090◇小さな短剣と小さな冒険
実は『仮面の男』の行方は、見当がついている。
まだ『冶金の丘』にいた頃、『代官屋敷』での「夜会」の際に、招待客が行方不明になると言う、ちょこっとした騒ぎがあった。
その時、ラウラ姫はこう言っていた。
「秘密の抜け穴か」
――とか。
「『王宮』にはいくつもあったぞ」
――とも。
当然、ここ『白百合の小宮殿』にも、それはあった。
ミーヨとシンシアさんとクリムソルダ嬢が、お着替えのために客室に戻っていたあいだに、『おトイレ』へと続く廊下の床を丹念に調べて、もうそれを見つけてある。
てか、右目の魔眼『光眼』の「受光」「赤外線暗視モード」を使うと、床に四角い「枠」があるのが、バッチリ見えた。
ただ……鍵穴らしき穴があって、簡単には開きそうにない。
マンホール蓋とかも、いたずら防止のために専用の工具でないと開けられないそうだけど、ここのトラップドアも、そんな感じだ。
縁に隙間はあるけれど、挿し入れられるような、硬くて平べったいモノが無い。
『だがし○し』に出てた「サ○マ式ドロップス」の缶のフタを10円玉で開けるみたいに、「てこの原理」で開けたいのに、定規とかカッターナイフみたいな感じの、都合のいいモノは何も無かった。気合と指の爪だけでは開けられないしな。
「じゃーん! 万能鍵――っ」
「……ハア?」
ミーヨが指でつまんで、みんなに見せたのは……俺が人造湖の底で拾った黄金色のロリハルコン製の、小さな鍵だった。『黒ひげ危機○発』の短剣みたいなカタチだ。
「あ、なるほど。コレならいけるかも」
硬くて平べったい。
何より『この世界』最強の『魔法合金』だ。多少の事では折れっこない。
試してみよう。
「「「「ああっ! だめ!! そんなとこに入れないで!」」」」
女子四人にそう言われて、ちょっと興奮(笑)。
うち二人は、清楚な『巫女見習い』の姿だよ。
ただ、正式な「祭服」の「ローブ」と違って、普段着用の「平服」の、灰白色のロングスリーブ・ワンピースだ。
ちなみにミーヨは、またまた黒い侍女服姿で、ドロレスちゃんは広い腰帯のせいで浴衣みたいに見える『夜の服』のままだ。
「え? なんで?」
「うー……もう。だから『鍵』なんだってば!」
「そうですよ、ジンさん。きちんと正しい穴に入れないと」
「お兄さん、ナニするつもりだったんですか? そんなとこに入れようとして」
「まったくもーもー。ジンさんのー、えっちぃ」
「…………」
何も言い返せない自分がいる。
確かにあるよ。「鍵穴」らしいのが。
「『王宮』の錠前を全部、それ一本で開けられるんだって」
「……マジで?」
つまり、この『鍵』って、「マスターキー」ってヤツか?
「プリちゃんが色々試してみて、結論付けたの。これは『万能鍵』だって」
「プリムローズさんが?」
実証のために、鍵穴と言う鍵穴ぜんぶにブチ込んで、開けまくったらしい。
どうやら、さらに上位の「グランドマスターキー」ってヤツらしいよ。
「これで、いつでも『秘書庫』に入れるって喜んでたよ」
「……どこのスパイだよ、あの人は」
「『すぱい』?」
とすると……『王宮』の上層部に位置する誰かが、何かの事情があって「故意に人造湖に沈めた」としか考えられないな。
……そんなヤバイ物を、俺が湖底からサルベージして来ちゃったのか?
「でも、人造湖の底の、穴の中にあったんだよ、その剣」
穴の中の剣とか、何やら暗喩じみてる。
なんかエロい意味でもあんのかな?
「ロリハルコンがぁ、嫌いぃ、なんですう」
クリムソルダ嬢がそう言う。
「嫌いって……誰が?」
ロ○が嫌いな男子なんて……中にはいるだろうな。
ホ○が嫌いな女子なんていません、ってモトネタはなんだろう?
「ヌメヌメスベスベがー、ロリハルコンをー、嫌いなんですう」
『この世界』の水のある所に必ずいる、白くて丸い殻を背負ったカタツムリみたいな謎生物が「ヌメヌメスベスベ」だ。
そいつらが這い回った後は、炭酸カルシウムと思しき白い被膜に覆われてしまう。
そのせいで、人造湖の湖底は、鍾乳洞湖みたいだった。
「クリムソルダさんが言わんとする事は……つまり、それは穴ではなくて、嫌いな金属を避けるようにヌメヌメスベスベが這い回った結果、周囲が盛り上がって出来た『凹み』だ――という事ですね?」
「シンシアさんのー、言う通りですう」
さすがにシンシアさんはクレバーだ。
そして、クリムソルダ嬢は巨乳だ。……近似性も関連性もゼロだな。
あと、彼女――クリムソルダ嬢は、極めてレアな「動物専門」の『癒し手』だそうで、動植物に関するマニアックな知識を有しているのだ。
ただ、どんな理由で嫌ってるのか? までは不明そうだ。
別にそんなの知りたくはないから、いいけど。
本体そのものは「動物の舌」みたいな謎生物の生態だしな。
「一体いつ頃に、湖に沈められたんですかね?」
「うー……だいぶ昔って事になるよね? どのくらいの穴だったの?」
「はっきり覚えてないけど……穴の深さは、30なの(約3㎝)はあったと思うよ? ヌメヌメスベスベって、一年間でどれくらい塗り固めるの? 『1なの(約1㎜)』くらい?」
「環境でぇ、ぜーんぜーん、違いますう。生息密度とかあってぇ」
一概には言えないらしい。
鍾乳洞の天井から垂れ下がる鍾乳石とか、地面に突き出る「石筍」とかの成長速度は……正確には覚えてないけど……めっちゃ遅いはずだ。
そう言えば、玉みたいになる「ムーンパール」とか、逆にどろどろのまま固まらない「ムーンミルク」とかも、何かで見たな。
ロマンチックな名前だけど、鍾乳洞って「月」のイメージあるかな?
ま、それはそれとして、
「じゃあ、入れるよ」
無意識なのに、エロい感じになってしまう(笑)。ロマンの欠片も無いな。
『万能鍵』は、ぴったりと鍵穴に収まった。
ひねると、パコン、とかるい音がして、金属製の「取っ手」がポップアップ式に出て来た。面白い仕掛けだ。この取っ手で、トラップドアを開くらしい。
「「「「……(ほおお)」」」」
みんな、ため息をついてる。
開けると、下は「地下通路」だ。
◇
ここって、正規の出入口なんだろうな。
急角度だけど、昇降用の階段が付いてる。
それを使って、みんなで通路に降り立った。
そして、シンシアさんが空中に光源を造った。
「ジンさん、お手を拝借します。祈願! ★光球☆」
光に照らされると……上下と四囲が白い。
『永遠の道』の路肩から切り出された「石灰岩」だな。
「相当、奥まで続いてますね。ここって食糧庫なんですかね」
「うんっ、穀物袋に……樽に……木箱。そんな風に見えるよね」
両端にぽつんぽつんと「食糧物資」って感じの物が置いてある。
ただし、まばらな配置なので本気で備蓄してるようには見えない。
仮に置いてあるだけ、みたいな印象だ。
「……はううう」
クリムソルダ嬢が、少し寒そうだ。
自分自身を抱きしめるような仕草をしてる。
両腕の上には、大きなメロンが二つ乗ってる。正直言って、食べたい。
「……」
ミーヨが無言で、俺の腕にしがみついてきた。
「中に入るか?」
よく考えたら、俺、自分自身の服装には言及してなかったな。
「日付」が変わって『全裸祭り』は終わっちゃったから、『夏の旅人のマントル』を着てるよ。
足首まである全身を覆えるほどの大きなマントなので、女の子の一人くらいなら、中に入れて隠せるのだ。
ただ、モッコリ膨らむけどね。色んな意味で。
◇
通路は長かった。
安全を考慮して、俺が先頭だ。
左手で、ミーヨの右手を引いている。
『★光球☆』は、発動させたシンシアさんを追尾して、その頭上をふわふわと浮いている。
前照灯としては機能してないけど、俺の「赤外線暗視モード」を使えば平気だ。
これだと、右目の視界がサーモグラフィ画像みたいになるので、生き物がいれば、その体温ですぐ分かるし。
『この世界』って『地球』由来のネズミやらゴ○ブリやらは、既に駆逐されて、もういないそうだけれど……小型の爬虫類っぽいのは、いるかもだ。
女子にキャーキャー騒がれるのがイヤなので、黙秘してるけど、そんなんが壁面に張り付いている。トカゲっぽい。ヤモリかな?
あと、ところどころにある、丸まった縄みたいな物の正体は、ヘビかもしれない。
夜中で、気温が低いせいか、変温動物は判別しにくい。
で、ミーヨは、『仮面の男』の正体について、見当がついているらしい。
「次郎さんだと思うんだけどなあ」
シンシアさんの従兄「稲田次郎時定」氏だと推定してるらしい。
なので「正体不明な不審者」とは思ってなくて、警戒してないっぽい。
「あの、女官さんいたでしょ? 黒い髪の」
「シャー・リイさんか? あの人『近衛騎馬隊』らしいよ」
「そうなんだ? とにかく、その人に会いたい、って言ってたよ」
「……だからって、変な『仮面』被って、深夜に脱け出すのか?」
「もう日付は変わってるから、今日は『お菓子の日』でしょう?」
『この世界』の「曜日」で、「お菓子の日」は日曜日みたいな「お休み」だ。
といっても、ハロウィンみたいに、仮装はしない。お菓子もねだらないし、イタズラもしない……ハズだけどな。
「ポーニャさんに聞いたんだけど……お菓子の日の夜って……その」
何やら言いにくそうだ。
第二侍女ポーニャ嬢に、いったい何を吹き込まれたんだろう?
俺も『◎首が■くなる呪い』とか、アホな噂話は聞いたけれど。
……ん? 壁に何かある。
「通路はまだ続いてるけど、ここに階段があるよ」
振り向いて、みんなにそう報告する。
見ると、ミーヨ。シンシアさん。クリムソルダ嬢。ドロレスちゃん……と手を繋いで連結して、五両編成になってたよ。
◇
急角度な階段を登って、天井部分のドアを上に押し上げて、外に出た。
なんだここ?
丸い柱に囲まれてる。
見上げると天井はあるのに、壁は無い。
柱のあいだに外の景色が見えてる。森だ。
「離れの『四阿』ですね。お外で、お茶とか軽食とかする」
ドロレスちゃんがさくっと言う。
言われてみれば、なるほどだ。
跳ね上げたドアは、そこに設置された丸いテーブルの「天板」だったみたいだ。
て事は、あの「通路」は、『白百合の小宮殿』から外に出るための「非常用脱出通路」なのか?
でもな。開閉に鍵が要るうえに、通路はまだ先に続いてんだよな。
通路が延びている方向を確認すると、樹々の向こうに『おっぱい宮殿』が見える。
「だーれーかーいーまーすう。ばーけーねーこぉ?」
クリムソルダ嬢が震えて怯えてる。正直言って、おっ……イヤ、本当に何か見える。
木々の間に、小柄な少女がいる。
頭には、猫みたいな耳がついてる。
げげげっ! 人間の頭に猫耳だとう?
化け猫? それとも行方不明のネコジッタ婆? イヤ、違うな。
……もしかして、アレか?
でも俺は、日曜は昼まで寝てたから、あの時間帯のは全然観てないってば! ネタ無いんだってば! でも、旧作と違って頭身のびて、スタイリッシュなボディなんでしょ?
それはそれとして、
「セシリア?」
「あい。どろんこさ」
あー、ハイハイ。なるほどね。
ドロレスちゃんの問いに応えたのは、猫耳奴隷のセシリアだったよ。
俺たちを見つけて、駆け寄って来た。どこかで転んだのか、泥んこだ。
「おねさー!」
いちばん懐いてるミーヨに抱きついて、そのまま安心したように泣き出してる。
「もう大丈夫だよ。安心してね」
「ういっ……うぐっ……ひぐうっ」
ミーヨは侍女服が汚れるも構わずに、セシリアを抱きしめて背中を撫でている。
「セシリア、なんでここに? 茶トラ君と留守番してたんじゃ……あ!」
言いかけて気付いた。
そう言えば、セシリアと『音の宮殿』に残してきたはずの「六本指の猫」茶トラ君が、どこからともなく現れて、現在『白百合の小宮殿』に滞在中なのだった。
それを探して、追いかけて来たのか? たった一人で?
「……(きゅるるるるるう)」
可哀相に。お腹空いてんだな。
「あ、失礼」
――ドロレスちゃんかよ。
「セシリアちゃん、どうやってここまで来たんですか? ここは『島』ですよ」
シンシアさんが優しく問いかけてる。
本当に、茶トラ君といい、セシリアといい、一体どこからどうやって、ここに来たんだ?
「セシリアちゃん?」
「……あい?」
イヤ、不思議そうにされてもな。
仕方ない、こうなったら俺様が「ご主人様」として訊き出そう。
「……くっくっく。我が僕、セシリアよ。ジン・コーシュの名において命ずる。我が問に答えよ」
もちろん、横ピースっス。『はが○い』っス。『コード○アス』っぽいけれども。
「あい。ます、たー」
そっちは観てないです。歯がゆいです。あと、『カツ』の方も観てないです。ごめんなさい。
「いつ来た?」
「ばん、ごぱん、あと」
「どこから?」
「きた、から、きた」
「誰と?」
「あた、ひとり」
「なにを?」
「ねこちゃ、おっ、かけ」
「なぜ?」
「ねこちゃ、げっと、だぜ」
「一人えっちしてるとこ見た?」
「あい?」
「え? そんな事してたの?」
「しそうになったけど、してない(笑)」
ニュースの基本「5W1H」ってヤツだ。ちょっと違うけど。
「ところで、ホントにどうやって?」
ちょっと落ち着いてから、ミーヨが訊き出してくれた。
「セシリアがオオバ……こほん! 『先々代の女王陛下』に頼んで『★迷子探し☆』の『魔法』使ってもらったんだって」
この間、ミーヨが使って見せたのを、憶えていたんだろうな。
てか、俺みたいに「オオババちゃん」って言いかけたな。
「へー。よく、オオババちゃんが、セシリアの頼み聞いてくれたなあ」
セシリアが『獣耳奴隷』なのは知ってるはずなのに。
「あい。おばばばばばばあ、ねこちゃ、にくきゅ、すき、いてた」
たぶん「オオババちゃんが茶トラ君の肉球を好き」ってコトかな?
『★迷子探し☆』って、探す相手を触った事ないと使えないハズだし、茶トラ君。オオババちゃんに肉球触られたのか?
「にしても、一晩かけてやって来たとか『大冒険』じゃないか?」
よく無事だったな?
『王都』のあたりって、夏でも夜は冷えるらしいに……。
前にも『奴隷の館』から脱走して、子供だけで『東の円』まで行こうとしていたし、行動力があると言うよりも……無謀だ。
お父さん(俺?)は心配だぞ。
「ほし、キラキラ、おて、きた」
セシリアが、ご機嫌な感じで笑ってる。
ここは「島」のハズなのに……歩いて来たって事は、どこかに橋があるのかな?
あるんだろうな。茶トラ君も同じルートでやって来たのか?
「ジンくんが『政敵』を『排除』してくれたから、そのお礼らしいよ。なんか『王宮』の立ち入り許可証まで貰ったんだって」
「……へー」
それって失脚したネコジッタ婆の事かな? そんな事で恩義を感じてくれたのか。
「……(にこにこ)」
セシリアが安心しきった、いい笑顔だ。
怪我も疲労も無さそうだし、まあ、いいか。
こういうの、何て言うんだっけ?
ケツから硫黄臭? じゃなくて「結果オーライ」か?
◇
「みよねさ。めんご」
「いいよ。後で洗うから」
侍女服の事か? そう言えば、『洗濯』って『魔法』無いな。なんでやろ?
とにかく、セシリアを加えて、6人パーティになった俺たちは、また「地下通路」を進んでいる。敵キャラとはエンカウントしてない。ノーゲーム・ノーバトルだよ。
「祈願! ★猫目っ☆」
クリムソルダ嬢の、こ……怖ーよ!
目が……瞳孔がタテに細くなってる。そして、キランと光ってる。
「暗いとこでもぉ、見えるぅ、まーほーなんですう」
「……へー」
完全に夜行性の猫の瞳だよ。やっぱり「暗視」の『魔法』あるんだな。
それとも、動物専門の『癒し手』のクリムソルダ嬢の、オリジナル魔法か?
「そーいえばぁ、ジンさん。ご立派でしたぁ」
「……えへへ」
って、ちょっと待って!
ナニを見たんだ? この子は? 昨夜『見届け人』として付き添った時の話か?
そんな事はまったく気にせずに、
「『大宮殿』に近づいてるせいか、天井に『水灯』ついてるね」
ミーヨが言う。
「暗いし、点けちゃいましょうか?」
ドロレスちゃんの勝手な言い草に、
「え、勝手にそんな……イケナイのでは?」
生真面目なシンシアさんが戸惑ってる。
「祈願! ★励光☆」
やっちゃったよ。無礼講だな。
養女に出てるとはいえ、さすがは元・第七王女ドロレスちゃん。
……ん? なんか違和感があるぞ。
「光の色が違うね。青白くない」
ミーヨの言う通り、『水灯』って「月光」みたいな冴えた青白い光なのに……ここのは、オレンジ色だ。
「夏用の『ヒカリちゃん』ではなくて、冬用の『アカリさん』ですね」
シンシアさんが明快に言う。
ところで「アカリ」って三姉妹の長女? それともハンマー振り回すポニテの人?
イヤ、『化物』の卵に、植物の種子を植え付けて育てる『女体樹』ってヤツだな。
有用な「発光液体」を採取出来るのが何種類かあって、冬場は、あたたかなオレンジ色のを使うらしい。
ランプの灯みたいな、柔らかい暖色系の光だ。
今となっては、懐かしい色の光だ。
そう言えばクリムソルダ嬢から聞いた『全知全能神神殿』の「七不思議」のひとつ「人体発光現象の怪」って……某男性神官が夜中に、お○っこした後で、暗いので『★励光☆』使ったら、ち○こが光った(笑)って話だった。なんでも『守護の星』補充のために、朝方『ヒカリちゃん』の体液を飲んだ晩の話だったそうだよ。
そんな事はいいとして、前方に人影が見える。
「あら、ジン君。今晩は」
すんごい気安く話しかけられた。
昨日の『全裸祭り』で、大事な秘所を拝見させて頂いた女王陛下の『大事な秘書』ロザリンダ嬢(巨乳)だった。イヤ、きちんとお召し物は着てらっしゃるよ、今は。お互いに。
「ロザリンダさま……どうして、こんな場所に?」
自分たちの事は棚に上げつつ、訊いてみた。
「『黒豆パン』を食べたら眠れなくなっちゃってね。ここの点検よ。今年は『とても寒い冬』だから、今から食糧や燃料の備蓄をしておかないといけないの」
「……へー、そんな事をなさってるんですか」
『秘書』って、そんなに雑用多いのか?
てか『大事な秘書』って『女王国』では、「女王陛下の補佐官」らしいしな。
『鬼灯○冷徹』でも、某大王の補佐官が、あっちこっちを視察してたけれども。
ところで『黒豆パン』ってなんだろ? 初耳だ。
眠れなくなるって事は、カフェインが入ってるの?
そんで、この地下通路って、やっぱり「食糧庫」も兼ねてるのか……って、んんん?
「『とても寒い冬』?」
言ったのは、ミーヨだ。
「ええ、12年周期だから、今年もとても寒くなるわよ」
『この世界』には、そんなのがあるのか?
というか、『王都大火』があったのって、12年前の『とても寒い冬の厄災多き一年』って名前の年だったはずだ。
その年に、ミーヨは母親を亡くしてる。シンシアさんもだ。
そして、ドロレスちゃんはその年に生まれ、目の前のロザリンダ嬢と同年だった上の姉『二の姫』を亡くしてる。祖母にあたる先代の女王も亡くなられたらしい。
その年が『とても寒い冬』?
周期的な気象現象で、「一般固有名詞」なの?
「それって……寒いんですか?」
「ええ。なにしろ『とても寒い冬』ですもの。ここも、そのために造られたようなものなのよ」
「え? ここって、何かあった時に脱出するための秘密通路じゃなかったんですか?」
質問したのはドロレスちゃんだ。
「いいえ、ここはそんなものではないわよ。『七の姫』」
ドロレスちゃんにとっては「従姉妹のお姉さん」なんだな、このお方。
「『冬期連絡通路』が正式名称よ。地上は凍り付いてしまうから」
――そ、そんなに寒いの?
「「「「「……」」」」」
みんな当時は幼児で、12年前の『とても寒い冬』をよく知らないのだ。
「とにかく、都合が良かったわ。少し、わたくしに付き合っていただける? ……ぼそぼそっ(一人じゃ淋しいし)」
色々とご都合主義的展開な気がしないでもないけれど、クリムソルダ嬢と同等クラス(※おっぱいの話です)の『大事な秘書』様の頼みだ。聞くしかない。
眠れぬ夜に、ふと思いついて出て来たらしく「御供」がいないもんな。瓜も茄子も犬も猿も雉も連れてないし。
「ハイ。どちらに?」
「そうね。じゃあ、巣箱の見回りにでも」
「巣箱?」
ポッポ鳥(『地球』由来の鳩)でも、飼ってるのかな?
◇
まるで「鳥の巣箱」を巨大化したような建物だった。
「……んはぁ……ああっ……だめっ」
「ああ、やってる。やってる」
確かにヤッてるようだけど?
「おうっ……おうふ」
完全に、女性のアヘ……喘ぎ声だよ。
こっちには子供もいるのに、まったくもーもー。まったくもーもー?
「……ここって、なんなんですか?」
既に多くの経験値をお持ちの、ミーヨ先生だ。
「『愛の巣箱(人間用)』よ」
人間用て。
「「「「「……」」」」」
「『王宮』は女性ばかりでしょう? 事前に申請すれば、『お菓子の日』の深夜にだけ、好きな男性を招待して、逢引き出来る決まりになってるの」
ミーヨが、第二侍女ポーニャ嬢から吹き込まれた「良い肉」じゃなくて「言いにくそうな事」ってコレだな。まったくもーもー。
「ご休憩は『月面銀貨』一枚よ」
「「カネとるのかよ!」」
こんな事突っ込むのは、俺とドロレスちゃんだけだ。
◆
『仮面の男』はどうなった? ――まる。




