082◇子供部屋にて
にしても、これからどうなるんだろう?
聞いてた話では、「謁見」の後は「お茶会」の予定だったのに。
なにしろ『王宮』の「お茶会」だから、普段飲んでる『赤茶』の最高級品『黄金茶』が出ると期待してたのに。
でも「似て非なる液体」は見ちゃったけどね。
女王陛下の……。
◇
「ところで次郎氏は? 居ないようだけど」
俺が訊くと、
「持病の癪だそうです」
第五侍女アルマメロルトリア嬢がさらりと言った。
「持病の癪?」
ナニソレ? 時代劇か?
あるいは保健室行くための仮病か? フツーに「風邪」でいいやん。
『ガル○ン』の○か? イヤ、これじゃまるで誰か分かんないな、五○鈴華か?
「本日宿泊予定の『白百合の小宮殿』の方に向かわれました」
保健室じゃないのか? って、そりゃそうか。
でも花だ。白百合って……あっちの百合のコト? 違うだろうけれども。
「しかも、案内役が若い全裸の女官さんでね」
第六侍女ミヨレッタ嬢が余計な情報を入れてくる。
そんな話を聞いて、俺がうらやましいと思うとでも思ったのか? 思ったぞ! いいなー。
にしても夏だからいいけど、ガチで全裸なんだもんなー。
「そう言えば『王都』って冬はどんな感じなんスか? 寒いんスか? 雪とかは?」
気になって訊いてみた。
冬の寒い時に使うような『魔法』ってあんのかな?
てか俺には無敵のバリアー『★不可侵の被膜☆』があるから、冬でも全裸でイケるかも?
「ずいぶん唐突だね。まあ、この辺りは夏は暑いし、冬は寒いよ。盆地でもないのにね」
プリムローズさんが言って、肩をすくめるような仕草だ。
「盆地」ってどこだろ? 俺たちがいたという「ボコ村」かな?
それとも『前世』で、どこかの「盆地」にいたのかな? プリムローズさんの「中の人」って関西の人っぽいし。
「陽は射さなくて、真っ暗になるし、風も強くてね。ああ……思い出したら、夏でも涼しくなるよ」
ホントに寒そうにしてる。
「「……(ぶるぶるっ)」」
つられて第二侍女ポーニャ嬢と第五侍女アルマメロルトリア嬢も、肩を震わせてる。
想像とか記憶だけで、そんなになるほど寒いのか?
そんなんなら、冬の前に、どっか暖かいところに移動したいな。
「君になら分かると思うけど『アリとキリギリス』の『アリ』みたいに暮らしてるのよ」
「……へー、そーなんスか」
夏の間にせっせと働いて、冬になったら家の中で……って暮らし? それもヤだな。
でも俺とミーヨも12年前の『王都大火』までは、『王都』にいたハズだから「生まれ故郷」ってコトになるんだよな。
まったく記憶ないけど……イヤ、あの豪華な「子供部屋」と「三人の女性」と「六つのおっぱい」の記憶はあるのか?
あの場所って何処だったんだろう?
『大火』で焼失してしまってるのかもしれないけれども……。
そう言えば、先日『先々代の女王陛下』から聞いたのは、こんな話だった。
◆◇◆
「『とても寒い冬の厄災多き一年』の『王都大火』の原因……じゃと?」
『この世界』では、「西暦○○年」とかじゃなくて、毎年毎年一年ずつに「その年の名前」がついている。『大火』があった12年前はそういう名前なのだ。
「つまらぬ事を訊ねる。火事の原因は火であろう」
イヤ、俺の『前世の記憶』の中にある雑学的知識では、色々ある。
水の入ったペットボトルとかがレンズの働きをした「収斂火災」とか、静電気による可燃性ガスへの引火とか、濡れたコンセントからのスパークとか……。
そんなんじゃなしに訊きたいのは――
「それはもう、偏に寒さであろうよ。ひとは寒ければ、暖を求め、火を熾すであろう?」
と言われてもな。
『★点火☆』という『魔法』があるけれど、15歳以下は発動出来ないR15指定だ。
きっと『大火』絡みで、それ以後にそうなったと思われるし……当時、子供だった「誰か」の仕業なのか? そんな疑念が湧く。
それに関連して、『女王国』に「未成年者保護」みたいな概念があるのかどうか……どうなんだろう?
で、その真犯人的な人物そのものは、特定出来てないのか?
「つまり、誰が? という問いには、答えてもらえない、と?」
訊くと、
「……(ぐごーぐごー)」
寝ちゃうのだ。例の「御病気」で。
……やれやれ。
◇
「ジン!」
ラウラ姫が全裸で現れた。
イヤ、別におかしい事はないよ? 前回の続きだよ? 俺も全裸だよ。
そして一同の顔ぶれを見回すと、
「うむ、ちょうど良い。ついて参れ」
そう言い残すと、颯とターンした。
癖のある長い金髪が、遠心力でくるんと回る。
俺は姫のお尻を愛でながら……イヤ、目で追いながら――てか同じ事か――とにかく後を追った。
脳内では、なぜかパシャパシャと音がしている。何の音だろう?
「どちらへ?」
代表して筆頭侍女が質問すると、
「うむ。陛下と面談の約束を取り付けて来た。その場所に向かう」
ラウラ姫が快活に言う。
「「「「……」」」」
俺以外の子たちに、ピリッとした軽い電流のようなものが流れた気がした。
緊張してるんだろう。
別に緊張なんかしなくてもいいのに。
◇
「うむ、ここだ」
非公式の面談を約して帰って来たラウラ姫が、俺たちを女王陛下のところへ案内してくれるそうだけど……変なところに入り込んだ。
現在封鎖中の『謁見の間』から続く大廊下に飾ってある、人間くらいの大きさのバカデカい陶磁器の花瓶の陰だ。
「……ここって?」
「うむ。『秘密の抜け穴』のひとつだ」
「……」
いいんか? そんなとこ通って。
そこには隠し扉があった。
「扉」というか……正確には「引き戸」だ。
『この世界』では、あんまり見かけない。かなり珍しいので、これなら知らない人を欺けるかもしれない。
中は薄暗かった。
「「「「…………」」」」
他のみんなは緊張気味で無言だけど、プリムローズさんは落ち着いてる。
この様子だと、何回か通った事があるらしいな。
「励光っ。……あれ?」
第六侍女ミヨレッタ嬢ことミーヨの声だ。
『★励光☆』の『魔法』使えるようになったのか? と思ったけど……明るくならない。
「む? ここには『水灯』はない。気をつけよ。下に下がるぞ」
薄暗いのに、ラウラ姫は慣れてるのか、すいすい進む。
「隠し通路」だけあって、すごく狭い空間に階段を詰め込んである。傾斜が急だ。
「階段、キツイから足元に気をつけて」
他のみんなに声をかけて、姫を追う。
俺には『光眼』の「暗視機能」があるので、暗さは気にならない。
後に続くみんなは、恐る恐る手探り状態だ。
カツン、コツン、と一歩ずつの、怯えてるような足音が後ろからする。
プリムローズさんが最後に残って「引き戸」をきちんと閉めてきたようだった。
「戸締り良し」
という呟きが聞こえた。
そして、
「あ、気付かなくてゴメンよ。★光球っ☆」
パキン! 指が鳴る音がして、明るくなる。
しかしタイミングが遅い。背中から照らされても前方が暗くなるだけなのだった……。
マメなのか雑なのか、ホントに良く判らない女性だ。
ラウラ姫が突き当りの「引き戸」を開けると、なんかとってもメルヒェンな部屋に出た。
『おっぱい宮殿』の二階部分だから、あの花びらかミカンの房みたいな放射状の区画のうちのひとつだろう。
外が見える窓もある。
「む。そのままにしてあるのか。なんとも面映ゆい」
ラウラ姫が、くすぐったそうな表情だ。
俺たちの知らない「昔の自分」と対面したような気分なのかもしれない。
そこは子供部屋だった。
子供の玩具みたいなものがいっぱい置いてある。
積み木とか木馬とかぬいぐるみ。人形にドールハウス。
壁には、南国っぽい植物が描かれてる。床には、赤い金魚みたいな魚の絵がたくさん泳いでた。
振り向くと、衣装棚の奥に仕込まれた「引き戸」から、みんなが出て来た。
「ここは?」
「うむ、私の子供部屋だった部屋だ。12歳まで居た」
ラウラ姫が言った。
なんでも「王族」は必ず4歳までは、この『大宮殿(おっぱい宮殿のコトだ)』で育てられる慣わしになっているらしい。
『四の姫』のラウラ姫の場合、そこでどこかしらに「養女」に出されるはずのところを、『大火』で上の姫が一人亡くなったために、次代の女王候補『三人の王女』に繰り上がって、そのまま『王都』に留まっていたらしい。
とするとドロレスちゃんも4歳まではこの宮殿にいたのかな?
確認のために、上を見上げてみた。
(知らない天井だ)
お約束の、シ○ジ君のセリフを呟いてみた。
てか「目覚め」じゃないから、ミスマッチだな。
俺のかすかな記憶の中に有る「豪華な子供部屋」の天井とはまるで違ってた。
そこには「青い空」と「白い雲」が描かれていたのだ。
綿菓子みたいな白い雲とぬけるような青空だ。
「この絵は? ……失礼ながら殿下が描かれたのですか?」
プリムローズさんが訊ねる。
上手いけど、仕上がりが雑な、素人っぽさがあるのだ。
「む? いや、いちばん上の兄だ。絵の好きなお人で、私のところに遊びに来た時に描いて行った」
ラウラ姫が言うと、
「……ああ」
ドロレスちゃんが呟いた。思い当たる人がいるようだ。
てか、俺も思い出した。たしか今は、平民に成って「絵描き」やってるって話だったな。
そこへ、女王陛下が、この部屋のちゃんとした「扉」を開けて入って来た。
玉座の隣に居たお婆ちゃんも一緒だった。
でもって、二人とも全裸のままだった。
まあ、俺とラウラ姫もそうなんだけど……前回の続きだし。
「「「……」」」
とりあえず、無言のままみんなで「最上位者への礼」をする。
「よい、みな楽にせよ」
気軽に言われた。
女王陛下は全裸なのに、その点はまったく気にしていないようだった。慣れてるのか無頓着なのか……。
唐突だけど、ラウラ姫の真名は、ライラウラ・ド・ラ・エルドラドだ。
察するに女王陛下の真名も多分、ブラリンダ・ド・ラ・エルドラドだろう。どこかに「2世」が入るのかもしれないけど。
全裸で直立されているところを拝見すると、お二人とも家名の通りに壮観な『黄金郷』だった。
…………。
……。
ちょっと反省。
あと、いま現在の状況とはまったく関係ないけど、オリ○ィア(『あそび○そばせ』)とか日○小春(『ハイ○コアガール』)とかペル○ア(『寄宿学校のジュリ○ット』ちなみに、これ名前じゃないよ)とか……「髪の毛」だけじゃなく「ま○毛」まで金髪のアニメ・キャラって増えて来たよな。
あ、いけね。「ま○毛」じゃなくて「まつ毛」だ。
…………。
……。
今度こそ反省。
それはそれとして、
「……(羞恥)」
陛下の隣にいる元・乳母のお婆ちゃんは、年甲斐もなく無駄に恥ずかしそうだ。
とりあえず、名前が判らないので、仮に「ウバーバ(命名・俺)」と呼ぶ事にする。
なんとなく、『○と○○の○隠○(※隠し過ぎ)』に出てくる「○バーバ」みたいで、妖怪じみたお人なのだ。顔と体の比率は常人の範囲内だけど。
「それで、『七の姫』は?」
ああ、ドロレスちゃんに会いに来たワケか。
「はい」
ドロレスちゃんが決意を込めて、一歩踏み出す。
「うむ。脱ぐがいい」
ラウラ姫が促すと、ドロレスちゃんは服……はそのまま(ちぇっ)で、茶髪のカツラを脱いだ。
無言で頭を振ると、わしゃわしゃした癖のある金髪が腰まで落ちてくる。
「祈願。★洗顔っ☆」
そして『魔法』でメイクのソバカスを取り去ると――
身分を証立てる物が何もなくても、見ればすぐに解る。
本当にそっくりな二人がそこに居た。
イヤ、はっきり大きさが違うから見分けられるけどね。
「「……」」
今この時まで事情を知らなかった第二侍女ポーニャ嬢と、第五侍女アルマメロルトリア嬢が息をのんだ。
その後ろで、第六侍女に扮しているミーヨは、女王陛下から退き気味だ。
「お初にお目に……」
「初めてな事があるものか。お前は私が産んだのだ。12年前に」
「……はい」
ドロレスちゃんは、感極まったような横顔で肩を震わせている。泣くのを我慢してるのかも?
「とても寒い冬の日だった。『王宮』の皆が今日と同じように裸になっての。何人か風邪を引きよったのを憶えておる」
女王陛下は遠い昔を思い出したのか、かすかに笑ったようだった。
「二人とも近う」
女王陛下は、ラウラ姫とドロレスちゃんの姉妹を豊満な体で抱きしめた。
「二人とも、あの人に良く似てる。我が真の『愛し人』に」
二人の父親の事だろうけど……その人どうしてるんだろ?
第二侍女ポーニャ嬢の話だと「何かしでかした」らしいけど……?
「……」
第二侍女ポーニャ嬢を見ると、やはり不貞腐れたような顔だ。
彼女の父親も、一時時期女王陛下の『愛し人』だったらしいけど……どうも、子供が出来た後にすぐに「別れた」らしい。
女王陛下が産んだ子は二男七女――そのうち、父親が同じなのは、ラウラ姫とドロレスちゃんだけ……イヤ、王子様たちもそうだったって話だ。
成功不可能で詐術的な『選王剣・抜刀の儀』に失敗して「廃嫡」されてるらしいけど。
それはそれとして、つまりは他の5人の王女様たちは父親が別々って事だ。
と言っても、淫蕩な感じはぜんぜんしない。
むしろ、自分の意志が薄弱で、他人に薦められるままに、いろいろな男性と関係を持ったのかも。
そう思えた。
「……ずずっ……」
ふと見ると、ウバーバが潤んだような目で鼻をすすってる。風邪?
まさか女王陛下とドロレスちゃんの、久々の親子対面に感動して泣いてんの?
そんなワケないか。
……イヤ。
「……ぼそぼそ(わしも母に会いたいのう)」
そんな呟きが聞こえて来たよ。
すんごいお婆ちゃんなのにな。そんな年齢でも、そんな事思うもんなのかな?
「さ、陛下。急ぎませんと」
でも、感動の場面なのに、なんか急かしてる。
「うむ。それで、話とは?」
「はい。実は『冶金の丘』にて……」
プリムローズさんが語り出す。
◇
「……以上のような次第です」
プリムローズさんが話し終えた瞬間、
「みな赦す」
「なんと!」
間髪入れずに放った女王陛下の一言に、ウバーバが仰天した。
てかウバーバに介入されたくなかったんだろう。早口でズバッと言った。
「『恩赦』で御座いますか?」
プリムローズさんが訊ねる。
「うむ」
女王陛下は頷いた。ラウラ姫みたいに快活ではなかったけれども。
おんしゃ……どこの方言? あるいは御社と弊社はどんな関係?
じゃなくて、「超法規的に、全部の罪が無罪になる」的なヤツだろうな。
「……」
ラウラ姫がほっとしたように、妹のドロレスちゃんを見上げた。
姫、この部屋に住んでた時からどれくらい成長してるんだろ? 何なの?(『なの』は『この世界』の長さの単位だ)
「……」
一方のドロレスちゃんも、今日ここに来るまでずっと手にしていた『鞄』を手放して、肩の荷が下りた感じだ。
『鞄』の中身は『冶金の丘』にあった『王家の秘宝』の「残り物」の『宝石』だ。
プリムローズさんの説明中に、女王陛下に差し出したのだ。
「我が父がそそのかした事とは言え、ドロレスはまだ12歳の子供。さらに元々は父の不徳らしいではないか。この子に罪は無い」
俺様が『錬成』した『黄金ウ○コ』を丸齧りにした、あのク○爺さん、女王陛下の父親だもんな。
娘さんは娘さんで、『黄金の水』で人造湖を造っちゃったし、さすが親娘。
お孫さんたちにヘンな血が流れてなきゃいいけど……。
「……」
ドロレスちゃんが微妙に不満そうだけど……ひょっとして自分の事よりも、あのお爺さんの事を悪く言われるのが嫌なのかもしれない。
「さらに言えば、今日は我が子が女子を産んだ目出度き日。みなみな赦す」
女王陛下が言うと、
「……御意」
ウバーバが仕方なさそうに頭を下げた。
それにしても、さすが女王様の専制国家。
鶴の一声で「罪」が消えちゃうのか……。
21世紀の『地球』から転生した俺にとっては、信じられないくらい前時代的な感じだ。
それにしても、その『恩赦』には、次郎氏の逃亡や、俺の度重なるファンタジーな行為(※あいまいな表現)も含まれてるんだろうか? そうだな。うん、きっとそうだ(※要出典)。
「しかし、この者(プリムローズさんを指差した)だけは……。『王宮』の機密を盗んだとしか考えられませぬ」
ウバーバの上目遣いの三白眼がちょっと怖い。
「なんの事でしょう?」
筆頭侍女がしれっとしてる。よく怖くないな。
プリムローズさんが『宝探し』の時に俺たちに見せた詩編は、なんかやらしー『秘書庫』にあるオリジナルを、そのまま『魔法』で「画像」として別な紙に転写したモノらしい。
まるで『全知神』や『全能神』が地球から色々な物をコピーしてペーストした話みたいだけど、オリジナルはそのまま手付かずで、物理的な窃盗は行っていないそうな。
どっかのスパイみたいではあるけれども。
「『王家の秘宝』の事でしたら、もう既に下々のあいだにまで広まっていますよ? 『扉の守り人』だって代を重ねて子孫が各地に散らばってるようですし」
俺は言ってみた。
建国から400年で、そのへんもうゆるゆるらしいよ?
現に第五侍女のアルマメロルトリア嬢も口に出してた……イヤ、口に出してたし。あれ? 訂正する必要なかったか?
(じゃが、アレはアレとは違って、10年前に……)
ウバーバがぶつぶつ言ってる。
「何と何が違うんですか? 10年前に何か?」
「き、聞こえておったのか? 小僧!」
お年寄りを驚かせてしまいましたか? 人よりも耳はいいんです。耳だけに33倍以上かも?
「で、何なんですか?」
「う、うるさい。小僧」
目を逸らされた。
『王家の秘宝』か。
俺たちが『冶金の丘』で見つけたのは、きわめて現世的な『宝石』と『小銭』だったけど……10年以上前には、別のお宝と、別の宝探しのヒントがあったっぽい。
プリムローズさんは『地球』の「宗教的な何か」って言ったよな。
あるタイミング――はっきり10年前って言っちゃってるけど――に、その「すり替え」が行われたらしい。
そして、その指揮を執ったのは、このウバーバだろう。
でもって、このウバーバ。
その元々のお宝を、ネコババしちゃってるんじゃなかろーか?
なんか非常に疑わしい。
「……なんじゃ?」
「……いえ」
眼光鋭いので、怖い。
直視出来ないので後ろを向くと、プリムローズさんと目が合った。
なので『王家の秘宝』の話を訊こうとしたら――
「ねえ、日本の和歌に『枕詞』ってあるでしょ? その中の『垂乳根の』って『垂れたおっぱい』の事だと思われてるけど、実際にはイチョウなんかの樹の枝から垂れ下がる『気根』の事で……」
ベストタイミングだと思ったのか、そんな事を言いだした……。
「……イヤ、そういうのは、今いいです」
確かに全裸のお婆ちゃんが傍にいるけれどもさ。
「……そう?」
無理に遮ったせいか、すごく残念そうだったW
俺たちがそんな事やってるあいだに――
向こうでは、親子の会話が弾んでいるらしい。
「あははは」
笑い声がした。
「あははは。そうか、あの者、姫にまでアレを振り回して見せたのか?」
一体ナニの話だろう?
女王陛下が大笑いしてるし、ラウラ姫とドロレスちゃんは苦笑してる。
楽しそうで、なによりだ。
でも笑い過ぎてまた失禁とか止めてよね?
……まあ、ここにはマジカルメイド・ミーヨちゃんがいるから『合体魔法』で一瞬で『★洗浄☆』出来るだろうけど。
そこに、
「陛下。お時間が……」
全裸の中年女性がやって来て、みなに聞こえるようにそう告げた。
食事のせいなのか、ぽってりしてるなう……イヤ、なあ。
「『しえすた』か? ならばラウラと『七の姫』も連れてまいる」
女王陛下が宣言する。
「「……」」
こちらを振り向いた王女姉妹から、目で合図された。
あの表情は「お腹空いた」時のカオだ。
そう言えば、長い事待たされて、昼食まだだったよね……。
実はミーヨが持ってる大きな鞄には、ラウラ姫用のオヤツも入ってるけど、今このタイミングで手渡すのは無理だ。
「…………」
見送る事しか出来ないので、黙って送り出す。
二人とも恨めしそうだったけど、言えばオヤツくらい貰えるだろ、きっと。
「では、参ろう」
女王陛下は娘たちの手を引いて、立ち去った。
俺は三人の後ろ姿を見送った。
ウバーバも、意外に達者な足取りでついて行った――ようだ。
イヤ、こっちは見たくなかったから、視線外したよ。
◇
で、子供部屋にとり残された俺は、プリムローズさんに訊いてみる。
「ところで『しえすた』って何なんスか?」
「お昼寝よ」
へー。
◆
シエスタ。スペインの習慣。午後の休み時間みたいなもので、別に眠らなくてもいいらしい――まる。




