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105他人事5

いつの間にか気を失ってしまっていたらしい。命が目を開けると、汽車の天井が見えた。身体を起こし辺りを見渡せば、自分が医療車両のベッドの上にいることに気が付いた。車内は個室のようで、人は見当たらない。


 火災の影響で汽車は停車しているはずなのに、車窓からの景色は木々が流れていて、いつの間にか森林地帯に移っていた。


「ちーちゃん起きた?」


 医療車両に荷物を持ったトキワが入ってきた。疲労困憊の命と違い、背筋は真っ直ぐとしているし、顔色もいい。荷物を床に置いて命が寝てるベッドに腰掛けると、トキワは挨拶のように命の頰に口付ける。


「どうなったの?」


 火事の顛末を尋ねる命にトキワは彼女の頭を撫でながら、穏やかに笑った。


「覚えてるかもしれないけど、食堂車は無事鎮火。その後ちーちゃんの意識が無くなったから女性の乗務員に医療車両で看病してもらうことにした。で、このままじゃ汽車が動かせないから、俺が車掌に掛け合ってギルドへの緊急依頼を俺が引き受けた形にして、燃えた食堂車を魔術で線路からどかして通れるようにした。因みにちーちゃんの消火活動も緊急依頼にしてもらったから、あとでギルド経由で報酬がもらえるよ」


 簡単に言っているが、いくら燃えた車両とはいえ一人で魔術で持ち上げて動かすなんて、よっぽど魔力が強い人間じゃないと到底出来ない。車掌を始めとするその場にいた人間はさぞや驚いたことだろう。


「そんなに魔術使って疲れは無いの?」

「全然、俺なんかよりちーちゃんは大丈夫?三時間位眠ってたみたいだけど」


 命を迎えに行く際にトキワは汽車を使わずに風に乗って空を飛んできたが、人としての体力の消耗は多少あったが魔力が減る様な感覚はまるで感じられず、どうやら今の所自分の魔力は無尽蔵のようだと分析した。


「私はご覧の通りよ。寝てたら回復すると思う」


 一方で青白い顔で命は目眩に片手で頭を抱える。魔力の回復には休息と栄養が一番身近だ。魔力が込められた薬や飲食物をとったり、神殿の浴場のように魔力のある水に浸かるのもいいが、汽車の中では到底叶わない。


「何とか魔力は少し残っているからこの程度で済んだけど、完全に無くなってたらどうなってたやら……」


 次第に頭が痛くなってきた命は目を瞑り苦痛に耐える。身体から魔力が無くなると死にはしないが、酒に泥酔した時と同じ現象が起きると聞いている。


 つまり自分が魔力が無くなった時どうなるかは酒を飲んで泥酔したら分かると以前レイトが言っていた事を命は思い出す。ちなみにレイトは酒に酔うとどこででも寝てしまう。


「辛そうだね。ちょっと試してみるか」


 独り言の様に呟いてからトキワは命に近寄り抱き寄せると血色の悪い唇に口付けて舌で口内に侵入した。


「んっ……」


 突然の行為に命は一瞬驚き声を漏らすが、体の力が抜けて抵抗する力が無く、トキワにされるがままだった。


 キスを続けているうちに命は目眩や頭痛が和らいできて、正気に戻り、倦怠感の残る体を仰け反らせて、涙目で息を荒げた。


「何でっ、こんな事……」


 乱れた髪の毛を手櫛で直しながら命が尋ねると、トキワは獲物を狙うような目で笑い、舌舐めずりをした。


「ちーちゃんの魔力を回復してみた。暇な時に神殿の図書館で調べたんだけど、魔力の回復には魔力の高い者の体液を摂取するといいって書いてたから、唾液でもいけるかなって。勿論ちーちゃんが望むなら、一番効果があるらしい生き血も捧げるけど?」


 どこか聞き覚えのある情報に命は記憶を辿らせると、以前魔力の量を増やしたいと思った時に調べた文献にそんな本があったことを思い出した。しかし本自体はオカルトな内容だから読む必要ないと祈に止められたため、最後まで読んではいなかった。


「ちなみに効果はあった?」

「教えない!!」


 キスの効果を尋ねるトキワに真っ赤な顔で叫び、命はシーツを頭から被り横になる。


「それだけ元気な声が出るって事は効いたんだね。また魔力が減ったら沢山キスしようね。もちろん減ってなくてもするけど」

「もう、からかわないでよ!駅に着くまで寝るから起こさないで!添い寝はダメだからね!」

「はーい、おやすみちーちゃん。大好きだよ」


 シーツ越しに頭を撫でてから口付けると、トキワはベッドから降りてベッドの向かい側にある座席につき、脚と腕を組んで目を閉じて睡眠を取ることにした。


 その様子をしばらくシーツの隙間から窺ってトキワが完全に寝たと見做した命は起こさないように、ベッドから出て眠っているトキワの額に口付けた。


「ありがとう……私も大好き」


 小さな声で感謝の気持ちと好意を伝えると、命は逃げるようにベッドに戻りシーツを被った。


 

 


 







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