099◇パンツ屋さんの危険な罠
路地を抜けて、ポップでカラフルな『おしゃれ通り』に出た。
『女王国』だけに、女性向けのお店ばっかりだ。
いろいろな場面で、男は肩身狭い思いしないといけないもんな、この国。
「いい仕事してますね」
11歳の『巫女見習い』ヒサヤが、大人みたいな口調だ。
店舗の壁面を眺めて、何事かに感心してるようだ。
「何?」
ミーヨが訊ねると、ヒサヤは少し慌てたように、
「ヌメ……いえ、『塗り壁組合』です。綺麗な壁の色だなあ、って」
何かを取り繕うように言った。
「ヌメヌメスベスベにぃ、決まった色のー、『虹色豆』だけをー、食べさせるとー、こんなー、ぽわわわーん、としたー、淡い色をー、出すそうですう」
お肉をたくさん食べて、心なしか巨乳度がUPしてるクリムソルダ嬢だ。
ぽわわわーん、とした淡い色って、壁のパステルカラーの事か?
目の前の壁は、微妙な感じの水色だ。
他にも薄いグリーンの壁や、淡いピンク色もある。
なんとなく『ベル○ブブ嬢のお気に召すまま。』の色彩設計を思い出させる色合いだ。そう言えば、閣下もとんでもない巨乳でいらしたなあ……(しみじみ)。
ヌメヌメスベスベは、這った跡を白く塗り固めるカタツムリ似の謎生物だけど……エサを変えると色々な色を出せるらしい。ニワトリの玉子も、殻の色どころか中身の黄身の色も変えられるって、何かで見た事あるな。
『虹色豆』にも「青」や「深緑」や「赤」があるから、元々の「白」と混ざると、こんな感じの、ぽわわわーん、とした淡い色になるワケか。
『仮面の男』こと元・第二王子も、ヌメヌメスベスベを捕まえて『塗り壁組合』に売るとか言ってたから、そこで塗装専用に特別に調教……じゃなくて飼育されてるのかな? てか、その話した時、この子もいたっけ。でも、その記憶は消されてるんだったか? 「やり直し」って厄介だな。俺アホだから混乱する。
「クリムソルダさん、物識りなんですね」
「でもー、ヌメヌメスベスベはー、苦手ですう」
その割に、にこにこと、いい笑顔だ。
ついつい大きなお胸ばかり見ちゃうけど、穏やかでおっとりした感じのお顔も可愛い。
一方、ヌメヌメスベスベが大嫌いなミーヨは、話の途中で逃げるように向こうに行ってしまった。
猫耳奴隷のセシリアに「癒し」を求めて抱きついて、セシリアを困惑させてる。
「……(しょぼーん)」
そして、ヒサヤが落ち込んでる。
自分で「解説」したかったのかもしれない。
実は、彼女が『骨董品店』で手にしたのは『ヌメヌメスベスベの置き物』だったのだ。⑦――Jっと。
変な生態の謎生物が好きだとか、なかなか「通」な子だ。
(……痛)
そんな呻き声がしたので、ふと見ると、ロザリンダ嬢の歩き方が変だ。
ガニ股で、とんでもなくみっともない歩き方をしてる。
そして『七人の巫女』ともあろうお方が、何故か不機嫌そうなオーラを周囲に撒き散らしている。
ぷりぷりとした怒気を振りまいている。
なおかつ、お尻もぷり……ん? ……し、下着の線が無い。
まさか……貴女もノーパン?
俺が、その部位に真剣に注目していると、
「なに見てるんですか? プロペラ小僧さま」
アナベル嬢に話しかけられた。
「ロザリンダ様。腰が悪いんじゃないんですか? 歩き方が変なんですけど」
つい応じてしまったけれど、俺は「プロペラ小僧」ではない。
「ああ、なんでも『イタズラ』されたらしいですよ(ニヤリ)」
アナベル嬢はそんな事を言って、いたずらっ子のように笑った。
「イタズラ?」
あの痛がり方は、イタズラじゃ済まない感じですけど?
「今代の『聖女』さまが、お茶目な人でね。なんかされたらしいんです」
「……へー」
ただ、アナベル嬢も具体的にナニをされたかは知らないようだ。
その『聖女』さまも間違いなく女性だろうし……やっぱ百合的なナニか?
でも、お尻を庇っているようにも見えるし、「ブラックロワイヤルマグナムシューター(※『鬼灯の冷○ 第弐期』より)」的な何かでも喰らったんだろうか?
「ロザリンダさま」
「…………」
無視かよ。
「もしかして『●゛』ですか? ヒサヤに癒してもらいますか?」
「そ、そっちじゃありません! 長いあいだ椅子に座って事務仕事をしていたので、腰痛がするだけです!!」
ロザリンダ嬢が赤い顔で怒鳴った。
心配してあげたのに、めっちゃ怒られたよ。
俺の発言にも多少の非は、あったかもだけど。
「事務仕事? 『七人の巫女』がですか?」
「だからです。『七人の巫女』は、次代の『巫女』を選ぶ『巫女選挙』の選挙運営委員を務めるのが慣例なのです!」
「……へー。あ、それはそれとして、『癒し手』のヒサヤに」
クリムソルダ嬢は動物専門の『癒し手』らしいし、アナベル嬢が『神聖術法』とか使えるかどうかは知らないし、「初段」の二人は論外だし、ここはヒサヤで「一択」なのに。
「結構です!!」
物凄い怒気。
そして、そのままズカズカと歩いて行った。
「なんで、あんなに怒ってんだろ? 次郎さん、何か言いました?」
たまたま近くに来たので、訊いてみると、
「いやー、俺がシャー・リイさんと結婚するとしか」
……じゃあ、そのせいだよ。
◇
でも、実はもう一人、危なっかしい歩き方の子がいる。
俺が買ってあげた『こっそりとカカトが高い靴』が足に合わず、歩きにくいのかもしれない。⑪――Kっと。
それとなく見守っていると、
「きゃっ!」
ついに、ちょっとした段差で躓いてしまった。
彼女はそのままバランスを崩して、
「あ、あっ、あっ……あぎゃっ!!」
たまたま先行していたクリムソルダ嬢の背中に、倒れ込んでしまった。
「はううう?」
クリムソルダ嬢自身は無事だったけど、たまたま先行していたドロレスちゃんに、大きなお胸で追突してしまった。
ぼよよーん。
「えっ? あっ、とっ、あっ」
衝突の反動で、体勢を崩したドロレスちゃんが、ちょん、ちょん、ちょん、と前のめりの姿勢で爪先で歩き出したと思ったら、たまたま先行していたロザリンダ嬢のお尻に頭突きしてしまった。
「……うっ!」
まるで不意に「弱点」を攻撃されたみたいに、ロザリンダ嬢が海老反った。そして、今度は前方へ海老のように丸まると、たまたま先行していたプリムローズさんのお尻に頭突きしてしまった。
「うおっ?」
当たったのは、お尻ではなく膝裏だったらしい。
膝カックン的な崩れ方で、たまたま先行していた『五の姫』ちゃんに助けを求めるかのようにすがりつき、その背中にある服の「止め紐」を掴んで、服を脱がせてしまった。
そして――
「んぎゃっ!」
いきなり後ろから服を脱がされてしまった『五の姫』ちゃんの正面には――何故か、俺が居た(笑)。
パシャパシャパシャ……
つい反射的に『光眼』の「カメラ機能」を連写してしまったけれども……。
「……大……丈夫?」
ハイ。『五の姫』ちゃんが「男の子」である事が確定しました(泣)。
「プロペラ小僧さまのえっち」
おう、おう、そうともよ。
おそらくは「男女の組み合わせの二卵性双生児」の、男の子の方の『無かった事にされた子』であろう、まだ名前を知らない『第三王子』が、まるで女の子みたいに両手で胸元を隠しながら、そう言った。すこし潤んだ瞳で。てか、股間を隠しなさい。股間を。
「「「「「あらあらあらあら(半笑い)」」」」」
『五の姫(?)』ちゃんは、みんなのフォローで包み隠された。
この様子だと……最初から、みんなは知ってたのか?
実は男の子だったって言うのに、全然動揺してないぞ
そして、なんであの子には『双子星』がないんやろ?
教えて、ミーヨ先生!
「あー……うん、姫ちゃん以外は、みんな知ってたよ?」
あっさり。
「俺にも教えといてくれよ!」
「ポーニャさんと年が離れてる上に、めったに会わないから、間違えたんだって」
「……まったくもーもー」
「それと、男の子と女の子の双子の場合は、見分ける必要がないから、そもそも入れないんだって」
「ああ、色々と凸凹あるもんなー」
やれやれ、そんな理由か。
まったくもーもー。
連鎖型のラッキースケベ・イベント発生か? と思ったら。
結局のところ、負傷者ゼロの、人間ピタ○ラ装置だったよ。
アレって最後は「旗」が立つんだっけか?
ヤだよ、こんなフラグ。
◇
みんな怪我はなかったのな。
ロザリンダ嬢一人だけが、尻餅をついたまま動けなくなっているよ。
「……(うっくぅぅぅう)」
涙目だ。
ナニかの痛みに貫かれているらしい。
そして、痛めているという腰を、決定的に悪化させてしまったらしい。
「……(んっくぅぅう)」
大きく開脚したまま、本当に立てなくなってしまった。
目を閉じて苦悶する表情が色っ……イヤ、ハッキリ言おう、エロい!
「ヒサヤ!」
呼ぶと、
「はい」
すぐに返事があった。
となりで様子を見守っていたらしい。
「お兄様……よろしくお願いいたします」
『合体魔……イヤ、合体神聖術法』だ!
小さな『巫女見習い(二段)』が、照れくさそうに俺の手を握った。
きちんとミーヨから説明を受けていたらしい。そこにいる「メロンおっぱい」の人と違って、間違えてヘンなところを握ったりはしなかった。
「参ります! ☆癒しの手☆」
白い光をまとった小さな手が、ロザリンダ嬢の腰を撫で、擦る。
ちなみに「腰」って「ウエスト」ですよ。ケツじゃないっスよ? あと、某寄宿学校とも無関係っス。
「ひぃやぁっ!」
ロザリンダ嬢が呻き声を上げる。
なんで、そんなエロい声出すのかな、この女性は。
「いかがわし……じゃなくて、いかがですか?」
「……良いようです。助かりました」
でも、屈辱に耐えているような表情だ。
本当に回復したらしい。自力で立ち上がると、
「……ぼそぼそ(元は『獣耳奴隷』の子に癒してもらうなんて!)」
低い声で、そう吐き捨てて、さっさと歩きだした。
俺は思わず、ヒサヤを見た。
聞こえてなきゃいいんだけどな……。
「……『巫女』さまは、私の事がお嫌いなのですね」
聞こえてたか。
「気にしないでいいよ、チビちゃん。あの人って自分が『癒し手』じゃないから、年下の『癒し手』が全部気に入らないのよ」
そう言ったのは、『巫女見習い(たぶん三段)』のアナベル嬢だった。
小さい女の子にコンプレックス……イヤ、「劣等感」と言うべきだな、そんな厄介な感情を抱いてるとしたら、色々と生きずらいだろうな。
「そうなんですか? アナベルさん」
「あっ、名前憶えてくれたんですね? ……って、あああっ! 『巫女選挙』の前って男の子に名前教えちゃいけない決まりなのにィィイイイっっ!!」
アナベル嬢は絶叫した。……って、またソレかよ。
ちなみに一連の騒ぎの原因が、この子だ。
カカトが極端に高い靴を履いてて、転んだのだ。
激動の昭和を生きぬいた|(そこまでの年齢じゃないか)プリムローズさんが、その靴を見て「『しーくれっと・ぶーつ』みたい」とか言ってたよ。
「……(がっくし)」
アナベル嬢は、がっくりと項垂れている。
「大丈夫ですよ。教えてくれたのは、お姉さんのシャー・リイさんでしたから」
俺が言うと、彼女はあっさり立ち直った。
てか、きちんと紹介されてたぞ。その事忘れてんの?
「あっ、そっか。だよね? うわー、あぶなー」
「……」
段々と「地」が出て来てるよ、あんた。
生物学的分類でいくと「バカ綱アホ目」だよ? 俺もそうだけれども。
「あっ、そう言えば、ロザリンダ様って、膝に『双子星』あったね? あの人、双子だったっけ?」
不意に、アナベル嬢にそんな事を言われた。
その件については、それなりに事情は知ってるけれど、説明がめんどくさい。
テキトーに誤魔化して逃げよう。
「そうだった?」
そう言うと、アナベル嬢に睨まれて、
「まさか、ロザリンダ様のパンツを、ずーっと見てたとか?」
そんな事を言われた。
「……イヤ、パンツなんて、ぜんぜん見てないよ」
だってロザリンダさまったら、何故かノーパンだったんですもの(笑)。
フツーのラッキースケベだと思ってたら、またまたとんでもないものを見てしまった。どーしよう?
俺がロザリンダ嬢の後ろ姿を見やりつつ、どっかの警部みたいな事を考えていると、誰かの視線を感じた。
「……(ジロリ)」
アナベル嬢だ。
なぜそんな目で、俺を見る?
「……このお兄さん、ちょっと危ないから、あっち行こうか」
「あ、いえ、私は慣れ」
アナベル嬢はヒサヤの手を引いて、みんなの方に行ってしまった。
別にいいけど……アナベル嬢、攻略に失敗――っと。
◇
「ここ、最近開店したばっかりなんだって!」
第二侍女ポーニャ嬢に案内されたのは、『おしゃれ通り』の隅にある、わりと大きなパンツ屋だった。
……イヤ、正確には女性向けの、総合的な服と小物のお店だった。総合衣料品店だ。
当然、パンツも売ってるし、季節がら『水着』も売ってるらしい。
「いらっしゃ~い!」
店主は中年の女性だった。
愛想は良いものの、人相が良くない。
「「「「「……お邪魔しまぁす」」」」」
みんな、ぞろぞろと左右を見渡しながら、店の奥へと入って行く。
「あら~? 『猫耳』ちゃんはダメよ~、捕まえて『北の帝国』に売っちゃうわよ~」
目ざとく猫耳奴隷のセシリアを見つけて、そんな事を言われた。
単なる入店拒否じゃなくて、本当にそんな事をやりそうな感じの、鋭い目つきだった。
「セシリア、今回は俺も外で待つから」
「あい」
女性向けの「パンツ屋(※正しくは総合衣料品店です)」なんて、男の俺は入り辛いしな。
茶トラ君共々、セシリアと外に居ようっと。
「俺もいいっすか」
次郎氏もか。
でも、実は店の正面の扉は全部取り外されていて、通りにまで商品があふれて、半分露店みたいな事になってるのだ。
外からでも、店の中の様子は丸見えだ。
「何をお探しかしら~、みなさんが気に入るようなものが~あればいいのだけれど~」
女店主が、ねっちょりとした声をみんなにかける。
不気味と言えば、不気味だ。愛想良すぎる気もする。
みんな、てんでに好きな物を見てるらしい。
そろそろ『昼の一打点(午後12時半くらい)』の鐘が鳴るハズなので、午後から『しえすた』の約束があるラウラ姫とドロレスちゃんを『おっぱい宮殿』に送り届けるために「飛んで」行かないといけない。
二人とも、それを知ってるから、ちょっと焦ってるっぽい。
てか、ラウラ姫は自分で自分の下着なんて、買った事ないんじゃないのか?
でもそうなると、誰がどうやって着る物調達してたんだろ?
筆頭侍女のプリムローズさんが、第二侍女ポーニャ嬢に言いつけてたのかな?
当然、ネット通販なんて無いし……「王室御用達」みたいな「パンツ屋さん」が、直接売りに来るのかな?
「良かったら~、試着してみてね~、ウチは大きな鏡のある試着部屋が自慢よ~」
女店主はそんな事を言った。
へー、珍しいな。
「「「「「……えっ?」」」」」
みんな結構そんなんが好きらしい。
早く選んで、試着部屋とやらに駆け込みたくて焦り出してる。
「ほい、ほいっと」
「……みゃぁぁああ゛あ゛あ゛あ゛」
だんだんヒマを感じてきたらしい次郎氏は、『猫じゃらし』で茶トラ君をからかい始めた。なかなか、からかい上手の稲田さんだ。彼の名字は高○じゃないのだ。
「むにゅう」
それを見たせシリアが、面白くなさそうにむくれると、自分の後ろに着けていた『黒い猫尻尾』を取り外して、茶トラ君の前でぶらぶらし始める。
「……みぃぎゃ?」
茶トラ君が、どっちにしようかと迷ってる。
確かにね。「二択」って、いちばん選択がむつかしいよね。
店の奥では――
「ああ! これとこれと、どっちにしよう! 迷ううううっ」
両手に二つの『水着』を持ちながら、アナベル嬢がデカい声を出してる。
「あらあらあら~、そしたら両方とも試着しましょうか~」
こういう時は目立ったもん勝ちらしい。
「じゃ、そうするっ!」
アナベル嬢が「試着部屋」一番乗りを決めた。
カーテンで区切られた「試着部屋」は、出入り口近くにあった。
普通、店の奥に設置するものなんじゃねーの? 服着たまま逃げられそうな場所なんだけどな。
「そこのちょっと危ないお兄さん、覗かないでねっ!!」
アナベル嬢にデカい声で、言われた。
他のみんなに聞かれてるし……この子、後でなんらかの「お仕置き」が必要だな。
「だいじょうぶ~、『魔法』で密封しま~す。えいっ、『★密封っ☆』」
俺たちが発動させる『合体魔法』と比べると、あきらかにショボい数のキラキラ星が、カーテンにしゅわんっ、と張り付いて透明になった。
こんなんでいいの? なんか俺がその気になれば、破れそうだけど……。
よし! でも、覗かない!!
俺はそう決めた。
(どう? 似合いますう?)
カーテンの奥から、アナベル嬢の声がした。
(あら、いいわね~、ちょこっと失礼。えいっ!)
(きゃ、なに、その水? 濡れちゃったじゃないっ!)
(いいのよ~、水着なんだから~、濡らしてみて~、肌への貼りつき具合も試してみるものなのよ~)
(えっ、そんなものなの? でも)
(いいのよ~、★乾燥っ☆ ホラ、乾いた~)
(うきゃ、それはそれでこそばゆ~い!)
(えっ? きゃぁぁぁぁああああああっ!!)
まるで「絹を引き裂く」ような悲鳴だった。
ここはパンツ屋(※総合衣料品店です)だから、ガチでそれやったら、また弁償ものだけど……あくまで例えだ。
それは、アナベル嬢の声だった。
一体どうしたんだ?
(な、なんで、わたしに『奴隷の印』があああっっ!?)
え? 『奴隷の印』? 「蒙古斑」の事か?
なんだよ、アナベル嬢。まだケツが青いのか? プークスクス……って違うな。
なんか不自然で、変だぞ。
「どうしたの? アナベル? 何があったの?」
妹の悲鳴に駆けつけて来たのは、姉のシャー・リイ嬢だった。
「ちょっと! 開けてくださいな!」
『今、開けます~お待ちを~』
『あっ、ダメ。開けないでっっ!』
シャー
カーテンが開くと、黒髪の少女の後頭部が見えた。
そして、その白い裸の背中を辿って視線を下に向けると……そこには試着していた『水着』を太ももの辺りまでズラして、半脱ぎ状態になった…………ってあれ?
「……ナニソレ?」
俺は大・大・大好物の、ヘタしたら三度の飯より好きかもしれない☆半脱ぎ状態☆(※『神聖術法』ではありません)の女性を目の前にしながら、呆然としてしまった。
「み、見ないでっ!」
見られないように、手で隠すけど……指の隙間から見えてる。
「アナ……ル。アナ……ベル。どうしたの? それ?」
シャー・リイ嬢が妹を見て愕然としている。
「いやぁぁぁあああ、違うのぉぉぉおおおっ!!」
アナ*ル嬢……イヤ、アナベル嬢が叫んだ。
「さっき、何気なく自分の後ろ姿を鏡で見たら、いきなり、出てたのおっ!」
そう、彼女の白いお尻には、薄青いまだら模様……「蒙古斑」があったのだ。
「これは~大変ね~! 未登録の『獣耳奴隷』が一般市民のフリをして、街中に居たなんて~!」
女店主は、妙にわざとらしい大声で言った。
「ち、違うのぉおっ、わたし、奴隷なんかじゃないのぉぉおおっ!」
アナベル嬢は、駆けつけて来たみんなの前で、泣きじゃくり始めた。
「知り合いの『奴隷商人』に連絡しないと~」
女店主がそんな事を言い出す。
「そんな! いやぁぁぁあああっ!」
アナベル嬢の危機だった。
「待った!」
彼女の危機を、間一髪で救ったのは、もちろん、この俺……の隣にいた次郎氏だった……って、あれ?
「いやー、ヒドい手口だなあ!」
次郎氏はアナベル嬢を庇うようにその前に立ち、ニヤリと笑ってそう断言した。
そして、その姿を熱く見つめるシャー・リイ嬢の目が、オトメナスだ。恋する乙女だ。
てか、「井〇裕香」……じゃなくて、「手口」と言うからには、何かのトリックで青く染められたのか? そんで、優ちゃん可愛いよね。『○Trick』。
それはそれとして、俺は夏場に新品のジーンズを洗わずに穿いていて、尻が青く染まった事があるけれど(笑)。
「それ、アイでしょ?」
「……あい?」
猫耳奴隷のセシリアが、可愛く小首を傾げた。可愛い。
アイって、アルファベットの「I」か。
『骨董品店』で買った『香水瓶セット(中はカラ)』だな。実はこれは……。
「藍染めって言う『東の円』の染物の液はね、普通は薄い色なのに、空気に触れて乾くと青い色に変わるんすよ。それで布地や糸を染めるんす」
次郎氏が言った。
『藍』って日本の染料だな?
なんかの化学反応で酸化して色が出るんだっけか?
「……ぼそぼそ(藍染が商売の『紺屋』の大甕に隠れてて、「瓜」で買収された子供に、隠れ場所を密告されて敵方に捕まっちゃったの誰やったかな?)」
プリムローズさんが、やたらと長目の独り言を呟いている。
そんな事言われると、俺も気になっちゃうな。あとで訊いてみようっと。
「それで、あんたは『未登録奴隷』の『第一発見者』として、彼女を『奴隷商人』に売り飛ばすつもりだったんでしょう? まったく、よくやるよ、自分で染めておいて」
次郎氏はそう断じた。
なるほど、そんな仕掛けか……。
今回、未遂で終わったけど、成功してたら『地球』の都市伝説みたいな事になってたろうな。
『恐怖! いきなり客が売り飛ばされるパンツ屋』とか。そんな感じで。
「「「「「……」」」」」
みんなは「手口」を明かされた女店主の反応を見る。
「はあ~、あ・い・ぞ・め~? 知りません~、なんですか~、それは~?」
白を切るつもりなのか、まったく動じていない。
「ああ、分かった! じゃあ、『ミドリ汁』だね?」
プリムローズさんが言った。
「「「「「ミドリ汁うっ!?」」」」」
なんか不味そう。
言われた女店主は、
「ひぐッ……くううっ」
明らかに動転している。
どうやら、プリムローズさんの方が「正解」だったらしい。次郎氏惜しい。
「ぐぬぬぬぬ。こうなったらヤムをエム」
やっぱり『王都』で流行ってんだな、それ。
「おどきっ!」
「ゆかいな仲間たち」で出来た人垣をかき分けて、建物の奥に逃げ込もうとする。
マズい。
俺の『光眼』は今「受光」「カメラ機能」で撮影の真っ最中なのだ。
急いで「発光」「レーザー眼・天罰モード」に切り替えないと!
と思ったら、
「はッ!」
ラウラ姫の「裂帛」の気合だった。
ここはパンツ屋(※総合衣料品店です)だから、ガチでそれやったら、またまた弁償ものだけど……あくまで例えだ。
「ぐへえ」
姫の『抜刀術』の一撃を受けた女店主は、あっさりと崩れ落ちて……死んじゃったの?
「む? ジン、すまぬ。『竹棒』折れた」
真剣じゃなくて、「竹光(?)」だったらしいです。
そんで、その『竹棒』はオマケで貰ったタダのやつだから。別にいいよ。
◇
「ミドリ汁って何?」
何の出番もなかった俺様は、とりあえず疑問だった事をアホな子のように質問した。
「前にちらっと『ミドリさんたち』の事話さなかった? 彼女たちが排出する液体よ」
答えたのは、みんなの説明役で解説のプリムローズさんだった。
手には、意外にも白いパンツを持っている。
てか、『ミドリさんたち』なんて言われても、覚えてない。
ところで「彼女たち」って何だ? 人なのか?
「髪の毛がー緑色のー葉っぱっぱのー、女の人みたいなー樹ですねぇ」
クリムソルダ嬢がのんびりと答えた。
手には、大きな「鍋つかみ」……と思ったら、お胸を隠すブラ的な下着を持っていた。さすがは「メロンおっぱい」! 他の子とはモノが違うな。
「温暖な『美南海』の島で育成されている『女体樹』の一種です」
まだ11歳だけど、物識りなヒサヤが補足する。
ああ、それなら聞いた事あるな。
女体……って心ときめくワードだけど、樹だしな……実は『化物』のタマゴに、植物の種子を植え付けると、そんな謎な植物に変化するらしいんだよな。この話、プリムローズさんから聞いたんだったよ。そう言えば。
「ああ、知ってる! 『ミドリさん、失礼します!』って言って、鼻の穴に指を突っ込んで、股間に『しびん』をあてがうと、そこに透明な液体を出すんでしょ?」
第二侍女ポーニャ嬢が言った。
手には、派手な赤いパンツだ。
ところで『しびん』って……お○っこ入れるアレか? なんつー、奇妙奇天烈な生態の生き物だよ。
「とにかく、その液体は、最初は透明だけど、空気に触れて乾燥すると、濃い青い色に変わるんだ。最後にはまた透明になって消えるけどね」
プリムローズさんが、手にした白いパンツを商品の山にぽいっ、と投げ捨てて言った。
ポーニャ嬢が言った「ミドリ汁の採取方法」については完全にスルーした。
レモン果汁とかタマネギの搾り汁みたいに加熱すると見えるようになる「見えないインク」じゃなくて、その逆? 書いた文字が時間の経過で消えちゃうのか。
そう言えば魔法照明器具『水灯』の中に入ってる発光液体が、海を漂う謎生物「ヒカリちゃん」の体液で、しかもそれを飲んで『守護の星(極小サイズ)』を補充するって話を、黒髪の美少女シンシアさんから聞いたっけ。
たぶん、その「ミドリちゃん」だか「ミドリさん」もそのシリーズだろうな。それも飲むのかな?
「ああ、『消える青墨』とは、それが原材料だったのですね……」
ロザリンダ嬢が言って、凹んでる。
手には、尖った三角帽子を二つ……イヤ、よく見るとブラ的な下着だ。それに貴女の「ロケットおっぱい」を収納するんですね? そうですか。そうなんですね?
「『消える青墨』ですか? そうですよ。採取した液体を空気に触れないように『魔法』で密封しつつ、濃縮したものがそうです」
プリムローズさんが言った。
そっかー、それがさっきのあれか……。
ハイ、ここで回想。
◆◇◆
午前中に立ち寄って、いろいろとドタバタした『骨董品店』でセシリアが見つけた『魔法式空気銃』の『薬莢』の事だ。
「殿下がお目覚めです。そろそろ行きますよー!」
第二侍女ポーニャ嬢に呼ばれ、詮索は後回しになったものの、
「んー……どれどれ?」
ミーヨが我慢出来なかったようで、中から出て来た丸められた小さな紙片をくるくると広げた。
「『求む同志! 密猟者組合』……だって。あ、連絡先も書いてある」
「細かい文字だね……あ、ダメだ。これ『消える青墨』で書いてある」
プリムローズさんが言った。
「「『消える青墨』?」」
確かに文字は青黒かった。見慣れない色味のインクだ。
「うん、空気に触れると数日で文字が消えちゃうんだ。でも消えてないという事は……『★密封☆』の『魔法』で『時間を凍らせて』あったんだね」
たしか『地球』にも、一時間くらいで字が消える「自動消失ペン」があったはずだな。
たぶん、「空気に触れると消える」ってのは「酸化」の化学反応なんだろう。
すると、中は真空だったのかな?
そんで、大気圧で潰れないように、頑丈な『薬莢』に入れてあったワケか。
「書いてどれくらいでこの中に入れられたのか分からない以上、このままだと数ツンで消える可能性があるな。仕方ない。今すぐどうこうは出来ないから、もう一度『★密封☆』して、また後で改めて中を見てみよう。それでいいかい?」
「「………(こくん)」」
てか、それなら『光眼』の「カメラ機能」で撮影しとこ……パシャッ! とな。
「じゃあ、条件! プリマ・ハンナ・ヂ・ロースの名において、これを封じる。この封を解けるのはこの私と、オ・デコ家のハンコを持つ者のみ――以上。★密封っ☆」
『守護の星(普通サイズ)』の虹色のキラキラ星が降って来て、何の変哲もない金属の小さな筒が『魔法』の『★密封☆』によって、ぬらぬらとした虹色の輝きを帯びた。
やっぱり、これってなんとなく魔法合金『ロリハルコン』に似てる。
「はい、ミーヨ」
プリムローズさんは『薬莢』をミーヨに預けた。
俺かと思ってたけど……信用無いのね……。
◇
あの紙片の文字も消えちゃったしな。
正確な「消えてしまう時間」って分かんないのか?
「私、そうとは知らずに……あんなに大量の書類を……」
ロザリンダ嬢が、痛そうに腰を庇いながら、愚痴をこぼしている。
「……ぼそぼそ(零して下着も)」
ほほう? だからノーパンだったのか?
でも別に、肌は染まってなかったけどな。
なんかライフハック的に消す方法でもあるのかな?
「一時的な連絡事項や機密を伝えるのに、とても便利で都合のいいものです。書いた文字が数日で消えるんですから。……というわけで、アナベル。ほっとけば、数日で消えるから、平気よ!」
そう言って、プリムローズさんは、泣きはらした目をして黙り込んでいるアナベル嬢に向けて、白いヴェール『虫蚋除け』を上げてみせた。
いつまで経っても気付かれないので、自ら正体バラしますか?
「あ゛! ……プリマ・ハンナ。あんただったの? なんでそんな恰好してるの?」
アナベル嬢は、力なく言った。
手には、何も……イヤ、手ブラでお胸を隠している。小っさそうだ。
でも、それはそれでマニア心をくすぐられる感じだ。ビバ! ちっぱい!
実はラウラ姫とドロレスちゃんが『王宮』に戻るために「お着替え」の最中で、彼女は半裸のまま「試着部屋」から追い出されたのだ。第五侍女アルマメロルトリア嬢も、着替えの手伝いをしているらしい。姿が見えない。
アナベル嬢の姉のシャー・リイ嬢と次郎氏は、『女王国』の警察機構にあたる『女王国憲兵隊』を呼びに行っていて、今ここには居ない。
とりあえず事態を官憲の手に委ねてしまうまで、ここを動けなくって困ってる。
「お兄様。お会計どうしましょう?」
「……ああ、だよね」
ヒサヤは手に、フリルのついた赤いクッションを持っていた。
それ自体が手のひらに乗るくらい小さくて、何かの「置き物」を飾るためのものらしい。
ここ、そんなのも売ってたんだ? そんで、それって先刻立ち寄った『骨董品店』で買ってあげた『ヌメヌメスベスベの置き物』を飾るためのものか?
でも、ここの女店主は、逃亡しないように、長い布地でグルグル巻きにされた上に、口には売り物のパンツを突っ込まれて、床にごろんと寝かされているしな。
そして猫耳奴隷のセシリアと茶トラ君が、女店主を見張ってる。
さっき外に追い出された仕返しか、茶トラ君が女店主のケツで「爪とぎ」してる。
「……むー……むー」
痛そうだ(※他人事)。
他に誰かいたっけ? イヤ、居ないな。
「……」←?
よし、最後はミーヨだな。
「数日で消えるって……それはマズいんじゃないの? 日程的に」
ミーヨが言った。
手には白い『水着』を持っていた。『地球』で言うワンピース水着みたいなヤツかな? その『消える青墨』とやらをぶっかけて、スクール水着みたいな色にならねーかな? ぐへへへ(いつものヤツ)。
「そうですよー、あさってからのー『巫女選挙』のー、初日はー、『お披露目会』ですよぉ」
自身も『選挙』に出馬するクリムソルダ嬢が、緊張感なく、のどかに言った。
「「「……!」」」
事情を分かっているらしい、何人かがハッ、とした。
「そうですね、大変な事です。『水着審査』があります」
ロザリンダ嬢が深刻な様子で言った。
「え? 『水着』で隠せばいいんじゃないんスか?」
俺は言ってみた。
アナベル嬢のお尻に出来た青アザ模様は、大して大きくないし、ヒップの布地で隠れると思うけどな。
あれ?
「「「……(じろり)」」」
なんか「何言ってんだ、コイツ?」的な目で見られてます。
「知らないのですか? 『水着審査』とは、『奴隷の印』がついていないのを、公開の場で証明するための儀式。お尻を丸出しにしないといけないのです!」
『七人の巫女』のロザリンダ嬢が、衝撃の事実を重々しく告げた!
「……!」
なんてこった!
『王宮』での『全裸祭り』のお次は、『神殿』で『お尻祭り』ですか?
一体なんなんですか? 『この世界』って!
素敵過ぎます!!
『地球』じゃ、人前でお尻を出す悪ふざけの事を『ムーニング(mooning)』って言うけど。
『月』の無い『この世界』で、「清き乙女」たちの「お月見」ですか……。
そうですか、そうなんですか。
「そして、そのための『水着』がコレです!!」
「えっ、きゃっ」
ロザリンダ嬢が、半裸のアナベル嬢の肩を掴み、ぐるん、と半回転させた。
まだ青アザがついたままのお尻が、丸見えだ。
「Tバックやん!」
思わず突っ込んだよ。
見ると、その青アザ模様は、ちょうど『地球』の『月』のウサギみたいだった。
「『てぃーばっく』? いえ、この『水着』の名は『全知神の三角』です!」
ロザリンダ嬢が、巨乳美女に似つかわしくないアホなセリフだ。
そっかー、前にシンシアさんが言ってた『全知神の三角』って、コレかー。
確かに上下の布地部分が3つの三角形だけど……てか、はっきりと『全知神』って名前がついてるって事は、「あの人」がこのエグい『水着』を広めたのか……?
清楚が売りの『巫女見習い』のみなさんが、これを着て人前に出るんか?
――って待て!
……なんか怪しい。疑わしい。
『奴隷の印』がついていないのを、公開の場で証明するための儀式――って、ソレ絶対ウソだろ?
逆に、若い女の子たちを、水着姿にさせるための、「後付けの口実」だろ?
そして……それだと『俺の聖女』のシンシアさんも、お尻を丸出しにしないといけないのか?
……公衆の面前で。
それ、ヤだな。ヤだ! 絶対。
……謀略をめぐらせてでも、なんとか阻止したい。
そんな事を考えていると、
「な、なんて事するんですかーっ!」
アナベル嬢が、怒りに震えながら両手を高く振り上げた。
俺の視線は、彼女に釘付けになった。
「「「「……あ」」」」
「……え? あっ!?」
アナベル嬢がみんなの視線に気付いて、自分の胸元を見た。
着替えの途中に「試着部屋」から追い出されて、「手ブラ」なのを忘れてたでしょ?
「……(凝視&撮影)」
うん。「男の子」である事が発覚した『五の姫』ちゃんの平坦な「男胸」とは、まったく違う、本物の女子の胸だ。ビバ! ちっぱい!!
「……」
アナベル嬢がゆっくりと手を下げ、お胸を隠し終わると、俺を睨んで真っ赤になった。お尻は青いのに。
「い」
何か叫びかけた、ちょうどそのタイミングで、
リン、ゴ――ン。
「あ、『昼の一打点』だ!」
ミーヨが言った。
時間だ。
ラウラ姫とドロレスちゃんを『おっぱい宮殿』まで送らないと!
◆
次回。100話目――まる。




