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092◇消去・補充・告知・洗濯・朝食・宣言


「ふぬぬぬ」


 こ、この声は――


「『可愛い坊ちゃん』の不名誉な過去の拡散は、なんとしても阻止せねば!」


 おいおい、またかよ。


「我が生命(いのち)を代償に奉げん! 暗黒邪法 ★空白の4ツンっ★」


 小さい「黒い星」の群れが、『この世界』では見かけない「ゴキ○リ」みたいに、床をざわざわざわっ、とみんなに向かっていく。


 振り向くと、「ベコちゃん」ことラウラ姫付き第四侍女ベコジッタ・ダ・ギューさん(推定80歳前後)が、『て○きゅう』の『夜叉の構○』そっくりなポーズで、ぴたっ、と静止していた。


 生命(いのち)を代償に奉げてるわりには、とっても元気なお婆ちゃんだ。


 そして――


「「「「「あははは。うふふふふ」」」」」


 だーかーらー、何でみんなして、お花畑的に笑うの? 怖いってば!


    バタ、バタ、バタバタバタ……


 唐突に、みんな絡み合うようにして、床に倒れ込んだ。


 ……どうやら、眠ってしまったらしいな。そして、凄く、やらしいな。

 対象者が全員、女の子なので……何やら、やたらと百合っぽいのだ。


 ミーヨとシンシアさんが、く、くちびるが触れそうなくらいに接近してるっ。

 クリムソルダ嬢の大きな胸に、ドロレスちゃんとセシリアが、顔を埋めてるっ。


 ふわわわ。

 なんか、見ててドキドキしちゃう。胸がときめいちゃう。

 脳内で、何かがパシャパシャいってる。心がざわめいちゃう。


 リアル・ファンタジーって、こういう事ちゃう?(※間違ってます)


 でも、今のこの「催眠状態」の記憶も消えるんだよな?

 後遺症……出ないよな?


 目覚めたら、百合に目覚めてました……とか、シャレになんないぞ。


 なにせ、ここ『百合の……イヤ、『白百合の小宮殿』だし……。

 何かのお花のTrickとか、へんな動物まじりの嵐は吹かないだろうな?

 透明なヤツでも困るけど……ガウガウ。


 『○Trick』とか『ユ○熊嵐』的な事にはならないよな?


 ちょっと心配だ。


 もしも、そんな事になったら「shock」だ。


 ク○(※今回は「ソ」じゃないです)shockだ。


 『シド○アの騎士』で、初めて○山さん見た時も、ク○shockだったけど(笑)。


 でも、ネットで「森の中で熊が3Pしてる」動画を観た記憶があるぞ。着ぐるみの熊だったけれども。

 ならば、俺様も『身体錬成』の応用で「女体化」して……ミーヨとシンシアさんと3人で……。


 とか、バカな事考えてる場合じゃあないよ。


「なんで、また記憶をまるっと消しちゃうんスか! 言わないで、とか。黙ってて、とか。普通に口止めすればいいものを」


 前回はともかく、今回はそんなに不都合な事じゃなかったろうに。


女子(おなご)の口に鍵はかけられんですじゃによって……と、やはりあんた様には効き目が無いのですじゃな?」


 それって「人の口には戸が立てられず」の『この世界』バージョンか?


「あと……4ツン(約4分間)て、『て○きゅう』のスピンオフ作品の『うさ○め』と同じじゃないっスか。……てか、なんでスピンオフ作品の方が尺長いんだ?」

「一体、なんの話ですじゃ?」


 見事に通じてないよ。

 『地球』のアニメの話だよ。


「えーっと、記憶を消し去る事が可能な時間て、最大どれくらいなんスか?」

 訊いてみた。


「それは秘密ですじゃ。いずれにせよ、奉げる代償が増えますよってに、たいへんに危険なのですじゃ」


 消した時間×対象となった人数=生命の代償……らしいよ。

 だから、今回は……20ツン、ベコちゃんの寿命が縮むらしいよ。

 ……心の底からは、信用できないけれども。


「今みんなは催眠状態になってますけど……この間の記憶もないんスよね?」

「……そのはずですじゃ」


 とすると、なんだろう?

 食らった本人たちは、某ボスのスタンド能力みたいに「時間が飛んだ」みたいな感覚になるのか? ……イヤ、発動時点から(さかのぼ)って記憶が消えてるハズだし、「時間が戻った」みたいな感覚か? 階段のぼってて、戻っちゃうのか? ありのまま今起こった事を話して欲しいぜ。あとでミーヨに訊いてみようっと。でも、その自覚すら無いかもだな。


「実は『可愛い坊ちゃん』は、現在の女王陛下の、第一王女時代の『(いと)(びと)』だったのですじゃ」

「うん。知ってる。その子がラウラ姫とドロレスちゃんでしょ? あ、いちばん上のお兄さん二人もそうだって話だったかな」

「そうですじゃ。当時、ちょうど『(なな)の姫』がお生まれなされる直前でしたのう」

「じゃあ、ご出産に立ち会うために『突撃(※『王宮』への不法侵入)』して来たって事っスか?」


 そしたら、「いい話」やん。


「…………」

 ベコちゃんは無言だ。


 ……違うのかよ?


 やっぱり、ダメな方だったのかよ。


 てか、その「不都合な過去」をあっさりバラしたのが、当のドロレスちゃんだしな。


「あたしゃ、このまま消えますじゃ! 後はよろしゅう、姫の『(いと)(びと)』さま」

「そんな無責任な」

「この子をきちんと見守ってくだされい。何か猥雑(わいざつ)な事を口走らぬようにな」

 何故かクリムソルダ嬢を、愛おしそうに見ている。

 てか、ナニソレ? 『暗黒邪法』の副作用か?


 ん?


「「「「……ん……んん」」」」


 みんなが目を覚ます予兆だ。

 しかし、どうやって誤魔化したらいいんだ?

 「時間が戻った」感覚ならば、「つなぎ目」はどこだ?


「やんっ」


 クリムソルダ嬢の大きな胸が、ドロレスちゃんによって鷲掴みにされてる。

 上体を起こすプッシュ・アップ動作のために、手をつかれて荷重されてる。

 そのまま顔を上げて、ドロレスちゃんは言った。


「もしや、父……あれ?」

 

 今回、そこから?

 そしたら、『仮面の男』の出番まるっとカットされてるやん。

 不祥事起こしたお笑い芸人みたいになってるやん。……怒られるか。


 見ると、ベコちゃんは何時の間にやら、消え去っているし。


「……う、ううん……」


 目覚めても、疲労感とか、倦怠感みたいなのが残るらしい。


「……はううう……」


 ダルそうだ。


 にしても、みんなにはどう説明しよう。

 『涙目』の『仮面の男』……姫たちの「お父さん」の事を、伝えるべきなのか? 信じられないよな? あの子のお父さんが、ダル……イヤ、そういう事じゃない。


「……今……何だったんだろう?」

 まだ朦朧(もうろう)とした様子で、ミーヨが言う。


「深夜なのに歩き回ったからな。疲れたんだろ」

「あー……うん。そうかも」


「それならば、ジンさん。お手を拝借。☆賦活(ふかつ)の手☆! えいっ! えいっ! やーっ! とおっ!」

 シンシアさんが、パーティー・メンバーをヴィヴィファイするエナジーチャージ・スキルを連発した。


 具体的な動作としては……みんなのお尻を次々とひっ(ぱた)いた(笑)。


「うええっ!」「にゃうっ!」「はううう」「オウフ!」「…………」


 あれ? 俺は? 無いの?

 目を閉じて待ってても、来なかったよ。しょぼーん。


「「「「……(つう)っ」」」」


 それだけでもなさそうな反応だ。何故なら苦情が出ないし(笑)。


 それはそれとして、コレって、つまりはナノマシン的な『守護の星(極小サイズ)』を「対象者の体内」に「注入」してるんだろうけれども……お尻の真ん中を「平手打ち」してるしな……どんな風に「注入」されてんだろ? 想像すると膨らむな(※誤字)。


 でも、このやり方だと発動させた術者本人は、回復されないんだよな。


「これ……ひとつ、いただきますね?」


 シンシアさんが、地下通路の備品棚みたいなところに置いてあった『水灯(すいとう)』を取り上げて、お尻の金具を外した。


「……んきゅ……んきゅ……ぷはーっ」


 片手を腰に当てながら、その中身を飲み干した。

 銭湯で、お風呂上りに瓶のコーヒー牛乳を一気飲みしてるみたい。そして「お代」のつもりか、棚に『地球銅貨(アアス)』を3枚置いたよ。日本円で1200円くらいかな。

 それにしても慣れてるのか、一連の動作には、まったく(よど)みが無かったな。


「……(涙目)」


 不味いのを無理して飲んでるんだろう。シンシアさんが涙目だ。

 『水灯』の中身の『ヒカリちゃん』の体液で、自身の『守護の星(極小サイズ)』も補充したらしい。


 てか、『この世界』の「MPポーション」が、そんな謎液体なのがイヤ過ぎる。

 でも、俺も飲んでみよう。「体験」しとけば『体内錬成』で錬成(つく)れるようになるし。


「……ぐびぐびぐび……ごっきゅん」


 ……すんげー、不味い。


 コレ、人間の飲むもんじゃねーよ。


      ◇


 翌朝……じゃないな。

 「日付更新」があったので、『仮面の男』と会った同じ日の朝だ。


 手間のかかる子供みたいなクリムソルダ嬢を客用寝室まで送り届けてから、『全知神』さまからの言葉をヒントに、「あるもの」を『錬金術』で錬成(つく)りあげた後、ちょっとだけ眠った。


 ちょっとしか眠れなかったのには理由がある。

 かなり早い時間帯に、シンシアさんから呼ばれたのだ。


 で、ミーヨの部屋に来ている。


「あ、ジンくん。おはよー」

「おお。あの後ちゃんと寝れたか?」

「うん。へーき」


 『俺のチョロイン』が、なんか眠そうだ。

 そして『俺の聖女』に向き直る。


「おはようございます。シンシアさん」

「おはようございます。ジンさん。朝からお元気そうで」


 『巫女見習い』の平服に身をつつんだシンシアさんに、にこやかに言われて、ちょっと照れる。

 さすがは大人のジョーク好きなシンシアさん。

 よく俺が朝から元気なのが分かるなー、『夏の旅人のマントル』で隠してるのに(笑)。


「『巫女選挙』の案内状です」

 シンシアさんから紙片を貰った。


「ありがとうございます」

 俺はお礼を言って、紙片に目を落とす。


「『巫女選挙』運営委員会の方の手書きですよ」


 見覚えの無い字だけど、はて? 誰の字だろう?



      ☆☆巫女選挙☆☆

    『深緑の日々』の12日……1日目・お披露目会

    『深緑の日々』の13日……2日目・握手会

    『深緑の日々』の14日……3日目・自由行動日

    『深緑の日々』の15日……最終日・巫女選挙最終結果発表

                『七人の巫女』決定


    『深緑の日々』の16日……『七人の巫女』による

                『神前じゃんけん大会』

                『聖女』決定


    ※『投票』は2日目から最終日の「昼の三打点」まで※



「へー、全部で5日間あるんですか」


 『深緑の日々』は、地球で言う7月だ。

 ちなみにミーヨ(と俺)の誕生日は、『深緑の日々』の最後(の巡り)の『お野菜の日』だ。あと捨て子で誕生日が不明だった猫耳奴隷のセシリアも、同じ日にして登録してある。


 『巫女選挙』は、毎年同じ日程で行われるわけではなく、前年選ばれた『七人の巫女』が全員『王都』に集結した5日後から開始されるのが通例らしい。去年は『深緑の日々』の初め頃にあったそうだ。


 そのへん、やっぱり『この世界』はアバウトで大らかな気がする。

 でも台風みたいな『荒嵐(あらあらし)』が来たら、普通の馬車だの船だのは運行が止まるだろうし、そういう風に融通を利かせないといけないのかも。


「えーっと、今日が『深緑の日々』の二巡り目の『お菓子の日』で……つまり10日だから……って! 明後日?」

「はい」

 シンシアさんに躊躇(ためら)いはなかった。


 でも、俺にはかつてない焦燥感が……。


 なんてこった!

 もうちょっと時間的余裕があると思ってたのに。

 まだ、実弾(カネ)の用意が出来てないのに。


「シンシアちゃん。『水着審査』っていつあるの?」


 ラウラ姫付き侍女軍団特有の、赤い光沢を持つ黒い侍女服を着たミーヨが、シンシアさんに訊ねた。


 『水着審査』?

 おお、そうだった!

 そのために3人で『脱毛エステ』やったんだっけ。


 それは絶対に見逃してはいけないな!


「あのー……ですね」

 シンシアさんが恥ずかしそうに躊躇(ためら)っている。


「初日の『お披露目会』の時に……ちらっと」

 お頬が赤く染まってる。めっちゃ萌えるな。美少女の照れ顔。


「イキます。イキます! 絶対にイキます!!」

 俺は必死に叫んだ。


「「………」」


 必死過ぎたので、ちょっと引かれました。


      ◇


 「冒険」に参加しないで、一晩ぐっすり寝て体調万全なプリムローズさんと『合体飛行魔法』で、早朝の乳牛……イヤ、牛乳配達みたいにクリムソルダ嬢を『全知全能神神殿』に送り届けた。


 クリムソルダ嬢本人の前では言いにくい事があったので、わざと一人ずつ送る事にしたのだ。

 でも『この世界』では「早朝に『飛行魔法』を使うと『空からの恐怖』を呼び寄せてしまう」という言い伝えがあるので、クリムソルダ嬢に嫌がられた。そんなのは都市伝説か迷信だと思うんだけど。


 俺は残る二人に、深夜にあった事をざっくりと説明した。

 もちろん、俺が『癒し手』クリムソルダ嬢の手で色々あった事は、機密事項だ(笑)。


「あ、『暗黒邪法』ですか?」

「……」


 驚くシンシアさんとは対照的に、プリムローズさんは深く物思いに沈んでしまった。


「ハイ。その影響でクリムソルダさんの言動が普段と違ってしまっているかもしれないんです」


 もっとも、まだ会って日が浅いから、元々どんな子かは知らないけれど……ベコちゃんの『暗黒邪法』で2回も記憶を消されたせいか、「下品な言葉」を口走るようになるかもしれないと忠告された件だ。たしかに、ポロっと何かろくでもない事を言いそうで、心配だった。


 彼女も『巫女選挙』に出るわけだから、お下品な発言は「イケナイアヤマチ」とか言う禁止事項に引っかかってしまうかもしれないのだ。


 初日の舞台挨拶……イヤ、初日の『お披露目会』では、参加者全員の「自己PRタイム」みたいなのがあるそうなので、そこで「ち○こ!」とか叫んだら、それでもうサヨウナラだろうし(笑)。


「わかりました。心に留めておきます」


 言ったらライバルだし、他人事なんだけど、シンシアさんは確かにそう言った。

 うん、やっぱり、いい子だ。いい人なのだ。


「プリムローズさん?」

「……あ、ああ」


 歯切れが悪い。

 筆頭侍女さまは何かを考え込んでしまってるな。


 『王宮』と『全知全能神神殿』は「お向かい」なので、直線距離は「1なのです(約1㎞)」も無い。

 あっという間にシンシアさんを送り届けて、とんぼ返りで『白百合の小宮殿』に戻った。


 人に見られる心配はあったけど、誰も早朝の空には興味がないようだった。


 『シド○アの騎士』の『掌位(しょうい)』みたいに、何人かで手を繋いで飛ぶ『協調飛行魔法』もあるそうなので、もし見つかっても、気にする必要はないそうな。


 それにしても『掌位』って、なんかものすごく気持ちよさそうに思えてしまうのは……ハイ、俺だけです。ごめんなさい。睡眠不足なんです。


 とりあえず『対空兵団』に敵認定されて、攻撃されなくて良かった。


 はて? またまた何か忘れてるような気がするな……と思ったら、クリムソルダ嬢に「白い木靴」を渡すのを忘れてた。でも洗ってないし、また今度でいいか。


      ◇


 小宮殿の裏庭にあたる場所に降り立つと、プリムローズさんは忙しそうにどこかに飛び去り、一人残された俺は、とぼとぼと歩いて入り口を探した。


 早朝の朝日に照らされた『白百合の小宮殿』は、確かに『永遠の道』や水路を思わせる白さだった。

 つまりは、ヌメヌメスベスベが這い回って、白く塗り固めた、妙に生き物じみた白さだ。


   ぱちゃっ……ぱちゃっ


 どこかで水音がする。なんの水音だろう?


 たぶん、裏庭にある『四阿(あずまや)』からだ。

 丸屋根と柱だけの建物だ。ガゼボって言うんだっけ?


 行ってみると、猫耳奴隷のセシリアが洗い物をしていた。

 大きな「たらい」に水を張って、そこに洗い物を入れて、両手で押し洗いしてる。


 黒髪に黒い猫耳をつけたセシリアが、両方の手のひらに体重を乗せて、交互に洗濯物を押してる。

 まるで本物の猫がやる「前脚とんとん」みたいだ。

 仔猫が母猫に「おっぱいをもっと出せ」とねだる仕草だ。

 大人になってからも、嬉しい時に喉をゴロゴロ鳴らしながらやる猫もいるけれども。


 もちろん、セシリアは猫じゃないし、今やってるのは「お洗濯」だけど……てか、お外で優雅にお茶する時に使うようなトコロで「お洗濯」とか。なんでここなんだろ?


 そして……この子の母親や父親は……どこでどーしてんのかな?

 「蒙古斑」のせいで、獣耳奴隷にされちゃってるけど……両親はどこかに居ると思うんだけどな。


 ()したり、()んだり、()すったり……イヤ、もちろん「セシリアが洗濯物を」だよ?


「セシリア、おはよう」

 黙って見てるのもなんなので、声をかけた。


「あい! おにさ。おっはー」

 またソレか?

 でも明るく、屈託のない、いい返事だった。


「手伝おうか?」

 重そうにたらいを持ち上げて、濁った水を捨てようとしてる。

 まだ10歳の女の子には、大変そうだったのだ。


「いい。あたの、しご、と」

 真剣な表情で断られた。

 自分の仕事だから、と。


 たらいを傾けて水を流すと、ガゼボの真ん中にある円卓の下に吸い込まれていく。

 排水孔があるらしい。そんなんあるんか? 利便性でここなのか? てかその下は「地下通路」なのに……。


 洗剤は……匂いからすると、俺が『液体錬成』で錬成した「柔軟剤入り液体洗剤」らしい。イヤ、匂いって「花の香り」だよ?


「そっかー、偉いな」

「むにゃ。あたの、しご、と。これで、ごパン」


 獣耳奴隷だの自由市民だのに関わりなく、みんな何かしら仕事をして、食事にありついてるという事を、きちんと理解しているらしい。『王都』までの旅の途中も、着いてからも、色々雑用やってたらしいんだよな。まだ10歳なのに……。


 その点、俺はなにやってんだろうな?


 『この世界』で目覚めてすぐは、ミーヨと一緒に『伝説のデカい樹』を探す旅をするつもりでいたけど……なんかしょーもなく、あっさりと見つかって、明確な目標も目的も無くなって、宙ぶらりんだしな。このまま俺様の俺様みたいにぶらんぶらんしてるワケにもいかないだろうな。いつかは俺様の俺様みたいに男らしく……やめとこ。


 別に「働いたら負け」とは思ってないし、現に『冶金の丘』ではパン工房で下働きみたいな事してたし。

 俺も落ちついたら、何か自分に出来る事を探さないとダメかな?

 俺の適性ってなんだろうな?


 そんな事を考えてると、虹色の膜に包まれた「水の玉」がふわふわと飛んで来た。

 見ると、向こうには「指先プロポ(リモコン操作機)」で水玉を操ってるミーヨがいる。

 水汲みだけは、『魔法』で助けてもらってるらしい。


 たらいの上で、キラキラ星が飛び散って、虹色の膜が消えて、水がぱちゃん、と落ちる。


「あた。づつ、き」


 セシリアがお洗濯の続きを始めた。


 でも「洗い」や「すすぎ」はともかく「脱水」はどうするんだろう?

 非力な10歳児だし、手で絞るのは大変だろう。色々と多用途に使えるパスタマシン似の『手回し式回転双筒圧延器械』があれば、ハンドルをグルグル回して、小さめの洗濯物の脱水くらい余裕だけど……無いしな、ここには。


 もしかして、俺様の俺様みたいにグルグル振り回して遠心力で脱水するのかな? と思って「セシリアのお仕事」を見守ってたら、洗い終わった洗濯物を、買い物かごみたいなものに丁寧に詰めて、上に板を載せた。そして最後には自分がその上に立って、両手を広げてバランスを取りながら、両足で踏み踏みし始めた。


 重みでプレスされて、かごの目から水が浸み出てくる……「圧搾あっさく」ってヤツだな。「お醤油」の製造工程で見たコトあるよ……って洗濯物なのに。


 浸み出る水がなくなると、板を除けて、かごの中から取り出した衣類を、皺にならないように振って広げてる。

 水気がまだまだ残ってて、飛沫(しぶき)が飛ぶ。これ、干してもちゃんと乾くのか?


 ミーヨが先端を「わっか」にした細めの縄を、ひょいっと投げると『四阿(ガゼボ)』の屋根付近にあるフックにあっさりと一発で引っ掛かった。まるで『魔法』だ。でも『守護の星(普通サイズ)』のキラキラ星は動いてない。嘘みたいな器用さだ。


 セシリアがロープのもう一方の端に、服の袖を次々と通していく。

 それを万国旗みたいに吊るすのかな?

 片側どこにどうやって掛けるんだろ?


「ジンくん。こっち持ってて」

「俺かよ?」


 目一杯両手を高く上げて、バンザイして持ったよ。

 中に長いローブみたいな服もあったので、せっかく洗ったのを地面に付ける訳にいかなかったのだ。てか、その長いローブって、シンシアさんが着てた『夜の服』(※寝間着だ)だったよ。

 洗う前に、一言。俺に相談して欲しかったよ。


「いい? セシリア。服の素材が本来持ってる水分まで奪っちゃダメだよ。そして、ふんわりと空気を吹き付ける感じで、ふかふかになるように念じるんだよ?」

「……あい」

 ミーヨから技術指導を受けるセシリアが緊張気味だ。


「「祈願! ★乾燥っっ☆」」


 物凄い数のキラキラ星が舞い飛ぶ。

 秘かに練習してるらしいけど、発動に成功したのか?

 『多重詠唱魔法』だ――と思ったら、『多重詠唱合体魔法』だった。


「えへへ」

 ミーヨの手が、俺の物干し竿的な部位を(以下略)。


「『洗剤』無くなりそうだから、また出してね」

 そっちの「おねだり」かよ?


「てか最後の最後は『魔法』で乾かすのか?」

「うん。ここでは干せないよ」

「なんで?」

「ここ『王宮』の中だよ。『白百合の小宮殿』だよ」

「……なるほど」

 そう言えば、そうでした。


 ついでに聞いたら『王都』では「美観のため」に、外に「洗濯物」を干しちゃダメらしい。ミーヨは「衣類の日光浴」のために外に干したがるけど、『王都』では全面的にNGらしい。

 みんなして『★乾燥☆』で乾かしちゃうらしいのだ。


 ここは『魔法』が使える異世界『この世界(アアス)』なのだ。


      ◇


 朝食の場には、みんな揃っていた。


 でも欠けてる人もいた。


「第四侍女のお婆ちゃんは?」

 俺は第二侍女ポーニャ嬢に訊ねた。


「え? 誰ですか? いませんよ、そんな人」

 彼女はあっさりと言った。


 昨夜にも同じやりとりしたな……てか、いないだと?


「あの方のお祖母(ばあ)ちゃんっていったら、もう130歳くらいなんじゃないんですか? もう生きてるはずないでしょう!」

「……」

 ……そういう意味だったのか、昨夜のやりとりは。

 なんか脱力。


 確かにベコちゃんって80歳くらいだろうから、その「お祖母(ばあ)ちゃん」は流石に亡くなってるよね……。

 ポーニャ嬢って「バカ正直」なのか? それともヘンにじれて、こじれてるのか?


「ベコジッタ様は、『有給休暇』に入られ、ご実家に戻られるそうです」

 第五侍女アルマメロルトリア嬢だ。

 『有給休暇』って高齢になった侍女の、事実上の引退状態だそうだけど。


「そうなんですか?」

「はい。殿下のお元気なお姿と、その殿下の『(いと)(びと)』の元気なおち……元気なオス型……元気なお姿を見て、御満足されたようで。あ、『子作り頑張ってくだされ!』との伝言をお預かりしておりました」


 地味で落ち着いた女性(ひと)のはずなのに、ヘンな動揺があるな。

 昨夜の『見届け人』の影響……イヤ、『★空白の2ツン★』の影響かな?


「……そうなんですか」

 ちょっと淋しくなるな。

 おもろいお婆ちゃんだったのに。


「ご実家は乳牛牧場らしいですよ。いいなあ……」


 第二侍女ポーニャ嬢は、ベコちゃんの家産が羨ましいらしい。

 そんで、食卓に並んでる「乳製品」は、ベコちゃんからの「差し入れ」だそうな。


 それにしてもベコちゃんって、フルネームが「ベコジッタ・ダ・ギュー」で、さらに乳牛牧場経営ですか。そうですか。そうなんですか。


「ああ、次女になんて生まれるんじゃなかった」

 ポーニャ嬢が自身の出生を嘆いている。

 『女王国』の貴族の大半は『長女相続制』なので、ポーニャ嬢は「家」を継げないらしい。


 次女だから侍女になったのか……ぜんぜん面白くないな。


      ◇


 俺は自分の席につく前に、立ったままで宣言する。


「えー、今回の『巫女選挙』では、昨夜ラウラ姫がお世話になった『巫女見習い』シンシアさんを応援したいと思います!」


   ぱちぱちぱち


 拍手したのは次郎氏だけだった。

 プリムローズさんをはじめとするラウラ姫付きの侍女たちは、一様に無表情だ。

 ミーヨも仲良くなったはずなのに、ちょっとむくれてる?


 けれども――


「うむ。もちろんだ!」


 なぜかラウラ姫が大乗り気だった。


「「「「……?」」」」


 みんな事情が分からないようで、驚いてる。


 ラウラ姫は椅子から立ち上がって力説し始めた。


「シンシアは、私の『剣術』の師である『先生』の娘。『冶金の丘』に居るあいだも、世話になっているし、さらには昨夜わざわざ私の治療のために、ここまで足を運ばせてしまった」


 そう言えば、そうでした。


「「「「……(こくん)」」」」


 なんか侍女のみなさんも納得したようです。


「うむ! 力の限り応援し、是非とも『七人の巫女』になってもらおうではないか!」


 頼もしい事この上ない。


「うむ。で、何をすればよいのだ? ジン」


 でも、お姫様なので、実行段階での具体策は周囲に丸投げになるのであった……。


 てか、俺もまだよく知らないんだよな。


「うむ。ミヨレッタはどうすればいいと思う?」

 俺は隅っこの方に居た第六侍女ミヨレッタことミーヨに振った。

 ドロレスちゃんが『恩赦』によって無罪が確定し、本来の元王女で貴族令嬢(養女)という正体を明かしてしまったので、ついにミーヨが侍女軍団中序列最下位になったのだ。可哀相に。


「うええっ、わたし? えーっと、そう。選挙なんだから、『投票券』を買って投票しないと!」

 自分に振られるハズはないと油断していたらしいミーヨは、妙な呻き声を上げたあとで、なんとか返答した。


「それには元手がいるな! そうだ! みんなで『宝石』を売りに行こう!」


 この流れが欲しかったので、なるべく不自然にならないように俺は言った。


「「「「「「…………」」」」」」


 みんなから、ものすごく胡散臭そうな目で見られたけど。


      ◆


 信用と信頼は普段の行動と言動から――まる。

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