096◇骨董品店のドタバタ騒ぎ
「おいおい、どーしてくれんだよ、このダイオウフンコロガシっ!」
俺は手近にいた店員の男を怒鳴りつけてやった。
ちなみに俺はまだダイオウフンコロガシを見た事がない。
でも、名前からして「ク○虫」に間違いないので、この場合は「正解」だろう。
「ダイオウフンコロガシぃ?」
男に妙な顔をされた。
罵り言葉としては成立しないらしい。「ハズレ」だったのね?
でも、勢いで誤魔化すしかない。
「まったく、おめーら! こちらにおわすお方をどなたと心得る?」
俺はラウラ姫を示して言った。
ま、どっちかって言うと、俺の方が「黄*様」だけれども。
――ん?
「……(ふるふる)」
白いモノがチラチラと揺れていたので、そっちを見ると『巫女見習い(初段)』のプリムローズさんが否定的に首を振っていた。
頭と一緒に、白いヴェール『虫蚋除け』も揺れてたので、それが目に付いたのだ。
ラウラ姫の正体を明かすな――って事か。
まあ、身分を隠しての、「お忍びのお買い物」の最中だしな。
「誰だって言うんだ? 小僧!」
店員のトップらしい人相の良くない中年男に言われた。
「プ……」
危うく「プロペラ小僧だ」と言いかけたけど、俺がそれを言うと、連結決算子会社式に姫の正体もバレるのだ。
『大交差』のど真ん中で、二人で『ヘビアタマの翼竜』と戦って、かなり目立っちゃったからな。
「別にあなたが誰だってもいいのよ! とにかく、壊したものを弁償していただこうかしら?」
それまで黙っていた脂ぎってスケベそうなオバさん……多分、この骨董品店の女主人が、そう言って近寄って来た。
しかし――
ミーヨ先生が、おでこを輝かせながら「正義の心」に燃えていた。
「それは――ワザと壊れやすい場所に、壊れやすい安物の食器を置いておいて、罠に引っかかった相手から、弁償と称して多額のお金をだまし取ろうとする詐欺の手口じゃないですかっ! とても悪質です! そーゆーのはイケナイと思いますっ!!」
うん、だよね。
多分、そうだろうなーと思って、俺も強気で出てたんだけど……それを今バラしちゃうのか? 種明かしはいちばん最後にとっておくのが「定石」じゃないのか?
「見てください! 外側は白くてスベスベですけど……」
ミーヨ先生が、おこだ。白くてすべすべのおでこが汗で光ってる。
「中身はただの、素焼きの土色じゃないですか!」
そうなのだ。ミーヨの言う通りなのだ。
子供……イヤ、立派に成人してるラウラ姫の腰の高さから落ちた程度で、ハンマーで砕いたように粉々の破片になってしまっているのだ。あまりにも強度無さ過ぎだ。
そう言えば、俺の『ガン○ラ』の「ファースト」のパーツ……「ガン○ム・ハンマー」はどこに消えたんだろう? 探しても見つからないまま、異世界に来ちゃったからな(※製品にもよりますが、そもそも付属してません)。
それはそれとして、つまりは「うわべ」だけを、何かで誤魔化してるわけか?
「これって、ヌ、ヌメヌメスベスベを這わせて、外側だけ白く塗り固めた安物じゃないですか!」
また、ヌメヌメスベスベか。
ミーヨはアレを嫌ってるから、言いにくそうだな。
「し、証拠はあんのかい?」
「強いお酢をかければ、溶けちゃいますよ」
炭酸カルシウムって「お酢」で溶けるのか?
イヤ、もっと強い「酸」の事だろうな。
腹減ってるから「ニシンの酢漬け」とか「ままかり」食いたくなってきたな。
異世界だから無いけど……イヤ、無いからこそ食いたいな。
「ハッ! 何を言ってんだい! 安物だろうと、高級品だろうと、あんたらが壊した事には変わりないんだよ! とにかく壊した分は弁償しな!!」
オバさんが、むん! とした圧力を振りまく。
まあ、だよね?
「……えーっと、おいくらですか?」
ミーヨの「正義の心」がへし折れた! のか?
そこへ――
「正直にお答えください。『全知神』さまが貴女を御覧です」
どこからともなく現れた、ちいさな「本物」の『巫女見習い』が言った。
てか、騒ぎに気付いて店内に入って来たヒサヤだけど。
見ると「ねこちゃ」を抱いたセシリアと、アルマメロルトリア嬢も入って来ていた。
「……」
ヒサヤが、不思議な神々しさを身にまとって、女主人を見つめている。
彼女自身も、『王都』への旅の途中に『全能神』と『全知神』の『ご光臨』に立ち会ったからな。
しかも、俺と同じく「お小遣い」まで貰ったし。
「……」
女主人はしばらく黙り込んだ後で、
「はい。『地球銅貨』8枚でよろしゅうございます。……『全知神』さまの御名にかけまして」
エラい神妙になって、そう言った。
女主人が、11歳の女の子に諭されて悔い改めた! のか?
『地球銅貨』8枚か……だいたい日本円で、3千円ちょいだ。なんか微妙な感じだ。
100均にありそうな安物っぽい品なんだけど。もっと安いんじゃね?
「……それが正しいお答えですか?」
ヒサヤが静かに迫る。
「……」
「最終回答?」
昔あったクイズ番組みたいな事を言う。
「さ、最終回答」
女主人は唸るように言った。額には脂汗が光っている。
「おにさ、ちん、たま、はっこ」
うお――い!
セシリアや。『地球銅貨』を「ちんたま」と呼ぶのはおよしなさい。
「わかりました。ここはわたしが……」
ミーヨがお金を取り出そうとする。
だから、お前『巾着』はスカートの中なんじゃ……。
「む? 私が壊したのだ! プリ……そこの『巫女見習い』どの、立て替えておいてくれ!」
「護衛」に扮したラウラ姫が、本職は姫の「筆頭侍女」の『巫女見習い(初段)』のプリムローズさんに、立て替え払いを頼み込むという図式がややこしい。
「いえいえ、ここはわたしが」
「む? それは間違っているぞ」
奪い合うように争う二人に――
「いいえ、もともとは私のシェイ」
胸バッドを失くして、お胸がぺったんこになってる『五の姫』ちゃんが、また噛みながら言った。
「わたひが!」
「「どうぞ。どうぞ」」
ミーヨとラウラ姫が、『五の姫』ちゃんに譲った!
異世界でコレを見れるとは……二人にこっそり教えといて良かった(笑)。
◇
「わたひのお小遣いが……」
『五の姫』ちゃんがしくしく泣きながら、弁償金を支払った。
どこからか取り出した『小惑星銅貨』ばっかりで。
コレって全裸の感覚……イヤ、全裸じゃないから間違えた。
『小惑星銅貨』って前世の感覚だと、要するに10円玉なんだよな。
一応、俺たち一行の「ご令嬢」役なのに、貧乏くさい事この上ない。
「うわー、小銭ばっかりだねー、あたいの『竹棒』持って来ておくれ!」
「へい、奥様」
女主人が中年店員に何事か言いつけた。
竹棒? そんなもの愛用してるの? それを人前で?
「どうぞ」
「あんがとよ」
女主人が二つに割ってある細めの竹棒に、『小惑星銅貨』を詰め込む。
「はい、32枚で『地球銅貨』1枚分っと」
竹棒は「コイン・カウンター」だった。
目盛りがふってあって、小銭を数えるのに便利な素敵アイテムだった。
変な誤解してごめんね、オバちゃん!
てか、そんなものがあるなら、俺も『宝石』売ったら『明星金貨』用のが欲しいぜ。
ぐへへへ(邪悪な笑い)。
「『地球銅貨』7枚分と『小惑星銅貨』27枚っと……足りないけど、可哀相だからまけといてやるよ」
女主人が、めそめそ泣いている『五の姫』ちゃんにそう声をかけた。
「ばりがぼーごばひばす。ぼーぼ、すびばぜんでしふぁ」
そんな事を言って、『五の姫』ちゃんは頭を下げた。
「……(べろーん)」
顔を上げると、鼻水が垂れていた……。
ちょっと足りない感じだ。『五の姫』だけに5枚くらい。
「ああ、もう!」
仕方なさそうに、第二侍女ポーニャ嬢が異母妹の世話をする。
「貴女がたの行いを、『全知神』さまは確かに見届けられました」
ヒサヤはそう断言した。
まるで『聖女』みたいだ。
でも、本当に……俺の『光眼』を通して、見ていたかもしれないのだ。怖い事に。
◇
「……ぼそぼそ(ああ、もうついてくるんじゃなかった。お姉ちゃんの『ニセパイ袋』は二つとも失くしちゃうし、着慣れない女物の服なんて着せられてるから、何か壊しちゃったし、僕もうやだ)」
『五の姫』ちゃんが、色々と長々と呟いている。
この子「僕っ娘」だったのか……うん、嫌いじゃない。
イヤ、気にするポイントはそこじゃないな。
お姉ちゃんの『ニセパイ袋』?
すると、第二侍女ポーニャ嬢のお胸は「ニセパイ」だったのか……。
あの大きな「あんまん(?)」が必要なくらいの、貧乳だったのか……。
気付かなかった。
そう言えば、馬車の中で、
「ところでジン様は、どんなおっぱいがお好きなんですか?」
――とか訊かれた事があったな。
あん時、俺は、
「――全部好きです。すべてのおっぱいが」
と答えたさ。貧乳だって、嫌いじゃないさ。
ポーニャ嬢からすれば、俺はきっと、光り輝く救世主に思えた事であろうな。
……あれ? でも何か、重大な見落としがある気がするな。
「おにさ、きん、たま、666こ」
うお――い!!
セ、セシリア。つ、ついに言ってしまったね?
『明星金貨』を「きん○ま」と。
でも、大丈夫か……『て○きゅう』のピンク髪の子も堂々と言ってるしな。深夜だったけど。いまお昼前だけど。
「って、え? 何の話?」
「ジンさん。『明星金貨』666枚って事で、話はまとまったっす」
『宝石』の売却価格の話らしい。
俺の代理人として、店の女主人と交渉していた次郎氏が、そう報告してきた。
しかし、まあ、666枚ってロクでもない数字。
「セシリア。666かける5は?」
「さんぜん、さんびゃく、さんじゅ」
計算の得意な10歳の猫耳奴隷セシリアに、日本円に換算して貰いました。
もちろん「万」が付いてます。
そのくらいか……。よし!
まだ、『巫女選挙』の全貌が不明だけれども、これだけあれば相当な「票」を入れられるだろうから、シンシアさんを『七人の巫女』にしてあげられるんじゃないだろうか……ま、「金の力」ってのが、ちょっとアレだけど……そう言うシステムらしいし。
それに、『宝石』は、まだまだいっぱい手持ちがあるしな。
「支払いは『女王国兌換券』で?」
応対してくれてるのは、俺がさっき、ダイオウフンコロガシ呼ばわりしてしまった男性店員だ。ぜんぜん怒ってないところを見ると、きっとダイオウフンコロガシはキュートでプリティな生き物なんだろう。
前にミーヨがめっちゃ怖がってたから、エグい生き物だと思ってたのに。
「セシリア。666かける11は?」
「ななせん、さんびゃく、にじゅろく」
計算の得意な10歳の猫耳奴隷セシリアに、金貨の重量を計算して貰いました。
すっかり「猫耳付き萌え擬人化計算機」と化しているな。
『明星金貨』1枚の重さは「1ダモンネ(約11g)」に等しいので、総重量は7㎏超えるのか……茶トラ君より重いぞ。
流石に、そんなもの、持ち歩きたくないな。
「じゃあ、半分は現金で。残り半分は『兌換券』で」
『兌換券』を換金するには、『両替商組合』に行かないといけなくなるのだ。
向こうでは――
「それで、ウチのが『冶金の丘』から『王都』に支店出すって言って、あたしと娘らをここに赴任させてね。そりゃあ、淋しい思いをさせられてねぇ……」
「「「……そうなんですか」」」
プリムローズさんとドロレスちゃんとヒサヤの『巫女見習い』トリオが、女主人の愚痴を聞いてあげているらしい。
『巫女見習い』には「段位」があるそうだけど……ヒサヤはすでに『神授の真珠』を持ってるようだし、いま何段なんだろ?
白いヴェール『虫蚋除け』の折り方からすると……『二段』だな、うん。
いちばん年下の子が、いちばん格上だ。
「きっと、向こうじゃ、一人好き勝手に女の尻を追いかけてるに違いないのさ」
女主人が、悔しそうに手布を噛む。
「大丈夫です。そんな事をしたら、きっと天罰が下って、年端も行かない女の子にケツを蹴られて、二階から転げ落とされるに違いないですよ」
ドロレスちゃんはさくっと言った。
それって『代官屋敷』での「夜会」の時の、完全な実話だよね?
「ケツ?」
「はしたない事を申しまして、申し訳ございません」
ドロレスちゃんは澄まして言った。
こっちはこっちで――
「で、どうするい? 残りの『原石』は……そうだな、『宝飾品工房』を紹介してやるから、そっちを当たってみたらどうだい?」
言われたタイミングで、ふにゃっ、と何かが背中に当たった。
「む、『宝飾品工房』か?」
ラウラ姫がおんぶしてきたらしい。子供みたいだ。
「前にジンに貰った『宝石』を、首飾りに仕立てたいゆえ、私も行くぞ」
そんな事を言われた。
『冶金の丘』で、みんなにあげたダイヤモンドの事だろう。
「え? ええ」
でも、時間あるかな?
姫は午後から『しえすた』とか「晩餐会」とかで、予定はいっぱいだ。
で、向こうでは――
「だったら娘さんに、お婿さんを貰って、お店を任せちゃえばいいんじゃないんですか? あ、あの『夏の旅人のマントル』を着た人はダメですよ?」
ミーヨまで人生相談に乗ってやってるらしい。
「そうは言ってもねー、上の娘の方は、成人するとすぐに『王宮』なんかに勤め始めちまってねえ。……あんな女ばっかりのとこじゃ、男のひとりもいやしないだろうしねえ」
すっかり態度を軟化させた女主人が、そんな事を言い出した。
ところで、『王宮』?
昨日の『全裸祭り』で、俺、その女性見たかな?
「下の娘は『神殿』に行っちまってるし……二人とも、ウチにゃ、たまにしか帰って来ないしねぇ」
女主人が嘆いてる。
ガチャ
そんなタイミングで、誰かが店の扉を開けた。
「ただいま、母さん。ひさしぶり」
見覚えのある女性が、扉を開けるなり、そう言った。
そして、
「「あっ!」」
二人はお互いに気付いた!
「シャー・リイさん!」
「次郎さん!」
「いやー……その」
「抱いて!」
シャー・リイ嬢は、言うなり次郎氏の胸に飛び込んだ。
『近衛騎馬隊』所属で、編んだ黒髪を後頭部にひとまとめにした生真面目そうな人のに……とても多感で、情熱的な女性である事であるなあ……。
「「「「「……(啞然)」」」」」
みんな啞然としてるよ。
シャー・リイ嬢って、『冶金の丘』の『骨董品店』の店主の、脂ぎってスケベそうなおっさんの「長女」だったのか……。似てねー。
そんな中で、
「あ、いましたよ。お婿さん」
ミーヨが無責任に言った。
「「まあ、名案!」」
母と娘はユニゾンした。
「いやー、照れるなあ!」
次郎氏まで乗り気だ。
◇
「「「……(にこにこ)」」」
次郎氏と、その彼の手を握って離さないシャー・リイ嬢と、その母親が微笑んでいる。
なんか結婚話がまとまりつつあるので、非常に面白くない。
『白い……イヤ、冷水をぶっかけてやろう。
「それにしても、シャー・リイさんがこの『骨董品店』の長女だったなんて……俺、貴女の父君に『冶金の丘』と『永遠の道』で……(モゴモゴ)」
「実は拉致されそうになったんです」と言おうとしたら、ミーヨに口を塞がれて、壁際にまで連行された。
(ジンくん、内緒にしとこうよ。次郎君も乗り気だよ)
ミーヨが、俺の耳元でひそひそと言う。
(お前は、次郎氏とシャー・リイ嬢をくっ付けたいのか?)
俺も小声で確認してみる。
(次郎君がきちんと女の人と結婚すれば、ジンくんを狙う男の人も、ジンくんが狙う男の人も、いっぺんに消えてなくなるんだよ?)
訳の分からない理屈だ。
俺と次郎氏は、商売がらみのヘタレ仲間であって、狙い狙われる関係ではないのだ。そんな腐った考えは捨てて欲しいのだ。
ガチャ
そんなタイミングで、誰かが店の扉を開けた。
「ただいまー、母さん。ひさしぶりー」
見覚えのない少女が、扉を開けるなり、そう言った。
そして、
「あっ! プロペラ小僧!!」
その子が俺様の正体に気付いた!
◇
「紹介いたします。こちらは私の妹のアナベル。『巫女見習い』です。今回の『巫女選挙』に出る予定です」
シャー・リイ嬢が、自身と同じ黒髪の少女を、俺たちに紹介した。
「『巫女見習い』アナベルです」
「X」字に重ねた両手を、お腹に当てて、ちょこんとお辞儀する。
お名前だけは聞いていた、シャー・リイ嬢の妹さん初登場か。
俺たちと同じ年頃。16か17くらいだな。
そして『巫女見習い』って言っても、服は普通の町娘風だ。
白い祭服も白いヴェールも身に着けてはいない。
お姉さんは肉感的な感じだけど、妹さんはほっそりしてる。
痩せてるせいか、残念ながら胸元も淋しい感じだ。
黒い瞳は、キラキラしてる。好奇心旺盛な感じだ。
「……(ちらちら)」
そして俺をチラチラ見てる。
二つ結びにした黒髪を、さらに折り曲げて結んだやつを、耳の下あたりから左右に突き出させてる。
髪型が「ドアノブ」みたいだ。黒いツイン・ドアノブだ。小さな子供っぽいな。
「えーっと、俺たちは……俺たちは……何だろう?」
考えたら、この集団がよく分からない。
正体隠してるから「ラウラ姫御一行」は名乗れないしな。
正式名称は「ゆかいな仲間たち」でいいのか?
「――と言いますか、俺の事を知ってるんですか?」
訊いてみた。
「ハイ! 先日『大交差』で全裸でいらっしゃるところを『★遠視☆』で拡大してハッキリと見ました!」
元気よく、ハキハキと答えられた。
「元気よく、グルグルと振り回していらっしゃるところを、ハッキリと見ました!」
「……そーでしたか」
この間の『ヘビアタマの翼竜』とのバトルの事だろう。
『全知全能神神殿』の大階段には、『巫女見習い』たちがいっぱいいたからな。
「まあ……そうなのかい?」
油分が脱けたと思っていた女主人が、ちょっと脂ぎり始める……。
イヤ! そんないやらしい目で私を見ないで!!
「あ、なんか怯えてる。可愛い」
アナベル嬢が……あれ?
アナベル・リ○嬢と呼ぶべきなのか?
逆にシャー・リイ嬢は、シャ○なのか? 赤いのか?
「アナベル。貴女は『巫女見習い』なのだから、言葉遣いには気をつけなさい」
姉のシャー・リイ嬢が、きつめに諭した。
「はーい」
身内のせいか、返しが雑だ。
にしても『巫女見習い(段位不詳)』のわりには、その恰好をしていない。
普通の街娘的な服装だ。帰省……というか帰宅中だから私服なのか?
そんで『巫女選挙』に出るなんなら、『段位』は三段以上のはずだな。
「ところで、家には何をしに戻って来たの?」
「リイ姉ちゃんは?」
「「えっ?」」
驚いたのは俺とプリムローズさんだ。
シャー・リイ嬢は、「個人名」が「リイさん」だったのか?
関係無いけど、『がっこう○らし!』の「り○さん」は……実は「悠里」だしな。
声優の高○李依さん……は「リエさん」か。
出演作品から「Reさん」だと思ってた黒歴史があるのは……俺もう、異世界で新生活始めちゃってるから関係ないか。
それはそれとして、
「……ぼそぼそ(ずっとア○ベル・リイだと思ってたのに)」
プリムローズさんが、なんか言ってる。
二人は知り合いらしいけれど、アナベル嬢の方は、格下の「初段」の『巫女見習い』なんて興味なさそうだ。
ちらっと見て、それっきりだ。その正体が、プリムローズさんとは気付いていないらしい。『女王国』の女性同士は、序列次第で態度がころっと変わるのだ。
「私は結婚の報告です。この方と『正式な結婚』をする事になりました」
シャー・リイ嬢(もうこのままでいいや)が、次郎氏の腕をとって、そう宣言した。
「いやー、どうも」
次郎氏もヘラヘラしてる。
てか、いつの間に話がまとまっちゃったの?
「……ふうん。おめでと」
アナベル嬢があまり目出度くなさそうに、短く祝辞を述べた後で、
「あ、私は『水着』を取りに来たの。おととし『美南海の水都』行った時に買ったヤツが、まだウチにあるだろうなあ……と思ってね! ねえ、どこ?」
と、まくし立てた。
「『水着』? 貴女は『巫女選挙』に出るのでしょう? 『水着』なんて何に使うの?」
シャー・リイ嬢がいかにも不審そうに問いただす。
「だから、『巫女選挙』で必要なのよ。なんか『水着審査』とかいうのがあるんだって……。ねえ、母さん、『水着』どこ?」
シャー・アナベル……と言うと、どっかの王様みたいだな。
やっぱりアナベル嬢でいいや。アナベル嬢が母親に訊ねた。
「ああ、アレね。うん、無いよ」
「えっ? なんで無いの? まさか母さんが着て破いちゃったの?」
ここまで秘匿してきたけれど、女主人の体形は、とてもでっぷりとしてる。
「あんた、なんてこと言うんだい! 本気で怒るよ!」
「じゃあ、どうしちゃったのよ?」
母娘の会話に熱が入る。
「「「「「…………」」」」」
みんなうんざりして退屈そうだ。
俺も早くお金を受け取って立ち去りたい。
「どうした……って……つまり、アレだよ」
「アレって何よ?」
「ウチは『骨董品店』だろ? 古い使用済みの物を売るのが商売なわけだよ」
女主人がなんかとんでもない事を言いだしてる。
「ええーっ、まさか……嘘でしょ? ヒドいですよね? ね、プロペラ小僧さま!!」
「……」
俺に振られて困る。
てか、俺は、着用中あるいは半脱ぎ状態あるいはまた半脱ぎ状態(大事な事なので2回です)ならともかく、キャストオフされた下着や水着にはあんまり興味がいかない男なのだ。
そうなると、もう名前に『オフ』の付くお店で売られてようと……それはないか。関係者の皆様ごめんなさい。
「うわー、誰が私の『水着』買ったんだろ? なんか変な事に使われてそう……」
アナベル嬢が、母親の言葉から嫌悪感を受け、悪寒を感じているらしい。
プルプルと震えている。
関係無いけど、ずっと「プ○」「○ル」と呼ばれてた『ZZ』の「エ○ピー・プル」って、どっちがファーストネームなんだろ?
それはそれとして、
「ところでプロペラ小僧さまはこれからどちらに? ひょっとして『水着』を買いに行かれるんですか?」
そんな事を訊かれた。
なんでやねん! と言いたいところだけど……夏だしな。
みんなで海行くかもしれへんしな!
てか、『この世界』の『水着』って、どんなんか気になってきた。
そんで『水着』売ってるお店に行ったら、たまたま偶然奇跡的に……イヤ、運命に導かれて『俺の聖女』のシンシアさんと会っちゃったりするかも? だな。
そしたら『どれがいいですか? ジンさん』とか訊かれて、俺が『水着』を選んであげる流れに……うふふふ(天使の微笑み)。
「……実はそうなんです」
あ、いけね。ついうっかり口を滑らせてしまった。
「ああ、やっぱり! じゃあ、ぜひ一緒に行きましょうよ!!」
アナベル嬢が喜んだ。
その一方で、みんなに驚かれた。
「「「「「……えっ?」」」」」
なので断った。
「それはないです。我々だけで行きます!」
「ええ――っ?」
めっちゃ残念がってる。
でもついて来そうだな、この子。
「とにかく、俺たちはこれから用事があるので、早目にしていただきたいのです」
俺はバッサリと言ってやった。
買取希望なのだ。さっさとして欲しいのだ。ラウラ姫も貴重な休日なのだ。
「あーはいはい。少しお待ちを」
女主人は立ち上がって、奥に向かった。金庫でもあんのかな?
「祈願! 両替商組合本館まで ★羽書蝶☆」
奥からそんな声が聞こえて、チョウチョそっくりな『魔法』のお葉書が、ヒラヒラと換気口から外に飛んで行った。
どっかから現金を調達するらしい。
◇
「「……(にこにこ)」」
次郎氏もシャー・リイ嬢も。めっちゃ嬉しそうだなあ。
にしても……なんなんだ、この展開。
きっと、「ご都合主義」とはこういう事を言うのでしょうね。
もっとも、私にとって都合のいい事なんて、何ひとつないのだけれど。
お、なんか『俺○も』の「●猫」っぽい。
ちょっと不吉な予感。
◆
黒猫は肉球も黒い――●




