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098◇焼き肉のお店と『密猟者組合』


「また来ますね!」

 ミーヨが言うと、

「ああ、またおいで!」

 店先で『骨董品店』の女主人が、俺たちを笑顔で送り出してくれた。


 色々あったけど、「雨降って地固まる」とでも言うのか、すっかり馴染んで仲良くなってるな。


 そう言えば、今日晴れてよかったな。

 昨日、ポーニャ嬢の「鍵拾い」のために「逆さてるてる坊主」を吊るしたり、クリムソルダ嬢の木靴占い(?)で、二度目も逆さになったからな。てか、ここは異世界だし、そんな文化無いだろうけど。


「はいっ! 次はいよいよお食事処ですよーっ!!」


 またまた第二侍女ポーニャ嬢の案内で、猫耳奴隷のセシリアが重視している「焼き肉」のお店に向かう。


      ◇


 ぞろぞろと列になって歩く。


 なんだかんだで、全部で13人と一匹だ。

 もう小さな店には入れない謎の圧力団体だ。

 もともとの「ゆかいな仲間たち」に加えて、『骨董品店』の姉妹、シャー・リイ嬢とアナベル嬢まで合流してしまったのだ。


 『西の街区』の角地にある城塞みたいな『両替商組合本部本館』。

 その裏手には、『季節の(もよお)しもの広場』なんてものがあって、そこの噴水を始まりとした『西行(せいこう)運河』の上を歩いている。

 と言っても、某タイムトラベル少女(※『時○け』ではありません)みたいに「魔法の星砂」を使って水面を歩いてるんじゃなくて、運河の上に、膨大な数の板を渡した「板木(いたき)の道」てのがあって、そこを歩いてるのだ。でも、その子は(※ネタバレ防止で以下略)。


 足の下の、白茶けた板が、ギシギシいってる。

 何かの廃材の、再利用らしい。


 まっすぐ西を見ると、船の帆柱が見える。

 船着き場みたいなのがあって、荷下ろしとか荷積みをやってるらしい。


 『西の街区』は、その運河内蔵の「板木の道」を背骨として「魚の骨」みたいなカタチに「専門店街」が広がってるらしい。「ヘリボーン」とか「杉綾」みたいなカタチだ。


 さっきまで居たのは、そのひとつ宝飾品を扱う『おたから通り』だったらしい。


「他にどんな通りがあるんですか?」

 女教師風のミーヨが質問してる。

「『お菓子通り』とか『おしゃれ通り』とか『雑貨通り』とか『くだもの通り』とか『お野菜通り』とか『続・食べ物通り』とか『真・食べ物通り』とか『ひもの通り』とか『漬け物通り』とか『お酒通り』とか『お花通り』とか『履き物通り』とか『本屋通り』とか『家具屋通り』とか『什器(じゅうき)通り』とか『銃器(じゅうき)通り』とか『文具通り』とか『あべこべ通り』とか『神秘通り』とか『珍品通り』とか『在庫処分通り』とか『色鳥通り』とか『予定通り』とか『計画通り』とか『ふだん通り』とか『いつも通り』とか」

 

 どんだけあんねん!


 ポーニャ嬢が、いつぞやのプリムローズさんみたいだった。

 そして最後の方のヤツ、何?


「あとは、これから行く『食べ物通り』ね」


 ソレって『続・食べ物通り』とか『真・食べ物通り』とどう違うんだ?


 道行く途中、手押し車に巨大な氷の塊を載せてる人とすれ違った。

 『魔法』で作ったデカいブロック氷らしい。一瞬だけ、夏の暑さを忘れるひんやりとした冷気を貰った。


 突き当りの『季節の催しもの広場』では、「夏の氷菓祭り」をやってるらしい。

 気になるのか、みんなも振り返って、そっちをチラ見してる。後で行けたら、行ってみたいな。


「はーい、ここから路地に入りまーす!」


 ポーニャ嬢の案内で、地元の人しか知らないような細い路地に入る。

 王都の路地裏なのに、トンチンカンなやり直しも無く(※『リ○ロ』だよ)、無事に『食べ物通り』に出た。


 ここって屋根付きのアーケード街みたいな造りのはずなのに、照明無しでも明るい。

 なんでやろ? なんかの『魔法』かな?


 みんなで入れそうな大き目の「お食事処」に向かっていると――


「やほー、ジンさーん!」


 のほほーん、とした平和な声がした。

 今朝別れたばかりの、『巫女見習い』クリムソルダ嬢だった。

 でも、普段着だ。はち切れそうな胸元から、メロンでも転げ落ちて来そうだ。


「あ、クリちゃ……クリムソルダさん。昨夜はウチの茶トラ君がたいへんお世話になりました」

 愛称で呼びかけて、隣にいた姉のロザリンダ嬢の視線に気付いて、言い直したっス。


「……」

 ロザリンダ嬢が俺に向かって、無言でちょこんと挨拶した。

 現役の『七人の巫女』なのに、祭服じゃなくて普段着だな。

 はち切れそうな胸元から、ロケットでも飛び出して来そうだ。


 それにしても、姉妹揃って、とんでもない巨乳だ。

 単式でも複式でもいいから「挟まれたいっ!」と思ってしまうな。

 どこの書店の店長なんだ、俺は? 福井県か? 綿○君のバイト先か?


 それはそれとして、二人とも、ねっとりとしたクリームみたいな金髪だ。

 ゆるふわっとした髪型で、妹さんは肩まで、姉は鎖骨くらいまでの長さだ。


「……(あ、どうも)」

 俺も、お辞儀しましたよ。ハイ。


 てか、ロザリンダ嬢?

 こっちには、その「思い人」らしい次郎氏と、その婚約者的なシャー・リイ嬢がいるぞ。


 ……どーすんだ? おい。

 『巫女』さまは、次郎氏の姿を認めて、機嫌は……現時点では上機嫌っぽい。


 ああ、この後の展開が怖い。


 でも、そっちの問題は、大人チームに丸投げしよう。

 知ったこっちゃないわ。


「ところでシンシアさんは?」

 見当たらないので訊いてみた。


「『神殿』にぃ、いらっしゃいますよー。無断でーお泊りしたのでー、『おトイレ』掃除だそうですう」

 ぽわわん、と言われた。


「うそっ? ホントに?」

 それを言うのなら、クリムソルダ嬢もそうだったんだけどな。

 この子と、タイムラグつけて『神殿』まで送ったのがダメだったのかな……申し訳ないし、何より会えなくて悲しい……。


「ところでクリちゃんは何してるの?」

 ミーヨが隣に来て質問した。


「わたしですかー? おねいちゃんとー、パンツ買いにぃ来ましたぁ」

「ち、違うでしょ? 『水着』でしょ?」

 妹のボケを、姉が正した。


 ところで、昨夜の「あの事」は、ホントに覚えてないんだよな?

 記憶はしっかり消えてるんだよね?


「……(にこにこ)」

 クリムソルダ嬢は、のんきな笑顔だ。うん、大丈夫そうだ。

 この俺様を、左手だけで昇天させた時の記憶は、消え去っているらしい。

 良かった(※1)良かった(※2)


      ※1……現在の心境。安堵感。※2……その時の感想。快感。


「でも、ここ『食べ物通り』だよ?」

 ミーヨはクリムソルダ嬢に言った。


「そーなんですよねー、おねいちゃんたら、まったくもーもー」

「あ、貴女がお腹空いたから先に食事って言ったんでしょ?」

 姉とは言え、このとぼけた妹さんの取り扱いは大変そう。


「そうでしたか。では、俺たちはここで」

 シンシアさんがいないなら、この二人はいいや。

 どうせ事故でもない限り、挟んではくれないだろうし、色々とややこしい事になるのが、目に見えてるし。さっさと立ち去ろうっと。


 と思ったら、

「あっ! クリムソルダ!!」

 同じ『巫女見習い』のアナベル嬢が気付いたようだった。


「なに? あなたも『水着』買いに来たの?」

 アナベル嬢がクリムソルダ嬢に訊ねると、

「なにぃ言ってるんですかー、ここー『食べ物通り』ですよぉ」


「「「「お前が言うな!!」」」」


 みんな、スピーディーだ。


「はううう」


 でも、なんか嬉しそうなクリムソルダ嬢だ。

 突っ込まれるのが好きなのかもしれない。この表現、不穏当で不適当かもしれない。


「ですが、本当になんなのです? この集団は? ……ぼそぼそ(次郎さんまで)」

 改めて、ロザリンダ嬢から訊ねられた。


「プロペラ小僧さまのオゴリで、皆でお肉を食べに行くところなんです」

 言ったのは、アナベル嬢だ。

 そんで俺は、自分でプロペラ小僧を名乗った事は一度もねーよ。「他称」だ。それは。


「明日は『神殿』で『お肉の日』『御振舞(おふるまい)』があると言うのに」

 ちょっと呆れた感じで、ロザリンダ嬢がつぶやいてる。


「お肉ですかー? じゃあー、私もー、おねいちゃんもー、一緒にぃ」

「うん、いいよ。昨夜のお礼もしたいし」

「うれしーですう」

 クリムソルダ嬢が嬉しそうだ。


 色々と恩義もあるし、この子に(おご)るのは全然おっぱ……イヤ、オッケーだ。


「……よろしくて?」

 姉に訊かれた。

 こっちはオマケだけど、二人ともおっぱいデカいからいいか。……てか、もう、どんな基準でオッケーなんだ? 俺。


「どーぞ、どーぞ」


 というわけで、全部で15人と一匹に戦力増強しました。


 それにしても、そのうち姉妹が四組(一部重複あり)か……しみじみ。


      ◇


「あた、も、やき、にく?」


 猫耳奴隷セシリアの、作り物のはずの猫耳がピクピクと動いた……。


 みんなで入れそうな『石焼き焼き肉』のお店になだれ込んだ。

 黒い猫尻尾付きの猫耳奴隷セシリアも入店可だったのだ。


 営業開始時間ちょうどに、ご入店だ。

 お昼時じゃないので席はスカスカに空いてる。好都合だ。


 みんなが席についた直後に『時告げの鐘』が、何回かいっぱい鳴っていた。たぶん『朝の八打点(午前11時くらい)』だろう。

 本来なら昼食にはまだ早い時間だけれども、朝食抜きでダイヤモンドを量産していた俺が、なによりもすごく腹が減ってるから、いいのだ。


 そこは、「お好み焼き」か「もんじゃ焼き」に使うような鉄板の代わりに、デカい『岩盤』で肉や野菜を焼いて、好みの味付けで食べる――という店だった。

 

「みんなに『肉盛り』を……とりあえず、一皿ずつ。後は追加で頼みますんで」

 給仕のおば……お姉さんにお願いする。


「あたしには10ツン(ごと)に『特上』の『肉盛り』を一皿ずつ! とめどなく、()え間なく、終わりなく!!」


 『巫女見習い』の皮を被った肉食獣だ(ドロレスちゃん)


「む? ならば、私は8ツン毎だ!!」

 その姉のラウラ姫だ。

 姉妹でなんのバトルだ?

 ()能バトルか? 飲食店のなかで。……お肉だけに。


      ◇


「「「「「へい、お待ちー!!」」」」」


 『肉盛り』は『この世界』に特有の「船型食器」に乗ってるので、16隻の「肉の艦隊」がやって来た。

 うち二隻はラウラ姫とドロレスちゃんが頼んだ超弩級戦艦だ。

 イヤ、航空母艦かな? でも、鳥肉もあるけど色々な種類のお肉の盛り合わせなので「強襲揚陸艦」かも。


「産地直送。とびきり新鮮なお肉ですよ!」

 給仕のお姉さんがそんな事を言った。


「「「「「……おおおっ!」」」」」


 みんな盛り上がってるし。


 見ると『岩盤』は、白っぽいピンク色だ。

 この上で焼くと「ふっくら焼けて、うっすら塩味」になるらしい。

 もしかして「岩塩プレート」か? 『永遠の道』の路肩にある「シオアリの防衛線」って地下深くの方は、塩粒が凝固して「岩塩」になってるらしいし。


 にしても、これの熱源の「ヒーター部分」はどうなってるんだろ?

 『魔法式石焼き調理器』と同じかな? その『魔石』って、灰色に「黒いつぶつぶ」が入ってて、見た目は「コンニャクみたいよ」って、プリムローズさんが言ってたな。


「……(どれどれ?)」


 俺は上体をかがめて、テーブルの下を覗いてみた。

 流石に?き出しで設置されてはないな。デカい陶磁器製のカバーで覆われてる。

 その向こうには、誰かの膝小僧がふたつ見える。

 いけね。変な誤解されるとマズイな。


 と、その膝が、不意に大きく開いた。


「……(オウフ!)」


 そこに見えたのは、奥地と言うか、秘境と言うべきか。


「……(ああ、またまたとんでもないモノ見ちゃったよ)」


 慌てて、顔を上げて、きちんと姿勢を正す。


 てか、パンツくらい、ちゃんと穿()いとけよ!

 なんでノーパンでスカートなんだよ! 見えるだろ!

 俺もまあ、人の事は言えないけれども……。


 実は、俺の向かいの席には……ま、黙ってようっと。


「野菜はどうしましょう? マールネギとか、クサヤネギとか、ナーガネギとか」

「ネギ、ばっか」

「ネギの(たぐい)は茶トラ君には食わせないでね! あと、生の豚肉もダメだから」

 俺はちびっ子たちに注意した。


 それらのものは、猫が食べちゃダメなのだ。

 昨日、動物専門の『癒し手』クリムソルダ嬢から教わったのだ。


「豚さーん、牛さーん、ごめんなさーいぃ」

「クリムソルダ。お願いだから、それは心の中だけで」

 ロザリンダ嬢も妹さんに注意した。


 そういった事は、声に出しちゃダメなのだ。

 てか、クリちゃん……動物専門の『癒し手』なのに……まあ、いいか。


「『産地直送』って言ってたよね? どういう意味だろ?」

 ミーヨが言う。


 ひょっとして旧『東の街区』に広がってる広大な原っぱ『大馬場(おおばば)』が「産地」なのかも知れない。なんか放牧場みたいだったし、『お肉連合会』とか言う謎な組織もあるらしいし。

 『王都』に来る途中も、『永遠の道』の脇に放牧地みたいな土地が広がってたけど……もしかすると『大馬場(おおばば)』とそのまま繋がってるのかもしれない。


「にしても、熱い。脱いじゃダメ?」

「(モグモグ)……もー、らめっ!」

 なんか口に入れたままのミーヨに言われた。ちょっとエロい(笑)。


 『岩盤』からは、強力な輻射熱と遠赤外線が出ているらしく、めちゃめちゃに熱かった。

 『冶金の丘』の金属工房の熱い火炉や、スウさんのパン工房の石窯を思い出す。

 夏のこの時期に、不似合いもいいとこだった。でもお肉は美味い。


「あっちちっ、()れた!」

 熱いタレが垂れたのだ。

 害はないと判断されたのか『★不可侵の被膜☆』が発動しなかった。


「垂れてません!!」

「垂れてはー、ないですう」

 さっきの姉妹だ。なんか怒ってる。


 そう言うんなら、見せてよ(※心の中の声です)。


「「「「「……(モグモグ)」」」」」


 他の面々の空気感がハンパないけど、席が遠いのだ。

 みんなてんでに黙々と食べてるし。うち何人かは、某料理アニメの、ちょっとえっちな食レポシーンみたいになってるな。あとで『★乾燥☆』じゃなくて、感想を聞かせてほしい。


 タレはクサヤネギ(実はニンニクだ)が入ってて、凄い匂いだ。美味いけど。

 あとで『魔法』で『消臭』かけてもらわないと、街中歩けないな。

 甘口が好きなミーヨが、アマネカブ(※甘味料に使える激甘の蕪だ)をすりおろして、甘くしたアレンジ・ダレで食べてる。他の女子にもねだられてる。


「……はむっ……はむっはむっ」

 イヤ、それは「焼き肉」。

 猫耳奴隷セシリアも夢中で食べている。


「うー……熱いねー」

 ミーヨのおでこが汗だくだ。


 なにか冷たいデザートが欲しいけれども、そこまでメニューは充実していない。

 近くに高級そうなメロンはあるんだけどな――とか思って、店の厨房の方を見たら、ついにずっと食べたかった「西瓜(スイカ)」を発見! 懐かしい緑の球体に黒いシマシマだ!


「あそこのシマシマのヤツを頼もう!」

「ツルツルシマシママンマルカボチャかー、美味しそう」


「え? カボチャ?」


 マジか? 見た目は完全にスイカなのに……カボチャて。


「ナニコレ?」


 しかも、割ってみたら中身が麺状だった。

 「ソウメンカボチャ」みたいな繊維状だったよ。

 前に次郎氏が素麺(ソウメン)だと勘違いして頼んだヤツってコレか? スイカ食いたいよ。……しょんぼり。


 店内には俺たち以外にも客が入り始めていて、各々(おのおの)近々(きんきん)の話題……「プロペラ小僧と翼竜の戦い」や「早朝の怪しい飛行物体」のウワサ話で盛り上がってた。

 なんとなく、心当たりがあるような気がしないでもないのだけれども……もちろん話には加わらないで、知らんふりしてた。


      ◇


「剣は王に」


「「「「「……剣は王に」」」」」


 俺は『身体錬成』の成果で、聴力が凄い。

 耳の感度がいいのだ。意味が違うけど、ミーヨも耳の感度が凄い。


 それはいいとして、なんだろう? 今の挨拶。


 見ると、壁際の長テーブル席に、男ばっかりの集団が陣取っている。

 こっちの集団は女性比率が高いので、こちらを気にして、物欲しそうにチラ見してるヤツもいる。


 ちょっと意識を集中して、彼らの会話を拾ってみよう。


「では、『密猟者組合』の会合を始める」

 一人の男が、厳かに告げた。焼肉店の店内で。


「おい、その名を出すな」

「そうだ。我々がこの店で定期的に秘密の会合を行っているのを、人に知られるのはまずい」

「しかし、毎回疑問に感じるが、何故ここなんだ?」

「我々『密猟者組合』が、ここに獲物を(おろ)しているからな。色々と便宜をはかって貰えるのだ。お値段的に」


 なんか説明的で駄目そうな連中だ。


 店から出された『肉盛り』には、『前世』日本の「お刺身の盛り合わせ」みたいな感覚で、色んなお肉が盛ってある。牛さんや豚さん鳥さん以外にも、初めて食べるような味わいのお肉もある。何かのジビエかなー? とは思ってたけれど、どっかで「密猟」された野生肉なのか?


「「「「「……」」」」」


 ここで男たちは無言になり、それぞれ焼き肉を食べている。


 『密猟者組合』……か。

 この『女王国』にあって、「男性の王」の誕生をもくろむ連中だな。ただ、その活動のピークは10年くらい前で、いま現在ゴソゴソやってる連中は「その残党」だって、プリムローズさんが言ってたな。そして俺もちょっと説明的だな。


「で、どうなんだ? 第三王子の行方は?」


 第三……王子だとう?


「それが……つかめず、不明だ」

「そのお方『無かった事にされた子』なのだろう?」


 無かった事にされた子? ナニソレ?


「この国の王室では、男の子と女の子の組み合わせで、双子が生まれると、男の子は捨てられてしまうからな。不憫なお方だ」


 説明ありがとう。


「いま14歳だったか? 成人まで2年も待つのもな。他の候補の方は、どうなんだ? ラ・トビ家の方は?」

「現在、『王都』にいるそうだ。『プロペラ小僧』って知らないか?」


 誰それ? 知らなーい。


「ああ、何か噂になってるな。なんでも、『大交差』のど真ん中で、全裸で、アレをグルグル振り回したとか言う」


「「「「「……」」」」」


 ここで男たちは無言になり、それぞれ焼き肉を食べている。


「しかし、そちらの方は母親が『家』を追い出されてるからな。『儀式』には、挑めないだろうさ」

「ままならない事だ」


 まだ、ちゃんと会った事はないけれど、俺のママンが成人前に「火遊び」して出来た子なんだって。俺って。


 その母親の元の名は、「スピンナ・ヅ・ラ・トビ」だと聞いている。

 名前に「ダ・ヂ・ヅ・デ・ド」のD音がはいる貴族の位階では、「ヅ」って「真ん中へん」らしいよ? そんな凄い貴族なのか?


 でも、俺って「一度死んで生き返ってる」からな。

 神様たちの謎パワーで、肉体まるごと原子レベルで再構築されたみたいに。

 だから、もう「母親のお腹から産まれた」って存在じゃなくなってるのだ。

 スピンナさんには悪いけど、ある意味スピンオフ作品になっちゃってるのだ。


「一般参拝客のフリをして『全知全能神神殿』の『有料お試し』に挑ませて、抜いてしまうのはどうだ? しかし、アレって『月面銀貨(ルナー)』一枚は高くないか?」


 高いと思います。日本円で「6千円ちょっと」です。


「いや、『選王剣』を抜くには、『力ある言葉』を唱えなければならないと聞く」


 ほほう?


「「「「「……」」」」」


 ここで男たちは無言になり、それぞれ野菜を食べている。

 やはり、肉・肉・野菜・肉・野菜のリズムなんだろうか?


「いや、待て! 思い出したぞ。その小僧。第三王女の『(いと)(びと)』のはずだ」

「よりにもよって『(いと)(びと)』だとう? なんたる惰弱(だじゃく)な」

「軟弱! 軟弱ゥ。『突撃(ヤリ)騎兵』ならばともかく……」

「やれやれ。お姫様の飼い犬か。唾棄(だき)すべし」


 酷い言われ(よう)(泣)。

 『三人の王女』の『(いと)(びと)』って、彼ら反体制派から見れば、そんなポジションなんだ?


 ま、別に俺の事はどうでもいいや。「そっち側」に行く気は無いしな。


「「「「「……」」」」」


 ここで男たちは無言になり、それぞれ野菜を食べている。

 野菜かよ!


 しかし、女王陛下のお子は、「二男七女」って聞いてるぞ。

 その「男女の組み合わせの二卵性双生児」の、男の子の方が『無かった事にされた子』って事にされてるのかも? だけど。


 その辺、誰かに聞いて……。


 イヤ、ハッキリ言ってしまうけれど、「俺の向かいの席」に座ってる『五の姫』ちゃんて、実は男の子みたいなんですけど?

 ついさっき、スカートの奥に「異物」を発見してるんですけど?

 アレって、肥大化したク○○○ス……とかじゃないと思うんですけど?


 ひとつの推論が成り立つな。

 異母姉のポーニャ嬢が、「よく似た双子」のうちの一人を、間違えて無理矢理ここに連れて来ちゃったんじゃなかろうか?

 ハッキリと「ウチの異母妹(いもうと)でーす!」と紹介してたしな。間違えてても、気付いてなさそうだった。

 そして、如何にも、そういう事しそうだぞ。あの第二侍女。


「……(じーっ)」

「……(ぽっ)」


 見つめたら、無言で視線外された。照れてる……のか?

 『五の姫(?)』ちゃんの、この反応……そもそもが「男の娘」なのかも。


 で、どうしよう?

 彼女(?)の性別を確認すればいいだけの話だけれど。

 だからといって、男に「ち○こ見せて」とは言いたくねー(泣)。


 そんでポーニャ嬢が昨日2回も落としてた「黒い鍵」の事を「最近、我が家の秘密を探ろうとする者がいて、私が預かってるんです!」とか言ってたな。この案件絡みの、そういった秘密か?


「話は変わるが……今度の『巫女選挙』では、誰に投票するんだ?」


 イキナリ、凄い方向転換だな。


「誰にと言われてもな。『巫女見習い』は普段、『虫蚋(むしぶよ)除け』で素顔を隠してるしな」


 うちのみんなは、食事中なので、白いヴェール外してる。素顔がオープンだ。

 『巫女見習い』である事を悟られないために、逆に敢えて素顔を晒しているのかも、だ。


「だな。『お披露目会』で素顔と……を公にした後だな。誰に投票するかは」

「楽しみだな。『水着』姿の『お披露目会』」


 男性向けのエロスなものが希少な『女王国』だけに、水着のイベントとか、すんごい貴重なんだろうな。俺も今から、すんごい楽しみ(笑)。


「「「「「……」」」」」


 ここで男たちは無言で、ゲスな笑いを浮かべている。

 俺の「ぐへへへ」と同じような、邪悪で猥雑な感じだ……って自分でゆうな。


「ミーヨ」

「なに? ジンくん」

「さっきの『薬莢』の中の紙、見して」

「『求む同志! 密猟者組合』ってやつ?」


 口に出して言っちゃってるし。


 そう、ここに来る前に立ち寄った『骨董品店』で、ひょんなことから手に入れた『薬莢』の中身は、そんな内容の「勧誘チラシ」で、しかも「連絡先」と「合言葉」みたいなものも添えてあった。ところで「ひょん」ってどんな事なんだ?


 それはそれとして、そこに記されていた合言葉も「剣は王に」だったのだ。


 そして『選王剣』って、実は女王陛下の「称号」のひとつでもある「『全知全能神神殿』の守護の戦士の長」の象徴で、それゆえに『神殿』の中に置かれているそうなのだ。


 それを「引き抜く」事で、「王位」に「神様に選ばれた存在」的な意味合いを付加しているらしい。


 そんな文句が、『宝探し』の「詩」の中のフレーズになってたんだもんな。


「あれっ? 文字が消えてる?」

「えっ?」


 ミーヨが丸まった紙を広げてみると、中の文字が消えて白紙になっていた。


 どゆこと? 「消えるボールペン」で書いたのか?

 でも、消しゴムでこすらないと、消えないんじゃ?

 そしてアレって、氷点下何度かにまで冷やすと、また見えるようになるんじゃなかった?


「だからね。それって『消える青墨(あおずみ)』で書いてあったんだよ」

 ここまで完全に空気だったプリムローズさんが言った。


      ◇


 男たちは店員に「また来る」と言い残し、お勘定を……せずに立ち去った。

 お肉の供給源だけに、タダなのか? ズルくない?


 今後、彼らと接する機会はあるのだろうか?


 ――イヤ、無いな。野郎ばっかりだったしね。


 みんな汗だくになって、食事を終えると、

「ねえ、汗かいたし、みんなでパンツ買いに行かない?」

 そんなバカな事を言いだすアホがいた。


「「「「「いいね!」」」」」


 みんなノリが変だ。


「イヤ、待って! 男が二人いるんだよ?」


 実は3人なんだけれども。イヤ、3人と一匹か。


「じゃあ、わたしが案内しま――す!」

 アホが張り切ってる。


「「「「「は――い!!」」」」」


 賛成者多数のため、少数派の意見は封殺された。民主的じゃない。

 ここは「女王親政」が建前の『女王国』だけれども。


 でも、『五の姫』ちゃんの諸々を確認するためには、いい機会かもしれない。

 ただ、『この世界(アアス)』では「魂の輪廻転生」が信じられているので、『前世』と違う性別で生まれて来て、『地球』でいう「性同一性障害」みたいに悩んでるひともいるそうなのだ。


 デリケートな問題だし、ソフトにタッチしよう。緑色に発光しつつ。……ダメか。


      ◇


「ところで、セシリア。お勘定いくらだった?」

「……」

 俺がそう訊ねると、彼女は恥ずかしそうに真っ赤っかになった。


「……にく、ぶちゅう、われ、てた」

「『お肉』を食べるのに夢中で、計算するのを忘れていたそうです」

 ヒサヤが意訳してくれた。


「そっかー、別にいいよ。気にすんな」

「……あい」

 もうすぐ11歳とは言え、まだまだ子供だもんな。


 庶民的なお店だけど、肉料理はやっぱり高価(たか)い。

 タレやら野菜込みで、一人分が『月面銀貨(ルナー)』1枚半(約1万円)だった。

 その16人分なので、『月面銀貨』40枚に相当する『明星金貨(フォスファ)』5枚だ。


 あれ? 計算が合わない。

 なんで『月面銀貨』24枚じゃないんだ?


「うむ。満足」

「姉上には(かな)いませんでした」


 なるほど。この二人がいた。

 体格比は、妹10に対して姉8なのに、大食いバトルは小っちゃいラウラ姫が勝ったのか。


 そうこうしてる間に、ミーヨがお代を払ってくれていた。

 どこからどうやって、お金を出したんだろう? 知ってるけど、謎だ。

 そして、何故か大量の小銭を受け取ってる。なんなんだろう? 謎だ。


 店を出て歩き出すと、ミーヨが近寄って来て、

「はい、ジンくん」

「おう?」

 手にしていた大量の『地球銅貨(アアス)』と『小惑星銅貨(アスタ)』を全部、俺に寄こした。


「ナニコレ?」

「なんか『月面銀貨』と両替して、って頼まれちゃったの」


 旅の途中で『オ○●』用に貯めといた64枚の『月面銀貨』をミーヨに没収されたけど、それでお勘定をすませたら、ついでに両替を頼まれたそうな。

 ミーヨさんは人が良い。そんなん断れよ。客に言うなよ。


 まあ、いいけど。

 あとで俺の『竹棒(コイン・カウンター)』で数えてみるか。

 ⑫――Lっと。うん、まっすぐで正直な俺らしい。


 てか、コレってオマケで貰ったのものなので、実はタダでした。


 とにかく、次は「パンツ屋」にGO! だ!!


      ◆


 グルメ展開やろうとして見事に失敗――×(ばつ)

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