077◇真珠の首飾り事件
逆三角形をした『三角広場』の北の一辺を占める東西に長――い『一の小宮殿』。その前の、長――い屋根付き「馬車乗り場」に、一台の「乗り合い馬車」が到着した。
ちなみに、この市内巡回路線で走る乗り合い馬車の事を『都馬車』と呼ぶらしい。
『この世界』には幅100m以上もある直線道路『永遠の道』があるけれど、夜になると、白くて丸い殻を背負った謎生物ヌメヌメスベスベの「陸棲型」がそこを這い回る。
なので、『道』をかっ飛ばす『深夜馬車』とか『高速馬車』とかは存在しないらしい。
乗り合い馬車から下り立った二人の女性が、こちらに向かってきた。
見て、その服装で、すぐ分かった。ウチの「関係者」だ。
「「遅くなりまして、申し訳ございません」」
二人の女性が、そう言って深々と頭を垂れた。
顔を上げると、二人とも見覚えのお顔立ちだ。
うん、いろいろと思い出してきた。
『地球』の感覚だと、二週間ぶりくらいかな?
ラウラ姫の『破瓜の儀』で誕生した秘密のアイテムを『王宮』に届けるために、俺たちに先行して『王都』に戻っていた侍女さんたちだ。
「お久しぶりに御座います。殿下」
真鍮みたいな色味をした金髪と、くすんだ茶色い瞳だ。
『冶金の丘』で生き別れ(違うか)になったラウラ姫の「第二侍女」だ。
貴族の出らしく、なんか生意気な感じの人だ。
イヤ、初めて会った時には、ラウラ姫に対して、ハッキリと「敵意」のようなものを向けていた。
でも、今はそれが無い。
「憑き物」が落ちたような感じだ。
何があったんだろう? ここは異世界だから、その道のプロの京○堂はいないハズなのに……別人みたいに大人しいな。
「うむ。ポーニャか」
ラウラ姫は、自他の人名を間違えて噛むクセがあるけれど、最大四文字までなら平気らしい。
名前の四文字制限とか……前世紀のゲームみたい。
で、名前は初出。ポーニャ嬢か。
このひと、ラウラ姫の「すぐ下の姫の異母姉」というややこしい関係のハズだ。
父親が、女王陛下と『愛し人』の関係になっていたらしい。
「…………」
無言で控えている、もう一人の女性は、とても地味な感じだ。
俺もだけど、混血の進んだ少し浅黒い肌と黒い髪。瞳も黒い。
『この世界』でいちばん多いタイプの人なので、なんとなく埋没気味で目立たない。俺もだけど。
でも、この女性も、俺みたいに「脱いだらすごい」のかもしれない。そんな感じで、胸元だけは目立ってる。
「……」
なんだろう? ラウラ姫が、珍しく言葉に詰まって黙り込んでる。
「…………ぼそぼそ(アルマメロルトリアに御座います)」
プリムローズさんが姫の傍で耳打ちしてる。
地味な「第五侍女」のお名前を思い出せなかったらしい。
そして確かに長いお名前だな。俺もちょっと覚えらんねーぞ。
「うむ、アルストロメリアも」
そして何故、『地球』の花の名前に成る?
まさか姫の『前世の記憶』が、無意識のうちに出てるのか?
「……はい、殿下」
しかたなく返事しちゃってるし。
この調子で「プリマ・ハンナ・ヂ・ロース」が「プリムローズ」に成ったんだろうな、きっと。
逆らえないもんな。相手は王女さまだもんな。
そう言えば、花の名前がついたロボットの出るアニメって、色々あった気がするな。
『ダリ○ラ』は花だっけ? 鳥の名前だっけ? ストレリチアって極楽鳥?
俺がいつものように、ぼんやりとそんな事を考えていると――
「こちらは、お二人が『王都』に向かった後で、『冶金の丘』で雇い入れた二人の侍女です」
プリムローズさんが、今度は偽装侍女を紹介してる。
「『第六』侍女のミヨレッタです。よろしくお願いいたします」
ミーヨが「第六」を強調して言った。
「「……よろしく」」
自分よりも序列が下だと分かると、第二侍女のポーニャ嬢と第五侍女のアルストロメリア嬢(ん?)の二人は、どことなく安心したように見える。
『この世界』……というよりは『女王国』の女性は、「序列」に拘りがあるみたいで、めんどくさいのだ。
「第七王……イヤ、第七侍女のドロリータで御座る」
ドロレスちゃんが珍しくヤバい噛み方だ。
てか「御座る」ってなんだよ?
しかも明らかに「やっちゃってる」のに、平然としていて表情も変えない。
むしろ、傲然としてる。ハートの強い子だ。
「「……よ、よろしく」」
二人とも圧倒されたように、余計な突っ込みは入れて来なかった。
にしても、みんな並ぶと「ラウラ姫付きの侍女」としての統一感がある。
全員、プリムローズさんと同じ、不思議な赤い光沢を放つ黒い侍女服なのだ。
やっぱり同じ服装って、軍団感がハンパない。
『虹黒』とか言う布地で、黒い地の上に、任意の色の光沢を出せるらしい。とにかく変わった布地で、折り曲げた肘の先端とか、突き出た胸部の辺りが、特に赤く見える。
にしても、姫もついに「侍女軍団」を率いるようになったのか……しみじみ。
でも、残る第三侍女と第四侍女はどこにいるんだろ?
情報がないな。そのうち会うだろうけれども。
「こちらが『東の円』から使者として来られた稲田次郎時定氏」
「初めまして」
次郎氏が爽やかに笑う。
「「……は、はい」」
見た目は美青年なので、二人ともドギマギしてる。
ところでドギマギって何? 『まど☆○ギ』?
そんで、俺もプロペ……イヤ、元気に明るく挨拶した方がいいのかな?
でも、いま俺服着てるしな。どうしよう? 脱ごうかな?
俺がそんなセンシティブな問題で悩んでいると、
「さ、正門が開いたようだから、中に入るよ。……殿下。参りましょう」
「うむ」
初対面じゃなかったし、俺はスルーされたよ。ちょっと淋しい。
で、王女主従の先導で『一の小宮殿』の中へ。
◇
早く来過ぎて、開いてなかった『一の小宮殿』の「正門」は、ほぼ素通り出来た。
かなり長い時間、建物の外で待ってた気がするけど、その間に色々と話もしたし、ラウラ姫の侍女軍団も(全員じゃないけど)集結した。
建物の中に入り、全員徒歩でコンコースみたいな広い空間を真っすぐに進み、「船着き場」に向かっている。
不意に、ラウラ姫が何かを見つけて、そちらに近づいて行った。
あとを追うと、そこにあったのは豪華な「輿」だった。
小振りな馬車かと思ったら、車輪がない。建物の中なので馬車はNGだけど、輿はOKらしい。
「お久しゅう御座ひます。ライラウラに御座ゐます」
ラウラ姫が輿の中の人物に向かって言った。緊張してるのか、古風な感じに甘噛みしてる。
「ラウラか?」
少し籠った女性の声だった。
姫は真名を名乗ったのに、愛称で返されたよ。親しいのか?
中の人は「声優」……イヤ、「貴人」だろうな。
高い身分の人が歩かずにすむように、中に座席があるはずだ。
輿の前後左右には、四人の礼装した従者っぽい人たちが待機している。
にしても誰だろう?
「第二王女殿下っすね」
意外な事に、次郎氏が知っていた。
「お付きの侍女さんたちの服の色で判るんすよ」
輿の後ろには、侍女らしい女性たちの小集団があった。
全員、黄色い光沢がある黒い侍女服を着てる。
でもって服を飾る紐やリボンも、みんな同じ感じの黄色だ。
ウチの侍女軍団は赤だしな。仕える主人のシンボルカラーみたいなもんか?
そう言えば……ラウラ姫もよく赤いドレスを着てるな。
オオババちゃん付きの侍女さんたちは……そんなんなかったけど、現役の『三人の王女』だけか?
この建物の正面の三角広場にあった船の銅像の台座には、女王位を競い合っている『三人の王女』の『星』の数が描かれた帆船の絵があったけど、それって「色違い」で、あの星11個のヤツは、帆が黄色だったっけ。
◇
「……確かに久しいな。だいぶ会わなんだ。どこに行っておった?」
輿の奥から横柄な感じで訊ねられてる。
「はい、『冶金の丘』に……」
姫が、輿の中の人物と会話し始めた。
フォローのためか、プリムローズさんが姫に付き添う形になってる。
まだロクに話もしてない第二侍女ポーニャ嬢と、長いお名前の第五侍女さんは少し離れて控えている。
その後ろでは、侍女服姿のミーヨとドロレスちゃんが、大きな鞄を床に置いて、一息ついてる。
持ってあげたいけど、俺の立場上ダメらしい。
ドロレスちゃんが持って来たのは、『冶金の丘』にあった『宝石』だ。
女王陛下に見せて事情を話し、その審判を仰ぐのだ。
ミーヨの鞄は、やたらと大きい。
今日は『王宮』のどこかに「お泊り」になるらしいから、その用意らしい。
てか俺の私物も入れてもらってるから、大荷物なんだけれども。
「……物好きだのう。で、そこで『愛し人』を拾ってきたか」
紗みたいな覆いで、輿の中の様子はよく分からない。
けど、第二王女殿下はシルエットから、大柄で太った女性のようだ。
ラウラ姫もドロレスちゃんも、大食いなのに引き締まった体形だけど、その姉君は違うみたいだ。
「……(こそこそ)」
「どうかしたんスか?」
次郎氏が不自然にコソコソしてるので、変に思って訊いてみる。
「前にお会いした時、いろいろとお誘いを断ってるので……いやー、俺逃げたい気分っす」
輿から見えないように、ドロレスちゃんの後ろに隠れてるし……。
「お誘い?」
「今、妊娠中だから、誰が相手で、何をしようと、二度は妊娠しないとか……無茶言うんすよ」
次郎氏の表情が冴えない。
太って見えたのは、妊娠中だからか。
しかし、その第二王女殿下の言い草は、まるで古代ローマの尻軽女か? 妊娠中は浮気し放題か? って感じだ。
てか、『女王国』の女王や王女は、もともと結婚しないで『愛し人』いっぱい持つんだったっけか?
でも、さすがにお腹の大きな妊婦さん相手とか……無いわー。
その手のAVとか……無いよなー。俺、きちんとした健康的で健全なAVがいいな……って、きちんとした健康的で健全なAVって何だよ? どっちにしろ、『この世界』にはAVなんて無いけれども(泣)。
「「「「…………(ひそひそ)」」」」
なんか向こうの侍女集団が、俺の事を見てひそひそ話をしている気がする。みんな初対面なんだけどな。
そんで俺、ちゃんと正装してるよ? 全裸じゃないよ? なんの話してんだろ?
「「「「…………(ひそひそ)」」」」
なんか断片的に「プロ」とか「ペラ」とか聞こえてくる(笑)。
主人である王女の手前、お付きの人同士で合流して談笑……とか出来ないし、妙な距離感を保ったままだ。
ぱっと見、第二王女の引き立て役も兼任してるのか、向こうの侍女さんたちは平凡で地味な感じの女性ばかりだ。
こっちはミヨレッタ嬢もドロリータ嬢も、変装してるのに無駄に美少女感が出てるしな。向こうの男性陣の興味を惹いてるかもしれないくらいだ。
「そこの者! そこな男!」
輿の中から声を掛けられた。
次郎氏は姑息にもドロリータ嬢(中身はドロレスちゃんだ)を盾にして隠れてるから、きっと俺の事だろう。
第二王女殿下がお呼びだ。
「わたく〆に御座ゐますか?」
一応確認する。俺もオールドファッションに噛んじゃった。
「そうじゃ」
短く返答された。
「「………」」
ラウラ姫とプリムローズさんが、不安げな表情を俺に向ける。
きっと俺が「なんかやらかす」と思ってるんだろう。ここはその期待に……イヤ、やらかすはずなんてないでしょうに。失礼な。
「失礼します」
俺は輿の覆いをめくり上げた。
「……!」
「……(美味そう)」
一瞬「カレーまん」かと思った。
イヤ、輿の中には、椅子に腰かけた妊婦さんらしい女性がいた。
お腹が、まんまるに丸い。そして微妙な色合いの薄い黄色のドレスで身を包んでいるので、見た瞬間は「カレーまん」に思えたのだ。
そう言えば『ちは○ふる』の「肉○んくん」のお姉さんは「ピザ○ん」だっけ?
「「「「あっ!」」」」
周りから、短い叫びが上がる。
あれ? ダメなのか?
つい、暖簾くぐる感じでめくり上げちゃったけど……ダメなのか?
ひょっとして「貴人」の姿を直接見ちゃいけないのかな? 平安貴族か?
「……!」
第二王女殿下は、びっくり仰天なさっていらっしゃるらしい。
目と口が丸く開きっ放しになってる。
見ると20代前半の若い女性だった……まあ、お腹の大きな妊婦さんなんだけど。
金髪で青い瞳は、姫やドロレスちゃんと同じだ。髪はまとめ上げてティアラで留めてるので、二人のようなわしゃわしゃした癖毛かどうかは分からない。
「わたくしめに何か御用でございましょうか?」
訊いてみる。
口の利き方はこんな感じでいいのかな? 「悪役令嬢口調」は違うだろうし。
「いえ……その、腰にぶら下げているのは何? って訊こうと思って」
毒気を抜かれたみたいに、若い女性の素が出てる。
俺が輿の覆いを上げちゃった事は、特にお咎めなしだった。
「殿下もお好きですね。これはおちん」
(こら――っ!)
最後まで言い終える事なく、プリムローズさんに小声で叱られた。
冗談だってば。
「これですか?」
俺は自分の股間にぶら下がっている「ある物」をぶらぶらさせながら訊ねた。
「え、ええ」
第二王女殿下の笑顔が引きつってる。セク○ラじゃないよ?
「これは『真珠の首飾り』です」
俺はきっぱりと言った。
まあ、正式名称は『約束の首飾り』だけど……ハイ、回想っと。
◆◇◆
「ミーヨ。これ」
俺は「実験」でご機嫌を損ねてしまった『俺の女王さま』に復位を求めるため……イヤ、前にミーヨと交わした約束を守るために、『固体錬成』で創り出した『真珠の首飾り』を差し出した。
「ナニコレ?」
ミーヨは不思議そうな顔をしてる。
「前に約束してただろ。『真珠の首飾り』だよ。ちょっとビシバシ……イヤ、ドタバタしてたから、渡す機会なかったけど」
「そうだったっけ? えー……約束? いつ?」
しかし、本人はそんな「約束」をした事をすっかり忘れ去っていた。
「……そう訊かれると、俺も覚えてないな。いつだったっけ?」
俺も「約束した」という事だけは覚えているけど、いつどんな流れで約束したのか忘れちゃってるのだ。
「それって、アレでしょう。ジンくんがお尻からブラ下げていたヤツでしょう?」
その様子を、ミーヨとセシリアにガッツリ見られていたのだ。
「白いしっぽ」呼ばわりされましたよ。
『真珠の首飾り』なのに。
「わたし、引っ張り出すところ見てたよ。ちょっと怖かった」
確かにその通りだけど、なんかの寄生虫みたいに言わないで欲しい。
カマキリから出てくるハリガネムシみたく。
「……いらない?」
「うん、いらない」
あっさり受け取りを拒否られた。
「……そっかー」
まあ、取り出す「過程」を目の当たりにしてたもんな。
我が身をミーヨに痴漢……イヤ、置換して考えてみると、男の「*」から出て来たア*ル・パール……イヤ、『真珠の首飾り』なんて欲しくはないな。当然だな。
◇
というわけで、『固体錬成』で創り出して、俺様の「*」から引っ張り出したヤツだ。
ミーヨに贈るはずが……受け取りを拒否されたので、売ろうと思ってるんだけど、それなりに大きいものなので保管場所に困って、とりあえず装身具として身に付けているのだ。
「首飾り? 首飾りを何ゆえ股間にぶら下げておるのだ?」
ちょっと尊大な感じが戻って来た第二王女殿下だった。
もっともな疑問かもしれない。
「わたくしめは男ですので、飾り帯代わりに腰に着けております。装身具です」
ベルト状にウエストに巻いてるんだけど、たまたま真ん中の「垂れ飾り」の部分が長くて、股間でぶらぶらしているだけなのだ。狙ってやってるわけではないのだ。本当にセク○ラじゃないのだ。ファッションに「正解」はないのだ。自由な精神の発露なのだ。
「良いものに見えるが……。もったいないのう、そのように男の股間にぶら下げておっては」
上目遣いで、物欲しそうにちろちろ見られる。
性的な意味はないですよね?
だってお腹の大きい妊婦さんだし……。そんな気になれないっスよ。
「ご用件は済みまして御座いますか? では、わたくしめはこれで……」
俺が輿の覆いを戻して、立ち去ろうとしたら、
「待て! それを寄こせ!」
思わず「言っちゃった」んだろう。
「……(っ)」
第二王女殿下の顔に、かすかな後悔の色が横切った。
「「「「……(じーっ)」」」」
みんなの注目を浴びてる。
場の空気が、妙な感じに固まった。
どうすりゃいいんだろ?
こういうのって、ホントに「正解」が分からない。
もうここ『王宮』の中なので、トラブルを起こすと色々とラウラ姫に迷惑をかけるだろうし。
俺ってこういう時に機転が利くタイプじゃないしな。上手な立ち回り方も思い浮かばない。
「ハイ、殿下」
俺は素直に『真珠の首飾り』を外して、第二王女殿下に差し出した。
「う、うむ」
これはラウラ姫じゃなくて、第二王女殿下だ。
上気した顔で自ら『真珠の首飾り』を受け取った。
「ソメラ」
「はい、殿下」
第二王女殿下は侍女を呼んだ。さっそく身に付ける気らしい。
こっそり「垂れ飾り」の部分の匂いを嗅いでる。うん、それはサービスだ。嗅ぐがいい。
ま、あとで「請求書」送ろうっと。
次郎氏の鑑定眼によると、最低でも『太陽金貨』20枚(約400万円だ)くらいの価値らしい。
思わぬところで「臨時収入」だな。そんな軽い気持ちだった。
「む! ジン!」
見ると、ラウラ姫が、悔しそうな涙目になっていた。
これ、ひょっとしてアレかな?
タダでプレゼントしたと思われてるのかな?
「もちろん、お代はいただきますが」
「おだいとな?」
なにそれおいしいの? 的な顔止めろよ。
「ですから、その『真珠の首飾り』の代金です」
俺がはっきり言うと、第二王女殿下は妊婦ならでは必殺技を繰り出して来た。
「うぐっ、つわりが……う、おええええっ」
口元を押さえて、腕を突き出して宙を掴んで叫んでる。
「「「「で、殿下!」」」」
お付きの侍女さんたちが慌ててる。
それ、いろんな意味で汚ねーよ!
「失礼ながら、そのお腹のご様子では、もう悪阻は起きないのでは?」
ラウラ姫付き第六侍女(偽装)ミヨレッタ嬢だった。
「……(ぴたっ)」
彼女の突っ込みは正鵠を射ていたらしい。
確かに安定期通り越して、出産間近な感じなんじゃないのか? ってお腹だしね。
「…………じ、陣痛がッ。う、産まれそうじゃ」
第二王女殿下は、方針を転換したようだ。
「で、殿下。何をしているのです! 殿下がお苦しみです。輿を出しなさい。『王立産院』へ戻るのです! 『女王の癒し手』に診ていただくのですっ!」
「「「「かしこまりましたっ!」」」」
良く躾けられているんだろう、主従の小芝居が炸裂している。
でもって流石は『女王国』だけあって、「産婦人科」も「王立」なんだ?
『女王のいやらしい手』って何だろう? ……間違えてるかもだけど。
そんで俺、手○キにめっちゃ弱いんですけど(笑)。
「あのー」
これって『俺の聖女』のシンシアさんの口癖だ。
控えめにそう言ってみたものの、完全に無視された。
「ラウラ! 出産祝いの前渡し、殊勝に思うぞ。ではなっ!」
第二王女殿下が意外にハッキリとそう言った。
俺様の『真珠の首飾り』が「そういう事」にされてしまったらしい。
要領が良いというか、ちゃっかりした人だ。
『星』をいっぱい獲得してるのも、頷ける……のか?
「「「「……(呆然)」」」」
俺たちが呆気にとられて見送る中、第二王女殿下一行は『一の小宮殿』の正門に向けてダッシュした。
イヤ、君ら、これから『大宮殿』行く予定だったんじゃないの?
逆方向だよ?
「…………うぉぉぉおおええええっ!」
椅子の向きと反対方向に、全力の急加速で輿が進んだのが気持ち悪かったらしい。
第二王女殿下の嗚咽の声が、遠くから聞こえた。
「…………(れろれろれろれろっ)」
さくらんぼを舐め回してるワケじゃない。違う何かの音だ。
……こんな時は、自分の聴こえ過ぎる聴力を呪いたくなる。
音からして、第二王女殿下は、●(ゲル状物質)をお吐きになっていらっしゃるんだろう。
視覚的には、王女様らしく「お花」でマスキングされてるのかもしれないけれども……。
アニメの中のそんなシーンみたいに、キラキラした滝みたいなのかもしれないけれども。
ああ、そんな事考えてたら口の中酸っぱくなって来た……。
◆
これで仕込みはオッケー――まる。




