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097◇的中する不吉な予感


「……332……333っと。ああ、重てえ」


 数え終わった「きん○ま」……イヤ『明星金貨(フォスファ)』と、残り半金分の『女王国兌換(だかん)券』を、トレイに載せて差し出された。


 半分でも四捨五入すると4㎏あるしな。

 金って、密度高いから「見かけの大きさ」よりもずっと重たいしな。


 これをミーヨに預けたら……貴重品はパンツの中に隠す彼女の事だ。

 まず間違いなくパンツが足首まで下がって、半脱ぎ状態になるだろうな。

 そしたら、歩きにくくて、転んで、みんなに見られちゃうかも? だな。

 それは可哀相だから、後で個人的に……ヒャッハッハハハ(悪魔の高笑い)。


 そんなバカな事を考えていると、みんながめいめいに「気に入った物」を手にして、お勘定台までやって来た。

 太っ腹な俺様は、付き合わせたお礼として「気に入った物」を、ひとつだけ買ってあげる事にしたのだ。


 てか、チートな『錬金術』で錬成(つく)った『魔造宝石』で換金(つく)ったお金なので、自分ひとりで好き放題にウハウハとかやりたくないのだ。

 性格的に無理なのだ。

 だって「小市民」ですもの。


 ……って、あれ?


 第二侍女ポーニャ嬢や、その妹(?)の『五の姫』ちゃん……さらにはアナベル嬢まで何か手にしてるぞ。


 しかも、なんかめっちゃ嬉しそうな顔で。


 ないぞ。それは。


 「みんな」の線引きを、もっとハッキリとしておくべきだったか?


「ジン様。わたくしはこれを」


 最初に並んだのは、第五侍女アルマメロルトリア嬢だった。

 まあ、いいよ。彼女にはいろいろと地味な役回りを頼んで、陰ながら貢献してもらってるし……で、何が欲しいの?


「……革帯付きの短剣ですか?」

 お食事用の「マイ・ナイフ」だった。


「はい。プリマ・ハンナ様がつけておられるのを見て、わたくしも欲しておりました」


 プリムローズさんは、太ももに装着してるんだよな。

 確かに彼女がスカートたくし上げてナイフ取り出すの、カッコいいよね。

 でも、中古品でいいの? ま、本人がいいのならいいか。


「お会計、『月面銀貨(ルナー)』3枚になります」

「しろくろ、さん」

 おお、セシリア。銀貨なのに「○んたま」とは言わないのか? 色々と偉いぞ(笑)!


「ハイ、いいですよ」

「ありがとうございます」


 そのついでのように、小さな声で、こっそりと、

(この店に入る前に『仮面』を被った方と、何か話しておられましたね? お知り合いなのですか?)

 アルマメロルトリア嬢に、そんな事を訊かれた。


(ええ。顔見知り程度ですが)

 何気なくそう言うと、

(顔見知り? あの『仮面』は『王都大火』で、お顔に『癒し手』でも治せないような傷を負われた方に配られたものなのですが……)

 そんな事を、聞かされた。


(……その話もうちょっと)


 聞きたかったのに。


「はーい! 次はわたし!」

 第二侍女ポーニャ嬢に邪魔された。


      ◇


 正しいと思うもの同士を、線を引いて結んでください。



  ミーヨ     ①  A作り物の尻尾(黒)

  ラウラ姫    ②  B『神行集(小型携帯版)』

  プリムローズさん③  C天国鳥の尾羽根の高級猫じゃらし

  ポーニャ嬢   ④  D乗馬用の革鞭

  『五の姫』ちゃん⑤  Eたまたま通りかかったメス猫(黒)

  セシリア    ⑥  F黒い三つ編みのカツラ

  ヒサヤ     ⑦  G『魔法式空気銃(拳銃型)』二挺セット

  茶トラ君    ⑧  H陶器人形(ちょっと不気味)

  次郎氏     ⑨  I香水瓶セット(中はカラ)

  シャー・リイ嬢 ⑩  Jヌメヌメスベスベの置き物

  アナベル嬢   ⑪  Kこっそりとカカトが高い靴

  俺       ⑫  L『竹棒(コイン・カウンター)



「……へー、意外」

 意外な組み合わせが多かったので、そんな感想が漏れる。


 ミーヨ先生が機転を利かせて、「上限」を『月面銀貨』3枚に設定してくれていたので、助かった。

 この手の店では「客が直接手に取って見れる物」の中で、いちばん高価なものが、だいたいそのくらいの価格帯らしい。


 でも、中には、無料(タダ)なものがいくつかあったので、


「セシリア、全部でいくらだった?」

「あい。きん、○ま、2こと、しろくろ、6こ」

「全部『きん○ま』にして5をかけると?」

「じゅ、さん、てん、ななごー」


 またまた日本円に換算して貰いました。


「よしよし、セシリアは賢くて、いい子」

 俺はセシリアを褒めた。

「……あい」

 照れくさそうだ。



 なお、「正解」は順次公開予定!


      ◇


 でも、実はドロレスちゃんがまだなのだ。

 俺は『巫女見習い(初段)』姿のドロレスちゃんに近づいた。


「……」

 まだ、壁いちめんに飾られた「絵」を見てる。

 彼女のいちばん上のお兄さんは「絵描き」だそうだから、その繋がりで、絵画に興味があるらしい。


「……なぁぁぁああ゛あ゛」


 その足元では、「六本指の猫」茶トラ君が、左後脚を高く大きく上げて、自分の股間を舐めている……。


 ナニしてたんだ、コイツは?

 てことは、⑧――Eか。だろうな、うん。


「絵が欲しいんなら、好きなの選んでいいよ? 次郎氏に持ってもらうから」

 俺がドロレスちゃんに声をかけると、

「いえ。あたしはモノより『肉』です。あとでたらふく食べさせてください」

 そうキッパリ言われた。


「ハイ」

 俺は素直に答えた。


「ところで、お兄さん。あの絵を見てください」

 指差す方を見ると……別になんてことはない「風景画」だった。

 他のも、冴えないというか、パッとしない、売れそうにない絵ばっかりだ。


「え? あの絵がどうかした?」


 朝焼けに照らされた街の風景だ。


「気付きませんか? 朝日が昇る方向の街並み……『王都大火』で失われてしまった『東の街区』の昔の姿です」


「あっ!」


 そういう事か……。


「他の絵も……全部『王都』か」


 そういう事なら、この絵を全部買い取り……イヤ、待てよ。

 俺には『光眼(コウガン)』の「カメラ機能」があるんだし、撮ればいいのか。


(一枚ずつ撮るのも、面倒だから……少し後ろに下がって、全体を……)

 そう思いながら、バックステップする。


   がちゃがちゃがっちゃ――ん!!


 不用意に後退した俺の背中がぶつかったせいで、磁器を飾ってあった陳列棚そのものが、思いっきり、ひっくり返ってしまった。


「「「「「…………!?」」」」」


 みんな愕然としている。


「え?」


 俺様大ピンチだった。


 というかもう、それを通り過ぎてるな。


      ◇


「お兄さん」


 この声はドロレスちゃんじゃなくて、ここの『骨董品店』の女主人さんです。


「……」

 ぼくは声が出せませんでした。


「やっちまったねー。そこに飾ってあったのは、ホンットーに、高価な磁器ばっかりだったんだよ?」

 どこかしら憐れみを感じさせる、空虚(うつろ)な声でした。


「よりにもよって『西の七国』の『窯炉霊峰(ヨロレイホー)』の高級品ばっかり」


 ナニソレ?

 アルプスか? ヨーデルか? ヨロレイヒー!


 どうしても我慢できず、内心でそう突っ込みました。


「中古品というよりも、本当の『骨董品』だったんだよ?」

 女主人が畳みかけてきます。


「「「「「……(無言)」」」」」


 ぼくの仲間は、みんな黙っています。


 わかってます。


 悪いのは、ぼくです。


 謝らなきゃいけないのは、ぼくなんです!


「「「「「……(半笑い)」」」」」


 でも……でも、みんなの顔を見渡すと、どうしても謝る気にはなれないんです!


「お兄様。ご自分が悪いと思うのであれば……」


 11歳の『巫女見習い』の声が、心に沁みます。


「……ハイ。ごめんなさい」


 ぼくは謝罪しました。


      ◇


「えーっと、全部で『明星金貨(フォスファ)』29……いや、片付けの手間と迷惑料もいただくよ。30枚だ」

 女主人が言った。


「ハイ、申し訳ありませんでした」

 俺は謝罪し、先刻(さっき)受け取ったばかりの、買い取り代金の中から、きちんと30枚を数えて支払った。全体の売却額からすると、一割にもならなかったけれど……俺は、自分のアホさ加減を呪った。まったくもーもー。ぼくの馬鹿!


 高級食器の他にも、陳列棚には『西の七国』から輸入したという「板ガラス」が()められていて、それも粉々になってしまったので、その分の弁償金も含まれていた。

 ただし、そっちの方は箒で集めた後で、俺がとある秘密の方法……というか正直に言うと『口内錬成』で、お口いっぱいのビー玉に錬成してやったっス。


 さすがは俺様。たとえ転んでも、ただでは起きないのだ!

 ……って、自分で言ってて空しい。まったくもーもー。ぼくのおたんちん!


 『夏の旅人のマントル』のフードに隠しておいたオヤツの『虹色豆・クリーム色』がまたまた立ちました。役に。

 後で、その「ビー玉」を原料に、とある宝石を錬成する予定っス。


 とそんな事を考えながら、


「ホントにお気をつけよ。『王都』にゃ、人をダマす悪――いヤツらもいるんだよ」

「……ハイ」


 俺は女主人の「お小言」を聞かされてます。


 他のみんなは、店内の後片付けに駆り出されてる。申し訳ないので、あとで何か奢ろう。

 ……ラウラ姫と茶トラ君は、売り物の長椅子の上で寝てるけれど。


  がちゃ!


「いたひ。指切った」

 『五の姫』ちゃんが破片で指を切ったらしい。

 まったく間抜け……は俺だ。ごめんなさい。


「大丈夫ですか? 傷を見せてください。それでは、☆癒しの手っ☆」

 ヒサヤの声が、俺の心までほわん、と癒してくれるようだ。


 てか、この子も『癒し手』の力を無駄に連発し過ぎてるな。

 体内の『守護の星(極小サイズ)』が枯渇しちゃうぞ……と言って、それを補充する『ヒカリちゃん』の「体液」は、えげつない不味さだったからな……子供用の「シロップ」とか「いちご味」とか無いんかな?


「ああ……せっかく買ってもらった私のお友達が……」


 イヤ、俺が割った食器の破片じゃなくて、俺が買ってあげた『陶器人形(ちょっと不気味)』を落として壊して、その破片で怪我したようだ。やっぱり間抜けだ。⑤――Hっと。


「……しくしく」

 泣いてる……可哀相だから、後で『○液』……イヤ、『液体錬成』で「接着剤」をいっぱい出してあげよう。でも、いっぱいはいらないか。


 向こうでは、

「それにしても、母さん。ウチによくそんなお金あったわね。いえ、その支払ったお金!」

 弁償金を支払う際に、シャー・リイ嬢に俺が受け取った金貨を見られてしまったらしく、そんな話を始めた。


「『両替商』から借りたに決まってんでしょ! ウチにだって、それくらいの信用はあんのよ!」

 やっぱり先刻(さっき)の『★羽書蝶☆』は『この世界』の銀行である『両替商』に飛んで行っていたらしい。


「といっても、このお兄さんが持ち込んだ『宝石』が多すぎて、とてもじゃないけど、全部は買い取れなかったわよ!」

 女主人がそう言うと、

「えっ?」

 シャー・リイ嬢はぎょっ、としたように俺を見た。


「次郎さんや。新しい食器出すから、手伝っておくれ!」

「はいっす」

 女主人が、既に次郎氏を婿扱いでこき使う気だ。

 二人連れだって奥に向かってしまった。


      ◇


「プロペラ小僧さま」

 シャー・リイ嬢から控え目に声をかけられた……はいいけど、名前違ってます。


「ジンです」

「はい、プロペラ小僧ジンさま」

「プロペラ小僧は付けなくていいんです」

 イヤ、怒っては無いですけどね。


「ああ、すみません、わたくしったら……ジン様は、第二王女殿下にとんでもなく高価な『真珠の首飾り』を出産祝いに贈られたとか……今朝がたから噂になっておりましたが……」

 シャー・リイ嬢が、少しの動揺のあと、真面目な顔でそう言った。

 さすがに女の人同士。伝わるのが早いなあ。てか、「贈った」というより、「もぎ取られた」んだけどね。


「それで……第一王女殿下が、ご機嫌を大きく損なわれておいでとか」

 シャー・リイ嬢は、俺の事を心配して、わざわざ忠告してくれているようだった。


 やっぱり、浅はかで、迂闊(うかつ)だったか。


「……ご忠告ありがとうございます。どうしたら……いいですかね?」

 素直に訊いてみた。


「はい。物事は天秤の釣り合いが大事とはいいますけど……何でもない時に高価な贈り物をされても変ですし、ほっておくしかないのではないかと」

 結局は他人(ひと)事なのね? ですよね。しょんぼり。


「気になるようでしたら、明後日の晩に『王宮』で『お見合い会』がありますので、その場で、なにか軽めの贈り物をされたら良いかもしれません」

 シャー・リイ嬢がそんな事を言って、微笑んだ。

「『お見合い会』……というのは?」

 まあ、前世日本でもあったけど。

 てか、明後日はムリだよ? シンシアさんの『巫女選挙』初日の大事な『お披露目会』があるし。


「独り身の男女……と言いましても、場所が『王宮』ですので、いらっしゃるのは、それなりのご身分の方々ですが……ともかく、独り身の男女の方々の出会いの場ですね」

 またにっこりと微笑む。

 自分の結婚が決まったからか、余裕たっぷりだ。


「……ですが、実はそれは『建前』でして」


 おっと、表情が変わった。鋭い真剣な顔だ。


「本当は『(いと)(びと)』のいない、第一王女殿下の『愛し人』探しなのです」

「第一王女殿下って『(いと)(びと)』がいらっしゃらないんですか?」


 いっぱいいるって聞いた気がするけどな。


「先日の大失態で……お気の毒な事に、おひとりになられたそうです」

「ああ、あの『神殿』で大暴れして『◎首が■くなる呪い』をかけられたという……」


 全裸で乗り込んだ上に、中の神聖な場所で全種類の排●物をぶちまけたという……。


「『呪い』? ……いえ、それは存じませんが、事情はそうです」

 シャー・リイ嬢の表情が険しくなった。


 そう言えば、その一件の原因は、次郎氏が第一王女殿下の「お誘い」から逃れるために飲ませた「強いお酒」のハズだ。

 その次郎氏と結婚するんだもんな、この人。

 しかも前回の「逃亡」を、手助けしてるらしいし。


「ですから、他の女性はみな『当て馬』と言いますか……実はわたくしもそれに駆り出されておりまして、実家ここに何か着る服が無いかと、探しに戻ったのです」


 つまり、女性出席者が、みんなダミーというか「サクラ」かよ。

 そんなトリックのある集まりには、俺は行かないよ?


「でしたら、シャー・リイさんは、出席を見合わせて方が良いのではないですか?」

 言ってみた。

「お気遣い。ありがとうございます。ですが、第一王女殿下の方では、わたくしの事なんて気付きもしないでしょうし」

 シャー・リイ嬢は、きっぱりとそう言った。


「あ、そう言えば、ロザリンダ様が、本心からジン様に感謝されてましたよ」

「そうですか」

 俺も「大事な秘所」を見せていただいたので、心の底からロザリンダ様に感謝してるけど。ちなみにシャー・リイ嬢の方は姿勢正しくしっかりと両膝を閉じていたので、そこまでは見てません。ハイ。


「これのお礼もまだでしたね。妹やわたくしの分まで、本当にありがとうございました」


 シャー・リイ嬢が『乗馬用の革鞭』をちらりと見せた。⑩――Dっと。


「ところで、それ、何に使うんですか?」

「わたくしは趣味でも乗馬を(たしな)んでおりますので」


 確かに、初対面の時も、馬に乗ってたっけ、この人。


 てか、『乗馬用の革鞭』には、そんな意味があったのか。

 てっきり、次郎氏に使用するのかと思ってました(笑)。……違ったのね?


「なにか?」

「いえ……お忙しいところ、色々とすみませんでした」

「わたくしも今日はここに泊るつもりですから、それに……」

 陳列棚を直して、新しい陶磁器を手慣れた感じで並べてる次郎氏を熱い視線で見つめた。


 イヤ、俺じゃなくてシャー・リイ嬢がだよ?


「抱かれるんですね?」

「はい!」

「お幸せに!」

「はい! いろいろとジン様のお(かげ)だと思っています。感謝しております!」

 シャー・リイ嬢はそう言って、満面の笑みを浮かべた。


「……」

 なんだろう? この複雑な胸の内。


「アハハハ……そんな事ないっスよ」

 俺が浮かべられるのは、虚ろな笑いだけだった。


「……はーあ」

 彼女が向こうに行ってしまった後で、ひとりため息をついた。


 ……なんか、めっちゃ疲れた。ハラも減ったし。


 そんでなんか、またまた大損ぶっこいた気がするし。


 いろいろ上手くいかないなあ……。


      ◇


「ジンさん、災難でしたね」

 今度は次郎氏が近寄って来て、軽く笑いながら言った。


「次郎さんのお義母(かあ)さんを儲けさせちゃいましたよ」

「いやー、そんなんじゃないっすよ」


 でも全面的な否定はしないな。


 彼は今、店内を(くま)なくチェックしてる感じだ。

 『天国鳥の尾羽根の高級猫じゃらし』で、飾ってある小物に積もったホコリを掃除してる。⑨――Cっと。


 どうやら、本気で婿入りして、この『骨董品店』を、長女のシャー・リイ嬢ごと、まるっと美味しくいただく気らしいな……。

 てか、俺が買ってあげたその『猫じゃらし』。

 てっきり、シャー・リイ嬢に使用すると思ってたよ(笑)。……違ったのね?


「あ、次郎さん」

「はい。なんすか?」

 上機嫌だ。


「この店って実は『王都』支店で、本店は『冶金の丘』にあるんスよ。知ってました?」

「へー、そうなんすか? そっちはどれくらいの規模の?」

「ちょうど、こことまったく同じくらいっス」


 まるで「背景3Dデータ」の流用みたいに、そっくりな店構えなのだ。


「『東の(つぶら)』じゃ、金属製品かなもの貴重なんでしょ?」

「その通りっス。いやー、いい事教えてもらった! ありがたいっす」

 さらに上機嫌だ。感謝されちゃったよ。


 てか、俺が酷い目に遭わされた、あの脂ぎってスケベそうなおっさん。

 婿(ムコ)に店を乗っ取られちゃえばいいのだ。


      ◇


「「……(すやすや)」」


 ふと見ると、まだ売り物の長椅子で、ラウラ姫と「六本指の猫」茶トラ君が寝てる。


 思えば……姫と知り合って(※中略※)して、『決闘』なんてしなければ、いま俺は『王都』になんて来てなかったかもしれないなあ。


 その場合の「ifストーリー」では、今頃どこで何やってたんだろ? 俺。

 そもそも『この世界』で目覚めて、最初に出会ったミーヨに(※中略※)された時点で、俺の「運命の(たる)」は、コロコロと転がり出したんだろうなあ。イヤ、俺って一応『錬金術師』だから(笑)。……アッチは『錬金術士』だけれども。


 とにかく、人間の運命なんて、出会った人次第で、コロコロと変わってくんだろうなあ。


 そんでもって、これから先も、きっとそうなんだろうなあ。


 そんな物思いにふけっていると――


「おにさ、これ、ひろた」

 茶トラ君が寝てるので、身軽になってる猫耳奴隷のセシリアから、何かを手渡された。


「え?」

 小指くらいの金属の棒だった。

 金属じゃなかったら、「*」にブチ込む「お薬」かと思うようなサイズだった。

 ……ってもう! ぼくのお下品!


「この店のものじゃないのか?」

 もう難癖つけられたくないよ?


「われ、た、ひ、しょ、でた」

「割れた良い食器から出て来たそうです」


 セシリアの(つたな)い言葉を、元は同じ『奴隷の館』で暮らしていたという『巫女見習い(二段)』のヒサヤが即座に意訳してくれた。

 だよね? ヒサヤがいなかったら、なんか変な意味に取りそうだったよ。


「とて、ぽろり、まる、だし」

「取っ手が壊れて外れて、丸い物が出て来たそうです」

 それにしても、良く伝わるなあ。凄いな、このコンビ。


「あた、そと、いく」

「では私も行きます」

「ごめんな、もうちょっと待っててな」

 片付けが終わったらしく、セシリアが遠慮して店の外に出て行こうとしたので、ヒサヤも同行してくれた。


 てか、後ろ姿を見て驚いた。


 セシリア……その『黒い尻尾』はなに? ⑥――Aっと。


 俺が先日、ぶら下げてたのは『真珠の首飾り』だよ。作り物の猫しっぽじゃないよ?

 『獣耳』は『奴隷』の身分証明だから、付けてないとダメらしいけど……その尻尾はいらないでしょうに?


 また一歩完璧な猫耳少女に近づいてどうする? 可愛いけど。


      ◇


 気を取り直して、受け取ったブツを確認する事にする。


 でも、コレって誰のモノになるんだろう?

 壊れた食器から出て来たとか言ってたけど……ま、既に弁償したから、破片は全部、俺のものだな……って破片はいらないよ。


 素材は不明だけど、小さな金属の筒だ。わりと軽い。

 なんだろう……どこかで見た事はある。

 なんか、テラテラとした虹色の膜に覆われてる感じだ。といっても手に油がつくわけでもない。


 何気なく、先っぽの方を覗き込んだら――


「ああ、ダメだよ! それ『魔法式空気銃』の『薬莢(やっきょう)』だよ」

 プリムローズさんが注意してくれた。


「えっ? そうなんスか?」

 発射炸薬代わりに『★空気爆弾☆』の『魔法』が封じ込めてあるというアレか。

 これがホンモノなんだ? 金属製のガチなヤツは初めて見た。


「そのぬらぬらした虹色の膜は『魔法』による密封なんだ。地が金属だからそう見えるんだよ」

 プリムローズさんが言う。

 そう言えば『魔法合金』のロリハルコンに似てるな。この七色の遊色効果。


 そこへ――


「へー、ちょっと見せて……ダメね。わたしの穴には小さいみたい。ゆるゆるよ。もっと大きくなってから出直してきな、坊や!」


 第二侍女ポーニャ嬢が横から話に割り込んで、俺が買ってあげたハンドガン・タイプの『魔法式空気銃』との口径の差を確かめつつ、下品なセリフを連発した。④――Gっと。


「ポーニャさん、それって『虹色豆』詰めて飛ばして遊ぶための、おもちゃの『魔法式空気銃』ですよ?」

 俺は真実を告げる。


「うそっ?」


 ポッポ鳥が豆鉄砲喰らったような顔してる。

 ちなみにポッポ鳥のご先祖は『地球』の鳩だ。『この世界』では食用だ……。


「気付かなかったんスか?」

 だいたいが「二挺セット」で売ってる時点で気付いて欲しい。

 本物の『魔法式空気銃』は『月面銀貨(ルナー)』3枚ではとても買えないくらいに高いし、買う時にはいろいろと手続きみたいなのがあるらしいのだ。


「ま、いっか、そっちの方が楽しそうだし」

 切り替え素早く、逆に喜んでる。

「妹さん撃っちゃダメですよ」

 一応注意はしておこう。

「は――い!」

 返事だけはよく、向こうに行ってしまった。


 ポーニャ嬢の乱入で話が途中になったので……っていつも、このパターンだな。

 とにかく、プリムローズさんと話の続きだ。


「でも、これ弾頭が無いっスよ。ただの筒っス」


 『魔法式空気銃』の「弾丸」にして、いろいろと不自然だ。

 撃ち出すべき「弾頭」が付いて無いので、使用済みの「(から)薬莢(やっきょう)」を、何かに再利用してるだけ……みたいな感じなのだ。


「どれどれ」

 プリムローズさんは手に取って観察して、

「確かに冷たくないね。口径を ★計測っ☆ 6・66なの、か。合ってるな」

 口径が規格化されてて、それにぴったりらしい。

 「なの」は約1㎜だ。『地球』だと規格化された「5・56ミリ弾」とか「7・62ミリ弾」が一般的らしいから、その中間か。てか、これもまたロクでもない数字だけど、対『ケモノ』用の武器だからか?


 『王都』には、その手の武器工房が、いっぱいあるらしいんだよな。

 俺たちが居た『冶金の丘』から「半完成品」みたいなものが運ばれて来ていて、『西の街区』の工房街で最終組立てとか装飾を施してるらしいのだ。『西の街区』には、デカい城壁みたいなのがあるけど、その向こう側らしい。どのへんだろ?


 ああ、ちゃんとした『王都』の地図が欲しい。


「これそのものは『魔法式空気銃』の『薬莢』だけど、『銃弾』ではないようだね」

「冷たくない、って事は、ホンモノは冷たいんスか?」

「うん。そうだよ」

 プリムローズさんが俺に『薬莢』を返しながら言った。


 そう言えば『地球』のエアコンや冷蔵庫って、気体を圧縮して冷気作るんだったな。

 何を圧縮してんだろ? 二酸化炭素? それだと「ドライアイス」になっちゃうか?


 プリムローズさんは小さな本を俺に見せて、

「あ、そう言えば、どうもね、コレ。なんか大きさが『文庫本』みたいで懐かしくなっちゃってね」

 と雑な感じに、お礼を言われた。

 ちなみに「コレ」とは、俺が買ってあげた『神行集(小型携帯版)』だ。③――Bっと。


「いえ、いつもお世話になってますし」


 なにより、それがいちばん安かったし。

 『神行集』って『この世界』の神様たちの「過去の行い」が記録されてる本らしいけど……タダ同然の値段だったんだよな。

 『全能神』とか『全知神』って人気ねーのかな?


 あ、やめとこ。

 こんな事考えて、また『ご光臨』されても困るしな。


「コレ読むの久しぶりだわー」


 それにしても、初段とはいえ、いちおうホンモノの『巫女見習い』なんだから、『この世界』の聖典に近い『神行集』を、暇潰しの文庫本扱いでパラパラめくるのやめなさいよ。


「この『薬莢』。このまま持ってても平気ですよね?」

 確認しとこう。


 万一『暴発事故』とか起きると、変態呼ばわり……イヤ、大変だしな。


「危険はないようだけど、『魔法』の『★密封☆』だしね……本人か……ハンコがないとな。中に何か入ってそうな感じだけど、秘密文書とかかな? ひょっとしてアレかな?」

 そんな事も呟いた。

 プリムローズさんは、開けて中身を確かめたいらしい。てか、「アレ」ってなんだろう?

 残念ながらプリムローズさんは、エロい事を言わない人だしな。

 

 あと……オオババちゃんも言ってたけど「ハンコ」って何だろ?


「アレって、なんなんスか?」

「『王都』に来る途中に色々あって話したろう? 12年前の『王都大火』の後で、『反乱騒ぎ』があった時の『反乱の指令書』が、こんな風に『魔法式空気銃』の『空薬莢』に詰められて、バラ撒かれたって」

「反政府組織『密猟者組合』ってヤツっスか? でも、そのニセモノの『怪文書』も多く出回ったとか」

 確かそんなような話だったはずだ。


「『密猟者組合』って、女王陛下の『禁猟区』で、獲物を狩る人たちの事を言うんじゃなかったの?」

 ミーヨが割り込んで来た。聞いてたのか?

 見ると、集音魔法『★聞き耳☆』で「弱点」が……じゃなくて、耳が巨大化してる。


「その通りなんだけど、歴史をさかのぼると、『女王国』が誕生する以前の、男性の『王』の時代に、勅許(ちょっきょ)を得て、どこでも狩猟自由の『御免状』をもらっていた特権貴族の事なんだよ」


「「……へー」」


 だから、そのシンボル的に、『魔銃』の「空薬莢」を使用してるのか?


「それが時代の推移と状況の変化で、その特権が失われてね。呼び名まで『密猟者』って事になっちゃってるんだよ。彼らは、偽悪(ぎあく)的に、()えて、自らそう名乗ってるけれどね」


「「……へー」」


 なんでも、男女雇用機会均等法(?)的に、『男子王』の誕生を(たくら)んでいるらしいのだ。……ふと頭に浮かんだけど、「たくらんけ」って何だっけ?


「ところで、ハンコって日本の印鑑みたいなヤツですか? 『奥さん、ハンコください。なかったら貴女の……』」

 『拇印(ぼいん)』と言おうとしたら、背中に誰かのお胸が押し当てられた。

 ミーヨだな。いいニホイだ。くんかくんか。


「はい、ハンコ」

 ミーヨがそう言って、俺の肩越しに身を乗り出して、虹色に濡れた金属に何かを押し当てた。

 すると……キラキラキラン☆ と『魔法』の虹色のキラキラ星が散って、表面の油膜のようなものは消え、地の金属の色になった。鈍い金色だ。真鍮(しんちゅう)かな?


「えっ? 今何した。お前?」

「だから、ハンコだよ。ウチの」

「ウチ……?」


 オ・デコ家か?


「つまり、アレだよ。ミーヨの家系の誰かが、過去にコレを『魔法』で密封していたった事よ!」

 プリムローズさんが興奮してる。

「ナニソレ? こんな巡り合わせってある?」

 それ、俺の口癖です。


 てか、そりゃあるよ。「ご都合主義」だし。


 という事はつまり、『ハンコ』って、本当ならば本人にしか解除できない『★密封☆』の『魔法』を、別の人間が解除するための「魔法の道具」なのか?


 だとすると『魔法式空気銃』って、「撃鉄(ハンマー)」の先っちょの「撃  針(ファイアリング・ピン)」に、『ハンコ』使ってるのか?


 ――なんか、すげー間抜けだな。

 ……何、このがっかり感。


 でもって、俺がぶち壊した『ヨロレイホー』の高級磁器って、どこからどういう経緯でこの『骨董品店』に流れ込んだんだ?

 どっかの金持ちか貴族のお屋敷みたいなところで、使用されてたものかな?


 それが、もしかするとミーヨの「オ・デコ家」なのか?


 うーむ。色々と謎だ。


 そこに――


「殿下がお目覚めです。そろそろ行きますよー!」


 第二侍女ポーニャ嬢に言われ、またまた詮索は先延ばしになった。



 だが、前へ進もう!


「さあ、行きましょう!」


 俺たちの次の目的地は、「焼肉店」だ!!



      ◆


 また無駄に長い――まる。

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