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094◇『巫女見習い』に関する諸々の事


「なんで『巫女見習い』?」


 自然に出てきた第一声がこれだった。

 イヤ、みんなの「お忍び姿」なんだけど……。


「貴族のご令嬢と、その取り巻きという感じでまとめてみました」


 そう言ったのは、『巫女見習い』のコスプレをしたドロレスちゃんだ。

 夏の白い祭服を着て、独特な形に折り目のついた白いヴェールで顔を隠してる。

 さっき『おトイレ』で会った時には、ヴェールは被ってなかったので気付かなかった。

 見覚えあると思ったら、『巫女見習い』か。そういう事だったのか。


「ドロレスに任せたら、これだよ」


 プリムローズさんまでもが、『巫女見習い』の恰好だ。

 彼女独特の真っ赤な赤毛が、白いヴェールの奥で茶色に見えてる。


「うむ。私はご令嬢の護衛だな!」

 ラウラ姫は『夏の旅人のマントル』姿だ。


 俺とお揃いのクリーム色だ。

 内側に佩刀を忍ばせてるので、前後にちょっと不自然な膨らみがある。

 日除けを兼ねたフードで、わしゃわしゃした癖のある長い金髪を隠してる。


 傭兵というか……用心棒というか……そんなイメージか?

 でも一番ちっこいので……見えないよ? そんな風には。

 そして、その護衛対象の「ご令嬢」は、まだ登場してないし……誰が()るの?


「私たちは、あんま変わんなくてつまんなーい!」

「……(ぺこり)」

 第二侍女ポーニャ嬢と、第五侍女アルマメロルトリア嬢だ。

 それでも『三人の王女』であるラウラ姫付き侍女軍団特有の、独特な赤い光沢のある黒い侍女服じゃないので、二人ともかなり違って見えるんだけどな。


 ふたりは、ご令嬢の「お付きの侍女」の役らしい。

 侍女の「夏の外出着」は、短い袖の黒い女性服に、白い「付け襟」と「付け袖」が付いてるものらしい。さらにふわふわっとした白い布のキャップをかぶってる。


 スカート丈は、ふわりとターンするとパンツが見えそうな短さだ。

 ぜひとも今すぐ、ふわりとターンして欲しい。一人ずつ、順番に。


「……(にやり)」

 次郎氏は、下は長いメンズ・スカート。上は白いシャツと革のベスト。

 「商人」というよりも「船員」に見える服装だ。

 さっき乗ってたガレー船の上級船員に似てる。意識して、やってるに違いない。

 ただ、その「役どころ」は不明だけどな。


「……ぼそぼそ(『なんで、私がこの方の妹役に?』)」

 黒髪に黒い猫耳をつけたセシリアが、『この世界の日本語』でなんかボヤいていた。

 先々の事を考えて『猫耳奴隷』の身分を明かす事にしたらしい。


「セシリアは『ご令嬢の愛猫(あいびょう)が逃げないように、ずっと抱きしめてる猫耳奴隷ちゃん』ですね」


 ドロレスちゃんが説明してくれるけど……無いよ、そんな職業。


「……ぼそぼそ(『ねこちゃ、(おも)』)」

 セシリアそのものは可愛いのに、とても可愛いとは言えない「こげ茶色」の素っ気ないデザインのワンピース姿だ。『魔○宅』のキ○の「色違い」みたいな服だ。


「みぃぃあああ゛あ゛あ゛あ゛」

 服と同じ色の「六本指の猫」茶トラ君を、抱っこしている。

 まさか同じ色だと、猫の抜け毛が目立たなくていい……とか、そんな理由で、その服着せられたのか?


「――すると、俺はなんの役?」

 聞いてないので、訊いてみる。


「「「「プロペラ小僧!」」」」


 ご唱和ありがとうございました。


「……じゃあ、わたし脱ぎます」

 俺はそう言って、右手で左肩の布地をガッと掴み、バサッとな! の体勢をとる。


「「「「「あー、ダメダメ!」」」」」


 みんなに必死に止められた。てか、次郎氏にまで。


 そう言えば、昨日の『全裸祭り』で素敵な思い出をくれたシャー・リイ嬢から、次郎氏への伝言を忘れたいと思ってた……イヤ、忘れそうになってた。


「次郎さん」

「なんすか?」

「抱いて」

「ぶっ」

「――って、シャー・リイさんから伝言が」


「あー、びっくりした。マジっすか? いやー、困るなあ」

 そう言いつつ、次郎氏は喜色を浮かべていた。


「「「……」」」


 ドロレスちゃんたちが、こっちを見ていた。


「「「……ひそひそ」」」


 なにか密談を交わしていた中から、一人俺の方に来た。


「お兄さんの役どころは、次郎さんの恋人役というコトで決定しました」

 ドロレスちゃんから悲報が届いた。


「ヤだよ」

 断固拒否っス。


 さて、残るはミーヨ。


 という事は「ご令嬢」の役って……。


      ◇


「どうぞ、こちらに」


 三つ編みをほどいたばかりの、緩やかにカールのかかった栗毛を、胸元まで垂らした「女教師」っぽい女性が……てか、ミーヨが、どこぞの「ご令嬢」の手をひいて姿を現した。


 あれ?


「……」

 真鍮(しんちゅう)みたいな色味の金髪を、頭の上で「おだんご」にした10代半ばの少女だった。

 瞳は、澄んで青い。すこし緊張気味だ。

 如何にも貴族の「ご令嬢」風の、金属光沢に近いツヤの藍色のドレス姿だ。かなり目立つ服装だ。


「えーっと……誰?」


 そう言うしかなかった。ぜんぜん知らない子だ。


 ホントに誰?


「あ、紹介します。ウチの異母妹(いもうと)でーす!」

 第二侍女ポーニャ嬢が気楽に言った。


「うむ。私やドロレスとも父親違いの姉妹となるな。『五の姫』だ」

 ラウラ姫が言った。

 それって、事によったらラウラ姫の「政敵」になる可能性のある子なのでは? ……いいの?


 その子はスカートの裾をつまんで一礼して、

「ただ今、ご紹介にあじゅ」

 いきなり噛んだよ。


「痛ひ。治ひて『巫女(リボ)見習(みばら)い』ちゃま」

 その子は、プリムローズさんに向かって、ロクでもない事を言った。さすが『五の姫』。


「いや、私は『癒し手』じゃないから」

 冷たい言い方だった。

 少しは真面目に『巫女見習い』を演じましょうよ。


「冷やせば治ります! あたしが必殺の『冷凍魔法』で痛みを感じなくしてさしあげます!」

 ドロレスちゃんが「諸刃の剣」を抜こうとしている!

 自爆気味に発動するんでしょ?


「「あー、ダメダメ!」」


 事情を知ってる俺とプリムローズさんで阻止する。


「それでは、僭越ながら、私が」


 この声は?


「それでは失礼します! ☆癒しの手☆」

「ひゃふっ」

 白く光る小さな手が、その子の口元をなぞる。


 振り向くと、三人目の小柄な『巫女見習い』がいた。


「ヒサヤ?」

「はい、ごきげんよう。お兄様」


 俺が名付け親になった元・獣耳奴隷の『癒し手』で「本物」の『巫女見習い』。

 まだ11歳だけど、大人びて丁寧な「完璧少女」のヒサヤだった。


 久しぶりだ……てか、似たような感じで、一昨日も会ってるけどね。


「なんでここに?」

 俺はヒサヤに訊いた。

 ろくに自己紹介も出来ないような第二侍女の妹は、とりあえず放置だ。


「はい。殿下は『第三侍女』をお持ちでないので、しばらくのあいだ代わりを務めるようにと、ご依頼を受けました」

 ヒサヤはさらりと言った。


「ん? どういう事?」

 意味分からん。


「ああ、『三人の王女』の『第三侍女』っていうのは『癒し手』である必要があるんだ。現在、適任者がいなくて空いたままになってるけどね」

 筆頭侍女のプリムローズさんが言った。


 よく分からないけど、そうなん?

 お側付きの()……イヤ「侍医(じい)」みたいなもの?


 という事は、そのうち会うだろうと思ってたラウラ姫の「第三侍女」って、実は存在してなかったのか……。


 主人であるラウラ姫。そして、その筆頭侍女。第二侍女ポーニャ嬢……と『白い花』を咲かせてきたから、なんとなく第三侍女に対しても、責任や義務みたいなもの(?)を感じてたけど……単なる杞憂だったようだ。

 てか、第四侍女が、昨夜のベコジッタお婆ちゃんだしな。


「前々からシンシアを誘っているんだけど……彼女は『七人の巫女』を目指してるからね」


 ほお? そんな話があるんスか。


      ◇


「ちょっと失礼」

 そのタイミングで、次郎氏が『おトイレ』に行くと言い出し、その場を離れた。


 暇なので、短いスカートの二人のメイドさんに注目していると、


「ポーニャさん、アルマメロルトリアさん」

 プリムローズさんだ。なんだろう?


「「はい」」


「服の裾が短すぎるようです。殿方にあらぬ感情を催させるでしょうから、お二人とも直して来てください」

 『巫女見習い』に扮した筆頭侍女に、そう言われた第二侍女と第五侍女は、一礼して去って行った。


 奥に向かう方向転換の際に、ポーニャ嬢のパンツが、ちょこっとだけ見えた。

 なので、ありがたくいただきました。パシャッとな。

 白でした。ご報告までに。


「……(じろり)」


 プ、プリムローズさんに睨まれてるけど……べ、別に俺からは何もしてないぞ。


      ◇


 ちょっと間の抜けた立ち話タイムになった。


「はッ!」


 ミーヨとセシリアは茶トラ君と遊んでる。


「…………」

 大事な「ご令嬢」は放置されっぱなしだ。


「はッ!」


 その姉のラウラ姫はラウラ姫で、『抜刀術』の訓練を始めてしまった。

 『夏の旅人のマントル』を着た状態からいかに素早く一撃を繰り出せるかの自己チャレンジ・モードに突入してしまったらしく、こうなるともう周りが目に入らない。


「はッ!」


 まあ、街中で突然やられるよりも、ここで気のすむまでやって貰っておいた方がいいのかも知れない。


「……」

 ふと見ると、ヒサヤがじーっと俺を見ていた。

 すごく真面目な子なので、何を話したらいいのか困るな。


 あ、そうだ。謝っておこう。


「ごめんな。『巫女見習い』のニセモノが二人もいて」


 ヒサヤは、真剣に『神殿』の仕事に取り組んでるらしいから、ふざけたコスプレで『巫女見習い』の恰好してる人間を不愉快に感じるだろうと思ったのだ。


「ニセモノ……?」

 不思議そうな顔をされた。


「だから、プリムローズさんとドロレスちゃんが……」

 言いかけると、

「失礼な! お兄さん、あたしもプリマ・ハンナさんも正式な『巫女見習い』ですよ!」

 ドロレスちゃんが断言した。


「え? だって『癒し手』じゃないでしょ? 『神聖術法』使える?」

 凄い違和感があるよ?


「お兄様は勘違いされてますよ?」

 ヒサヤが控え目に言った。

「そうだよ、ジン。『癒し手』と『巫女見習い』は同義ではないんだよ」

 プリムローズさんも会話に加わった。


「つまり、どゆこと?」


 俺にとっての『巫女見習い』って、シンシアさんが基準だぞ。

 『冶金の丘』の街中では他の人も見かけてたけど、初めて話した『巫女見習い』が彼女だったし。


「ではお教えしましょう! ドン! ドン!」

 ドロレスちゃんが変なノリだ。


 なんだ? どっかの学園の生徒会会則か?

 だったら、ちっちゃいラウラ姫にホイッスル渡して、吹いててもらわないと!


「『巫女見習い』の資格獲得条件。その一」

「十代の清らかな処女(おとめ)である事……です」


 ヒサヤに言わすなよ。まだ子供だぞ。


「その二」

「2日以上泊まり込んで『神殿』に奉仕する事」


 プリムローズさんの言葉に、俺は諸々の事情を思い出していた。


「ああ、ラウラ姫とその侍女軍団は、『冶金の丘』では猫屋敷化した『代官屋敷』の片づけが終わるまで、『神殿』に宿泊してたらしいもんね。それで?」


「以上です」

 ドロレスちゃんがさくっと言った。


「ゆるっ。『巫女見習い』の資格獲得条件、ゆるっ」

 ゆるゆるじゃないですか……。

 そんなんでいいのか? なんか腰が抜けそうになったよ。


「ですけど……最初の条件がむつかしくて、ですね」

 ヒサヤがもじもじしてる。


「君も知ってるとおり、『女王国』では女性主体の『自由な恋愛』の仕組みがあるからね。『清らかな処女(おとめ)』がなかなかいないんだよ」

 プリムローズさんが雑な感じで捕捉する。


「……ああ」

 実はそうなんだよな。

 俺もミーヨから『自由な恋愛』の事聞いた時は、浮気し放題、フタマタかけ放題の男にとって都合のいい仕組みか? と一瞬思ったけど……いろいろな選択権や優先権は女性の側にあるんだよな。

 逆にハーレムとか無理そうだもん。


 ところで、第二侍女ポーニャ嬢と第五侍女アルマメロルトリア嬢は『巫女見習い』じゃない……つまりはそう言うことなのかな? でも、二人とも20代だろうから、年齢制限でひっかかってるのかな? どっちだろ?


「ちなみに『神殿学舎』では、毎年希望者を募って『お泊り会』があります。10歳以上の女子なら無料で参加出来ます」

「……へー」

 (てい)のいい「囲い込み」やん。

 10代になって即座にとか、完全に「青田刈り」やん。


「あれ? でもドロレスちゃんも『神殿』に泊ってたんだっけ?」

 たまにお爺さんがお酒飲みに行ったって言って、スウさんのパン工房に外泊する事はあったから、そうなのかな?


「いえ、あたしの場合は35打点制度で資格を取りました」

「……へー?」

 プロ野球の野手の査定か? ま、違うよな。

 一打点は約90分だから、『地球』で言うと約53時間だけど……巫女(みこ)だから35なのか?


「まだ未成年だったり、事情があって『神殿』に泊まり込めない場合には、分割して計35打点の奉仕活動を行うのです」

「……へー」

 なんか、細かくて面倒そうだ。でも『この世界』の学校にあたる『神殿学舎』も単位制らしいしな。そんなんが一般的なのか?


「『神殿』では、8日に一度の『お肉の日』には必ずお肉が食べられるので、あたしはその日だけ欠かさず通って資格を取りました! 何しろあたしは『黒』の最後の『お肉の日』生まれですから!」

 ドロレスちゃんが大威張りで言った。


 8日に一度の『お肉の日』は、『地球』で言う「曜日」にあたるものだ。

 ①木の実の日 ②お菓子の日 ③お肉の日 ④お野菜の日 ⑤お魚の日 ⑥果物の日 ⑦卵の日 ⑧お豆の日――という順序でグルグル巡っている。


 個人的には「スーパーじゃないんだから、週に一度の『お肉の日』って何だよ?」と言いたいところだけど、『前世』の日本の話だから、実際に口に出して『この世界』の人たちに突っ込めないのが、ものすごく歯がゆい。


 ちなみに『黒の日々』は(うつ)やら闇やらダークサイドとは無関係で、『地球』で言う「12月」だ。その「最後の巡り」だから『女王国』ではクリスマスみたいな『神授祭(しんじゅさい)』の頃だな。てっきり「冬至」の日1日だけかと思ってたら、聞いたら7日間も続くらしいのだ。


「いいの、それで?」

 俺は彼女と年齢の近いヒサヤに訊ねた。

「……ど、どうでしょう」

 ヒサヤにしては珍しく、あいまいな態度で言った。


 そう言えば『冶金の丘』を()った前日も、『お肉の日』の『御振舞(おふるまい)』とかで『神殿』にいたな。ドロレスちゃん。それで行くと、実は明日も『お肉の日』だよ。また食べに行く気かな?


「それで、条件を満たしているあたしとプリマ・ハンナさんは、正式な『巫女見習い』として、この『虫蚋(むしぶよ)除け』をいただいたのです!」

 ドロレスちゃんが、被っている白いヴェールを指差して言った。


「む、『虫蚋(むしぶよ)除け』?」

 それって言葉通りに、虫の(ぶよ)から身を守るためのものなのか?

 『巫女見習い』としての清楚かつ神秘的な雰囲気を(かも)し出しているその白いヴェール。そんな名前だったのか?

 なんつーヒドい名前。


「そうです! これこそが本物の『巫女見習い』の証しなのです」

 ドロレスちゃんは胸を張る。少し育ったかな? うん。

 俺とラウラ姫が『決闘』した時に『巫女見習い』の恰好して『神殿』の人たちに混じってたけど……一応ホンモノだったのね。


「ちなみに、『正式な結婚』をした後も『神殿』に勤め続けていらっしゃる元『巫女見習い』の『神官女(しんかんにょ)』さんのは『ハエ除け』って呼ばれてます。ちょっとカタチが違いますけどね」

 ドロレスちゃんは特にいらない追加情報もくれた。


「…………」

 いろいろとがっかりだ。


「『地球』じゃ、こういう繊細な『れーす』編みって、魚を捕る網から発展したらしいけど、『この世界』では『虫除け』から発展してるんだよ」


 プリムローズさんが、『虫蚋(むしぶよ)除け』を指でつまんでヒラヒラさせながら言った。

 てか、ホンモノのきちんとした『巫女見習い』なら、そんな不作法なコトしないと思うぞ。


「『王都』がある『永遠の道』の『大交差』は、大昔は水浸しの低湿地だったから、人間と一緒に『この世界』にやって来た、いろんな羽虫(はむし)が大発生したらしい。それで肌を守るための精緻な網目の『虫除け』が必要だったワケだよ。ま、今では大半が駆逐されてるけどね」


「あれ? でも『この世界』にハエっていましたっけ?」

 見た記憶が無いのだ。


「大昔にはいたそうですが、ダイオウフンコロガシやゴロゴロダンゴムシとの間の生存競争に敗れて絶滅したそうです」

 教えてくれたのは、まだ11歳のヒサヤだった。

 なんで、そんな事知ってんだろ? 『俺の馬車』の中で読んでた本からのネタか?


「なんでも、生存競争の相手の卵ごと生ゴミや『……』を、まるっと食べて、完全に消化してしまうそうなんです」

「詳しいね、ヒサヤ」


 生存競争と言うよりも、ゴミ(あさ)り競争か?

 意外と過酷だもんな。『この世界(アアス)』って。

 ……そして、上品な子なので、ドロレスちゃんみたいに、はっきり「ウ○コ」とは言わないな(笑)。


「とても嬉しい事に、黒くて素早い例のアレもいないしね」

 とても嬉しそうに、プリムローズさんが言う。黒いGの事だな。


「そうなんスか?」

 見かけないなあ、とは思ってたけど。

 ちなみに、「黒いG」って言っても、ティ○ーンズ仕様の『Mk-Ⅱ』じゃないよ?


「400年前の疫病大流行を機に、衛生意識が高まったらしくてね。ヤツら目の(かたき)にされて殲滅対象になったらしいよ」

 本当に嬉しそうだった。

 意外と酷薄だったんですね、プリムローズさん。


 生存競争と言えば『人間』の世界でも、もうじき『巫女選挙』があるけれど。


 そんな事を話してたら、

「兄さん、兄さん! 『恋愛禁止』中の『巫女見習い』さまに気安く話しかけちゃいけませんぜ!」

 自身も『巫女見習い』の恰好をしたドロレスちゃんに、やさぐれた調子で言われた。


 てか、プリムローズさんとドロレスちゃんって……。


「まだちっちゃいヒサヤはともかく、二人って『巫女選挙』には出ないの?」


 その気があるならデレる……イヤ、出れるんじゃあないの?


「「……まだ、初段だし」」


「『巫女見習い』って『段』があるんだ?」


 ぜんぜん知らんかった。


「「……うん」」


「あ、そうだ。『神授の真珠』って何段で貰えるの?」


 ヒサヤは持ってるみたいだけど?


「「……二段で」」


「『巫女選挙』出馬は?」


「「……三段から」」


「最高位って何段?」


「「十段」」


 あー、分かんね。もー、分かんね。理解できね。


      ◇


 聞いたら『巫女見習い』の『段位』の見分け方は、頭部全体を覆い隠してる白いヴェール『虫蚋(むしぶよ)除け』の折り方にあるようで、初段は一段しか折り込んでないそうだ。


 確かに思い出してみると、シンシアさんの『虫……白いヴェールは「四段折り」だったのだ。


「何段から、プロとかあるの?」


 『将棋』の世界だと、どこからが「プロ棋士」だっけ?

 A級とかB級とかのクラス分けだっけ?


「『ぷろ』?」

「だから、お給料」

「ああ、無い。無い。そんなの」


 プリムローズさんから雑に否定された。


「『巫女』の『見習い』だからね。給金なんて貰えないよ」

「……しかし、それじゃあ、生活出来ないひともいるのでは?」


 噂によると、「えっちなお店」で働く、元『巫女見習い』もいるらしいのだ。


「『神殿』に住み着いていれば、衣食住に、『学』と『職』までが、完全に保証されてるんだよ」

「……へー、どんな風に?」


「『神殿』には専用の『寄宿舎』もあるし、成人する16歳までは『神殿学舎』もタダだし、その期間に適性を見られて、成人後も『神殿』内に何らかの働き口を与えられるからね」


「とすると……シンシアさんって普段は?」


 元々『王都』に居たのが、『七人の巫女』ロザリンダ嬢の「随員(ずいいん)」みたいなカタチで、『冶金の丘』に派遣されてたそうなのだ。


「彼女は『王都』では『施薬(せやく)治療院』勤めだよ。『癒し手』だしね」


 「施薬治療院」は『地球』で言うところの「病院」らしい。

 名前からすると「薬局」も含まれてそうだから、お薬貰うのラクそうでいいな。


 他にも、製紙工房やらレース工房やら縫製工房やら、色々とあるらしい。

 それらは「自給自足」のために存在してるってよりも、「(かせ)(がしら)」って位置付けらしい。


「でも、『巫女見習い』って『十代の清らかな処女(おとめ)』ってコトだから、その資格を失った場合にはどうなるんですか?」

 ヒサヤやドロレスちゃんには聞こえないように訊いてみた。


「『イケナイアヤマチ』なら、資格停止って事になるだろうね」

「『イケナイアヤマチ』っスか?」


 第四侍女のベコちゃん(推定80歳)が言ってたヤツだな。

 相当昔に、『七人』ならぬ『六人の巫女』を目指してたとか言ってたし。


 で、『アヤマチ』って「過失」ってよりも「道を誤る」みたいな感じかな?

 俺の『脳内言語変換システム(自前の脳みそと『前世の記憶』の組み合わせだ)』では、何故かカタカナ変換されてる。


「……(じーっ)」

 視線を感じる。ミーヨ先生だ。

 別に俺には、密かに狙ってる『巫女見習い』なんていなくもないのに。


「そっちじゃなしに、年齢制限の方に引っかかった場合には?」


 20歳で強制的に引退って可哀相な気もするけれども。


「その場合は、名称が変わって、別な職種になりますね」

 口を挟んで来たのは、ドロレスちゃんだった。


「どーなるの?」


「『乙女神官(おとめしんかん)』です」


 ……何かが間違っている気がする。上手く言えないけど。


 でも「正式な結婚」をした元『巫女見習い』は『神官女(しんかんにょ)』だそうだしな。

 『女○官』は『ゴブリン○レイヤー』のジョ……メインヒロインだしな。

 色々と「かぶらない」ようにするためか? 「浴びない」よな? 批難。


「ちなみに、退任した『七人の巫女』さまも、そう呼ばれますよ」

「……へー」


 聞いたら、『巫女』と『神官女』と『乙女神官』は、「お給金」が出るらしい。

 ただし、その半分は、「喜捨(きしゃ)」というカタチで、『神殿』に「ピンはね」されてしまうらしい……。


 『冶金の丘』の『全能神神殿』もそうだったけど、『神殿』って慢性的な赤字体質で、それがずっと改善されないそうなのだ。


 その「原因」って何なんだろう?


      ◇


「お待たせしました」

 次郎氏が、妙にスッキリした顔で戻って来た。


 おいおい。なんだなんだ?

 トイレの目的外使用は禁止されてるぞ! 例の学園の生徒会会則で!!


 でも、俺も男の子だから、そっとしておいてあげるけど……もう! 感謝してよね!?

 てか、俺が次郎氏にデレてどうする?


 二人の侍女さんたちも、スカート丈を下げて戻って来ていた。

 スカート丈は、高速でターンするとパンツが見えそうな長さだ。

 ぜひとも今すぐ、高速でターンして欲しい。一人ずつ、順番に。


「全員そろいましたので、そろそろ参りましょうか?」


 どうやら「ご令嬢」の「家庭教師(ガヴァネス)」役らしいミーヨが、キラン☆ とおでこを光らせて言った。

 『この世界』にはないから仕方ないけど、出来れば眼鏡を光らせて欲しかった。


「「「「ええ。そうしましょう。そうしましょう」」」」


 みんなは賛意を表した。


 ……全員、どことなく浮かれてる。ちょっと心配だ。


「あ、わたし詳しいので案内しまーす!」

 第二侍女ポーニャ嬢がそう言ったので、みんなでぞろぞろとツアコンのおねーさん……イヤ、彼女に続いた。


 大切な「ご令嬢」を取り囲むようにして、俺たちは建物の外に向かった。


      ◆


 団体旅行は仕切りが命――まる。

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