表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/262

077◇真珠の首飾り事件


 逆三角形をした『三角広場』の北の一辺を占める東西に長――い『(いち)の小宮殿』。その前の、長――い屋根付き「馬車乗り場」に、一台の「乗り合い馬車」が到着した。


 ちなみに、この市内巡回路線で走る乗り合い馬車の事を『都馬車(とばしゃ)』と呼ぶらしい。


 『この世界』には幅100m以上もある直線道路『永遠の道』があるけれど、夜になると、白くて丸い殻を背負った謎生物ヌメヌメスベスベの「陸棲型」がそこを這い回る。

 なので、『道』をかっ飛ばす『深夜馬車』とか『高速馬車』とかは存在しないらしい。


 乗り合い馬車から下り立った二人の女性が、こちらに向かってきた。


 見て、その服装で、すぐ分かった。ウチの「関係者」だ。


「「遅くなりまして、申し訳ございません」」


 二人の女性が、そう言って深々と頭を垂れた。

 顔を上げると、二人とも見覚えのお顔立ちだ。


 うん、いろいろと思い出してきた。


 『地球』の感覚だと、二週間ぶりくらいかな?

 ラウラ姫の『破瓜の儀』で誕生した秘密のアイテムを『王宮』に届けるために、俺たちに先行して『王都』に戻っていた侍女さんたちだ。


「お久しぶりに御座います。殿下」

 真鍮(しんちゅう)みたいな色味をした金髪と、くすんだ茶色い瞳だ。

 『冶金の丘』で生き別れ(違うか)になったラウラ姫の「第二侍女」だ。


 貴族の出らしく、なんか生意気な感じの人だ。

 イヤ、初めて会った時には、ラウラ姫に対して、ハッキリと「敵意」のようなものを向けていた。


 でも、今はそれが無い。

 「()き物」が落ちたような感じだ。

 何があったんだろう? ここは異世界だから、その道のプロの京○堂はいないハズなのに……別人みたいに大人しいな。


「うむ。ポーニャか」

 ラウラ姫は、自他の人名を間違えて噛むクセがあるけれど、最大四文字までなら平気らしい。

 名前の四文字制限とか……前世紀のゲームみたい。


 で、名前は初出。ポーニャ嬢か。

 このひと、ラウラ姫の「すぐ下の姫の異母姉」というややこしい関係のハズだ。

 父親が、女王陛下と『(いと)(びと)』の関係になっていたらしい。


「…………」

 無言で控えている、もう一人の女性は、とても地味な感じだ。

 俺もだけど、混血の進んだ少し浅黒い肌と黒い髪。瞳も黒い。

 『この世界』でいちばん多いタイプの人なので、なんとなく埋没気味で目立たない。俺もだけど。

 でも、この女性も、俺みたいに「脱いだらすごい」のかもしれない。そんな感じで、胸元だけは目立ってる。


「……」

 なんだろう? ラウラ姫が、珍しく言葉に詰まって黙り込んでる。


「…………ぼそぼそ(アルマメロルトリアに御座います)」

 プリムローズさんが姫の傍で耳打ちしてる。

 地味な「第五侍女」のお名前を思い出せなかったらしい。

 そして確かに長いお名前だな。俺もちょっと覚えらんねーぞ。


「うむ、アルストロメリアも」

 そして何故、『地球』の花の名前に成る?

 まさか姫の『前世の記憶』が、無意識のうちに出てるのか?


「……はい、殿下」

 しかたなく返事しちゃってるし。


 この調子で「プリマ・ハンナ・ヂ・ロース」が「プリムローズ」に成ったんだろうな、きっと。

 逆らえないもんな。相手は王女さまだもんな。


 そう言えば、花の名前がついたロボットの出るアニメって、色々あった気がするな。

 『ダリ○ラ』は花だっけ? 鳥の名前だっけ? ストレリチアって極楽鳥?


 俺がいつものように、ぼんやりとそんな事を考えていると――


「こちらは、お二人が『王都』に向かった後で、『冶金の丘』で雇い入れた二人の侍女です」

 プリムローズさんが、今度は偽装侍女を紹介してる。


「『第六』侍女のミヨレッタです。よろしくお願いいたします」

 ミーヨが「第六」を強調して言った。


「「……よろしく」」


 自分よりも序列が下だと分かると、第二侍女のポーニャ嬢と第五侍女のアルストロメリア嬢(ん?)の二人は、どことなく安心したように見える。

 『この世界』……というよりは『女王国』の女性は、「序列」に(こだわ)りがあるみたいで、めんどくさいのだ。


「第七王……イヤ、第七侍女のドロリータで御座る」

 ドロレスちゃんが珍しくヤバい噛み方だ。


 てか「御座る」ってなんだよ?

 しかも明らかに「やっちゃってる」のに、平然としていて表情も変えない。

 むしろ、傲然(ごうぜん)としてる。ハートの強い子だ。


「「……よ、よろしく」」


 二人とも圧倒されたように、余計な突っ込みは入れて来なかった。


 にしても、みんな並ぶと「ラウラ姫付きの侍女」としての統一感がある。

 全員、プリムローズさんと同じ、不思議な赤い光沢を放つ黒い侍女服なのだ。


 やっぱり同じ服装って、軍団感がハンパない。


 『虹黒(にじくろ)』とか言う布地で、黒い()の上に、任意の色の光沢を出せるらしい。とにかく変わった布地で、折り曲げた肘の先端とか、突き出た胸部の辺りが、特に赤く見える。


 にしても、姫もついに「侍女軍団」を率いるようになったのか……しみじみ。


 でも、残る第三侍女と第四侍女はどこにいるんだろ?

 情報がないな。そのうち会うだろうけれども。


「こちらが『東の(つぶら)』から使者として来られた稲田次郎時定(ときさだ)氏」

「初めまして」

 次郎氏が爽やかに笑う。


「「……は、はい」」


 見た目は美青年なので、二人ともドギマギしてる。

 ところでドギマギって何? 『まど☆○ギ』?


 そんで、俺もプロペ……イヤ、元気に明るく挨拶した方がいいのかな?

 でも、いま俺服着てるしな。どうしよう? 脱ごうかな?

 俺がそんなセンシティブな問題で悩んでいると、


「さ、正門が開いたようだから、中に入るよ。……殿下。参りましょう」

「うむ」


 初対面じゃなかったし、俺はスルーされたよ。ちょっと淋しい。


 で、王女主従の先導で『(いち)の小宮殿』の中へ。


      ◇


 早く来過ぎて、開いてなかった『(いち)の小宮殿』の「正門」は、ほぼ素通り出来た。


 かなり長い時間、建物の外で待ってた気がするけど、その間に色々と話もしたし、ラウラ姫の侍女軍団も(全員じゃないけど)集結した。

 建物の中に入り、全員徒歩でコンコースみたいな広い空間を真っすぐに進み、「船着き場」に向かっている。


 不意に、ラウラ姫が何かを見つけて、そちらに近づいて行った。

 あとを追うと、そこにあったのは豪華な「輿(こし)」だった。

 小振りな馬車かと思ったら、車輪がない。建物の中なので馬車はNGだけど、輿はOKらしい。


「お久しゅう御座ひます。ライラウラに御座ゐます」

 ラウラ姫が輿の中の人物に向かって言った。緊張してるのか、古風な感じに甘噛みしてる。


「ラウラか?」

 少し(こも)った女性の声だった。

 姫は真名(ライラウラ)を名乗ったのに、愛称(ラウラ)で返されたよ。親しいのか?


 中の人は「声優」……イヤ、「貴人」だろうな。

 高い身分の人が歩かずにすむように、中に座席があるはずだ。

 輿の前後左右には、四人の礼装した従者っぽい人たちが待機している。


 にしても誰だろう?


「第二王女殿下っすね」

 意外な事に、次郎氏が知っていた。

「お付きの侍女さんたちの服の色で判るんすよ」

 輿の後ろには、侍女らしい女性たちの小集団があった。


 全員、黄色い光沢がある黒い侍女服を着てる。

 でもって服を飾る紐やリボンも、みんな同じ感じの黄色だ。

 ウチの侍女軍団は赤だしな。仕える主人のシンボルカラーみたいなもんか?

 そう言えば……ラウラ姫もよく赤いドレスを着てるな。


 オオババちゃん付きの侍女さんたちは……そんなんなかったけど、現役の『三人の王女』だけか?


 この建物の正面の三角広場にあった船の銅像の台座には、女王位を競い合っている『三人の王女』の『星』の数が描かれた帆船の絵があったけど、それって「色違い」で、あの星11個のヤツは、帆が黄色だったっけ。


      ◇


「……確かに久しいな。だいぶ会わなんだ。どこに行っておった?」

 輿の奥から横柄な感じで訊ねられてる。

「はい、『冶金の丘』に……」

 姫が、輿の中の人物と会話し始めた。

 フォローのためか、プリムローズさんが姫に付き添う形になってる。


 まだロクに話もしてない第二侍女ポーニャ嬢と、長いお名前の第五侍女さんは少し離れて控えている。

 その後ろでは、侍女服姿のミーヨとドロレスちゃんが、大きな鞄を床に置いて、一息ついてる。

 持ってあげたいけど、俺の立場上ダメらしい。


 ドロレスちゃんが持って来たのは、『冶金の丘』にあった『宝石』だ。

 女王陛下に見せて事情を話し、その審判を仰ぐのだ。


 ミーヨの鞄は、やたらと大きい。

 今日は『王宮』のどこかに「お泊り」になるらしいから、その用意らしい。

 てか俺の私物も入れてもらってるから、大荷物なんだけれども。


「……物好きだのう。で、そこで『(いと)(びと)』を拾ってきたか」

 (しゃ)みたいな(おお)いで、輿の中の様子はよく分からない。

 けど、第二王女殿下はシルエットから、大柄で太った女性のようだ。

 ラウラ姫もドロレスちゃんも、大食いなのに引き締まった体形だけど、その姉君は違うみたいだ。


「……(こそこそ)」

「どうかしたんスか?」

 次郎氏が不自然にコソコソしてるので、変に思って訊いてみる。


「前にお会いした時、いろいろとお誘いを断ってるので……いやー、俺逃げたい気分っす」

 輿から見えないように、ドロレスちゃんの後ろに隠れてるし……。


「お誘い?」

「今、妊娠中だから、誰が相手で、何をしようと、二度は妊娠しないとか……無茶言うんすよ」

 次郎氏の表情が冴えない。


 太って見えたのは、妊娠中だからか。

 しかし、その第二王女殿下の言い草は、まるで古代ローマの尻軽女か? 妊娠中は浮気し放題か? って感じだ。


 てか、『女王国』の女王や王女は、もともと結婚しないで『(いと)(びと)』いっぱい持つんだったっけか?


 でも、さすがにお腹の大きな妊婦さん相手とか……無いわー。

 その手のAVとか……無いよなー。俺、きちんとした健康的で健全なAVがいいな……って、きちんとした健康的で健全なAVって何だよ? どっちにしろ、『この世界』にはAVなんて無いけれども(泣)。


「「「「…………(ひそひそ)」」」」


 なんか向こうの侍女集団が、俺の事を見てひそひそ話をしている気がする。みんな初対面なんだけどな。

 そんで俺、ちゃんと正装してるよ? 全裸じゃないよ? なんの話してんだろ?


「「「「…………(ひそひそ)」」」」


 なんか断片的に「プロ」とか「ペラ」とか聞こえてくる(笑)。

 主人である王女の手前、お付きの人同士で合流して談笑……とか出来ないし、妙な距離感を保ったままだ。

 ぱっと見、第二王女の引き立て役も兼任してるのか、向こうの侍女さんたちは平凡で地味な感じの女性ばかりだ。


 こっちはミヨレッタ嬢もドロリータ嬢も、変装してるのに無駄に美少女感が出てるしな。向こうの男性陣の興味を惹いてるかもしれないくらいだ。


「そこの者! そこな男!」

 輿の中から声を掛けられた。

 次郎氏は姑息にもドロリータ嬢(中身はドロレスちゃんだ)を盾にして隠れてるから、きっと俺の事だろう。


 第二王女殿下がお呼びだ。


「わたく(しめ)に御座ゐますか?」

 一応確認する。俺もオールドファッションに噛んじゃった。

「そうじゃ」

 短く返答された。


「「………」」


 ラウラ姫とプリムローズさんが、不安げな表情を俺に向ける。

 きっと俺が「なんかやらかす」と思ってるんだろう。ここはその期待に……イヤ、やらかすはずなんてないでしょうに。失礼な。


「失礼します」

 俺は輿の覆いをめくり上げた。


「……!」

「……(美味そう)」


 一瞬「カレーまん」かと思った。


 イヤ、輿の中には、椅子に腰かけた妊婦さんらしい女性がいた。

 お腹が、まんまるに丸い。そして微妙な色合いの薄い黄色のドレスで身を包んでいるので、見た瞬間は「カレーまん」に思えたのだ。

 そう言えば『ちは○ふる』の「肉○んくん」のお姉さんは「ピザ○ん」だっけ?


「「「「あっ!」」」」


 周りから、短い叫びが上がる。


 あれ? ダメなのか?


 つい、暖簾(のれん)くぐる感じでめくり上げちゃったけど……ダメなのか?

 ひょっとして「貴人」の姿を直接見ちゃいけないのかな? 平安貴族か?


「……!」

 第二王女殿下は、びっくり仰天なさっていらっしゃるらしい。

 目と口が丸く開きっ放しになってる。

 見ると20代前半の若い女性だった……まあ、お腹の大きな妊婦さんなんだけど。

 金髪で青い瞳は、姫やドロレスちゃんと同じだ。髪はまとめ上げてティアラで留めてるので、二人のようなわしゃわしゃした癖毛かどうかは分からない。


「わたくしめに何か御用でございましょうか?」

 訊いてみる。

 口の利き方はこんな感じでいいのかな? 「悪役令嬢口調」は違うだろうし。


「いえ……その、腰にぶら下げているのは何? って訊こうと思って」

 毒気を抜かれたみたいに、若い女性の()が出てる。

 俺が輿の覆いを上げちゃった事は、特にお咎めなしだった。


「殿下もお好きですね。これはおちん」

(こら――っ!)

 最後まで言い終える事なく、プリムローズさんに小声で叱られた。


 冗談だってば。


「これですか?」

 俺は自分の股間にぶら下がっている「ある物」をぶらぶらさせながら訊ねた。

「え、ええ」

 第二王女殿下の笑顔が引きつってる。セク○ラじゃないよ?


「これは『真珠の首飾り』です」

 俺はきっぱりと言った。


 まあ、正式名称は『約束の首飾り』だけど……ハイ、回想っと。


      ◆◇◆


「ミーヨ。これ」


 俺は「実験」でご機嫌を損ねてしまった『俺の女王さま』に復位を求めるため……イヤ、前にミーヨと交わした約束を守るために、『固体錬成』で創り出した『真珠の首飾り』を差し出した。


「ナニコレ?」

 ミーヨは不思議そうな顔をしてる。


「前に約束してただろ。『真珠の首飾り』だよ。ちょっとビシバシ……イヤ、ドタバタしてたから、渡す機会なかったけど」


「そうだったっけ? えー……約束? いつ?」

 しかし、本人はそんな「約束」をした事をすっかり忘れ去っていた。


「……そう訊かれると、俺も覚えてないな。いつだったっけ?」

 俺も「約束した」という事だけは覚えているけど、いつどんな流れで約束したのか忘れちゃってるのだ。


「それって、アレでしょう。ジンくんがお尻からブラ下げていたヤツでしょう?」

 その様子を、ミーヨとセシリアにガッツリ見られていたのだ。

 「白いしっぽ」呼ばわりされましたよ。

 『真珠の首飾り』なのに。


「わたし、引っ張り出すところ見てたよ。ちょっと怖かった」

 確かにその通りだけど、なんかの寄生虫みたいに言わないで欲しい。

 カマキリから出てくるハリガネムシみたく。


「……いらない?」

「うん、いらない」


 あっさり受け取りを拒否られた。


「……そっかー」

 まあ、取り出す「過程」を目の当たりにしてたもんな。

 我が身をミーヨに痴漢……イヤ、置換して考えてみると、男の「*」から出て来たア*ル・パール……イヤ、『真珠の首飾り』なんて欲しくはないな。当然だな。


      ◇


 というわけで、『固体錬成』で創り出して、俺様の「*」から引っ張り出したヤツだ。

 ミーヨに贈るはずが……受け取りを拒否されたので、売ろうと思ってるんだけど、それなりに大きいものなので保管場所に困って、とりあえず装身具として身に付けているのだ。


「首飾り? 首飾りを何ゆえ股間にぶら下げておるのだ?」

 ちょっと尊大な感じが戻って来た第二王女殿下だった。


 もっともな疑問かもしれない。


「わたくしめは男ですので、飾り帯代わりに腰に着けております。装身具です」

 ベルト状にウエストに巻いてるんだけど、たまたま真ん中の「垂れ飾り」の部分が長くて、股間でぶらぶらしているだけなのだ。狙ってやってるわけではないのだ。本当にセク○ラじゃないのだ。ファッションに「正解」はないのだ。自由な精神の発露なのだ。


「良いものに見えるが……。もったいないのう、そのように男の股間にぶら下げておっては」

 上目遣いで、物欲しそうにちろちろ見られる。

 性的な意味はないですよね?

 だってお腹の大きい妊婦さんだし……。そんな気になれないっスよ。


「ご用件は済みまして御座いますか? では、わたくしめはこれで……」

 俺が輿の覆いを戻して、立ち去ろうとしたら、

「待て! それを寄こせ!」

 思わず「言っちゃった」んだろう。


「……(っ)」

 第二王女殿下の顔に、かすかな後悔の色が横切った。


「「「「……(じーっ)」」」」


 みんなの注目を浴びてる。


 場の空気が、妙な感じに固まった。


 どうすりゃいいんだろ?


 こういうのって、ホントに「正解」が分からない。

 もうここ『王宮』の中なので、トラブルを起こすと色々とラウラ姫に迷惑をかけるだろうし。

 俺ってこういう時に機転が利くタイプじゃないしな。上手な立ち回り方も思い浮かばない。


「ハイ、殿下」

 俺は素直に『真珠の首飾り』を外して、第二王女殿下に差し出した。


「う、うむ」

 これはラウラ姫じゃなくて、第二王女殿下だ。

 上気した顔で自ら『真珠の首飾り』を受け取った。


「ソメラ」

「はい、殿下」

 第二王女殿下は侍女を呼んだ。さっそく身に付ける気らしい。

 こっそり「垂れ飾り」の部分の匂いを嗅いでる。うん、それはサービスだ。嗅ぐがいい。


 ま、あとで「請求書」送ろうっと。

 次郎氏の鑑定眼によると、最低でも『太陽金貨(ソル)』20枚(約400万円だ)くらいの価値らしい。

 思わぬところで「臨時収入」だな。そんな軽い気持ちだった。


「む! ジン!」

 見ると、ラウラ姫が、悔しそうな涙目になっていた。


 これ、ひょっとしてアレかな?

 タダでプレゼントしたと思われてるのかな?


「もちろん、お代はいただきますが」

「おだいとな?」


 なにそれおいしいの? 的な顔止めろよ。


「ですから、その『真珠の首飾り』の代金です」

 俺がはっきり言うと、第二王女殿下は妊婦ならでは必殺技を繰り出して来た。


「うぐっ、つわりが……う、おええええっ」


 口元を押さえて、腕を突き出して宙を掴んで叫んでる。


「「「「で、殿下!」」」」


 お付きの侍女さんたちが慌ててる。


 それ、いろんな意味で汚ねーよ!


「失礼ながら、そのお腹のご様子では、もう悪阻(つわり)は起きないのでは?」

 ラウラ姫付き第六侍女(偽装)ミヨレッタ嬢だった。


「……(ぴたっ)」

 彼女の突っ込みは正鵠(せいこく)()ていたらしい。

 確かに安定期通り越して、出産間近な感じなんじゃないのか? ってお腹だしね。


「…………じ、陣痛がッ。う、産まれそうじゃ」

 第二王女殿下は、方針を転換したようだ。


「で、殿下。何をしているのです! 殿下がお苦しみです。輿を出しなさい。『王立産院』へ戻るのです! 『女王の癒し手』に診ていただくのですっ!」


「「「「かしこまりましたっ!」」」」


 良く躾けられているんだろう、主従の小芝居が炸裂している。


 でもって流石は『女王国』だけあって、「産婦人科」も「王立」なんだ?

 『女王のいやらしい手』って何だろう? ……間違えてるかもだけど。

 そんで俺、手○キにめっちゃ弱いんですけど(笑)。


「あのー」

 これって『俺の聖女』のシンシアさんの口癖だ。

 控えめにそう言ってみたものの、完全に無視された。


「ラウラ! 出産祝いの前渡し、殊勝に思うぞ。ではなっ!」

 第二王女殿下が意外にハッキリとそう言った。


 俺様の『真珠の首飾り』が「そういう事」にされてしまったらしい。

 要領が良いというか、ちゃっかりした人だ。

 『星』をいっぱい獲得してるのも、頷ける……のか?


「「「「……(呆然)」」」」


 俺たちが呆気にとられて見送る中、第二王女殿下一行は『(いち)の小宮殿』の正門に向けてダッシュした。

 イヤ、君ら、これから『大宮殿』行く予定だったんじゃないの?

 逆方向だよ?


「…………うぉぉぉおおええええっ!」


 椅子の向きと反対方向に、全力の急加速で輿が進んだのが気持ち悪かったらしい。


 第二王女殿下の嗚咽(おえつ)の声が、遠くから聞こえた。


「…………(れろれろれろれろっ)」


 さくらんぼを舐め回してるワケじゃない。違う何かの音だ。

 ……こんな時は、自分の聴こえ過ぎる聴力を呪いたくなる。


 音からして、第二王女殿下は、●(ゲル状物質)をお吐きになっていらっしゃるんだろう。


 視覚的には、王女様らしく「お花」でマスキングされてるのかもしれないけれども……。

 アニメの中のそんなシーンみたいに、キラキラした滝みたいなのかもしれないけれども。


 ああ、そんな事考えてたら口の中酸っぱくなって来た……。


      ◆


 これで仕込みはオッケー――まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ