てて彼の背中に抱きついて止めた。


「……消毒しなきゃ」


 もう一度エアハルトを蹴飛ばして通路に出してから、トキワはドアを閉め鍵をかけると、命と向き合い強く抱き締めた。


「あんな奴一瞬でも尊敬した自分が恥ずかしい」

「さっきの人、一緒に戦ったAランクの冒険者?」

「そんなとこ」

「Aランクにしては随分若い人だったね」


 命がエアハルトに興味を持った事に危機感を感じたトキワは命のシャツのボタンを三つ外し、白い胸元に強めに吸い付き、赤い痕を残した。


「他の男のこと考えないで」

「私の心の中は……トキワのことだけだよ」

「はあ、ちーちゃん……大好き!」


 緊張気味に答える命にトキワはこの上ない至福を感じて、命の唇に深く口付けた。しばし客室に唾液が混じる音が響き甘い空気が漂う中、再びドアがノックされる。


「トキワ……」

「無視しよう」


 ノックに舌打ちしてから、トキワはベッドに移動して命を膝に乗せると、居留守を決め込む。しかしノックは鳴り止まない。


「話を聞いてくれてー!」


 このままドアが壊れてしまうのではないかと思われるくらいノックが鳴り止まないので、堪忍袋の緒が切れたトキワは命に自分のフード付きの外套を着せ、エアハルトの視界に入らないように部屋の奥に座らせて鍵を開けると、勢いよくドアを開けた。


「うるさいっ!邪魔するな!」


 吠えるトキワにエアハルトはようやく相手してもらえると歓喜するが、またドアを閉められそうになって、急ぎドアに足を挟んで阻止した。


「どうか僕の話を聞いてくれ!」

「断る!」


 中々諦めないエアハルトにトキワは再び殺意が芽生えて来た。


「話くらい聞いてあげたら?」


 ドアノブを握るトキワの手に手を添えて、命は呆れ気味に提案した。


「おひょっ!お、おおおんにゃにょこ……」


 エアハルトは命に気づくと奇声を上げる。


「……わかった」


 これ以上野放しにしておけない。トキワは忌々しげにエアハルトを睨むと、諦めて命の進言通り話を聞く事にした。


 

 


 


 








 


 

 

 

 

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