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10精霊祭と友情1

 窓から入る秋風の心地よさに命は表情を和らげた。


 倒れている所を拾って一週間秋桜診療所で世話をした銀髪の美少年、トキワが父親と共に家に帰って行ってから三ヶ月…隣の集落に住んでいるし、あれから姿を見せなくなるかと思いきや、彼はほぼ毎日修行という名目で、自宅と診療所までの片道十kmの距離を走って通い、命の前に現れては、甘い口説き文句で翻弄していた。


 一応修行もちゃんとしていて、レイトから基礎を叩き込まれている。少しだけ気になって、修行場である家から徒歩一分の場所にある空き地に、命は祈と共に様子を見に行った事があったが、トキワが命に夢中になってしまい、修行どころじゃなくなってしまったので、以来用が無い時は近寄らない様にしていた。


 今日はレイトと丸一日遠出している為、トキワは診療所に来なかった。なので命は久々に静かな休日を過ごすことが出来ていた。


 もうすぐ水鏡族の精霊祭が行われる。精霊祭では東西南北の集落が毎年交代で主催して、神殿を賑わせている。


 今年は命の住む西の集落が担当だ。主催する集落の人間だけが一日だけ精霊の神子として白を基調とした民族衣装を着て、精霊をもてなすというしきたりがある。


 その準備として命は四年ぶりに着る民族衣装の用意をしている。四年前の衣装は腕を通すことも出来ないくらい小さくなっていたので、妹の実に譲る事にして、命は桜から着なくなった衣装を譲り受ける為に試着していた。


「うわ、ちー、似合わないなー」


 胸の下からストンとシフォン生地に切り替わっているエンパイアラインの衣装はお世辞にも命に似合うものでは無かった。


「胸がキツい。はみ出そう…」

「うるせー!このロリ巨乳が!」


 命の発育がいいのは身長だけでなく、胸も周囲の同級生どころか、大人と比べても大きかった。桜はどちらかというとスレンダーな体型なので、エンパイアラインを着こなしていた。


 この発育の良さは一体誰に似たのか?おそらくは体が熊の様に大きい父親似だろうと結論は出ているが、横の大きさまで遺伝しない事を命は切実に願い、太り過ぎない様に常日頃から気を付けていた。


「新しいの注文するには時間がないし、頑張ってリメイクしなきゃな。オフショルダーのビスチェにスカート部分を繋げる感じかなー。少し膨らませて長さは膝下丈にしよう」


 頭の中で命は自分に似合いそうなデザインを想像する。針仕事は得意だが、念のため命は自分の持てる技量で作れるか考え呟く。


「面影が無くなりそうだな」

「イチから作るよりはマシなはず!とりあえずビスチェから始めないと。桜先生サイズ測って下さい」


 ドアに鍵をかけ窓も閉め、カーテンをしてから、命は桜に巻尺を差し出した。やれやれと巻尺を受け取ると、桜は命の指示通りに寸法を測ってやる。


「うわ、また胸が大きくなってる!」


 以前測った時よりも一サイズ大きくなっていた事に命は驚き嘆いた。これ以上大きくなれば既製品の服の選択肢が大幅に減ってしまう事を恐れていた。


「育ち盛りめ。仕方ない、明日叔母様が新しい下着を買いに港町に連れて行ってやろう。衣装の材料もいるだろう?」


 独身で子供がいない故に、一番懐いている命がなんだかんだで可愛い桜は、買い出しを提案した。自身もちょうど買いたい物が溜まっていたので、ちょうどいいと思っていた。


「やったー!先生愛してる!」


 抱きついてくる命に桜はどうせなら美少年のトキワくんに抱きついて欲しかったと毒付きながらも、可愛い姪っ子の頭を撫でた。


「せっかくだから喫茶店でケーキも食べよう!」

「それは私の奢りなのか?」

「よろしくお願いしまーす!」

「現金な奴め、いいぞ。代わりに帰ったら、マッサージのフルコースをしてもらうからな」

「はーい」


 明日の予定が決まって上機嫌な命は桜と共に民族衣装のリメイクのアイデアをスケッチして時間を過ごしてから、日が傾き始めると、夕飯の準備を手伝う為に診療所を後にした。


 夕飯を家族みんなで食べてから、妹とお風呂に入った後、命は自分の部屋で明日着ていく服を吟味していた。普段はパンツルックばかりだが、久しぶりに桜との港町でのお買い物だし、久々にお気に入りのワンピースを着ようと、クローゼットから引っ張り出して当ててみたら、いつの間にかスカートの丈が膝下から膝上になってしまっていて、ショックを受けた。


 仕方がないのでワンピースは諦めて、明日新しい服も買おうと決めると、父親にお小遣いを集る事にした。


「お父さん、明日桜先生と港町にお買い物に行くからお小遣いちょうだい!」


 ダイニングでレイトと酒を飲んでいるシュウに命は精一杯猫を被っておねだりをした。可愛い娘のお願いにシュウは酒で赤くなった顔を綻ばせて、何度も頷いた。


「もう、お父さんは本当に娘に甘いんだから」


 台所からやり取りが聞こえていた母の光が顔を出して苦言を呈した。このままではお小遣いが貰えない。焦った命は事情を説明する事にした。


「最近また大きくなっちゃって、服が小さくなっちゃったの!ワンピースの丈なんか膝上だよ?そんなの恥ずかしくて着れないよ」


 成長をアピールすれば見逃してもらえると考えた命の主張に、光はそういう事ならばと、財布からお金を取り出し、無駄遣いをしない事と、桜に買ってもらい過ぎないようにと注意を添え、服代として金貨を一枚渡してから、再び台所へ消えた。


「ちーちゃん、お母さんには内緒だよ」


 小さな声でシュウは部屋に戻ろうとする娘に手招きして声をかけると、こっそりと金貨一枚を手渡してから、人差し指を立てて笑った。


「ありがとう、お父さん大好き!」


 声を潜めて感謝を告げ、熊のような父親の大きな体に抱きついてから、命は足音を弾ませて階段を上ると、明日に備えて眠りにつく事にした。




 


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