095◇ゆかいな仲間たち、西へ
「うわー、流石は『王都』。めっちゃ多いなあ」
俺が言うと、
「人がねー」
「馬車ですね」
「外国人っすか?」
「ゴロゴロダンゴムシがですね」
着目するポイントは人それぞれらしい。
ちなみに四つとも、ホントに多いです。
◇
現在いるここは『北の街区』。
目の前には『永遠の道・北西路』。
これから、その『道』を渡って、『西の街区』に行こうとしている。
『道』は不文律として左側通行だ。
綺麗に整備された「歩道」にいる俺たちの目の前を、かなりの数の馬車が右から左へ通り過ぎる。
だだっ広い道幅を、数車線分に分けてるのに、それでも渋滞気味だ。
『大交差』が近いのだ。
「てか、『道』を歩いて横切るんスか?」
訊いてみた。
『冶金の丘』に居た時に、何度か歩いて横断した事はあるけれど……ここは馬車の交通量がハンパないから、呑気に歩いてたら、絶対に轢かれる。イヤ、撥ねられる。
俺だけならば、バサッとな! で、華麗に全裸になって、『★不可侵の被膜☆』で馬車との衝突の衝撃を消し去る事が出来るけれども。ただ「盾役」が全裸ってどうなんだ?
なにしろ『永遠の道』の道幅は、「十分の一なのです」は……分かり辛いから『地球』風に言うと、約100m以上なのです。
その道幅のせいで「歩道橋」は無い。
なので、よくある「歩道橋からトラックの荷台に飛び降りる」のも不可能だ。
関係無いけど、アニメ版の『こ○美』のラストの、原作には無い歩道橋のシーンが凄く良かった記憶がある。
それはそれとして、もちろん「地下道」は無いし、「ロープウェイ」とかも無い。
有ってもよさそうな「信号機」も無い。
でもって「横断歩道」も無い。
設置出来ないそうなのだ。
『道』を生息域にしている『陸棲型(のヌメヌメスベスベ)』が這いまわって、炭酸カルシウムで塗り固めてしてまうから。
『永遠の道』って、どうやって向こう側に渡るんだ? 走るの?
走っても「半ツン」は……分かり辛いから『地球』風に、どう見ても30秒はかかるわよ、ツン!
フワフワと空を飛ぶチョウチョ形の魔法の葉書『★羽書蝶☆』が、ヒラヒラと『道』を越えて、飛び交ってる。
空飛ぶんかな? と思っていたら――
「祈願! ★着地っ☆」
ホントに『飛行魔法』であっさりと『道』を飛び越えちゃう人もいた。びっくり。
『魔法』を使えない俺には、どだい無理だけど。
飛べない○は、ただの○だ。加速世界の○君は空を飛べたっけか?
でも、飛べないのは俺だけじゃない。
「『飛行魔法』って、使える人と使えない人がいるみたいっスけど、何か事情があるんスか?」
気になったので、プリムローズさんに訊いてみた。
「ああ、『★飛行☆』って発音が特殊だしね」
確かに、この言葉だけ特殊な響きだ。
まるで「動物の鳴き声」みたいな発音なのだ。
「発音しにくいし、発動させた後は空中での姿勢の制御もむつかしいし、あとは何よりも『着地』だね」
「『着地』っスか?」
確かに、飛行機の操縦でも、「離陸」よりも「着陸」の方が難しそうだもんな。
でも、さっきの知らない人は、ピタッ、とキメてたな。体操選手みたいだったよ。
「みんな『飛行』は出来ても、『着地』に失敗して痛い目を見ると、もう二度と飛びたくないって思うみたいで……確かに『飛行魔法』って使う人は多くないな。ミーヨは使えたっけ?」
プリムローズさんが幼馴染に訊ねた。
「ボコ村の近くに『ふしぎなわっか』が出来るようになってから、どうしても、それを空から見たくて練習したけど……屋根くらいの高さで怖くなって……えへへ」
大人な「家庭教師」の姿で、子供っぽく照れ笑いしてる。
『ふしぎなわっか』か……・。
俺が『全知神』様に殺害されるきっかけになったヤツだな。
ボコ村近傍の麦畑に出来る「ミステリーサークル」みたいなヤツだそうだ。
上空から見ないと、全貌がつかめないくらい大きいらしい。
「ああ、アレね。ただの落書きだと思うわよ。『全知神』様の」
プリムローズさんがそんな事を言う。
こんな事言ってるけど、そもそものきっかけは彼女が使う『★風の護円☆』という「オリジナル魔法の練習」だったらしいんだよな。
それを、よりにもよって『この世界』の「神様」が追随してたらしいのだ。
「えっ? プリちゃん、上から見た事あるの」
ミーヨが目の色を変えるけど、
「あるよ。『この世界』の人たちにとって、アレは『魔法の増幅円』なんだよ。ただカタチが特殊だから、ちょっと真似するのは不可能だけどね」
初耳だ。そして、何やら不可解な事を言ってるぞ。
前に話題に上がった時には、そんな話してないぞ。
「……ぼそぼそ(それが『日本』の○○○マークにそっくりだなんて、口が裂けても言えへんわー)」
「清き乙女」の『巫女見習い』姿なのに……げっひーん。
プリムローズさんは『前世』では関西ご出身らしいので、3文字だよ(笑)。
てか、そーなのか?
二重丸に縦線が入って、外輪に短い放射状の線が加わるアレか?
そんな下品なマークにそっくりだったのか?
だから俺にはキチンと話してくれなかったのね?
てか、聞こえてたけどね。
◇
「それでどうするの? 待ってても、馬車の流れは止まないよ」
ミーヨが焦れったそうだ。
プリムローズさんは、うん、と頷いて、
「『ワタリガニ』に乗ろう」
そんな事を言った。
ナニソレ? 生き物?
たしかに、人の多い大都会だって言うのに『永遠の道』名物の『陸棲型』もゴロゴロダンゴムシも、わりとフツーに存在してる。
そして、みんなそれを見慣れていて、別になんとも思ってないみたいだ。
「あ、あそこに停まってる!」
第二侍女ポーニャ嬢が指差した方を見ると、『地球』の「装甲兵員輸送車」みたいなゴツい馬車があった。
「ナニコレ?」
俺じゃなくて、ミーヨがそう言った。
「『王都』での『永遠の道』横断専用の馬車だよ。実は『王都防衛兵団』の装甲馬車なんだけどね」
歩きながら、プリムローズさんが説明してくれる。
彼女自身は見慣れていて、何の違和感も感じていないようだけど……国の首都に「装甲車」ってどうなの?
「『道』をヨコにしか移動しないから『ワタリガニ』って呼ばれてるんだよ」
てか、「ワタリガニ」って日本では食用のカニ「ガザミ」の事だ。
でも、ここは異世界だし、『永遠の道』は言ったら「川」みたいなもんだから、「陸の渡し船」みたいな感じでそう呼ばれてんのか?
「何しろ頑丈で、『空からの恐怖』の石弾攻撃や『魔法式空気銃』の連射にも耐えられるからね。横断中に、ヨコから他の馬車に突っ込まれてもビクとしもしないらしいよ」
プリムローズさんが、えらく物騒な事を言う。
「……というか、相手方の馭者が怖がって『ワタリガニ』を避けて通るらしいけどね。こんな色だし」
そう、名前の通りに黒っぽい赤なのだ。
そしてその車体は、『地球』の装甲車や戦車と同じ発想からか、装甲に傾斜が付いていた。
そんで全体的にカクカクしてる。真ん中から突き出た牽き馬を繋ぐための「牽き棒」が、固定された主砲みたいにも見える。
戦闘時に、牽き馬無しで走行するための『魔法』で動かすタービン・エンジンまで付いてるらしい。
意外と良さそうなので、俺も一両欲しいと思ってしまった。
『俺の馬車』は真っ白で目立つし、何より『王家の紋章』がデカデカとはいってるから、「お忍び」では使えないんだよな。
「普段は仕事ないから、市民の役に立ってるワケだよ」
プリムローズさんは呑気に言った。
戦争無いから、平和過ぎて兵隊さん暇なのか?
先日の『ヘビアタマの翼竜』騒ぎの時も、なんかバタバタしてて不慣れな感じだったもんなあ。
「うむ。乗り込むぞ」
敵のアジトに踏み込むみたいに言わないで、姫。
とにかく、みんなで乗り込む事にする。
「どうぞ、どうぞ。あ、足元、お気をつけて。小さい子は特にね。ほら、そこの『夏の旅人のマントル』のおちびちゃん」
「……むう」
一言余計だけど愛想のいい兵隊さんに促されて中に入ると、武骨な外観と違って、ちゃんと「旅客サービス」を意識した内装だった。
変な落差に戸惑いながら、みんなで座り心地のいい長椅子に腰かける。
座席は9人で、ぴったり埋まった。
装甲馬車は、カンカンカンカン! と妙に明るく軽快な警鐘を鳴らしながら、走り出した。
「降りたらすぐに『西の街区』だから、そこでは『お財布』に気をつけてね!」
すっかりツアコンと化したポーニャ嬢が、注意事項を告げた。
「「「「「は――い!!」」」」」
みんな良いお返事だけど……スリとか出るのか?
◇
幸い、他の馬車から追突されずに『永遠の道』を渡りきり、装甲馬車『ワタリガニ』から降り立つと、馬車ごと大きな丸い盤の上に乗っていた。
「はい。ご乗車ありがとうございました。お次の方々がお待ちですので、速やかに『旋回盤』の外まで出てください」
言われた通りにすると、下の『旋回盤』が回って、装甲馬車がぐるん、と向きを変えた。
ターンテーブルだ。
これを使って『道』の横断専用馬車として運行してるらしい。
動力なんだろ? と思ったら……『獣耳奴隷』さんたちだった。
ロバ耳をつけた日本人顔の、初老のおじさん3人……というか、ほぼお爺さんたちだ。
やれやれ……ではすまないな。何とかしたいけれど。
「……」
プリムローズさんもキツい瞳で見ている。
「おっ、かねー」
それって「お金」の事だよね?
変な言葉遣いのロバ耳お爺さんに言われた。
『獣耳奴隷』は『魔法』を使えないように、『この世界』の言葉をきちんと教えてもらえないので、こうなるらしいんだよな。
「あ、はい」
ミーヨが対応してくれる。
ん? 大丈夫か? お前『巾着』はパンツの中……イヤ、スカートの中に隠してるんじゃ……と思ったら、普通にスカートのポケットから「小銭入れ」を出した。
あーびっくりした。こんな公衆の面前でスカートめくりあげる気かと思ったよ。
「お金とられるんですね。彼らの報酬になるんスか?」
彼らに怒ってるわけではないのに、ずっとロバ耳お爺さんたちを睨んでいるプリムローズさんにそう言うと、
「いくらからはね。でも大部分は兵士が取るらしいよ」
『女王国』の兵士は、平気で職務中にアルバイトしてるっぽい。
「みんな、年とってますね。大変そうだ」
「そうね。でも『王都』はまだマシなのよ。待遇も悪くないし、年を取っても仕事はあるし。本当にヒドいのは地方の農園よ。あの人たちはお年のせいで地方の農園から『お払い箱』になって『王都』にまで流れて来たんだと思うわ」
そんな事を言われた。
「あれ見て」
プリムローズさんが指差した方には、背の高い城壁のようなものが南北に伸びていた。城塞らしい建物の塊が、間隔を開けて二ヶ所ある。
「あの壁とかお城はなんなんスか?」
「旧『西の街区』の防壁ね。街が拡張して、今ではすっかり物見遊山のためだけに使われてるけどね」
「物見遊山?」
「『王都』は土地が平坦で高低差も無くて、面白味が無いから、必要がなくなった今でも、取り壊さずに行楽のために残してあるのよ。みんな高い所には登りたがるでしょ?」
「……へー」
「ああ、また話が逸れる。問題はあの壁の向こう。『西の街区』の新市街や工房街が広がってるのだけど……かなりの規模の貧民街もあるのよ」
「そこにあのお爺さんたちみたいな人たちが流れ込んでる?」
「そう」
プリムローズさんが苦い表情で頷いた。
「じゃ、また、あしたー」
ロバ耳お爺さんに頭を下げられた。
何か違う意味に聞こえるけど、「それでは毎度ありがとうございました」って言われたんだろう……多分。
◇
「……『小惑星銅貨』11枚だって、10人分なのに」
支払いを済ませたミーヨが言うと、
「ねこちゃ、の、ぶん」
猫耳奴隷のセシリアが茶トラ君を突き出して見せた。
「……(ぶんぶん)」
茶トラ君の尻尾がぶんぶん振られてる。
これ、猫にとっては不機嫌の合図だな。
セシリアは抱き方が間違ってるせいで、茶トラ君に好かれてない気がする。
でも、連れてきちゃったけど、茶トラ君大丈夫かな?
逃げ出してどっかいかないかな?
それに「作画崩壊」……イヤ、「突然変異」で生まれたらしい「六本指の猫」だから、珍しがられて攫われる危険がないか心配だ。
「そんで、猫って料金2人分になるのかな?」
俺が言うと、
「可愛い猫ですね」
そんな声がした。
「そうかなあ? めっちゃ偉そうで、ふてぶてしいヤツだけど……え?」
誰の声だろう? と思って振り向くと、頭頂部に色味(真鍮色だ)から言って「おだんご」と言うよりも「お饅頭」を載せた少女だった。
「……」
「『五の姫』ちゃん?」
すっかり忘れてた。
いやー、いたのね?
すんごいステルス性能だったよ?
ヘタすると第五侍女アルマメロルトリア嬢以上だよ。
だから『ワタリガニ』の運賃が10人+猫一匹分だったのか。
「ほら、行きますよー!」
第二侍女ポーニャ嬢が張り切ってる。
「……」
まだ名前も知らない『五の姫』ちゃんが、無言でついて行く。
この感じだと「お姉ちゃん」には、逆らえないらしい。
◇
『西の街区』は、色々な工房や商店が立ち並んでる商工業区だそうな。
『大交差』に面した角地には、『地球』の「銀行」に相当する『両替商』の組合本部本館なんて要塞みたいな建物がある。
でも厳めしいのはそれだけで、後は色々な商店と、それに関連した色々な工房の街らしい。
『永遠の道』に面した場所には、「表看板」にあたる大きな「門 館」がいくつもあって、洞窟の入り口みたいにぽっかりと口を開けている。
門を潜った奥に、アーケード付きの「専門店街」が続いてるらしい。
「門 館」には、職業や取り扱い品を象形した絵文字みたいな「紋章」がついていて、目的の品を探すのはカンタンだった。
「えーっと、肉。肉。すぐ食べれるのがいいですね!」
「うむ。あれは菓子か? 後だな。まずはかるく果実が良いな」
確かに、今日は『お菓子の日』のせいか、「お菓子」のとこは人が多いな。
……じゃなくて!
さっそく王女姉妹が本来の目的からズレ始めてる。
早目に「軌道修正」しないと、二人が「食の引力」に引き寄せられてしまう。
でも、俺も朝食摂らずに、ダイヤモンドを量産してたから、めっちゃ腹減ってるんだよな。
「まず、『宝石』をお金に換えてからにしましょうよ。その方が好きな物を好きなだけ選べますよ?」
そう提案する。
「む? であるか」
「銭の力で御座るな」
信長と秀吉みたいな事を言う二人を引っ張って、「金と宝石」の紋章が出てる「門 館」の中にみんなで入る。
ここも有料で、また一人につき『小惑星銅貨』1枚だった。貧民対策だそうだ。
「貧民対策と言うと、なんか食べ物の配給とかに使われるんスか?」
「いや、『小惑星銅貨』1枚も払えない貧乏人は入って来るな、って意味じゃない?」
プリムローズさんが投げ気味だ。
「……」
黙って大人しくしてるけど「ご令嬢」役の『五の姫』ちゃんも心を折らずに、ちゃんとついて来てる。
ふと思いついた事があって、彼女の背後に回り、首筋を見る。
髪をアップにして「おだんご」にしてるので、うなじが丸見えだ。
真鍮色のほつれ毛が揺れて見づらいけど、心中線を外した位置にさりげなく黒子がついてる。
『女王国』での「身分証明証」になっていると言う『魔法の黒子』だ。
ちょっと確認しておこう。
(『光眼』。拡大鏡モード)
立ち止まったところを、拡大して見ると「王家の姫」の証の『星の紋章』だった。
精緻な「★」の模様だ。
これって、産まれてすぐに『魔法』で入れる刺青らしいから、偽装は無理だろう。
こんなものが王女様についてるなんて、一般人はほとんど知らないらしいし。
でも、じっとしていてくれなくて、微妙に動くので細かい情報が読み取れないな。
顕微鏡観察の時に上から押さえつける、あのガラスの薄い板なんて名前だっけ?
テンプレート……ではないから、プレパラート?
そんで、この子の、『五の姫』ちゃんの名前は何だろう?
ポーニャの妹だから、ピーニャとかペーニャか? 南米か!
とにかく、ラウラ姫やドロレスちゃんとはぜんぜん似てないけれど、本物の『五の姫』らしい。
正直、疑ってましたよ。ハイ。
ぽとん
その『五の姫』ちゃんのスカートの足元に、何かが落ちた。
何か白い物体だ。
おだんご? お饅頭? ……じゃないな。
大きさからすると……肉まん?
ああ、それって「胸パッド」だな。
しっかりと「盛って」たのね? どこの女神様だよ?
わさわさわさ――
あっという間にゴロゴロダンゴムシが数匹、通常歩行形態でやって来た。
ちなみに、ゴムタイヤが勝手に転がってるみたいな「回転移動形態」もある。
早速、その「肉まん?」に群がって食べ始めたよ。
ゴロゴロダンゴムシって『永遠の道』の「掃除屋」だから、地面に落ちた「食べられそうなもの」は、自分たちの食べ物だと思ってるらしいんだよな。
食いつかれて、白い袋縫いが破れて、中身のカラフルな『虹色豆』があふれ出た。
パッドは、小豆の詰まった「お手玉」みたいな構造になっていたらしい。
とすると、肉まんじゃなくて、あんまん?
『五の姫』ちゃん本人は、落ちたのに気付いてないようだけど……片方のお胸が、ハッキリと凹んでる。
CがAAくらいになっちゃったよ。
ギルド所属なら大幅にランクアップしてるよ。でも、それならAの上はSか?
……これ、教えてあげた方がいいのか?
ま、黙ってようっと。
ぽとん
バランスは、とれているようだし。
◇
宝石店や装飾品の店を何軒か回ったけど、ダメだった。
なんてこった。『宝石』を売れない。
実物を見せる前に追い払われるよ。
「またダメってどういう事よっ!」
第二侍女ポーニャ嬢が店から出て来て、むくれてる。
そもそも、やって来た時間が早すぎて、格式の高いお店は開いてないし、中程度のお店でも俺たちでは、子供扱いされてマトモに相手にしてもらえない。
次郎氏もチャラチャラした「船員」のカッコなんかしてるから信用されないし、無駄に三人もいる『巫女見習い』が出しゃばるワケにいかないし、「護衛」や「侍女」や「家庭教師」がオモテに立つわけにも行かないし、当の「ご令嬢」は微妙に貧乏くさくて、そうは見えないし。
それに「プロペラ小僧」は服着てるから、本領発揮できないし。
内心の焦りを感じつつ、俺はポーニャ嬢に非物理的に突っ込んだ。
「ポーニャさん、『西の街区』に詳しいんじゃなかったんですか?」
「……食べ物のお店と、服のお店と装飾品のお店。雑貨のお店とかなら」
「平均的なただの女子やん!」
再度、非物理的に突っ込んだ。
「だから何よー」
泣きそうだ。
◇
「あっ」
つい、声を上げてしまった。
通りに、『頬傷』の『仮面の男』がいたのだ。
てか、街中でも普通に『仮面』被ってんのか? 元・第二王子様。
しかも――
「よお、昨夜はどうもな!」
すんごい気軽に、向こうから声を掛けて来た。
「なにやってんスか? こんなとこで」
俺は彼に近寄って、みんなに聞かれないような声で話しかけた。
『暗黒邪法』で、その時の記憶は消えてるハズなので、説明がめんどくさいのだ。
「いや、昨夜『宝石』くれたじゃん! アレ売って金に換えて来たとこだよ」
「へー、いくらに……イヤ、その店って、どこっスか?」
「ほれ、そこの『骨董品店』だよ」
「『骨董品店』?」
見ると、どこかで見たような店構えの骨董品店がそこにあった。
「ここで『宝石』の買い取りしてくれるんスね?」
「ああ、そうだよ。お陰で四分の三分の二ぶりにマトモなメシが食えるよ」
てことは、この人、2か月以上も人造湖の魚とかヌメ……とかを食ってたのか?
「あ、あとよ、ホンモノの『仮面の男』は、あの婆ちゃんが『神殿』に連れていったみたいだぜ!」
「えっ?」
「じゃ、おれは行くからな、あばよっ!」
そう言って『仮面の男』は立ち去った。
「…………」
ホンモノの『仮面の男』とは、ラウラ姫とドロレスちゃんの父君の事だ。
と言うか……あの元・第二王子様にとっても「実の父親」のハズなのに。
『王家』から追い出されて平民になってるから、付き合いが希薄なのか?
そんで「あの婆ちゃん」ってラウラ姫の第四侍女ベコちゃんの事だろ?
『神殿』って『王宮』のお向かいにある『全知全能神神殿』の事だな?
なんで、そんなトコにいるんだ?
繋がりがハッキリしないな。
まだまだパズルのピースが足りない感じだ。
関係無いけど、プラモデルのパーツが無くなったら悲惨だ。
魔改造フィギュアのキャストオフ出来るパーツが無くなったら、もっと悲惨だ。
脱げっぱなしだ(笑)。
そんな事を考えていると、誰かが側に寄って来た。
「ここって……『冶金の丘』にあった『骨董品店』の『王都』支店じゃないのかな?」
声で分かる。ミーヨだ。
振り向くと、三つ編みをほどいてるので、ちょっと大人な感じのミーヨが、ものすごく警戒してる様子だった。
「ああ、多分、そうだと思うよ」
『冶金の丘』の店では高値で『宝石』を買い取ってくれたのはいいけど……その後で尾行されたり、『永遠の道』の「馬車溜まり」で俺が攫われそうになったり……ロクな目に遭ってないもんな。
「でも、こうなったらヤムをエム。ここで売ろう!」
もう、いいや。多少トラブルになっても。
『王宮』にいろいろ知り合い出来たし、なんとかなんだろ。
「みんなー! ここ入るからっ!」
背に腹は代えられない俺は、ろくろく考えもしないで、その店にみんなで入ってしまったのだった。
◇
「あらあら! 団体様のお着きね!」
出迎えたのは、脂ぎってスケベそうなオバさんだった。
全体的な雰囲気に、イヤなデジャヴがある。
店の中も、まるで「背景美術の使い回し」みたいなデジャヴがある。
この店でも、地球でも見かけるような古道具、絵画や美術品の類が、雑然と並べられて、売られていた。
宝石や装飾品も、客が直接手に出来ないような場所に用心深く陳列されてる。
「どうぞ、ご自由に~、ごゆっくり~」
オバさんはそう言ったけど、すぐに男性店員が数人出て来て、俺たちに張り付いた。
オバさんは、『拡大』の『魔法』を使って、指でつまんだ黄色い宝石を見ている。
「次郎さん。交渉お願いします」
俺は頼んだ。
「ういっす」
次郎氏は躊躇わずに、脂ぎってスケベそうなオバさんのところに行った。
「あらあら! 『獣耳奴隷』かと思ったら、ずいぶんと男前な船乗りさんだったのね!」
嫌味な言い方だ。
ねっちょりとした視線で次郎氏を見てる。
俺、それがヤで次郎氏にお願いしちゃったんだけど……ホントお願いね。
みんなは、それぞれに興味がある物を、好き勝手に見ていた。
ラウラ姫は武器刀剣コーナーに居る。
姫が持つと、普通の長剣がなぜか大剣に見える。錯視かな?
ドロレスちゃんは意外な事に、絵画に興味があるようだ。
壁の上の方に、ゴチャゴチャと飾られてる、額縁入りの絵を見上げている。
プリムローズさんは、『地球』とはかなり見た目が違う『この世界』の楽器を見るのが好きらしい。
前に『冶金の丘』の骨董品店で、俺が『古代魔法文明』の遺産の魔法道具かと思っていたのは、『この世界』の楽器だったのだ。
ミーヨは宝石の陳列棚だ。
失われたオ・デコ家の家宝『紅い卵』が、俺様の括約筋……イヤ、俺様の活躍(?)によって『スター効果のある丸いルビー』と判明したので、いろいろと『宝石』に興味が出て来ているらしい。
猫耳奴隷セシリアと茶トラ君は、入店直後に外につまみ出されてしまったので、ヒサヤと第五侍女アルマメロルトリア嬢が付き添って、一緒に外で待っている。申し訳ないので、後で何か美味しいものをご馳走しようっと。
俺は自分じゃ撃てないけど、男のロマンなので『魔法式空気銃』の陳列棚を見ている。
さすがに『王都』だけあって、手作りの一品物らしい珍品がいっぱいあって、お値段もお高い。
ミーヨの護身用に小型のヤツを買っておきたいけど、本人は持つのもイヤがるだろうな。
「ジン君。ジン君」
どんどん気安くなる第二侍女のポーニャ嬢からお声が掛かった。
なんか腹立つので、雑に返してやろう。
「なんだよ、ポーニャ」
「……ぽ(ときめき☆)」
なんか、ときめいた瞳で俺を見てる。
「……イヤ、ごめんなさい。ホントに何ですか? ポーニャさん」
俺は慌てて謝った。
「は! あ? ああ、そうそう。あのオバさんが持ってた宝石って、わたしにくれるって約束したヤツじゃないの? いつの間に売ったのよ! わたしに断りもしないで!!」
何かぼーっとしてたと思ったら、急に正気づいて、理不尽に怒られた。
そんな約束した覚えもない。
確かに、アレは俺が作った「失敗作」……『凍ったお○っこ』のうちのひとつだけれど、『仮面の男』ことまだ名前を知らない元・第二王子様にあげたのは、いちばん小さいヤツなのだ。
でも、彼がこの店でアレを売ってしまったというのであれば、残り7個はどこか別なところで売らなきゃいけなくなったな。面倒くさい。
「あれなら、ここにありますよ」
俺はポケット代わりの『夏の旅人のマントル』の頭巾から、ひとつ取り出して見せた。
「ああ、素敵! わたしにソレをちょうだい、ジン君!」
なんか勘違いしそうな感じで、そう言われた。
「ダメですよ」
俺は腕を高く上げてそっぽを向いた。
「えーっ、ちょうだいってば!」
「……(じ――っ)」
くっ付くな! ミーヨがこっちを見てるじゃあないか!
「えいっ!」
ポーニャ嬢が、『凍ったお○っこ』を奪い取ろうとして、ジャンプして手を伸ばした時だった。
がちゃん!
「「えっ?」」
何かが割れる、大きな音がした。
「……わたしじゃないわよ」
「……イヤ、俺でもない」
「……(蒼白)」
見ると、またまたすっかり忘れていた『五の姫』ちゃんが、両手で口を押えて、真っ青な顔になっていた。
その足元には……粉々に割れた白い陶器の欠片が散乱している。
「む? 怪我は無いか? 異父妹よ!」
こういう時に「大物感」が出るラウラ姫が、真っ先に駆けつけた。
そして、
がちゃがちゃがっちゃ――ん!!
姫の佩刀の出っ張りが、陳列棚の陶器を薙ぎ払って、床に叩き落した。
「む?」
「「「「「……(呆然)」」」」」
みんな茫然。
有意義なプレゼン……は「社会人の醍醐味」って言ったのは悠木○さん演じるターニャ・デ○レチャフ(※当時・軍大学生)。
その対極にある感じの『これ○ば』のカ○マの、「ちゅんちゅん○」くらいのベリーショートソードだったなら、引っ掛かったりしなかったろうに。てか、アレって長すぎて引っ掛かったから、ベリーショートに切り詰められたんだよな。
「むむ?」
よりにもよって、佩刀が引っかかってしまうなんて!
こんな時は、どう対処すればいいんですか? 師匠!
◆
とりあえず落ち着きなさい――まる。




