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095◇ゆかいな仲間たち、西へ


「うわー、流石は『王都』。めっちゃ多いなあ」

 俺が言うと、


「人がねー」

「馬車ですね」

「外国人っすか?」

「ゴロゴロダンゴムシがですね」


 着目するポイントは人それぞれらしい。

 ちなみに四つとも、ホントに多いです。


      ◇


 現在(いま)いるここは『北の街区』。

 目の前には『永遠の道・北西路』。

 これから、その『道』を渡って、『西の街区』に行こうとしている。


 『道』は不文律として左側通行だ。

 綺麗に整備された「歩道」にいる俺たちの目の前を、かなりの数の馬車が右から左へ通り過ぎる。

 だだっ広い道幅を、数車線分に分けてるのに、それでも渋滞気味だ。 


 『大交差』が近いのだ。


「てか、『道』を歩いて横切るんスか?」

 訊いてみた。


 『冶金の丘』に居た時に、何度か歩いて横断した事はあるけれど……ここは馬車の交通量がハンパないから、呑気に歩いてたら、絶対に()かれる。イヤ、()ねられる。

 俺だけならば、バサッとな! で、華麗に全裸になって、『★不可侵の被膜☆』で馬車との衝突の衝撃を消し去る事が出来るけれども。ただ「盾役」が全裸ってどうなんだ?


 なにしろ『永遠の道』の道幅は、「十分の一なのです」は……分かり辛いから『地球』風に言うと、約100m以上なのです。


 その道幅のせいで「歩道橋」は無い。

 なので、よくある「歩道橋からトラックの荷台に飛び降りる」のも不可能だ。

 関係無いけど、アニメ版の『こ○美』のラストの、原作には無い歩道橋のシーンが凄く良かった記憶がある。


 それはそれとして、もちろん「地下道」は無いし、「ロープウェイ」とかも無い。


 有ってもよさそうな「信号機」も無い。

 でもって「横断歩道」も無い。

 設置出来ないそうなのだ。

 『道』を生息域にしている『陸棲型(のヌメヌメスベスベ)』が這いまわって、炭酸カルシウムで塗り固めてしてまうから。

 

 『永遠の道』って、どうやって向こう側に渡るんだ? 走るの?


 走っても「半ツン」は……分かり辛いから『地球』風に、どう見ても30秒はかかるわよ、ツン!


 フワフワと空を飛ぶチョウチョ形の魔法の葉書『★羽書蝶☆』が、ヒラヒラと『道』を越えて、飛び交ってる。


 空飛ぶんかな? と思っていたら――


「祈願! ★着地っ☆」


 ホントに『飛行魔法』であっさりと『道』を飛び越えちゃう人もいた。びっくり。


 『魔法』を使えない俺には、どだい無理だけど。

 飛べない○は、ただの○だ。加速世界の○君は空を飛べたっけか?

 でも、飛べないのは俺だけじゃない。


「『飛行魔法』って、使える人と使えない人がいるみたいっスけど、何か事情があるんスか?」

 気になったので、プリムローズさんに訊いてみた。


「ああ、『★飛行☆』って発音が特殊だしね」


 確かに、この言葉だけ特殊な響きだ。

 まるで「動物の鳴き声」みたいな発音なのだ。


「発音しにくいし、発動させた後は空中での姿勢の制御もむつかしいし、あとは何よりも『着地』だね」

「『着地』っスか?」


 確かに、飛行機の操縦でも、「離陸」よりも「着陸」の方が難しそうだもんな。

 でも、さっきの知らない人は、ピタッ、とキメてたな。体操選手みたいだったよ。

 

「みんな『飛行』は出来ても、『着地』に失敗して痛い目を見ると、もう二度と飛びたくないって思うみたいで……確かに『飛行魔法』って使う人は多くないな。ミーヨは使えたっけ?」

 プリムローズさんが幼馴染に訊ねた。


「ボコ村の近くに『ふしぎなわっか』が出来るようになってから、どうしても、それを空から見たくて練習したけど……屋根くらいの高さで怖くなって……えへへ」

 大人な「家庭教師(ガヴァネス)」の姿で、子供っぽく照れ笑いしてる。


 『ふしぎなわっか』か……・。

 俺が『全知神』様に殺害されるきっかけになったヤツだな。


 ボコ村近傍の麦畑に出来る「ミステリーサークル」みたいなヤツだそうだ。

 上空から見ないと、全貌がつかめないくらい大きいらしい。


「ああ、アレね。ただの落書きだと思うわよ。『全知神』様の」

 プリムローズさんがそんな事を言う。


 こんな事言ってるけど、そもそものきっかけは彼女が使う『★風の護円☆』という「オリジナル魔法の練習」だったらしいんだよな。

 それを、よりにもよって『この世界』の「神様」が追随(まねっこ)してたらしいのだ。


「えっ? プリちゃん、上から見た事あるの」

 ミーヨが目の色を変えるけど、

「あるよ。『この世界』の人たちにとって、アレは『魔法の増幅円』なんだよ。ただカタチが特殊だから、ちょっと真似するのは不可能だけどね」


 初耳だ。そして、何やら不可解な事を言ってるぞ。

 前に話題に上がった時には、そんな話してないぞ。


「……ぼそぼそ(それが『日本』の○○○マークにそっくりだなんて、口が裂けても言えへんわー)」


 「清き乙女」の『巫女見習い』姿なのに……げっひーん。

 プリムローズさんは『前世』では関西ご出身らしいので、3文字だよ(笑)。


 てか、そーなのか?

 二重丸に縦線が入って、外輪に短い放射状の線が加わるアレか?

 そんな下品なマークにそっくりだったのか?


 だから俺にはキチンと話してくれなかったのね?

 てか、聞こえてたけどね。


      ◇


「それでどうするの? 待ってても、馬車の流れは止まないよ」

 ミーヨが焦れったそうだ。


 プリムローズさんは、うん、と頷いて、

「『ワタリガニ』に乗ろう」

 そんな事を言った。


 ナニソレ? 生き物?


 たしかに、人の多い大都会だって言うのに『永遠の道』名物の『陸棲型』もゴロゴロダンゴムシも、わりとフツーに存在してる。

 そして、みんなそれを見慣れていて、別になんとも思ってないみたいだ。


「あ、あそこに停まってる!」


 第二侍女ポーニャ嬢が指差した方を見ると、『地球』の「装甲兵員輸送車」みたいなゴツい馬車があった。


「ナニコレ?」

 俺じゃなくて、ミーヨがそう言った。


「『王都』での『永遠の道』横断専用の馬車だよ。実は『王都防衛兵団』の装甲馬車なんだけどね」


 歩きながら、プリムローズさんが説明してくれる。

 彼女自身は見慣れていて、何の違和感も感じていないようだけど……国の首都に「装甲車」ってどうなの?


「『道』をヨコにしか移動しないから『ワタリガニ』って呼ばれてるんだよ」


 てか、「ワタリガニ」って日本では食用のカニ「ガザミ」の事だ。

 でも、ここは異世界だし、『永遠の道』は言ったら「川」みたいなもんだから、「陸の渡し船」みたいな感じでそう呼ばれてんのか?


「何しろ頑丈で、『空からの恐怖』の石弾攻撃や『魔法式空気銃』の連射にも耐えられるからね。横断中に、ヨコから他の馬車に突っ込まれてもビクとしもしないらしいよ」

 プリムローズさんが、えらく物騒な事を言う。


「……というか、相手方の馭者が怖がって『ワタリガニ』を避けて通るらしいけどね。こんな色だし」


 そう、名前の通りに黒っぽい赤なのだ。

 そしてその車体は、『地球』の装甲車や戦車と同じ発想からか、装甲に傾斜が付いていた。

 そんで全体的にカクカクしてる。真ん中から突き出た()き馬を繋ぐための「()き棒」が、固定された主砲みたいにも見える。


 戦闘時に、牽き馬無しで走行するための『魔法』で動かすタービン・エンジンまで付いてるらしい。

 意外と良さそうなので、俺も一両欲しいと思ってしまった。

 『俺の馬車』は真っ白で目立つし、何より『王家の紋章』がデカデカとはいってるから、「お忍び」では使えないんだよな。


「普段は仕事ないから、市民の役に立ってるワケだよ」

 プリムローズさんは呑気に言った。


 戦争無いから、平和過ぎて兵隊さん暇なのか?

 先日の『ヘビアタマの翼竜』騒ぎの時も、なんかバタバタしてて不慣れな感じだったもんなあ。


「うむ。乗り込むぞ」


 敵のアジトに踏み込むみたいに言わないで、姫。


 とにかく、みんなで乗り込む事にする。


「どうぞ、どうぞ。あ、足元、お気をつけて。小さい子は特にね。ほら、そこの『夏の旅人のマントル』のおちびちゃん」

「……むう」


 一言余計だけど愛想のいい兵隊さんに促されて中に入ると、武骨な外観と違って、ちゃんと「旅客サービス」を意識した内装だった。


 変な落差に戸惑いながら、みんなで座り心地のいい長椅子に腰かける。

 座席は9人で、ぴったり埋まった。


 装甲馬車は、カンカンカンカン! と妙に明るく軽快な警鐘を鳴らしながら、走り出した。


「降りたらすぐに『西の街区』だから、そこでは『お財布』に気をつけてね!」

 すっかりツアコンと化したポーニャ嬢が、注意事項を告げた。


「「「「「は――い!!」」」」」


 みんな良いお返事だけど……スリとか出るのか?


      ◇


 幸い、他の馬車から追突されずに『永遠の道』を渡りきり、装甲馬車『ワタリガニ』から降り立つと、馬車ごと大きな丸い盤の上に乗っていた。


「はい。ご乗車ありがとうございました。お次の方々がお待ちですので、速やかに『旋回盤』の外まで出てください」


 言われた通りにすると、下の『旋回盤』が回って、装甲馬車がぐるん、と向きを変えた。


 ターンテーブルだ。


 これを使って『道』の横断専用馬車として運行してるらしい。


 動力なんだろ? と思ったら……『獣耳奴隷』さんたちだった。


 ロバ耳をつけた日本人顔の、初老のおじさん3人……というか、ほぼお爺さんたちだ。

 やれやれ……ではすまないな。何とかしたいけれど。


「……」

 プリムローズさんもキツい瞳で見ている。


「おっ、かねー」

 それって「お金」の事だよね?


 変な言葉遣いのロバ耳お爺さんに言われた。

 『獣耳奴隷』は『魔法』を使えないように、『この世界』の言葉をきちんと教えてもらえないので、こうなるらしいんだよな。


「あ、はい」

 ミーヨが対応してくれる。

 ん? 大丈夫か? お前『巾着』はパンツの中……イヤ、スカートの中に隠してるんじゃ……と思ったら、普通にスカートのポケットから「小銭入れ」を出した。

 あーびっくりした。こんな公衆の面前でスカートめくりあげる気かと思ったよ。


「お金とられるんですね。彼らの報酬になるんスか?」

 彼らに怒ってるわけではないのに、ずっとロバ耳お爺さんたちを睨んでいるプリムローズさんにそう言うと、

「いくらからはね。でも大部分は兵士が取るらしいよ」


 『女王国』の兵士は、平気で職務中にアルバイトしてるっぽい。


「みんな、年とってますね。大変そうだ」

「そうね。でも『王都』はまだマシなのよ。待遇も悪くないし、年を取っても仕事はあるし。本当にヒドいのは地方の農園よ。あの人たちはお年のせいで地方の農園から『お払い箱』になって『王都』にまで流れて来たんだと思うわ」

 そんな事を言われた。


「あれ見て」

 プリムローズさんが指差した方には、背の高い城壁のようなものが南北に伸びていた。城塞らしい建物の塊が、間隔を開けて二ヶ所ある。


「あの壁とかお城はなんなんスか?」

「旧『西の街区』の防壁ね。街が拡張して、今ではすっかり物見遊山のためだけに使われてるけどね」

「物見遊山?」

「『王都』は土地が平坦で高低差も無くて、面白味が無いから、必要がなくなった今でも、取り壊さずに行楽のために残してあるのよ。みんな高い所には登りたがるでしょ?」

「……へー」


「ああ、また話が逸れる。問題はあの壁の向こう。『西の街区』の新市街や工房街が広がってるのだけど……かなりの規模の貧民街もあるのよ」

「そこにあのお爺さんたちみたいな人たちが流れ込んでる?」

「そう」

 プリムローズさんが苦い表情で頷いた。


「じゃ、また、あしたー」

 ロバ耳お爺さんに頭を下げられた。

 何か違う意味に聞こえるけど、「それでは毎度ありがとうございました」って言われたんだろう……多分。


      ◇


「……『小惑星銅貨(アスタ)』11枚だって、10人分なのに」

 支払いを済ませたミーヨが言うと、

「ねこちゃ、の、ぶん」

 猫耳奴隷のセシリアが茶トラ君を突き出して見せた。


「……(ぶんぶん)」

 茶トラ君の尻尾がぶんぶん振られてる。

 これ、猫にとっては不機嫌の合図だな。


 セシリアは抱き方が間違ってるせいで、茶トラ君に好かれてない気がする。


 でも、連れてきちゃったけど、茶トラ君大丈夫かな?

 逃げ出してどっかいかないかな?

 それに「作画崩壊」……イヤ、「突然変異」で生まれたらしい「六本指の猫」だから、珍しがられて攫われる危険がないか心配だ。


「そんで、猫って料金2人分になるのかな?」

 俺が言うと、

「可愛い猫ですね」

 そんな声がした。


「そうかなあ? めっちゃ偉そうで、ふてぶてしいヤツだけど……え?」


 誰の声だろう? と思って振り向くと、頭頂部に色味(真鍮色だ)から言って「おだんご」と言うよりも「お饅頭」を載せた少女だった。


「……」


「『五の姫』ちゃん?」

 すっかり忘れてた。


 いやー、いたのね?

 すんごいステルス性能だったよ?

 ヘタすると第五侍女アルマメロルトリア嬢以上だよ。


 だから『ワタリガニ』の運賃が10人+猫一匹分だったのか。


「ほら、行きますよー!」

 第二侍女ポーニャ嬢が張り切ってる。


「……」

 まだ名前も知らない『五の姫』ちゃんが、無言でついて行く。


 この感じだと「お姉ちゃん」には、逆らえないらしい。


      ◇


 『西の街区』は、色々な工房や商店が立ち並んでる商工業区だそうな。


 『大交差』に面した角地には、『地球』の「銀行」に相当する『両替商』の組合本部本館なんて要塞みたいな建物がある。

 でも厳めしいのはそれだけで、後は色々な商店と、それに関連した色々な工房の街らしい。


 『永遠の道』に面した場所には、「表看板」にあたる大きな「門 館(ゲートハウス)」がいくつもあって、洞窟の入り口みたいにぽっかりと口を開けている。

 門を潜った奥に、アーケード付きの「専門店街」が続いてるらしい。


 「門 館(ゲートハウス)」には、職業や取り扱い品を象形(あらわ)した絵文字みたいな「紋章」がついていて、目的の品を探すのはカンタンだった。


「えーっと、肉。肉。すぐ食べれるのがいいですね!」

「うむ。あれは菓子か? 後だな。まずはかるく果実が良いな」


 確かに、今日は『お菓子の日』のせいか、「お菓子」のとこは人が多いな。


 ……じゃなくて!

 さっそく王女姉妹が本来の目的からズレ始めてる。

 早目に「軌道修正」しないと、二人が「食の引力」に引き寄せられてしまう。

 でも、俺も朝食摂らずに、ダイヤモンドを量産してたから、めっちゃ腹減ってるんだよな。


「まず、『宝石』をお金に換えてからにしましょうよ。その方が好きな物を好きなだけ選べますよ?」

 そう提案する。


「む? であるか」

(ゼニ)の力で御座るな」


 信長と秀吉みたいな事を言う二人を引っ張って、「金と宝石」の紋章が出てる「門 館(ゲートハウス)」の中にみんなで入る。

 ここも有料で、また一人につき『小惑星銅貨』1枚だった。貧民対策だそうだ。


「貧民対策と言うと、なんか食べ物の配給とかに使われるんスか?」

「いや、『小惑星銅貨』1枚も払えない貧乏人は入って来るな、って意味じゃない?」


 プリムローズさんが投げ気味だ。


「……」

 黙って大人しくしてるけど「ご令嬢」役の『五の姫』ちゃんも心を折らずに、ちゃんとついて来てる。


 ふと思いついた事があって、彼女の背後に回り、首筋を見る。

 髪をアップにして「おだんご」にしてるので、うなじが丸見えだ。

 真鍮色のほつれ毛が揺れて見づらいけど、心中線を外した位置にさりげなく黒子(ホクロ)がついてる。


 『女王国』での「身分証明証」になっていると言う『魔法の黒子』だ。


 ちょっと確認しておこう。


(『光眼(コウガン)』。拡大鏡モード)


 立ち止まったところを、拡大して見ると「王家の姫」の証の『星の紋章』だった。


 精緻な「★」の模様だ。


 これって、産まれてすぐに『魔法』で入れる刺青(いれずみ)らしいから、偽装は無理だろう。

 こんなものが王女様についてるなんて、一般人はほとんど知らないらしいし。


 でも、じっとしていてくれなくて、微妙に動くので細かい情報が読み取れないな。

 顕微鏡観察の時に上から押さえつける、あのガラスの薄い板なんて名前だっけ?

 テンプレート……ではないから、プレパラート?

 そんで、この子の、『五の姫』ちゃんの名前は何だろう?

 ポーニャの妹だから、ピーニャとかペーニャか? 南米か!


 とにかく、ラウラ姫やドロレスちゃんとはぜんぜん似てないけれど、本物の『五の姫』らしい。


 正直、疑ってましたよ。ハイ。


   ぽとん


 その『五の姫』ちゃんのスカートの足元に、何かが落ちた。


 何か白い物体だ。

 おだんご? お饅頭? ……じゃないな。

 大きさからすると……肉まん?


 ああ、それって「胸パッド」だな。

 しっかりと「盛って」たのね? どこの女神様だよ?


   わさわさわさ――


 あっという間にゴロゴロダンゴムシが数匹、通常歩行形態でやって来た。

 ちなみに、ゴムタイヤが勝手に転がってるみたいな「回転移動形態」もある。


 早速、その「肉まん?」に群がって食べ始めたよ。

 ゴロゴロダンゴムシって『永遠の道』の「掃除屋」だから、地面に落ちた「食べられそうなもの」は、自分たちの食べ物だと思ってるらしいんだよな。


 食いつかれて、白い袋縫いが破れて、中身のカラフルな『虹色豆』があふれ出た。

 パッドは、小豆(アズキ)の詰まった「お手玉」みたいな構造になっていたらしい。


 とすると、肉まんじゃなくて、あんまん?


 『五の姫』ちゃん本人は、落ちたのに気付いてないようだけど……片方のお胸が、ハッキリと凹んでる。


 CがAAくらいになっちゃったよ。

 ギルド所属なら大幅にランクアップしてるよ。でも、それならAの上はSか?


 ……これ、教えてあげた方がいいのか?


 ま、黙ってようっと。


   ぽとん


 バランスは、とれているようだし。


      ◇


 宝石店や装飾品の店を何軒か回ったけど、ダメだった。


 なんてこった。『宝石』を売れない。

 実物を見せる前に追い払われるよ。


「またダメってどういう事よっ!」

 第二侍女ポーニャ嬢が店から出て来て、むくれてる。


 そもそも、やって来た時間が早すぎて、格式の高いお店は開いてないし、中程度のお店でも俺たちでは、子供扱いされてマトモに相手にしてもらえない。


 次郎氏もチャラチャラした「船員」のカッコなんかしてるから信用されないし、無駄に三人もいる『巫女見習い』が出しゃばるワケにいかないし、「護衛」や「侍女」や「家庭教師」がオモテに立つわけにも行かないし、当の「ご令嬢」は微妙に貧乏くさくて、そうは見えないし。


 それに「プロペラ小僧」は服着てるから、本領発揮できないし。


 内心の焦りを感じつつ、俺はポーニャ嬢に非物理的に突っ込んだ。

「ポーニャさん、『西の街区』に詳しいんじゃなかったんですか?」

「……食べ物のお店と、服のお店と装飾品のお店。雑貨のお店とかなら」

「平均的なただの女子やん!」

 再度、非物理的に突っ込んだ。


「だから何よー」

 泣きそうだ。


      ◇


「あっ」

 つい、声を上げてしまった。

 通りに、『頬傷(ホホキズ)』の『仮面の男』がいたのだ。

 てか、街中でも普通に『仮面』被ってんのか? 元・第二王子様。


 しかも――


「よお、昨夜はどうもな!」


 すんごい気軽に、向こうから声を掛けて来た。


「なにやってんスか? こんなとこで」

 俺は彼に近寄って、みんなに聞かれないような声で話しかけた。

 『暗黒邪法』で、その時の記憶は消えてるハズなので、説明がめんどくさいのだ。


「いや、昨夜『宝石』くれたじゃん! アレ売って金に換えて来たとこだよ」

「へー、いくらに……イヤ、その店って、どこっスか?」

「ほれ、そこの『骨董品店』だよ」

「『骨董品店』?」


 見ると、どこかで見たような店構えの骨董品店がそこにあった。


「ここで『宝石』の買い取りしてくれるんスね?」

「ああ、そうだよ。お(かげ)で四分の三分の二ぶりにマトモなメシが食えるよ」


 てことは、この人、2か月以上も人造湖の魚とかヌメ……とかを食ってたのか?


「あ、あとよ、ホンモノの『仮面の男』は、あの婆ちゃんが『神殿』に連れていったみたいだぜ!」

「えっ?」

「じゃ、おれは行くからな、あばよっ!」


 そう言って『仮面の男』は立ち去った。


「…………」


 ホンモノの『仮面の男』とは、ラウラ姫とドロレスちゃんの父君の事だ。

 と言うか……あの元・第二王子様にとっても「実の父親」のハズなのに。

 『王家』から追い出されて平民になってるから、付き合いが希薄なのか?


 そんで「あの婆ちゃん」ってラウラ姫の第四侍女ベコちゃんの事だろ?

 『神殿』って『王宮』のお向かいにある『全知全能神神殿』の事だな?

 なんで、そんなトコにいるんだ?


 繋がりがハッキリしないな。


 まだまだパズルのピースが足りない感じだ。

 関係無いけど、プラモデルのパーツが無くなったら悲惨だ。

 魔改造フィギュアのキャストオフ出来るパーツが無くなったら、もっと悲惨だ。

 脱げっぱなしだ(笑)。


 そんな事を考えていると、誰かが側に寄って来た。


「ここって……『冶金の丘』にあった『骨董品店』の『王都』支店じゃないのかな?」


 声で分かる。ミーヨだ。

 振り向くと、三つ編みをほどいてるので、ちょっと大人な感じのミーヨが、ものすごく警戒してる様子だった。


「ああ、多分、そうだと思うよ」


 『冶金の丘』の店では高値で『宝石』を買い取ってくれたのはいいけど……その後で尾行されたり、『永遠の道』の「馬車溜まり」で俺が(さら)われそうになったり……ロクな目に()ってないもんな。


「でも、こうなったらヤムをエム。ここで売ろう!」

 もう、いいや。多少トラブルになっても。

 『王宮』にいろいろ知り合い出来たし、なんとかなんだろ。


「みんなー! ここ入るからっ!」


 背に腹は代えられない俺は、ろくろく考えもしないで、その店にみんなで入ってしまったのだった。


      ◇


「あらあら! 団体様のお着きね!」

 出迎えたのは、脂ぎってスケベそうなオバさんだった。


 全体的な雰囲気に、イヤなデジャヴがある。


 店の中も、まるで「背景美術の使い回し」みたいなデジャヴがある。


 この店でも、地球でも見かけるような古道具、絵画や美術品の(たぐい)が、雑然と並べられて、売られていた。

 宝石や装飾品も、客が直接手に出来ないような場所に用心深く陳列されてる。


「どうぞ、ご自由に~、ごゆっくり~」


 オバさんはそう言ったけど、すぐに男性店員が数人出て来て、俺たちに張り付いた。

 オバさんは、『拡大』の『魔法』を使って、指でつまんだ黄色い宝石を見ている。


「次郎さん。交渉お願いします」

 俺は頼んだ。

「ういっす」

 次郎氏は躊躇(ためら)わずに、脂ぎってスケベそうなオバさんのところに行った。


「あらあら! 『獣耳奴隷』かと思ったら、ずいぶんと男前な船乗りさんだったのね!」

 嫌味な言い方だ。

 ねっちょりとした視線で次郎氏を見てる。

 俺、それがヤで次郎氏にお願いしちゃったんだけど……ホントお願いね。


 みんなは、それぞれに興味がある物を、好き勝手に見ていた。


 ラウラ姫は武器刀剣コーナーに居る。

 姫が持つと、普通の長剣がなぜか大剣に見える。錯視かな?


 ドロレスちゃんは意外な事に、絵画に興味があるようだ。

 壁の上の方に、ゴチャゴチャと飾られてる、額縁入りの絵を見上げている。


 プリムローズさんは、『地球』とはかなり見た目が違う『この世界』の楽器を見るのが好きらしい。

 前に『冶金の丘』の骨董品店で、俺が『古代魔法文明』の遺産の魔法道具かと思っていたのは、『この世界』の楽器だったのだ。


 ミーヨは宝石の陳列棚だ。

 失われたオ・デコ家の家宝『(あか)い卵』が、俺様の括約筋……イヤ、俺様の活躍(?)によって『スター効果のある丸いルビー』と判明したので、いろいろと『宝石』に興味が出て来ているらしい。


 猫耳奴隷セシリアと茶トラ君は、入店直後に外につまみ出されてしまったので、ヒサヤと第五侍女アルマメロルトリア嬢が付き添って、一緒に外で待っている。申し訳ないので、後で何か美味しいものをご馳走しようっと。


 俺は自分じゃ撃てないけど、男のロマンなので『魔法式空気銃』の陳列棚を見ている。

 さすがに『王都』だけあって、手作りの一品物らしい珍品がいっぱいあって、お値段もお高い。

 ミーヨの護身用に小型のヤツを買っておきたいけど、本人は持つのもイヤがるだろうな。


「ジン君。ジン君」

 どんどん気安くなる第二侍女のポーニャ嬢からお声が掛かった。


 なんか腹立つので、雑に返してやろう。


「なんだよ、ポーニャ」

「……ぽ(ときめき☆)」


 なんか、ときめいた瞳で俺を見てる。


「……イヤ、ごめんなさい。ホントに何ですか? ポーニャさん」

 俺は慌てて謝った。


「は! あ? ああ、そうそう。あのオバさんが持ってた宝石って、わたしにくれるって約束したヤツじゃないの? いつの間に売ったのよ! わたしに断りもしないで!!」

 何かぼーっとしてたと思ったら、急に正気づいて、理不尽に怒られた。

 そんな約束した覚えもない。


 確かに、アレは俺が作った「失敗作」……『凍ったお○っこ』のうちのひとつだけれど、『仮面の男』ことまだ名前を知らない元・第二王子様にあげたのは、いちばん小さいヤツなのだ。

 でも、彼がこの店でアレを売ってしまったというのであれば、残り7個はどこか別なところで売らなきゃいけなくなったな。面倒くさい。


「あれなら、ここにありますよ」

 俺はポケット代わりの『夏の旅人のマントル』の頭巾(フード)から、ひとつ取り出して見せた。


「ああ、素敵! わたしにソレをちょうだい、ジン君!」

 なんか勘違いしそうな感じで、そう言われた。

「ダメですよ」

 俺は腕を高く上げてそっぽを向いた。


「えーっ、ちょうだいってば!」

「……(じ――っ)」


 くっ付くな! ミーヨがこっちを見てるじゃあないか!


「えいっ!」

 ポーニャ嬢が、『凍ったお○っこ』を奪い取ろうとして、ジャンプして手を伸ばした時だった。


   がちゃん!


「「えっ?」」


 何かが割れる、大きな音がした。


「……わたしじゃないわよ」

「……イヤ、俺でもない」


「……(蒼白)」


 見ると、またまたすっかり忘れていた『五の姫』ちゃんが、両手で口を押えて、真っ青な顔になっていた。

 その足元には……粉々に割れた白い陶器の欠片が散乱している。


「む? 怪我は無いか? 異父妹(いもうと)よ!」


 こういう時に「大物感」が出るラウラ姫が、真っ先に駆けつけた。


 そして、


   がちゃがちゃがっちゃ――ん!!


 姫の佩刀(はいとう)の出っ張りが、陳列棚の陶器を薙ぎ払って、床に叩き落した。


「む?」


「「「「「……(呆然)」」」」」


 みんな茫然。


 有意義なプレゼン……は「社会人の醍醐味」って言ったのは悠木○さん演じるターニャ・デ○レチャフ(※当時・軍大学生)。


 その対極にある感じの『これ○ば』のカ○マの、「ちゅんちゅん○」くらいのベリーショートソードだったなら、引っ掛かったりしなかったろうに。てか、アレって長すぎて引っ掛かったから、ベリーショートに切り詰められたんだよな。


「むむ?」


 よりにもよって、佩刀(カタナ)が引っかかってしまうなんて!


 こんな時は、どう対処すればいいんですか? 師匠!


      ◆


 とりあえず落ち着きなさい――まる。

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