083◇おトイレを探せ!
「これから、どうするの?」
ミーヨが俺に向かって、そう言った。
現在、序列最下位の第六侍女に扮してるのを忘れてるな?
「ミヨレッタ! その口の利き方はなんです?」
ほら、怒られた。
第二侍女ポーニャ嬢が、どことなく八つ当たり気味になってるし。
彼女もいろいろと、憤懣が溜まって来てるみたいだ。
うん、溜めるとダメだ。『暴発事故』が起きるしな。他人事じゃあない。
「ポーニャさん」
「――なによ?」
その口の利き方はなんだよ。姫がいなくなった途端に。
「アルマメロルトリアさん」
「なんでしょう? ジン様」
変わらず、丁寧だ。
「プリムローズさん」
「なに?」
いつものように、雑だ。
この3人なら、『王宮』初めてじゃないはずだし、知ってるハズだ。
「『おトイレ』どこですかね? 漏れそうなんですけど」
訊いてみた。
「「「「…………」」」」
な、なんだよ、その目は?
悪い事じゃないだろ、生理現象だよ。
◇
ラウラ姫の子供部屋だった房を出ると、『おっぱい宮殿』東側の円形建築物『夢』の二階にある、中央階段(実際はスロープだけど)広間だった。
ここを中心にして、放射状に部屋や廊下が広がっている。
俺たちは『おトイレ』を探している。
意外な事に、プリムローズさんまでその場所を知らなかった。
他の二人も、ラウラ姫がさっきの子供部屋から、宮殿の外にある湖畔の『白百合の小宮殿』に移ってから、姫付きの侍女になったらしく、『おっぱい宮殿』の細かい間取りとかは知らないそうな。
姫の子供部屋には、「おまる」を使用するためのパーテーションがあったけど、「おまる」そのものは既に撤去されていた。
しっかりとした大人用の『おトイレ』は何処?
ついでに、全裸の女官さんたちは、いま何処?
「人がいませんね? 来た時は何人かとすれ違ったのに」
やたらとシーンとしてるのだ。
いかにも不審だ、何か起きてるんだろうか?
「そりゃそうよ。女官の皆さんは第二王女殿下女児出産記念の『全裸祭り』でハダカなんだから、よほどの事がない限り、出歩かないで部屋に籠ってるわよ」
プリムローズさんが活舌よく長セリフを言った。よく噛まないな。
「それにしても、めっちゃ静かですよ」
「『しえすた』だって言ったでしょ? 皆さん、お昼寝中なのよ」
「……はあ」
元・日本人なので、ヨーロッパのどっかの風習持ち出されても、馴染みがないっス。
「あ、ちょっと待って……いえ、少しお待ちを。ジン様」
第六侍女を偽装するミーヨに呼び止められた。
「なにかね?」
小芝居したいようだから、俺も付き合ってあげようっと。
「ジン様のおち」
「ん?」
「このままでいられますと、私ども侍女にとりまして、何と言いますか、目の毒です」
おお、言いかけて途中で自主規制したのか。
新しい「連携技」かと思った。
「目の毒?」
でも俺はとぼける。
「ですので、この『魔法』を! 祈願。★謎の光っ☆」
ミーヨが俺の手をとり、『合体魔法』を発動させた。
キラキラキラキラキラン☆
こ、これはっ!
『巫女選挙』の水着審査のために『脱毛エステ』を行った時に、黒髪の美少女で『巫女見習い』で『俺の聖女』のシンシア・ダ・イナダさん(久しく登場してないので説明的だなあ)のトップ・シークレット・ゾーンを覆い隠した「謎の白い光」が差し込む魔法じゃないかっ!
そ、それをこの俺様の俺様にかっ?
いつものようにキラキラ星が舞い飛ぶ……でも何匹(?)かミーヨの方にも行ったぞ?
「「「「……!」」」」
なんだ、このみんなの不自然な反応は?
「見えてないんですよね?」
てか俺にはちゃんと見えてる。
これって本人には見えるんだな。まあ、でないと『おトイレ』とか不便だろうし。
「「「「……え、ええ」」」」
ははあ、さてはいざやってみたら、俺様の俺様が見えなくなって、物凄くがっかりしてるんだな?
もう! みんな、お好きなんだから!
「えー、こほん」
プリムローズさんが、わざとらしく咳払いした。
「ここに並んでる『房』はどれも姫の部屋と、造りそのものは変わらないはずだから、それぞれの『房』には『おトイレ』があるはずだけど……。誰でも使える共用の『おトイレ』というと……きっと、ここを探しても無駄ね。『隣』に行きましょう」
「隣?」
「『希望』よ」
『おっぱい宮殿』西側の円形建築物か。
確かに、そこには『おトイレ』がありそうだ。
(♪君の~)
プリムローズさんが、小声で何か歌ってる。日本語だ。俺もどっかで聞いた事がある気がするな。
実は彼女、『夢』の中に入る時にも、なにか日本語で歌ってたっけ。
でも○○坂のは『○の○は○望』のはずだしな。
歌詞もメロも違うし……はて?
ここが異世界じゃなきゃ「歌詞検索」かけたい。
「♪ふふふーん。ふんふふふ~」
さっそくミーヨが、耳で覚えて鼻唄を歌ってる。
流石に日本語の歌詞までは覚えられないらしい。
日本語だとJAS○AC的にNGだからGJだ。
そんな事はともかく、フロントホックブラのホック……イヤ、双つ並んだ「おっぱいドーム」の間を繋ぐ通路を通って、俺たちは『希望』に入った。
二階部分は両方とも似たような構造だ。
こっちも、静かだった。
『全裸祭り』と『しえすた』が重ねってるせいで、まったく人がいない。
面白くない。
ぜんぜんラッキースケベとか、ないじゃないですか?
なんなんですか?
「それにしても、不用心ですね」
『王宮』なのに、セキュリティー甘くね?
勝手に別棟に入って来てるのに、誰にも咎められないし。
「きちんと防犯用の『魔法』が掛かってるから平気よ。『監視』とか(ニヤリ)。『感知』とか『通報』とかその他色々組み合わせで」
プリムローズさんが、なぜかニヤリと笑いながら説明してくれた。なんで笑ったんだろ?
「ただし、効果は二打点(約3時間)しか続かないから、そのたびにかけ直さないといけないけどね」
「その『魔法』が二打点で消えちゃうのって何故なんスか? 何か理由があるんスか?」
不意に気になったので、訊いてみる。
先刻、俺様の俺様がぶらんぶらんしてるのが、みんなの精神衛生上よろしくないという事で、ミーヨのお笑い魔法『★謎の光☆』によって、俺様の俺様は白い光に包まれているらしいけど、これもあと3時間で消えちゃうのか?
てか早く消えろ。
「『守護の星』はみんなのものだからよ。独占は許されない。だから時間的な制約があって、自動的にどんな『魔法』も解除されてしまう。それが『この世界』の『魔法』の決まりね」
そうかな?
なんか、エネルギーというか「バッテリー切れ」的な要素もあるような気がするけど……。
それに、空が夕焼け色に包まれると、発生する『夕焼け空の魔法停止現象』なんてものもあるし……まだまだ色々と謎だ。
「ただ、例外的に『七人の巫女』は、その有効時間を2倍以上に出来ると言われているわ。専用の『装具』があるらしいのよ」
「……へー、そーなんスか」
『魔法』の効果を倍化するアクセサリーとか……ゲームみたい。
でもって、それって『神授の真珠』の事じゃないの? じゃないか。
『巫女見習い』よりも上位職『巫女』だけの専用アイテムっていったら『神授の真珠(極太)』ってヤツだろうな。何がどう「極太」なのかは詳細不明だけど。
あ、でも確か。
「『手紙』の密封とかは、どうなってるんスか?」
次郎氏に渡したロザリンダ嬢からの手紙には、『魔法』で密封が施されてたけど……あれも一定時間が経過すると「クパァ」と開く(笑)のか?
「……そう言えば、そうね。君、面白いね。色々と『魔法』の盲点をついてくる。……ふむ。実はあの『★密封☆』っていろいろな事に応用されてるのよ。食品の保存『らっぴんぐ』みたいな事や、配管の漏れ防止とか、『魔法式空気銃』の薬莢とか……」
プリムローズさんが、すごく興味深そうな話の途中に――急にハッとして、
「それにしても、君、落ち着いてるね? 漏れそうじゃなかったの?」
言ったのは、『魔法』とは関係ない事だった。
「ええ。いざとなったら、思いっきり漏らせばいいんだ、と教わりましたから、女王陛下から」
もう怖くなんか、ないんダモン(『この世界』での重さの単位。約1g)。
この国のいちばん偉い人が、そうしてたんダモンネ(『この世界』での重さの単位。約11g)。
だから、ちょっとくらい漏れても平気ナンダモン(『この世界』での重さの単位。ダモンネの千倍)。
というわけで、俺が出そうなのは固形物なのだ。
早く『固体錬成』したいのだ!
あれ?
「「「「……(じーっ)」」」」
何、その冷たい目。
「いや、絶対にやめてよね?」
「……ハイ」
言ってみただけですってば。
廊下を歩いて『希望』の中心部に着いた。
真ん中の穴は、一階に下りるための螺旋スロープだろう……そう言えば、真ん中に穴があって、そこから放射状に部屋や廊下があるのか……まるで*みたいだな。
イヤ、記号としてのだよ? あっちじゃないよ?
探索のために、ミーヨとポーニャ嬢とアルマメロルトリア嬢が散開する。ここは二階だけど。
「ところで『夢』は『謁見の間』でしたけど、こっちのドームはどうなってるんスか?」
プリムローズさんになら『ドーム』と言っても、通じるハズだ。
「大食堂兼舞踏会場ね」
さくっと答えてくれた。
「大食堂と舞踏会場? 組み合わせがヘンな気がするんスけど……兼ねてるんスか?」
「兼ねてるのよー」
「兼ねてるのかー」
なんなんだ、我々は?
「ありませんでした。どうしましょう。な、なかなか見つかりませんね」
第二侍女ポーニャ嬢が戻って来るなり、焦れたように言った。もじもじしてる。
なんか、この人も『おトイレ』行きたそうな感じになってるけど……大丈夫?
「やっぱり、無いみたい。下じゃないのかな?」
偽装第六侍女ミヨレッタ嬢も空しく戻って来た。
「この階は、みな王族方のお住まいのようです」
第五侍女アルマメロルトリア嬢も……ダメか。
先刻、俺と立ち話してたラウラ姫の「叔母さん」たちが暮らしてるとこらしい。
じゃあ、どこにあんだ? トイレ。
てか俺、宮殿って言うと毎回トイレ探してばっかりな気がするな。
「どうしましょう? 今日は『恩赦』があるようですし……いっそここで」
「こらっ! ダメに決まってるでしょ!!」
冗談で言ったのに、子供みたいに叱られましたよ。
◇
そこへ――
「ぬ? おお、プロペラ小僧ではないか!」
全裸の第一王女殿下が、侍女軍団を引き連れてスロープを登って来た。
でっぷりと肥っていらっしゃるので、やっぱり失礼ながら妊婦さんに見える。
そして第一王女殿下の「侍女軍団のシンボルカラー」は緑色だった。
緑色の光沢のある黒い侍女服だ。
『三人の王女』は上から、緑・黄・赤をシンボルカラーにしているらしい……って信号やん!
「……ぼそぼそ(うわっ、◎首、■っ! 『◎首が■くなる呪い』怖っ!)」
失礼な呟きが聞こえた。
こっちの第二侍女のポーニャ嬢だろう。
止めて欲しい。つい、噴き出しそうになる(笑)。
「まったく、先刻は笑わせて貰ったぞ!」
第一王女殿下が、上機嫌に笑いながら言った。
ポーニャ嬢のリスキーな呟きは聞こえてないようだ。セ――フ!
「なかなかに見事で、なかなかに立派であったぞ(ニヤニヤ)」
この女性、女王の座を競うライバルの妹君の女児出産を、わざわざ全裸でお祝いしてるので、『謁見の間』では憂さ晴らしみたいに俺に突っかかって来たけど……今はわりと愉快そうだった。
ま、人を小馬鹿にするような口調はそのままだけど。
「ほれ、見るがいい。こやつがプロペラ小僧だ」
後ろに控える侍女軍団に、俺を見るように促した。
「「「「きゃっ! いや――――っ!」」」」
侍女の皆さんから悲鳴が上がった。
なんだ? どうした。
「「「「全裸の男の人が――――っ!」」」」
え? 誰の事だ?
俺様の俺様は、ミーヨの『★謎の光☆』で白い光線が差し込んでて、見えないはずだし。
「あー……ゴメンね。実はさっきの『魔法』って女の子専用みたいで、男の子のおち……ジンくんには発動しなかったの……」
第六侍女に扮するミーヨが、申し訳なさそうに言った。
「……ウソだろ? 見えてないって言ってたじゃん。まさか……ずっと、見えてたのか?」
「「「「ずっと、見えてました」」」」
ラウラ姫付きの侍女軍団。筆頭侍女と第六侍女と第二侍女と第五侍女が秘密を告白した。
どうやら、俺はみんなに騙されて「裸の王様」状態だったらしいです。
――でも、平気!
俺、羞恥心は『地球』に置いて来て、『この世界』に転生してるから。むしろご褒美ってヤツですわ。
えいっ、輪廻の輪っ(ぐりん)!
輪廻転生を表す意味で、俺は俺様の俺様を軽く一周させたった。
「「「「いや――――ん! プロペラ――――っ!」」」」
「おおおっっ!」
それを見た第一王女殿下側の侍女軍団が、一段と騒がしかった。
ちなみにウチの侍女軍団からは見えない角度だ。
こんなのプリムローズさんに見られたら、ナニ言われるか分からないからな。
俺は第一王女殿下に近寄り、
「ご機嫌麗しゅう御座います、殿下。ところで我々は『おトイレ』を探しているのですが、どこかご存知ありませんか?」
訊いてみた。
「ぬ? ……知ってはいるが、そんな事を訊かれたのは生まれて初めてだぞ」
第一王女殿下は新鮮な驚きを感じているらしい。
別に怒ってはいなかった。
どうでもいいけど、ラウラ姫とドロレスちゃんは大食いのワリに、太らない体質のようだけど、上の二人はなんでこんなに肥ってるんだろ? 母親は同じ女王陛下なのに……イヤ、第二王女殿下の方は「妊婦さん」だっけ。
それにしても、この人――第一王女殿下は、お胸も大きいけど、同じくらい◎輪も大きい。
しかも『◎首が■くなる呪い』で凄い色してるし……なんか乳児の乳離れのために、わざとイタズラ描きした「お化け◎首」みたいだ(笑)。
イヤ、見ちゃダメだと思ってても、すぐ目の前にあるし……。
「それはよう御座いました。で、どこですか?」
「下にある。下りてすぐじゃ。あの像があるし、行けば判る」
第一王女殿下は、俺の勢いに釣られたように教えてくれた。
「お教えいただき、恐悦至極に存じます。では、我々はこれにて失礼いたします。それでは、殿下。ご機嫌よう!」
「……ご機嫌よう」
わりと押しに弱い人だった。
「では」
俺は礼をすると、その場でラウラ姫みたいにくるっとターンした。
「「「「「あ、いいお尻」」」」」
俺の後ろ姿は、皆さんに好評だった(笑)。
◇
俺たちは螺旋スロープを下って、『希望』の一階部分に下りた。
「あっ、あり、ま、た、おれてる」
ミーヨの声が間抜けに響く。
確かに『おトイレ』を表す目印の「座って何かしてます像|(※『考える人』に激似だ)」が……前のめりに倒れて『イグ○ーベル賞』みたいになっていた。
一体何事だ?
『王宮』の『おトイレ』だけに、ほぼ人間大の、バカデカい銅像なのに……誰が倒したんだ?
誰か事情を知ってそうな人はいないだろうか?
「あら、またですか?」
ちょうど、若くて美しい全裸の女官さんが居たので、『光眼』の「カメラ機能」を起……なんだ? 目が、目が見えないっ。
「ジンくんはだーめ!」
ミーヨ先生に、後ろから抱きつかれて目隠しされました。
そりゃナイス(※感触的に)……イヤ、そりゃないっスよ(※視覚的に)。
「あらあら、殿方が……」
女官さんはそう言ったきり、沈黙した。
どうしたの? ナニも見えないよ? 何が起きてるの?
「どうされました? 副総監」
インタビュアーはプリムローズさんだ。
「ああ、プリマ・ハンナ! 見て!! ここを!」
この声の主が「副総監」なのか?
プリムローズさんとお知り合いか。
「「「「……そこですか!?」」」」
そこってどこ? なんかみんなに突っ込まれてるよ?
「ま、間違えました。こちらです!」
ナニをどう間違えたんだろう?
「倒れてますね。一体何事が? いや、一体誰が?」
あの像の事だろうけど。
「大きな声では言えませんが……何か面白くない事があると、これに八つ当たりするお方がいらっしゃるのです」
「……はあ」
ひょっとして第一王女殿下か? 違う気もするけど。
「女王陛下の脇侍。ネコジッタ様です」
あのウバーバ。そんな名前だったのか?
俺のいい加減な命名、方向性が違ってたんだな。
てか、あの?せたお年寄りが、この重そうな銅像を蹴り倒したのか?
「わたくし、あの方を探してきます。直接はっきりと言わないと気が済みません」
その声の後で、ひたひたと遠ざかっていく裸足の足音がした。
女官さんは居なくなったらしい。
なんか、かなり強気な事言ってたけど、女王陛下の側近相手に大丈夫なのか?
「はい。もう、いいよ」
目隠ししてたミーヨが手を放してくれた。
やっと光が戻る。
てか眩しい。どうにか見えないかと思って、『光眼』の受光感度を最大レベルまで上げちゃったのだ。右目が潰れそうに眩しい。我ながらアホや。
「とりあえず『おトイレ』でイかせ……イヤ、『おトイレ』に行かせてください!」
俺は懇願した。
「わかった、わかった。早く行ってきなよ」
筆頭侍女からお許しをいただく……って俺はラウラ姫の筆頭侍女の許可なしには、トイレに行けないのか? そう言う権限すら無いのか? 管理されてるのか?
「ミー……ヨレッタちゃん、アレくれ」
「うん、これだね?」
違うけど、突っ込んでる余裕もない。
俺はミーヨが持つ手提げ鞄を受け取り、『おトイレ』に足を踏み入れた。
鞄の中身は、基本的にはラウラ姫の「お泊りセット」だけど、「消臭剤」と称して『炭素』の塊『炭』も入れてあるのだ。
「わ、私も行きます」
第二侍女ポーニャ嬢が言うと、
「あ、わたしも見たーい」
「では、私も」
「じゃあ、もうみんなで入るか」
雪崩式に利用者が増加した。って全員かよ。
みんなして、めっちゃ豪華な『王宮』のトイレに入る。
といっても『この世界』ではお馴染みの、全室完全個室の代わりに男女共用というヤツだ。問題はないのだった。
どういう仕組みか知らないけれど、使用中の『個室』には「赤い花」の模様が浮かび上がってるみたいだ。
『プロペラ星』と同じくらいに『この世界』の夜空で目立つ「赤いガス状星雲」があるけど、そのイメージかもしれない。
「へー、洒落てるね」
プリムローズさんが言った。
「つまり、この花が浮かんでないところが『空室』なわけね」
ミーヨがわざわざ確認する。
「うん、ここだな」
俺は空いてる手近なところに入った。
◇
「うわー、中も無駄に豪華!」
個室に入ってから俺が言うと、
「何言ってるの? こういう場所にこそ、文化の香りというものが必要なのでしょう?」
隣の個室から第二侍女ポーニャ嬢の声がした。なぜ俺の隣に入った? 空いてたろ、他にも。
……って、なんか隣の個室の声が、異様にはっきり聞こえたぞ。
しゅるっ、しゅるるっ――
スカートをたくし上げるような、衣擦れの音も聞こえる。
豪華な割に遮音性ゼロかよ……。
俺の聴力が無駄にいいからかな?
よし、集中して耳を研ぎ澄ますんだ! じゃねーよ。
邪念は捨てよう。
俺は、あるものを脳内でイメージする。
女王陛下に因んだ、煌めく黄金色のダイヤモンドを錬成するのだ。
俺様の●(固体)を元に!
色付きのカラー・ダイヤモンド。
出来れば、無色透明から黄金色に、グラデーションがあるといいな。
そんな風に、イメージを追加する。
よし、だいたいのイメージは固まった。
(固体錬成。黄金色のダイヤモンド)
ダイヤモンドの「色違い」って結晶構造の一部が、炭素以外の別の元素に置き換わってるという分子配列レベルの話だけれども……一体どうやって? と考えても無駄だから、そういう「仕様」なんだ、と自分自身を納得させよう……。
てか、その着色するための元素……何が混ざると何色になる……とかまでは詳しく憶えてないな。ホウ素とか窒素とかのはず。
でも、ごく微量のはずだし、俺の体内にあるような元素なら「それ」を使ってるかもだ。
ただ、黄色い洋梨みたいなダイヤが、オークションで高く売れたとかいう話を、『前世』で見た記憶がある。
その間にも、隣の個室の女性は、俺の事をまったく気にしないで用を足しているようだった。
文化の違いというか、『この世界』の女性はわりとそうなのであった。
それにしても、すさまじく激しい水音だ。まるで遠慮がない。
そして長い。
その奇妙な冒険は、何世代にも渡って続くのだろうか?
…………。
……。
って長ーよ!
いつまで続くんだよ!
気になって、気になって仕方が無いよ!
早よ止めや 厠飛び散る 水の音
バシャ……芭蕉風に一句詠んじゃったよ!
どんだけ大容量なんだよ! そして水じゃねーよ! ●(液体)だよ!
あ、でもやっと終わったらしい(※聴覚的情報)。
ん? こっちも出来たかな?
チン!
ぽちゃん!
なんだ? 変な風にコラボしたぞ。
もっとも「チン!」は俺の脳内効果音だけど。
「あううう、また鍵が落っこちたああああああああ!」
第二侍女ポーニャ嬢が喚いてる。
今度は『おトイレ』で「あの黒い鍵」を落っことしたらしい。
何やってんだか……。アホな女性だ。
ま、とりあえず放置だ。
早く、出来上がったのを取り出したいし。
よしっ、いくぜっっっ! 脱●(固体)っっっ!!
ぽちゃん!
「はううう、下に詰め物しとくの忘れてたあああああああ!」
俺も負けずにアホだった。
せっかくのダイヤが、魔法合金『ミスロリ』(※実はステンレス)で出来た漏斗形●器の穴から、下の下水溝に落ちちゃったよ……。
◆
まだつづく「おトイレ回」――まる。




