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087◇大事な秘書と第四侍女



「ああ、もう! こんなに外交案件を(とどこお)らせていたのね!」


 女王陛下の『大事な秘書』ロザリンダ嬢(※『七人の巫女』のロザリンダ嬢とは別人)が、何やら手紙の束を見ながら、プリプリしている。全体的に。


 現在、陛下は某所で沐浴(ゆあみ)中だそうな。

 側近中の側近が、女王陛下に付き添ってなくていいの? とも思うけど、流石に「一緒にお風呂」とはいかないから、彼女は単独で、前任者ネコジッタ婆の悪事を暴くため(?)に、執務室で書類に目を通している。


 現在ロザリンダ嬢は、俺の向かいの長椅子に、浅く腰を掛けている。

 ……全裸で。


 彼女の右膝には、(ふた)つ並んだ黒子(ホクロ)がある。

 本当なら、これって「双子星(ふたごぼし)」ってヤツだ。


 ただし、このお方自身は双子ではなく、子供時代に親しい友人たちと、親友の絆の証として入れたものらしい。同じのが、『巫女』のロザリンダ嬢にもある。12年前に亡くなった『()の姫』ロザリンダ王女にもあったそうだ。


 その三人は、「三人ロザリンダ」と呼ばれた親しい友人同士だったそうだ。


 んん? おおっ?


 不意にロザリンダ嬢が、横にあった書類を取ろうとして、グァバアッ、と思いっきり大股開きになった。


 ……なんというか、問題ある姿勢だけど、ぜんぜん問題は無い。


 なぜなら、女性の重要な部位を隠蔽する『★謎の光☆』によって、『大事な秘書』の大事な秘所は隠されているからだ(泣)。


 どこからどういう風に射しこんでいるのか光源が不明な、「謎の白い光」によって、まばゆく白く覆い隠されているのだ。


 これって『癒し手』が、治療の際に手に(まと)う『白い光』と同じものなんだろうか?


 だとすると、普通なら人間の目には見えないナノマシン・サイズの『守護の星(極小サイズ)』の「集合体」って事になるな。


 威力をブーストした『★送風☆』とかで、強制的に吹き飛ばせないんだろうか?


 今度またミーヨに協力して貰って、「実験」してみないとな。


 そんな事を考えていると――


 んんん?


 『大事な秘書』ロザリンダ嬢の大事な秘所を隠していた「謎の白い光」が、ふわーっと消えてなくなった。


 ああ……そろそろ二打点(約3時間)か……。

 時間切れで、『魔法』の効果が消えたんだな。


 人間、受ける衝撃が大きいと、逆に冷静になる……のか?


 イヤ、そんな事はなかった。


 ビバ!

 ビバ! 巨乳!

 そして、ビバ! 金髪!


 そして……イヤ、口に出して言うのは無理!


 イャッホ――――ッ!


 ラッキースケベどぅぁぁぁぁぁぁあああああ――――っ!!


 俺は秘かに定めている「自分ルール」に従って、これを「ラッキースケベ」と認定し、右目の『光眼(コウガン)』の「カメラ機能」を起動した。


(いただきま――す!!)


 感謝の気持ちを忘れずに、撮影を始める。


 もちろん「連写モード」だ!

 弾むお胸や揺れるお胸を、動画並みの枚数でゲットするのだ!


「ジン君? どうしたの? 凄く嬉しそうに見えるのだけれども」

「あ、ハイ(満面の笑み)」


 だって、見えると「物凄く嬉しいもの」が見えてるんですもの!


 あ、いけね。「連写」し過ぎて、右目が熱くなっきた。


 堪能したし、そろそろご本人にも気付いてもらおう。


 なんか、ズルしてる気がするし。


「ロザリンダ様を覆っていた、悪い『魔法』は消え去りました」


 俺は気取って言ってみた。

 彼女は不思議そうだった。


「ん? どうゆうこと?」

「ですから、『★謎の光☆』が……」


「え? そんなの掛かってた? 誰が掛けたの? ずっと裸だと思ってたのに!」


 どうなってんだ? 逆に驚かれて、悔しがられてるぞ?


 リアクションが……思ってたんと違う。

 あと、やっぱり『★謎の光☆』って、かけられた本人には自覚が無いんだな。


「今日は第二王女殿下の女児出産の日だったのに、ああ、私ったら、『王宮』の決まりを守らなくてはならない立場なのに……」


 なんか、凄い苦悶してる。


 羞恥心よりも、職務や規律に忠実な事が優先されるのか?

 てか、女性ばっかりの『王宮』育ちで、どっか感覚がズレてるのか?


 元はと言えば……俺の『★不可侵の被膜☆』が『魔法』を「反射」したのが原因なので、多少なりとも責任を感じるな。


「どうしよう? 『大事な秘書』も辞退しないと……」


 ついに、そんな事まで言い出した。


「ああ! ウソです。ウソ! そんな『魔法』かかってませんでした! ずっと丸見えでした!!」


 なので、こう言うしか無いのだった。


「え? なーんだ。もう、驚かせないで下さいな」


 『大事な秘書』ロザリンダ嬢は、ほっとしたように笑った。


「……よかった」


 丸出しの、大きなお胸が揺れた。


 ……いいんだ? それで?


 俺に全裸見られても、別によかったんだ?

 イヤ、俺はいいよ。凄く、いいよ。ありがたいよ。


 でもさ……なんだろうな。俺も大概だけど、このお方も大概だな。


 ……後で、関係者全員の「口裏」を合わせないとな。


 手持ちのダイヤモンド何個あったかな……?


 もう、贈賄も辞さないよ。


 大事な秘所、見ちゃったし。


      ◇


「それでは失礼いたします」

「ええ、また会いしましょう」


 二人とも、全裸のまま立ち上がり、挨拶を交わした。


 第二王女殿下女児出産記念の王宮限定『全裸祭り』の最中なのだ。

 俺たち、変な事もしてないし、変態でもないのだ。……たぶん。

 

「ひとつ、訊いてもいいしら?」


 立ち去ろうとすると、瞳をじっと見つめられながら、そう言われた。

 イヤ、視線を逸らすと、お互いに色々と見えちゃうのよ。


「何でしょう?」

「さっき……どうして、あんなに泣いてたの?」


 優しく訊かれた。


 ハイ。実は、『前世』で観てた『地球』のアニメの、薄幸(はっこう)なヒロインたちを思い出しまして……とは言えない。


 説明するのが、ややこしすぎる。


「…………」


 困って黙っていると、奇妙な事を言われた。


「もしかして……亡くなられた親しい人でも思い出してた?」


 親しい人?


 それはきっと「今生(こんじょう)」での、『この世界』の家族とかを指しているんだろうけど……『前世の記憶』が蘇った今のこの『俺』としては、会った事も無いんだよな。父親も母親も。両方とも生きてるハズだけど。


「……(こくん)」


 なんとなく、無意識に頷いてしまった。


「……そう、そうなのね? ああ! お互いに服を着ていれば、あなたを思いっきり胸に抱きしめて、慰めてあげるのに!」

「……」


 今すぐ服着たい。

 こんな事思ったのは、「今生」では初めてだ。


 でも、一体何なんだろう?

 俺って、誰かこの女性(ひと)と知り合いだった親族でも亡くしてるのかな? それ以外に考えられない対応なんですけど?


 てか、理由なんてどうでもいいから、慰められてー。

 その胸に飛び込みてー。


「……あの」

「いいのよ。よく分かったわ」


 イヤ、良くない。全然ワケが分からん。


「また会いしましょう。……ぼそぼそ(よく似てる。可愛い)」


 最後に、なんか言われた。


 可愛い――って、あっしのことですかい?


 思わせぶりですけど、今後に期待してもいいんスか?

 アリなんスか、それともナシなんスか? どっちなんスか?


 綺麗な年上のお姉さんに可愛がられるとか、すんごい楽しそう。めっちゃ甘えてー。


 ま、「おねショタ」ってほどには、年齢差無いけど。

 そんで、『前世』では「おねショタ」を、●(液体)関連の何かと意味を取り違えてた事があったけれども……。


      ◇


 『大事な秘書』の執務室を出ると、見知った人がいた。


「色々とお世話になりました。お(かげ)でロザリンダ様が『大事な秘書』の地位に()くことが出来ました」


 黒髪のシャー・リイ嬢だ。


 俺が出てくるのを、待っていたらしい。

 てか、貴女(あなた)までそんな不必要にエロい言葉を……。


「そして、あのままネコジッタ様が『脇侍』に(とどま)まっていたら、確実に、わたくし処分されてました」


 その時の事を思い出しようで、お顔が少し強張(こわば)っていた。

 色々と、ネコジッタ婆の秘密を「暴露」してたもんな。


「こちらも、お礼申し上げます。ありがとうございました」

「いえいえ」

 俺はかるく微笑んだ。


 『大事な秘書』よりも少し年上に見えるけど、彼女の補佐役みたいなポジションだったし、きっとこの方自身も「上」に行くだろうな。


 ……「俺のお(かげ)」で。


「あの……実は、お願いがありまして」

「はい。なんでしょう? わたくしに出来る事ならば可能な限り」


 話を聞いてくれる気満々だ。

 指一本触れてないけど「好感触」だ(笑)。


 ちょうどいいので、「隠蔽工作」に巻き込もうっと。

 というか、まるっと全部、この方にやってもらおうっと。


 そんで、この方にも今『★謎の光☆』がかかってるけど、あとちょっとで消えるはずだから、それまで話を引き延ばそうっと!


      ◇


 たっぷりと目の……イヤ、諸々の工作をお願いした後で、雑談になった。


「先日、ちょっとお会いしましたよね。『大馬場』で」

「はい。わたくし、『近衛騎馬隊』に所属しておりまして、ちょうど騎乗訓練中でした」


 へー、夜のラウラ姫みたいだ……って、シャレにならねーな。


 ついでなので、ちょっと訊いてみよう。


「あの場所は12年前の『王都大火』の後に、ああなったという話ですけど……ご存知ないですか? 『東の街区』が『大馬場』になった経緯を?」

「わたくし、当時は『冶金の丘』に住んでおりましたので……」


 そんな風に応じられた。


 知らないのか……。

 そんで、俺たちも「そこ」から『王都』に来たわけだけど、「住んでた」って言うよりも「短期滞在」みたいなカタチだったしな。そこに話題を繋ぎづらいな。


「ところで、『近衛騎馬隊』とおっしゃってましたけど……」


 なんで、『おっぱい宮殿』の中で、女官っぽい立ち位置なんだろ?

 俺の、意外そうな感じが伝わったみたいだ。


「『近衛騎馬隊』といっても、女王陛下や王族方の身辺警護が主任務でして、常に馬に乗っているわけではないのです」


 まあ、そりゃそうだ。

 『対空兵団』の『飛行歩兵』も、実は「年間飛行時間」とかが決められてるらしいし。意外とホワイトなのだ。『この世界(アアス)』って。


「だとすると、あのネコジッタ婆さん、すごい邪魔でしたでしょう?」


「……(にっこり)」


 シャー・リイ嬢は、無言で微笑んだ。

 これは「察しろ」ってことだろうな。


 でも、そう言う「推論」が成り立つのだ。

 あの婆あ、補佐官であるのをいい事に、女王陛下にべったりで、他に護衛なんて誰も居なかったからだ。


 そういう事情もあって、あの『魔法審議会』そのものが、あの婆さんを罠にハメて、排斥するために用意された政変劇みたいなものだった感じだ。


 なんてゆーか、権力者の周辺って怖いっス。

 俺、「小市民」っスから。


「そんで、その隔意……イヤ、その正義感から、ネコジッタ婆の不正(?)を告発せずにはいられなかったワケですね? とても勇気ある行為でしたよ?」


「……(にっこり)」


 シャー・リイ嬢は、また無言で微笑んだ。

 不意に、熱のこもった調子で、まったく別な話題を語り出した。


「あの……『東の(つぶら)』からの使者の方とお知り合いだそうで……案内した女官が、貴方様の熱い視線は絶対に忘れませんと言っていた、とお伝えくださいませ」


 凄い行為……イヤ、スゴい好意を抱いているらしい。


 ミーヨが言ってた「次郎氏を案内した全裸の女官さん」って、この方だったのかあ……。


 次郎氏、どこにどんな熱い視線を向けたのやら……。


「……ハイ。必ず伝えます」


 こっちは完全に「ナシ」だな。


 なんか、しょんぼり。


      ◇



      リン、ゴ――ン。



 どこかで、鐘の音がした。


「夜の一打点だね」


 ミーヨの声だ。


 前にもあったな。こんなの。


 振り向いてみると、西に傾いた日差しの影になって、一台の馬車があった。


「お疲れ様でした。ジン様。今晩お泊りの『白百合の小宮殿』にまでご案内いたします。どうぞ、こちらの馬車に」


 澄ました調子で、そう言われた。


「第六侍女ミヨレッタ嬢のままなんだ?」

「うん。わたしはドロレスちゃんと違って、正体は明かせないし」

「そっか……。でも待ってろよ。俺がきっと……」


 絶対に。


「さ、行こう……っていうか、もういい加減、服着ようよ」


 ミーヨが、今さらながらに照れているし。そんなんも可愛いし。


「絶対にヤだ!」


 今日は俺も一日『全裸祭り』だ! 服なんて着るもんか!


「祈願。謎の光っ! ああ、発動しないや」


 ミーヨの嫌いな『夕焼け空の魔法停止現象』だ。

 空が夕焼け色に包まれると、『魔法』が発動しなくなる『この世界』特有の謎現象だ。


 この光の波長のせいで、『守護の星(普通サイズ)』への連絡(?)が届かなくなるみたいな印象だけど……確証は無い。

 『地球』じゃ、夕焼けの時に「赤外線リモコン」とかが使えなくなる……なんて話は聞いた事がないしな。


 ただ、要因は不明なままだけど……実は先日のミーヨとの「実験」の時に色々と試してみて、「『魔法』が使えなくなる波長帯域」を発見している。


 俺の右目の魔眼『光眼(コウガン)』の「発光」「投光モード」で実験を繰り返し、その「色」を見つけたのだ。


 尻ぺたを、何発も何発も叩かれ続けていただけでは無かったのだ(笑)。


 そんで、これで『魔法式空気銃』とかで狙われても発射を阻止可能……とか思ったけど、実は『魔銃』って、この停止現象の最中でも撃てるように、「撃  針(ファイアリング・ピン)」に相当する部分に、専用の『魔道具』を使ってるらしいのだ。


 なので、なんつーか、無駄機能がまた増えただけ、みたいな気もする。


 そもそもが、『この世界(アアス)』って、生き物に対して攻撃的な『魔法』を直接使う事は出来ないのだ。『世界の理(ことわり)(つかさ)』に判定されてるから。


「……ぼそぼそ(いいよ。靴あるから)」


 ミーヨが、何やらぶつぶつと言っている。


「行くぞ、ミーヨ!」


 俺は馬車に乗り込んだ。もちろん全裸のままだ。


      ◇


 『白百合の小宮殿』は、『大宮殿島』の端にあった。


 人造湖の湖畔(こはん)(たたず)む、小さめの城館だった。

 夕焼けのせいで、到着した時には本来の色はよく判らなかったけど、真っ白なんだろう、多分。


 ラウラ姫が『おっぱい宮殿』の子供部屋を出た後、12歳から成人前の15歳の終わりまでを、ここで過ごしていたらしい。


 中学生くらいの年の女の子の「第二子供部屋」が、一軒家というか「お屋敷」だったんだな。でも、まあ、王女様だしな。


 その正面玄関で――


「お待ちしとりましたで御座います」


 『三人の王女』の一人ラウラ姫付き侍女軍団特有の、不思議な赤い光沢をもつ黒い侍女服を着たお婆ちゃんに出迎えられた。


「えっ?」


 めっさ似てた。



      カコン!



「あ、ジン様。おちん……落ちましたよ。靴が逆さに」


 ナニがどうしたって?

 今は、それどころじゃないよ。


 この人って……。


「…………」


 お婆ちゃんは、何かを確認するみたいに、俺をじっくりと眺めた。


 俺が『大事な秘書』のロザリンダ嬢やシャー・リイ嬢を見つめる感じは、こんなんだったんだろうか?


 なんか嬉しそうに、(ゆる)んだ締まりのない顔で、陶然(うっとり)としてる。


 かなり長い事見つめられた後で、


「は! 姫が待っとります。ああ、わしはラウラ姫付き第四侍女ベコジッタに御座います。よろしゅう」


 突然正気に戻って、そう言うと、すたすたと歩き出した。


 第四侍女ベコジッタだとう?


 てか、「ベコ」って「牛」の事だろ? 「赤べこ」とかの土産物(みやげもの)もあるし。


 すると「ベコジッタ」って「(ギュウ)タン」か? 「牛たん」なんですか?


 だとすると、その弁当は糸を引っ張るとあったまるんですか? すっごくないですか? だからって、電車の車内で糸を、引くな!(※使い方間違ってます)


 イヤ、違う。問題はそこじゃあない。


 そして俺は、友利(ともり)○緒(※『Char○tte』)じゃあない。

 そして俺は、友利奈○は嫌いじゃあない(※むしろ好き、って意味)。


「まいりましょう、ジン様」


 第六侍女ミヨレッタ嬢がうながす……てか、ちょっと待って!


「そっくりなんだけど」

「誰と?」

「だから、あの婆アと」


 恐ろしい事に、居なくなったはずのネコジッタ婆に、そっくりなのだ。


「……?」


 ミーヨが、きょとんとしてる。


「ホラ、『魔法審議会』で……って、ああ、ミーヨはあの時居なかったんだった」

「うん、『白百合の小宮殿(ここ)』のお泊りの準備してたよ。アルマメロルトリアさんたちと」


 元々は高位貴族のご令嬢なのに、完全な侍女仕事だな。

 なんか申し訳ない。


「その時、あのお婆ちゃん、居た?」

「うん、居たよ。別々にお仕事してたけど」


 ……じゃあ、別人なのか?


「姫の子供部屋で会った女王陛下の側近のお婆ちゃん、いたろ? そっくりじゃね?」

「……ああ、そういう事ね。うん、双子なんだって」


 ミーヨは、あっさりと言った。


「シンシアちゃんもそうだって言ってたでしょ? 別に珍しくないよ、双子なんて」

「……双子?」


 マジか?


 確かに『俺の聖女』シンシアさんのとこは、ご本人と下の弟さんたちと、さらにはお母さんまで双子だって聞いてるけど……『この世界』って、双子多いのか?


 それに、このタイミングで、そんな人に登場されても……。


 なんか釈然としなくて、怖いんですけど!


 プリムローズさんはどこ?


 説明してください!


      ◇


 案内された食堂は、無駄に広かった。

 姫は10代の初めに、こんな広い所で、一人で食事してたのか……淋しくなかったのかな? その反動で、賑やかななのが、好きなのかも。


「ジン!」

 ラウラ姫だ。


 数年前はどうか知らないけれど、いま現在は明るい表情だ。


 白い服を着てる? 白い……白衣?


 イヤ、病院で着る手術着みたいなデカいエプロンだな。

 多分、食事中のエプロンなら『全裸祭り』のルールから外れない、という判断か?


 あちこちに、食べ物が飛び散ったような跡が付いてる。

 空腹のあまり、爆喰いしたっぽい。


「今日は一日、様々な事に付きあわせ、苦労をかけた」


 俺を、ねぎらってくれてるらしい。


「姫もお疲れでしょう?」

「さほどでもない。私も久しぶりに母上、父上に会えて、嬉しかった」


 あれ? 父上?


「……(こくん)」

「うむ。では、また後で」


 うまく考えがまとまらなくて、なんとなく無言で頷くと、ラウラ姫は何かに納得したように首肯して、自分の席に戻って、また食べ始めた。


 後ろ姿を見ると、やっぱり着るタイプのエプロンだ。後ろが開いてて、お尻が見えた。


 姫が決まりを守る、とてもいい子で俺も安心した。


 でもって、「父上」とか言ってたけど……。

 そっかー、俺の知らないあいだに「お父さん」とも会ってたのか。


「…………」


 ふと、視線を感じて、そちらを見ると次郎氏も居た。

 完全に「お客様」扱いで、堂々と食卓についてる。


「やあ、ジンさん。たいへんご活躍だったそうで」


 からかうように言われた。


 あんたもお役目果たせよ。

 第一王女殿下に毒……じゃないか、酒なんか盛ってないで。


「……次郎さん。昼間、ここまで案内してくれた全裸の女官さんの事、いやらしい目で見たでしょ?」

「……あい」


 何故にセシリア風?


「その女官さん。なんか次郎さんの事、気に入ったらしくて『貴方様の熱い視線は絶対に忘れません』って。よろしく伝えてくれ、って言われましたよ」


 俺は、こういう伝言はきちんと伝える律儀な男なのだ。

 てか、もともと気質は「小市民」だし。


「へー、そうっすか!」


 やたらと嬉しそうだな。

 ロザリンダ嬢(※『巫女』の方だ)から強引に迫られてた時と違って、ノリ気のようだぞ。


「……(ニヤニヤ)」


 なにかを思い出してるのか、ニヤニヤしてるし。


「前からのお知り合いだったんスか?」

「いやー、前にちょっとやらかして『王宮』から逃げ出した時に、手助けしてもらった人だったんす」


 なるほど、そんな事が……。


「よかったっスね……(ぐりん!)」


 なんか腹が立ったので、目の前で俺様の俺様を一周させたった。

 あんたの記憶を「上書き」してやるぜ!


「……ジンさん。もう判りましたから、服着ましょうよ」


 次郎氏が、しょっぱい表情(カオ)で言った。


 一体ナニが判ったというのかね?


「ほひいふぁん、ほーも」


 ホモじゃねーよ!


 と思ったら、第七侍女ドロリータ嬢の扮装を完全に解いて、姫と同じ格好をしたドロレスちゃんが、何かを口いっぱいに頬張りながら「お兄さん、どーも」と言ったらしい。お行儀悪いよ?


「ドロレスちゃんもご苦労様」

「イェイイェイ」


 別に『全裸祭り』にノリノリなわけじゃなく、何かを口いっぱいに頬張りながら「いえいえ」と言ったらしい。お行儀よくないってば。「詰め込み過ぎ」だってば。


「……(むぐむぐ、ごっくん)……まさか『王都』に着いて二三日で、用事の大半が終わっちゃうとは思わなかったです」

「そうだよね」


 俺も同意する。

 なんていうか、この二三日って「詰め込み過ぎ」だったよね。


「これでゆっくり『王都』で遊……社会勉強出来ます(ニカッ)」


 おお、少し成長したのか、最後の笑いはちょっと「悪女」っぽかった。


 ドロレスちゃんもラウラ姫も、いろいろと思い悩んでいた事が一気に解決して、緊張が解けてほっとしたように……イヤ、いつも通りフツーに大食いしてる。


「ジン様。こちらへ」


 待ち構えていた第五侍女アルマメロルトリア嬢に示された席に座る。


 食卓の上には、定番の「フルーツの船盛り」や、「お肉の船盛り」……の残骸がある。

 海賊の襲撃を受けた後みたいに、船形の器には何も残って無かった。大食い王女姉妹の仕業だろうけれども。


 でも、俺の好物のチーズの盛り合わせや、壺ミルクとか、色々な乳製品もあるな。

 ついさっきまで『おっぱい宮殿』にいたせいか、微妙な気持ちに成ってしまうけれども。


 そこに、さっきのお年を召した第四侍女のお婆ちゃんが、のそのそとワゴン(※手押し車だ)を押してやってきた。


 近くまで来ると、


      バキ……バキバキ……バキ


 どこかの関節か、骨を鳴らすような音をさせて背筋を伸ばしてから、ワゴンに載った料理を給仕しようとする。ちなみに俺は、「格闘もの」は詳しくない。せいぜい、タイトルを知ってるくらいだ。


「あ、わたくしが」

「そうかい?」


 第五侍女アルマメロルトリア嬢が申し出ると、あっさり引き下がって、食堂から出て行った。


「失礼いたします」


 お皿を並べ始めた第五侍女に、こっそり小声で訊ねる。


「……ぼそっ(アルマメロルトリアさん)」

「……ぼそっ(何でしょう?)」


 元々地味で目立たないお人なので、こんな感じのナイショ話向きだ。騒がしい第二侍女ポーニャ嬢だとムリだろう。


「さっきのお婆さんについて教えてください」


 俺が小声で訊ねると、彼女も小声で教えてくれた。


「あの方は殿下の第四侍女。お名前はベコジッタ・ダ・ギュー様。今日お会いした女王陛下の『脇侍(わきじ)』ネコジッタ様の双子の妹だそうです」


 家名は「ギュー」か……やっぱり。

 てか、あれ? 「ネコジッタ婆失脚」のニュースは、まだ届いてないのかな?


「ご高齢ですので、ずっと『有給休暇』をとっておられたのですが、このたび姫殿下の『(いと)(びと)』を一目見たいと、急に復帰なさって」

「有給休暇?」


「はい。私たち『侍女』や『王宮』の『女官』は、なにか特別な事でもない限り『終身雇用』でして」

「はあ?」


 その「神話」は崩壊してるのでは?


「ですが、ある程度の高齢になりますと、当然ながらその役目を果たせなくなります」

「ハイ」


「そうなった場合、『有給休暇』という名目で事実上引退し、『互助会』の積み立て金から、元の3分の1のお給金を死亡するまでいただく……という仕組みになっているのです」

「そうなんですか」


 よく知らないけど「粘菌」……じゃなくて「年金」みたいなもんか?

 ずいぶん手厚い厚生福祉だ。あれ、福利厚生かな? 福祉厚生かな? 厚生福利かな?

 ……あああ。


「あの方は、姫殿下の……お小さい頃のお側付きだったそうで、実はわたくしもお会いしたのは今日が初めてです」


 今も「お小さい」ので、ちょっと躊躇(ためら)いましたね?


「了解しました。ありがとうございます」

「……(こくん)」

 アルマメロルトリア嬢は小さく頷いた。


 ちょうど配膳も終わった。

 出来れば、いまだ正体不明な「第三侍女」についても聞きたかったけど。ま、いいか。


「いただきま――す!!」


 俺はミーヨがいつもやるみたいに、お皿の上で「X」印を描く。

 『この世界』にも、なぜか日本語の「いただきます」と同じニュアンスの言葉があるのだ。感謝の気持ちを忘れてはいけないのだ。……覚えきれないから全部は言えないけれども。


      ◇


「…………ぐ」


 スープを飲んでしばらくすると、胃が焼けるように熱くなった。


「ジン様?」

 後ろに控えていた第五侍女アルマメロルトリア嬢から声がかかる。


 お腹が熱い。


 これって、まさか……?


(体内錬成。胃袋。解毒。毒物を分解。無害化。効果無効に)


      チン!


 こ、殺す気かっっ?

 解毒が成功したって事は、本当に毒物だったんじゃねーか!


 この俺様じゃなかったら、死んでたぞ、おい。


 口に含んだ時に、味に違和感はなかったし、むしろめっちゃ美味しかったから、飲み込んだら……これだよ。なんだよ。


 胃袋で『体内錬成』したの2回目だ……前はなんだったっけ?

 てか、今はそんな事考えてる場合じゃないな。


「あの、ジン様?」


 不審そうに訊かれた。

 この女性(ひと)が、俺に毒を盛るハズはないだろうし。


「俺の分の食事。絶対に誰にも手を付けさせないで、そのままにしててください!」

「は、はい」


 俺は、アルマメロルトリア嬢に頼んだ。

 そして、食堂から出て行った第四侍女とやらを追いかける。


      ◇


「どうしたんですか? そんなに慌てて」


 廊下で、第二侍女ポーニャ嬢と出くわした。


「第四侍女のお婆ちゃんは?」

「え? 誰ですか? いませんよ、そんな人」


 知らないだと?


「じゃあ、プリムローズさんは?」

「プリマ・ハンナ様? なんかお食事の最中に、胃が痛いって下がられて、そのままお部屋に……。ねえ、どっかしたの?」


 な、なんだとう!?


 プ、プリムローズさんがっっ!!


 そこへ、ミーヨが食堂の方から駆けつけて来て、叫んだ。


「ジンくん! たいへんっ! ジンくんの残り物を飲んだ姫ちゃんとドロレスちゃんと茶トラ君が、いきなり倒れたのっっ!!」


 にゃ、にゃにぃ?


 ラ、ラウラ姫とドロレスちゃんと茶トラ君までもがっっっ!!


 ……てか、茶トラ君?


      ◆


 別に毒じゃないので、ご心配なく(ひでえネタバレ②)――まる。

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