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086◇魔法審議会


「……ぐずっ……ひぐっ」

「む? むむむ?」

「ジンくん、なんで泣き出しちゃったの? どっか痛いの?」


 心配して頂いて心苦しいのですが、どこも痛くはありません。

 ひどく悲しい事を思い出してしまって、切なさで胸が詰まったんです。


「「「「……」」」」


 他の方々は、俺の扱いに困ってるようだ。変な距離感が生じているし。


「ところで、なんなんスか? 『魔法審議会』って? 謎の秘密組織っスか?」

 ひとしきり号泣して、やっと涙が止まった俺は、プリムローズさんに訊いてみた。


「謎でも秘密でもないわよ。『魔法』に関する研究機関というか……研究団体よ」

「研究団体?」


 この様子だと、主管してんのは「国」じゃなさそうだ。


「新魔法や、珍しい魔法現象についての報告会。ただ、あまりにも非常識な『魔法』を使用した場合には、それについての審問が行われるのよ。まあ、私も調子に乗っていろいろやっちゃったから……そのうち呼び出しがかかるだろうな、とは思ってたけど」

「ああ、何度も『合体』しましたもんね」

「その言い方はおやめなさい」

「――ハイ」


 怒られたよ。


      ◇


 で、俺とラウラ姫と、もともと『魔法審議会』の正規会員というプリムローズさんが、某所に案内されている。


 案内してくれるのは、こちらも正規会員の女官のロザリンダ嬢と、俺の号泣の原因をつくったシャー・リイ嬢だ。


 にしても、まったく……何が悲しくて異世界に転生して、『地球』のアニメの報われないヒロインたちを思い出して、号泣しなきゃならないんだ、俺は?


 でも、みんな可哀相だったしなあ……(しみじみ)。


 でも、『この世界』の人達には、変に思われたろうな……。

 でも、いつまでも下を向いてないで、前を向いて歩こう!


 そうさ。前を向けば……素敵な丸出しのお尻が二つも。ぐへへへ。


 俺様の俺様が、獲物を見つけた毒蛇のように、またし……(おも)っ!


「――前!」

 プリムローズさんが短く叫んだ。


 え?


「うッ」


 急に立ち止まった女官のロザリンダ嬢に突き……追突してしまった。

 ちゃんと前(※ただし視線はやや下向き)は見てたのに。


「あり……すみません」

 つい間違えて、お礼を言いそうになったよ。


「「……」」


 見ると、彼女とシャー・リイ嬢は、ある人物に「最上位者への礼」をしていた。


「……この度は、急な、お呼び立て、にも、かかわらず、ようこそお出で、下さいました」

 追突事故で動揺してるのか、女官のロザリンダ嬢の言葉には、妙な区切りが多い。


「うむ」

 そう返事をしたのは、ラウラ姫の曾祖母『先々代(さきのさき)の女王陛下』ことオオババちゃんだった(逆かも?)。

 どうやら、この人も『魔法審議会』とやらの会員のようだ。


 プリムローズさんは、オオババちゃんや女官のロザリンダ嬢と前々から顔見知りのようだけど、聞いたら『魔法審議会(これ)』繋がりらしい。


「例の段取り通りにな」

 オオババちゃんったら、偉そう。


「「はッ」」


 『大宮殿副総監』のロザリンダ嬢と、役職不明なシャー・リイ嬢が神妙に応じている。

 てか「例の段取り」って何?


「小僧。例の件も、詳しく聞かせてもらうぞ」

 俺に向けて、そうも言われた。

 俺とプリムローズさんが『荒嵐(あらあらし)』を(しず)めちゃった件かな?


 そして、ついでのように、

「それにしても……女児が産まれたか?」

 プリムローズさんを除いて全裸なのが、気になったんだろう。そんな事を訊かれた。


「左様に御座います」

 女官のロザリンダ嬢が代表して答えた。

「……そうか」

 ちろりと俺を見た。

 ただ、御自身には脱衣の意思はなさそうだ。


 皆で廊下を歩きだすと、


「どこ狙ってるの!?」

 振り向いた女官のロザリンダ嬢に、真っ赤な顔で睨まれた。


「まさか、あなた、そこがいいの!?」


 妙にエロい感じで怒られた(笑)。


「……(ふるふる)」

 首を振って否定した。

 ……そんな非正規な場所、狙ってないです。

 まあ、『前世』でなら「オカマを掘る」って感じのぶつかり方でしたけど。


 ちなみに、△△直後にミーヨから神速で例の「重たい白い木靴」を強制装備させられたので、ロザリンダ嬢に直接突き刺したりしてませんよ? ゴロゴロダンゴムシの脱皮した殻から作られてるゴム似物質の靴底で、ムニュっとなりましたけど。


 「安全靴」って、こういうのを言うんですかね?(※まったく違います)


      ◇


 『魔法審議会』とやらが行われるのは、『おっぱい宮殿』の中だった。


 なんでまた『王宮』の中でやるんだろ?

 『魔法審議会』つっても、専用の研究施設とかは無くて、不定期に、適当な場所で会合とかやってるだけらしいけど。


 とにかく、場所は『おっぱ……じゃなかったな。

 『双丘(そうきゅう)大宮殿』の西側のドーム『希望』の中だった。

 大食堂と舞踏会場を兼ねてるらしい、広くてまん丸い空間だ。

 ちなみに、ラウラ姫たちが『しえすた』を過ごしたところらしいよ。


 丸くて広い中心空間を取り囲むように、円形に食卓や椅子が配置されてる。

 踊り疲れたら、食事と休憩をとるためなんだろうか? よく意図が判らない。

 とにかく、椅子を真ん中の舞踏会場部分に並べて、臨時の会議場に仕立ててる。

 その周囲には、「正規会員」以外の人たちが陣取って、「傍聴席」みたいになっちゃってる。わりと人が多い。百人近くいるな。『全裸祭り』なので、ちらほらと肌色の人も……と思ったら『★謎の光☆』で隠されてる。しょぼーん。


 そんで、ここに来て、ミーヨと第五侍女アルマメロルトリア嬢が、今夜の宿泊場所の用意のために、どっかに行ってしまった。

 ミーヨが心配そうにしてたけど、過保護は良くないよ? 自分で言うのもなんだけど。


「……ぼそぼそ(『靴』って『夢占い』だと、なんの象徴ってコトだったかな?)」


 隣の席で、プリムローズさんが、ぶつぶつと独り言を言ってる。


 俺、知ってる……けど、言えない。

 夢じゃないし……シャレになんないし。


「ご起立を!」


 ――『魔法審議会』の開会らしい。


「宣誓。我々は『世界の理(ことわり)(つかさ)』の名において、『この世界(アアス)』の人類全てのために、『魔法』を日々探究・研鑽(けんさん)し、それを極めんとするものなり」


「「「「「我々は――」」」」」


 みんなで唱和した。


 プリムローズさんは「昭和」だけど。


「では、緊急ではあるが『魔法審議会』を開始する」

 名誉議長は、なんと『先々代(さきのさき)の女王陛下』ことオオババちゃんだった。


 連絡がいって、すぐに(『魔法』で)飛んできたらしい。

 『王宮』の上空とか……飛行禁止じゃないの?

 ドローンみたいに規制されてないのかな?

 ならば俺も、空飛んで『王都』の全体像を見たいんですけど。

 『合体魔法』でなら、プリムローズさんに吊り下げて飛んでもらえると思うけど……また悪目立ちするか。


「では、この度の事案についての説明を求める」

 オオババちゃんが偉そうだ。


「はい、陛下。私が目撃したのは――」

 女官のロザリンダ嬢が状況を説明した。


 まさか俺様の俺様の話はしないよな? と思ってたら、『謁見(えっけん)の間』でのプロペラ・ダンスまで(さかのぼ)って報告された。いやん。


 なんでも別室で、ストリーミング放送みたいな感じで観ていたらしい。

 先刻(さっき)大笑いされたのはそのせいらしい。


 ふと思い出してみると、女王陛下の玉座の下の方に、『この世界』でよく見かける魔除けの「半目マーク」みたいなのが()め込まれていたけど……アレが「カメラ」だったのかも?

 『謁見の間』を覗くなんて「越権行為」だと思うんだけど……いいのか?


 そんで、ウチの侍女軍団とか他の女官さんたちも、俺と俺様の俺様の雄姿をバッチリ観てたらしいよ。てへ。


      ◇


「ジン・コーシュ。()べよ」


 俺かよ?

 銅像持ち上げたのはラウラ姫なのに……。


「……(すやすや)」

 見ると姫は寝ていた。

 『しえすた(おひるね)』から帰って来たばっかのに。


 ナニを話せばいいんだ?

 ここに来る途中、プリムローズさんから言われたのは『荒嵐(あらあらし)』を鎮めた件を、オオババちゃんこと『先々代(さきのさき)の女王陛下』に見られてたらしいから、それについて色々と問われるだろう……って事だったのに、ロザリンダ嬢の話ではその辺ノータッチだったしな。


 やっぱプロペラ・ダンスの事から話すしかないのか?

 いいのか? セク○ラにならない?


「我が秘儀プロペラ踊りは、硬さと柔らかさの絶妙な」


「「「「「そっちじゃねーよ!!」」」」」


 案の定、みんなに突っ込まれたさ。


「つまり、あれですよ、ホラ。あの時ラウラ姫は俺の手を握ってたでしょ? (がった)……イヤ、『協調魔法』ってヤツですよ? みなさんご存知でしょ?」

 俺は適当な言い訳を試みた。


 女官のロザリンダ嬢が問題にしたのは「重量」だった。

 『★怪力☆』で持ち上げる事の出来る「重量」には、高速道路の制限速度(?)みたいな「上限」があって、それを破ってたらしいのだ。


 この惑星『この世界(アアス)』において『魔法』を発現させる中核の『世界の理(ことわり)(つかさ)』は、『地球』で言う『人工知能』みたいなもので、『魔法』に関係するいろいろな「判定」やら「判断」を行っているらしいけど、そんな些細な細かい事まで、制限かけてんのかな?


 よく知らないけど「リソース」とか「演算能力」みたいなのが、足りなくなるんじゃないの?

 現実的に考えて、各地の端末機みたいなものに、処理を分散してる気もする。


 それっぽいの、なんかあったかな?


 ひょっとすると、何かの「生き物」かもしれない。

 それが「人間型」で、ロボットか宇宙人みたいに人間の中に混じってたら怖いな。


 でも人類の天敵とされてる『ケモノ』には、二つの意味があって、それは「獣」と「化物」だ。

 『化物(ケモノ)』の方は、他の生物に擬態して生活していて、中には人間そっくりになって人間社会に混ざり込んでるヤツもいるらしい。俺とミーヨは『冶金の丘』の『代官屋敷』でたまたま、その「交尾(?)」と「産卵(?)」に出くわした事があったけど……。


 『女王国』ではかつて「化物(ケモノ)混入事件」があって、それ以後「身分証」代わりに「うなじ」に『魔法の黒子(ホクロ)』を入れるようになっているらしい。双子の取り違え防止のために入れる『双子星』もその一種らしい。シンシアさんのを見た事あるけど、それとは知らずに、ただのホクロだと思って、さらっと流しちゃったけど。


 ミーヨの首筋にも、あるのは確認してるけど、拡大して見た事はない。

 そうしようとすると、「やめないで、お願い」とか言われちゃうのだ。てか、どんな状況でそれを確認しようとしてるんだ、俺は?


 それはいいとして……その『世界の理(ことわり)(つかさ)』の「端末機」って俺じゃないよな?

 ちょっと怖い。自分がなんなのか、自信が無くなる。


      ◇


「……それで二人分の、33ナンダモンの力を発揮する事が出来たワケなんです」

 正直よく分かんないけど、言ってみた。


 あれ? 16の二人分なら32ナンダモンかな?

 ほら、こんな簡単な計算も出来ないし……俺じゃないよね(泣)?


「えー?」

 かなり歌川シゲだ。

 てかもういいよ。シゲさんは。

 女官のロザリンダ嬢が、かなり「疑わしげ」だ。


「その場合は、二人で持ち上げるはずですぅ! あの時、殿下はお一人で、片手でひょいっと軽々と持ち上げられましたぁ! そんな事例はないはずですう!」

 さっきちょっと「衝突」があったからか、凄くプリっと……違くて、プリプリしてるな。

 弁明も謝罪する暇もなく、この場に来ちゃったからな。


「つまり、我々が行ったのは、不自然で常識外な行為だと?」

「そーですっ! だから、それが今問題になってるんでしょお!」

 ムキになると子供みたいだ。


「では、お訊ねしますが……。そもそもの発端に成った出来事については?」

「なによ、それえ?」

 美人なのに子供っぽい怒り方だ。これはこれで可愛い。


「つまり、今上の女王陛下の側近であられるウバーバ様が……」

「ウバーバ?」


 違った?

 ああ、「ウバーバ」は俺が勝手に付けた仮名だった。本名、なんだっけ?


「ネコバーバ様が」

 思い切って言ってみた。人間、どんな時もチャレンジ精神は必要だ。


「ネコバーバ? ネコジッタでしょ?」

 思いっきり間違えてた。人間だもの。


「あ、いえ、ネコジッタ様ですね?」

 女官のロザリンダ嬢が、強張(こわば)った表情で言い直した。

 見ると、誰かの視線を受けていたらしい。


 その先を辿ってみると――


「……(ぎろり)」

 相変わらず、目つきが怖い。

 実はそのネコジッタ婆本人も、この場に居るのだ。

 言葉遣いには、気をつけないといけないのであった。


「ならどうやって、ネコジッタ様はあの重い像を倒したんですか?」

 投げかけた疑問に、

「…………」

 ロザリンダ嬢は黙り込んだ。


 倒されたバカデカい「座って何かしてます像」を発見した直後、彼女は「犯人」としてすぐにネコジッタ婆の姿が思い浮かんでいたはずだ。「何か面白くない事があると、これに八つ当たりするお方がいらっしゃるのです」と言ってたからには、何度も同じ事が繰り返されていたハズなのに。その点を不自然だと感じなかったのかな?


 つまり、『世界の理(ことわり)(つかさ)』によって、『魔法』で持ち上げたり、動かしたり出来る物に「最大重量」が設定されているというのなら、ネコジッタ婆もそれを破ってるやんけ? という事だ。


 俺様の方は、『全知神』さまから貰った『賢者の玉』が金○袋に収まってるんだからな! 右側に! 言っちゃなんだけど、凄いんだぞ! まん丸くてコリコリしてるんだぞ!


 ……じゃなくて、プリムローズさんに言わせると、そのお陰で「管理者権限」とか「上位者権限」みたいなものが発生してるらしいそうだよ、何一つ管理なんてしちゃいないのに。逆に管理されてる気すらしてるのに。


 で、俺はともかく、ネコジッタ婆はどうなんだ?


 ん? 恐れげもなく、ピン! と挙手してる女性がいる。


「議長! わたくし存じております!」


 俺の号泣の原因になったシャー・リイさんだ。

 悲劇のヒロイン、シャー○ーとは違って、黒髪で肉感的な女性だった。

 先刻までは全裸だったはずなのに、いま現在は『★謎の光☆』で大切なところは大切に守られている。しょんぼりしょぼしょぼーん。


 てか、いま思い出したけど、俺この人と会った事があるな。

 『音の宮殿』の裏手にある「目隠しの壁」の向こう側を見た時に、王立放牧場『大馬場(おおばば)』で、馬に乗っていた女性(ひと)だな。


「発言を許す」

 オオババちゃんの議長権限ってやつか?


「先日の事ですが、ネコジッタ様は『王宮』の厨房にて、深夜に一人、お酒を召されておりまして……」

 シャー・リイ嬢が言うと、

「……ぼそっ(悲しい酒だな)」

 俺の隣に黙って控えていたプリムローズさんが、こっそり呟いた。


「かなり酔ったご様子で、ツマミにされていた一角海獣の下の一角を右手で握りしめて(かじ)りつきながら、こう(おう)せでした」


 なんか一部に不適当な発言があったような気もするけど……いいの? オットセイのアレみたいなノリ?


「『あたしゃ、300年もの間、『この世界』に転生を繰り返しとるんじゃ、しょ○べん臭い小娘どもめ』――と」


 しょん○ん臭い? 酷い愚痴だなあ。


 ついつい「傍聴席」を見てしまう。


「……(やほーい!)」

 その中の、第二侍女ポーニャ嬢が、脳天気に俺に手を振っていた。

 アホや。あんたの事や。

 あんた『おトイレ』で俺に豪快な放●(液体)音を聞かせたろ?


「「「「「……(ざわざわ)」」」」」


 そして今の発言が、今上(きんじょう)の女王陛下への不敬罪にあたるんじゃないのか? といったような声も聴こえてくる。


 今上の女王陛下は『魔法審議会』のメンバーじゃないので、ここには居ないけど。

 確かに先刻(さっき)女王陛下は豪快に失禁(……)されたけどね。

 俺のプロペラ・ダンスで笑い過ぎて……。


 でも時系列から言って、別に女王陛下の事を言ったわけではないはずなのに、まるで「それ」を愚弄(ぐろう)したみたいな感じになっちゃってる。


 何故なら、シャー・リイ嬢ったら、ネコジッタ婆にホントにそっくりな声だったのだ。


 ひょっとして『プリン○ス・プリ○シパル』のベ○トリスみたいに、声帯が機械仕掛けなのか?


 イヤ、どうも何かの『物真似魔法』らしい。

 かすかに、虹色のキラキラ星が舞ってるのが見える。


 物真似が巧いドロレスちゃんも、これを使ってたのかな?


 もう一度「傍聴席」を見る。


「……(いえいえ)」

 俺の意を察したのか、ドロレスちゃんはぶんぶんと首を振っていた。

 彼女の物真似は、『魔法』じゃなくて『芸』だったのか。そっかー。

 俺なんて「物真似」って言ったら「プラグスーツ装着音(※「スコッ」ってヤツ)」しか出来ないのに、スゴいな。ドロレスちゃん。


 てか、ホントに通じてんのかな?


 ――イヤ、問題なのはそこじゃないな。


 なんか「仕組まれてる」ような妙な流れだ。

 オオババちゃんが言ってた「例の段取り」ってコレか? 

 女王陛下の『脇侍(わきじ)』ネコジッタ婆に対する弾劾裁判的な事を目論んでたのか?


 そしたら、俺の事なんて、本当はどーでも良かったんじゃねーの?


 にしても、300年もの間「転生」を繰り返してる?


 生まれ変わり続けて300年――とか、どんな化け猫だよ。


「そして『そのあたしにとっちゃ、『世界の理(ことわり)(つかさ)』を(だま)くらかすなんざ、造作もないんじゃ、てやんでぇ、べらぼうめ』――と」


「……ぼそぼそ(江戸っ子か!)」

 俺の『脳内言語変換システム』では、そう翻訳されてるので、自分に対してこっそり突っ込んだよ。「疑わし気」が「歌川シゲ」と変換されたり、『全裸祭り』のせいか暴走気味だ。


「い、以上です」

 シャー・リイ嬢が言い終わると、会場は異様なムードに包まれた。


「「「「「……(ざわざわ)」」」」」


 にしても『世界の理(ことわり)(つかさ)』って騙せるの?

 まあ、高度な人工知能(AI)みたいな存在なら、「感情」があるかもしれないし、逆に詐術が効くかも。


 てか、ネコジッタ婆って……正体、何者?


 なんか300年前って……どっかで。


 あ、そうだ!


「プリムローズさん。プリムローズさん」

「なに?」

「前に初代女王の側近の話してましたよね。あれ、なんか長い名前でしたけど、なんて名前でしたっけ? ヘルメース・ヘーパイストス?」

「それは『ギリシャ神話』。『錬金術』の方のヘルメス・トリスメギストスよ。……あ!」

 彼女にも何か思い当たったらしい。


「それだっ! ヘルメス・トリスメギストス!!」

 俺が叫ぶと、


「はぐう」

 ネコジッタ婆から異様な呻き声が漏れた。


「あんた! あんたの正体は、初代女王の陰で陰謀の限りを尽くした悪名高い策士。ヘルペス……ロリ……スメラギ……コス……コス……歌川シゲだな!!」


「「「「「誰!?」」」」」


 みんなに突っ込まれた。

 おかしいな。最初は噛まずに言えたのに。

 ラウラ姫よりも酷い噛み方しちゃったよ。


「で、シゲさんや。岩に刺さったままの『選王剣』ってどうやって抜くの?」

 一応訊いてみた。


「知らんわ! そんな名前!!」

 ネコジッタ婆が大喝(たいかつ)した。


「そりゃそうだろうよ! ちゃんと言えなかったんだから! プリムローズさん、出番です!!」

 俺は投げた。


 俺が着席すると、ラウラ姫が騒ぎに気付いたのか、目を覚ましていた。

「む。お腹空いた」


 俺も。


「ヘルメス・トリスメギストス! 300年前から転生し続けてるというのなら、これ以上に相応(ふさわ)しい名前はありません。ネコジッタ様、貴女はヘルメスの……いえ、その魂をずっと引き継いできた『誰か』の生まれ変わりなのですか?」

 プリムローズさんは意外な事に張り切っていた。

 なんか楽しそうな気配すらある。


「……くっくくっく。じゃったらどうした? ぬしらだって、何処ぞの誰かの生まれ変わりだろうに。『この世界』……いや、この宇宙には偉大なる魂の循環があるのじゃ。なんぞ文句でもあるんかい?」


 開き直ったよ。この人。

 そんで「……くっくくっく」って誤字じゃないよ。

 そんな笑い方なのだ。そんな「キャラ」らしいのだ。


「「「「「……(ざわざわ)」」」」」


「文句などありません。ですが、今回とても大事なのは、貴女が『この世界』の『魔法』を司る『世界の理(ことわり)(つかさ)』を欺き、騙したのか? という一点のみです」

 プリムローズさんは混乱を収拾すべく問題を絞り込んだ。


「酔っておった。酔っておった。酔って思ってもない事を口にした」

 ネコジッタ婆は、胸部W型装甲を揺らしながら応えた。


 ……って、おえええええっ。


 うえーん。見ちゃったよお。かつて経験ないくらいに縮むよお(笑)。


「では、ネコジッタ様。素面(しらふ)の時に『おトイレ』の18ナンダモンもある銅像を引き倒したそうですが、どうやって?」

 プリムローズさんは追及の手を緩めなかった。


「倒すだけなら簡単じゃ。ぬしら『力学』というものを知っておるか? 知らんじゃろう? 『魔法』に頼ってばかりいるから、『この世界』の人間に……社会にも、文化にも、科学にも、発展も進歩もないんじゃ! ぬしら、もっと頭を使え! 汗を流せ! 『魔法』を使って楽して生きる事ばかり考えおって! 少しはあの尻の青い『獣耳奴隷』どもでも見習え!」


 キレた上に、なんか『この世界』の文明批判的な事を言ってる。


 アニメ『異能バ○ルは日常系のなかで』の第7話で「分かんないよ!」ってブチ切れたのは、鳩○ってネコに襲われそうな名前のヒロインだったけど、あれって物凄い長セリフだったよな。はや○ん、快心の演技だったよな。


「「「「「……(ざわざわ)」」」」」


 もう会場全体がざわついてる。


「もうわしゃ知らんわ! もう、この身体(からだ)にはがっかりじゃ、腰は痛いわ、膝は戻らんわ、肩は上がらんわ、食べ物は喉に詰まるわ、耳鳴りはひどいわ、目はかすむわ」


 その上、猫舌ですもんね?

 てか、もう普通にお年寄りの愚痴じゃないですか?


「わしゃ、もう死んで、また生まれ変わる事にする! もう、わしは()ぬる。さらばじゃ!!」

 ネコジッタ婆は最後にブチ切れてそう叫び、立ち去ろうとした。


 ――が、もう一度振り向いて、


「いや、この中の誰ぞの子として生まれ変わるやも知れぬ。その時は、このわしを健やかに育てておくれよ! その乳を飲ませておくれよ! くっくくっく……ふはは……ぐはははははは!!」

 

 そんな言葉を吐いて、笑いながら去って行った。


 なんてゆーか、最高に気持ち悪い「捨て台詞(ゼリフ)」だなあ。


      ◇


 その日から、ネコジッタ婆は行方不明となった。

 その行方を探ろうとする者は、誰もいなかった。

 彼女に「鎮魂歌レクイエム」を奉げる者も誰もいなかった。


 ……イヤ、「鎮魂歌」を「レクイエム」とか言ったら鳩○に怒られるか。


 そう言えば、鳩○の恋のライバルの中の人が、別作品(『同○人はひざ、時々、○のうえ。』)で猫に成ってたな。


 なるほどー(※独り合点)。


      ◇


「ロザリンダ様。女王陛下の『脇侍(わきじ)』ご就任おめでとうございます!」

 俺は祝福した。


「ありがとう。いろいろと急展開だったけど……ジン君のお(かげ)で、そういう事になってしまったわ」

 彼女はにっこりと、ほほ笑んだ。


「あとね。『脇侍』って呼び方。なんとなく古めかしいから『大事な秘書』という名に変えてもらったわ」

「……『大事な秘書』ですか」


 なんか不必要にエロいんスけど。

 『第一秘書』とかの間違いじゃないんでしょうか?

 それとも『全裸祭り』の影響で、やっぱり俺の『脳内言語変換システム』がイカれてしまったんでしょうか?


「失礼いたします」


 俺との話(『冶金の丘』での事や『音の宮殿』の亡霊騒ぎの説明だ)の間にも、執務室には次々と全裸の女官さんたちが報告にやって来る。ありがたや。ありがたや。


「……! ……(うぷぷ)」

 そして俺を見て、少し驚いた後、にこやか笑って会釈して『大事な秘書』に何事か報告していく。


 つい先ほど、職場放棄と不敬罪で速攻「クビ」になったネコジッタ婆の代わりに、元は『大宮殿副総監』だったというロザリンダ嬢が、若干19歳で女王陛下の側近『大事な秘書』の地位に()いたのだ。


 なんか「権力者の追い落とし」というか「軽い政変」に巻き込まれてたよ、気付いたら。


 そんで、事態のあらましを説明しに女王陛下のもとに行ったら、

「……後任は誰にしようかしら? 誰がいいかしら、プロペラ小僧さま?」

 との陛下の下問を受けた俺は、ちょうど彼女が隣に居たので、

「ああ……ロザリンダ様はどうっスか?」

 と適当に返答したら、

「まあ、名案!」

 と、それがそのまま通ってしまったのだった。


 そう、間違いなく「俺のお(かげ)」なのだ。

 なんなら、お礼にその身を奉げもらってもいいくらいだ。


 てか、あれ?

 女王陛下まで俺の事「プロペラ小僧さま」って呼んでたな。


 うん、すごい浸透してきたな。よし……じゃねーよ!


 さすがにこれ以上広まる前に何とかしないとな。


 まあ、俺がもうグルグル振り回さなきゃいいだけの話なんだけど。


      ◆


 ヘルメスさん。忘れた頃に、また出ます――まる。

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